くるりから考察。複雑な表現が目立った2015年、次はどうなる?

「複雑な表現=折衷的な音楽性」が目立った2015年

2015年7月30日の「岸田日記Ⅱ #45」で、くるりの岸田繁はわかりやすい4つ打ちやテンポの速い曲調が目につく今のフェスの現状について触れた上で、こんな風に綴っている。

多分、日本の音楽文化は、これから変わる。複雑な表現をする人が結構増えてきた実感があるけど、全体主義的にシンプルにまとめ上げようとしている大きな力が、そろそろ疲弊してきている気がしている。ポップミュージックの歴史を紐解いていくと、簡単な表現に飽きて、複雑な表現を経て、的を得た素直な表現に変わっていくタームが必ずやってくる。

1stアルバム『さよならストレンジャー』と2ndアルバム『図鑑』を完全再現した1回目の『NOW AND THEN』のレポート記事で、僕はジム・オルークがプロデュースとエンジニアリングで参加した『図鑑』をポストロック期の作品であるとした。そして、7月に発表されたmouse on the keysの新作『the flowers of romance』のレビュー記事の中では、ポストロックの要件のひとつである「折衷主義」が、「シティポップ」や「JAZZ THE NEW CHAPTER」など今のトレンドの背景には必ずと言っていいほど存在し、フェスやSNSで機能するために即効性ばかりが求められてきた近年の音楽に対するカウンターとなっているという趣旨のことを書いた。

岸田繁が「複雑な表現をする人が結構増えてきた実感がある」と書いているのは、おそらくこうした折衷的な音楽が増えてきたことを指していると思われ、2015年は確かに簡単な表現から複雑な表現へという潮目の変化が起こった年だったと言っていいと思う。そして、くるりが初期のキャリアにおいて最も折衷的な音楽性を披露していたのが(デビュー時から今に至るまでくるりは常に折衷的だが、もちろんその中にも波はある)、3rdアルバム『TEAM ROCK』と4thアルバム『THE WORLD IS MINE』であった。

くるりとダンスミュージックの関係性

前置きが長くなってしまったが、『TEAM ROCK』と『THE WORLD IS MINE』を完全再現する『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN Vol.2」』の東京公演が、11月16日にZepp DiverCityで開催された。バンドメンバーは前回のツアーにも参加していたギタリストの松本大樹、キーボードには野崎泰弘、コーラスに加藤哉子とアチコ、そして、2005年から2006年にかけてサポートを務め、矢野顕子とも親交の深いドラマーのクリフ・アーモンドという顔触れ。ジャジーな生音ヒップホップに生まれ変わったオープニングの“TEAM ROCK”にいきなり心を掴まれ(若いオーディエンスは「ceroみたい!」と思ったと思う)、“トレイン・ロック・フェスティバル”のスリリングなジャムも非常に印象的だった。

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN Vol.2」』 撮影:浜野カズシ
『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN Vol.2」』 撮影:浜野カズシ

撮影:浜野カズシ
撮影:浜野カズシ

前述した通り、この時期のくるりの音楽性は非常に折衷的で、曲ごとにいろんなジャンルが掛け合わされているわけだが、当時のくるりが最もハマっていたのはダンスミュージックだった。岸田はMCで「当時クラブ通いをしていて、DJがBPMを合わせて曲を繋ぐのを見て『おー!』って思ってた」と語っていたが、ライブ終盤でシームレスに繋げられた“WORLD'S END SUPERNOVA”“C'mon C'mon”“永遠”というダンスナンバー3曲が、この日のクライマックスだったことは間違いない。では、くるりがなぜダンスミュージックにハマったのかというと、それはもちろんフェスで盛り上げるためではなく、複雑な表現を目指して雑多な音楽を聴き漁る中で、ダンスミュージックに大きな刺激を受けたからであろう。

当時のくるりは『百鬼夜行』というイベントを行っていて、これがタイトル通りにいろんなジャンルのアーティストが参加する、まさに「折衷主義」を体現するようなイベントだった。2001年に行われた2回目の『百鬼夜行』には、BACK DROP BOMBやROVOといった名前に混じって、先の「岸田日記Ⅱ」でも名前の挙がっているレイ・ハラカミの他、Co-Fusion、KAGAMIなど、テクノやエレクトロニカを横断するアーティストたちが参加。“C'mon C'mon”のルーツであるDAFT PUNKも含め、くるりが彼らから大きな影響を受けていたのは言うまでもない。そして、今年の日本のインディーシーンを振り返ると、THE XXと共振するD.A.N.や、ダブステップやジュークを生演奏するDALLJUB STEP CLUBなどが音楽ファンの注目を浴びたが、彼らの内包する「折衷主義」的な感覚やクラブシーンとの距離感からは、どことなく当時の空気が感じられた。

撮影:浜野カズシ
撮影:浜野カズシ

2016年のくるりはどうなる?

最後に、この日のライブも踏まえながら、2016年のくるりを予想してみることにしよう。アンコールでは昨年発表の最新作『THE PIER』から“Liberty&Gravity”が披露されたが、『THE PIER』というアルバムはEDMをも飲み込んだくるりにとって何度目かの「折衷期」の作品であり、『TEAM ROCK』や『THE WORLD IS MINE』の頃は1曲ごとに「これは何と何を掛け合わせたもの」というのが何となく見えていたのに対し、もはやそれが鍋の中でグツグツと煮込まれ、原型が何だかわからない状態になっていたのが『THE PIER』だったと言っていいと思う。

そして、この日は「あの曲難しいから」と言って披露されなかった今年9月発表の最新シングル“ふたつの世界”について、岸田は「ドラムセットによって規定されない音楽」「複数の楽器によるコンチェルト(協奏曲)」を模索したという趣旨の発言をしている。言ってみれば、これは「折衷主義」の先でのプリミティブへの回帰であり、「岸田日記Ⅱ」の発言をもう一度引用すれば、「簡単な表現に飽きて、複雑な表現を経て、的を得た素直な表現に変わっていくターム」に入っていくということになる。シーン全体が徐々に「複雑な表現」へと移行する中、くるりはもうすでにその先を見据えているのだ。

イベント情報
『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN Vol.2」』

2015年11月16日(月)
会場:東京都 Zepp DiverCity

『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN vol.3」』
2016年5月7日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:香川県 festhalle

2016年5月8日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 福岡市民会館

2016年5月10日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:広島県 JMSアステールプラザ 大ホール

2016年5月16日(月)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 オリックス劇場

2016年5月17日(火)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:京都府 ロームシアター京都

2016年5月25日(水)OPEN 18:15 / START 18:45
会場:愛知県 名古屋市公会堂

2016年5月27日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 電力ホール

2016年5月30日(月)OPEN 18:45 / START 19:15
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

2016年5月31日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

料金:各公演 指定席6,480円 立見5,940円
※香川公演はドリンク別、立見券は立見がある場合のみ

リリース情報
くるり
『ふたつの世界』通常盤(CD)

2015年9月16日(水)発売
価格:1,080円(税込)
VICL-37101

1. ふたつの世界 TV ver.
2. ふたつの世界 TV ver. -instrumental-
3. ふたつの世界 Bebop ver.
4. ふたつの世界 Bebop ver. -instrumental-
5. ふたつの世界 Chamber ver.
6. ふたつの世界 Chamber ver. -instrumental-
7. ふたつの世界 TV ver. –short edit-

プロフィール
くるり
くるり

1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。岸田繁(Vo, Gt)、佐藤征史(Ba, Vo)、ファンファン(Tp, Vo)の3名で活動中。



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