レビュー

BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』

テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)
BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』

BTSの新たなチャプター『MAP OF THE SOUL』の始まり

アジアを代表するポップアクトとなった7人のボーイズ――BTSが新たな作品と共に戻ってきた。

4月12日にリリースされた『MAP OF THE SOUL: PERSONA』は、米ビルボード200チャート1位という記録と共にその名を世界に響かせた『LOVE YOURSELF』シリーズに続く、新たなチャプターの幕開けを飾る作品だ。前作『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』がその3か月前に発表された『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』に新曲を加えて再編集されたリパッケージアルバムだったため、今作こそが名実ともに「世界のボーイズグループ」となった後の彼らの新たな方向性を示す一作となる。

それまで等身大の若者の苦悩や葛藤、愛や恋の痛みや喜びを歌ってきた彼らは、『LOVE YOURSELF』シリーズで<誰も俺自身を愛することを止められない(“IDOL”)>と高らかに歌い、自分自身を肯定し、愛することに辿り着いた(参考:BTSの最新作『LOVE YOURSELF 結』 7人の少年が辿り着いた「Answer」)。

ユング心理学の入門書であるマレイ・スタインの『ユング 心の地図』からタイトルをとった『MAP OF THE SOUL』の第1作が示すのは、前作で手にした「self love」を原動力に、今日の自分たちを作り上げた過去もまるごと祝福しながら未来に前進しようとする姿勢だ。

BTSの前作『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』のリードトラック。ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたバージョン

散りばめられた過去作への言及

今作『MAP OF THE SOUL: PERSONA』ではいくつかの過去作へのわかりやすいリファレンスに気づくことができる。しかしそれは原点回帰でもなければ、ノスタルジックな追憶でもない。

オープニングトラックの“Intro: Persona”やクロージングトラックの“Dionysus”はヒップホップにロックテイストを取り入れた初期のBTSの楽曲を彷彿とさせるが、エド・シーランがソングライティングに参加した“Make It Right”をはじめ、全体としては攻撃的なサウンドよりもメロディアスで洗練された耳馴染みの良い印象が目立つ。

彼らはこれまでもヒップホップを軸にした力強いサウンドを代名詞とする一方で、EDMやR&B、ラテンポップなど多彩なジャンルとトレンドを取り込みながら、近年はよりメロディーの比重を強めた楽曲を多く発表していた。今作もその方向性をさらに推し進めているようだ。

エド・シーランが参加した“Make It Right”パフォーマンス映像

リーダー・RMのソロ曲“Intro: Persona”は、2014年に発表されたBTSの2ndミニアルバム『Skool Luv Affair』を参照した。PVにも『Skool Luv Affair』リリース時のトレイラー映像と同じアニメーションが使用されている。またホールジーをフィーチャーしたアルバムのリード曲“Boy With Luv”のタイトルから思い出されるのは、同じく『Skool Luv Affair』の収録曲“Boy In Luv”だ。

『MAP OF THE SOUL: PERSONA』のオープニングトラックであるRMのソロ曲“Intro: Persona”

2014年発表のミニアルバム『Skool Luv Affair』収録曲“Boy In Luv”

「Boy In Luv」から「Boy With Luv」への前向きな変化と、込められたファンへの想い

『Skool Luv Affair』は彼らがヒップホップアイドルグループとしてデビューした翌年にリリースされた初期のシリーズ「学校三部作」の1作。少年の報われない恋の痛みや想いが届かない苛立ちを歌ったのが“Boy In Luv”ならば、5年後に届けられた“Boy With Luv”の主人公はその名の通り愛情を受け、それを与えようとする自信に満ちている。この前向きな変化は、彼らがこれまでの作品で紡いできた物語にそのまま重ね合わせることができる。

ホールジーをフィーチャーした今作のリード曲“Boy With Luv”

<君があの時授けてくれた2つの翼で 僕はこんなに高く飛んでいる>。この一節からもわかるように“Boy With Luv”はARMY(BTSのファンの呼称)へのメッセージソングでもある。「翼=WINGS」は彼らがビルボード200チャートで当時韓国アーティスト史上最高位となる26位を記録したアルバムのタイトルだ。彼らの世界的な躍進はこの作品を機に始まった。

“Boy With Luv”のPVに登場するネオンサインには「WINGS」「LOVE YOURSELF」「YOUNG FOREVER」といった過去のアルバムタイトルが散りばめられているが、この曲はそうした作品を経て彼らを現在の高みまで押し上げたARMYへの祝福の歌と言えるだろう。それは言い換えれば献身的で膨大なファンダムを築き上げてきた彼らの歩みへの祝福でもある。

アルバムの中盤に位置する“HOME”では、望んだものを手にした虚しさが正直に歌われているが、そこでも<君がいる場所が僕のホーム>と今や世界中で彼らを支えるファンたちに安らぎを求める。

ファンのロールモデルとしてのポップスター像を示す

BTSは先日発表されたアメリカ『TIME』誌が選ぶ「最も影響力のある100人」にアリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、レディー・ガガらと並んで選出された。推薦文を書いたのは“Boy With Luv”でコラボしたホールジーだ。彼女はBTSの7人をこう評する

「BTSは自信を持つことのポジティブなメッセージや、キラキラした楽曲に織り込まれた複雑な哲学、入念に作り上げられた振付に絶えず見られる本物のシナジーと彼らの絆、そして数えきれない努力によって、無数のファンたちや彼らの魅力に抗えない全ての人々にとってのロールモデルとして、その14本の足を前に進めてきた」

ホールジーのInstagramより

ロールモデルとしての彼らの影響力は、ファンへの率直な想いを込めた今作でも証明されている。『MAP OF THE SOUL: PERSONA』の口火を切った“Intro: Persona”のティザー映像が公開された際、ファンの間で「Persona Challenge」というムーブメントが起きた。

“Intro: Persona”はRMが自分本来のアイデンティティーを模索する葛藤をラップした楽曲だ。これにインスピレーションを受けたファンたちは、数年前の自分といまの自分の写真を並べてSNSにシェアすることで、過去の自分を肯定しながら現在に至った自分の成長を認めるポジティブなメッセージを発信し始めたのだ。

「#PersonaChallenge」のハッシュタグを辿っていくと、外見的な変化を挙げる人もいれば、考え方が変わった人、病気を乗り越えた人など、ファン一人ひとりのパーソナルなストーリーの一部が垣間見える。共通するのはいまの自分に満足していること、そして過去の自分を否定していないことだ。

BTS『MAP OF THE SOUL: PERSONA』ジャケット
BTS『MAP OF THE SOUL: PERSONA』ジャケット(Apple Musicで聴く

“thank u, next”にも通じる「self love」表現の一例

過去の自分を認めたうえで現在の自分を愛し、未来に向かって前進しよう、という姿勢は、アリアナ・グランデの“thank u, next”や、いまの自分の「ときめき」を重視し、捨てる物にも感謝を込める「こんまりメソッド」にも通じるし、こんまりと同じ人気Netflix番組『クィア・アイ』の最新シリーズでも「自分を愛すること、労わること」の大切さが再三説かれていた。

前作『LOVE YOURSELF』シリーズの最後を締めくくった“Answer : Love Myself”で<昨日の僕 今日の僕 明日の僕 (自分を愛する方法を学んでいるところなんだ) すべて余すところなく僕だ)>と歌ったBTSもまた、そうした今日のポップカルチャーにおける「self love」表現の一例と見ることもできる。過去の自分たちを取り入れながらアップデートした現在の姿を示した今作『MAP OF THE SOUL: PERSONA』にもそのメッセージは引き継がれ、「#PersonaChallenge」のようにポジティブな波及効果を生んでいる。

もっともこれまでの彼らがそうであったように、今回見せた彼らの表情はその複雑なペルソナの一側面に過ぎないはず。広げた「心の地図」で彼らはリスナーをどこに連れて行ってくれるのか。BTSの新たなチャプターはまだ始まったばかりだ。

リリース情報

BTS『MAP OF THE SOUL: PERSONA』
BTS
『MAP OF THE SOUL: PERSONA』

2019年4月12日(金)発売

1. Intro : Persona
2. 작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv) feat. Halsey
3. 소우주 (Mikrokosmos)
4. Make It Right
5. HOME
6. Jamais Vu
7. Dionysus

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