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リオン・ブリッジズから考える、今世界が黒人音楽に注目する理由

リオン・ブリッジズ『Coming Home』
テキスト
天野史彬
リオン・ブリッジズから考える、今世界が黒人音楽に注目する理由

『グラミー賞』にノミネートされている26歳が、「異質」である理由

音楽を聴くことはときとして、生まれる前の遠い記憶を思い出すような行為だ。私たちは、音楽を通して思い出す。かつて、世界にはどんな悲しみがあり、そしてそれを乗り越えるために、人々はどんな喜びを産み出してきたのか。そして、今を知る。まだ悲しみはここにあり、喜びもまた、ここにあるということを。きっと、リオン・ブリッジズも思い出しているのだろう。『Coming Home』――まるで、家に帰るような気持ちで。

テキサス州出身の黒人青年、リオン・ブリッジズ。去年、26歳という若さの彼がリリースした1stアルバム『Coming Home』は、全米初登場6位にランクインし、『第58回グラミー賞』の「R&Bアルバム部門」にもノミネートされるなど、大きな称賛をもって世界に迎えられた。サム・クックやオーティス・レディングといった往年のソウルシンガーたちとも比べられるリオン。彼の産み出す音楽は、驚くべきナチュラルさと濃度で、1950~60年代のリズム&ブルースやソウルミュージック、あるいはその源流にあるゴスペルやブルースを今に蘇生させている。

昨今のポップスにおいて黒人音楽を昇華していることはもはやデフォルトだが、その多くは、ヒップホップや1990年代以降のモダンR&Bの感性を取り入れていることがほとんどだ。しかし『Coming Home』は、ヒップホップ以降の感性を驚くほど感じさせないという点で、かなり異質なクラシカルさを持った作品である。

そもそも、リオンは生まれたときから1950~60年代のクラシカルなソウルミュージックを標榜していたわけではない。バイオグラフィーによれば、彼も子供の頃にはアッシャーなどのモダンR&Bを聴き、ヒップホップダンスに精を出す、至って現代的なアメリカの少年だった。そんな彼だが、いざギターを持ち、曲を作り始めたら、そこには自分が聴いてきた音楽とはまた違ったクラシックソウルの響きがあったのだという。実際、彼は人に「影響を受けたのか?」と訊かれてから、初めてサム・クックを聴いたそうだ。しかし、この野性こそがアメリカ南部のソウルミュージックの伝統だとも言えるだろう。意識して学ぶより先に、血がそうさせたのだ。

クラシカルなサウンドに乗せて歌うのは、今を生きる青年の心象

アルバム『Coming Home』は、穏やかなバラード“Coming Home”で幕を開ける。サム・クックやオーティスと比較されてはいるものの、リオンの歌声は決して圧倒的な力強さやカリスマ性を持っているわけではない。だがそれ故に、ホーンやキーボードも含めたバンドサウンド、そして華やかな女声コーラスと対等かつ親密な関係性を作り上げることができている。まるで家族や恋人とフォトアルバムをめくりながら語り合うような、そんな温かな時間が、このアルバムには流れているのだ。

跳ねるビートとスムースなメロディーラインがクールな“Smooth Sailin'”、沸々と増していく熱気が溜まらないブルースチューン“Twistin' & Groovin'”、精錬としたアコギの音色と神聖さすら感じさせるコーラスが感動的なゴスペル“River”など、どの曲も黒人音楽のルーツに根差しながら、リオン自身の心象がそこに宿っていることを確かに感じさせる。本作がこの時代に評価されたのは、決して「レトロな作品」として受けたのではなく、リオン・ブリッジズという今を生きる26歳の青年のソウルが、どこまでも正直に表現されているからだろう。

ソウル本来の輝きを宿すことができるのは、貧しくとも愛と生の喜びを知るから

そして、もうひとつ。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』が、そして日本でもceroの『Obscure Ride』がリリースされた2015年の音楽地図の中でも、『Coming Home』は重要な位置にある作品だった。自己の内省や憐憫といった「個人史」を根にするロックとは違い、ブルースを発端に、差別や暴力の歴史を常に背負ってきた黒人音楽は「世界史」に根差すものだ。そんな黒人音楽に誰もが目を向けた2015年だからこそ、リオンの奏でた1950~60年代を想起させるクラシカルなソウルミュージックの、その原初的な光はより一層の輝きを伴っていた。世界は悲しみに満ちている。簡単に癒えることのない痛みがそこにはある。だからこそ、愛する人を抱きしめたときの温もりを絶対に手放してはいけないし、そのとき流れる音楽は、「生」を祝福するものでなければならない。始まりのブルースは悲しみだからこそ、今を生きるソウルは喜びでなければならないのだ。アルバムの中でも特に感動的な1曲“Lisa Sawyer”で、リオンは自身の母親の人生について歌う。

金が 金が十分だったことはなかったけれど
暗いカジノや宝くじからは得られない豊かさには
とても恵まれていた
彼らには愛が 愛が 愛があった
豊かな愛があったのさ(“Lisa Sawyer” 対訳:安江幸子)

まるで母親の人生を見てきたかのように歌うリオンは、きっと思い出しているのだ。自分が生まれるずっと前にも愛があったことを。そしてソウルミュージックは、悲しみを乗り越えるための強さを人々に与え続けてきたことを。『Coming Home』を聴けば、あなたもきっと思い出すだろう。まるで我が家に帰るような心地よさで、生まれる前の遠い記憶を。そこにあるソウルミュージックという名の愛を。

リリース情報

リオン・ブリッジズ『Coming Home』
リオン・ブリッジズ
『Coming Home』日本盤(CD)

2016年1月20日(水)発売
価格:2,376円(税込)
SICP-4745

1. Coming Home
2. Better Ma
3. Brown Skin Girl
4. Smooth Sailin'
5. Shine
6. Lisa Sawyer
7. Flowers
8. Pull Away
9. Twistin' & Groovin'
10. River
11. So Long(From The Motion Picture Concussion)(ボーナストラック)

プロフィール

リオン・ブリッジズ
リオン・ブリッジズ

伝統的な50'sソウルと60'sドゥーワップをブレンドした懐かしくも新鮮なレトロソウルなサウンドに、甘くセクシーなボーカル、ファッショナブルにスーツを着こなすスタイルも手伝って「次世代ソウル・シンガー」として熱い注目を集めるテキサス出身の大型新人。レコード会社40社による争奪戦の末に2014年米コロムビアと契約、デビュー前に出演したSXSWでは最優秀パフォーマンス賞を受賞しデビューアルバム『Coming Home』は全米初登場6位にランクイン、iPhone6&Apple MusicのテレビCMでも起用され、英Apple Music Festivalではレーベルメイトのファレル・ウィリアムスのサポートを務めるなど、世界各国で絶賛を受け「サム・クックの再来」と評されるまでに。何十年先も色褪せることなく時代に響くヴィンテージ・サウンドの登場だ。

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