レビュー

My Hair is Badが描く人生のドラマ。『boys』に捧ぐ徹底レビュー

撮影:Masanori Fujikawa 編集:矢島大地(CINRA.NET編集部)
My Hair is Badが描く人生のドラマ。『boys』に捧ぐ徹底レビュー

綺麗事を綺麗なまま抱き締めていくための歌 テキスト:矢島大地(CINRA.NET編集部)

「俺もお前も、結局は自分のことが一番可愛いんだ」。

2014年9月にMy Hair is Badを初めて見た時、“優しさの行方”を演奏する際に椎木知仁がブチ切れるように叫んでいた言葉だ。端的に言えば、その身も蓋もない本音が、My Hair is Badの歌の核心に在り続けたものなんだと思う。たとえば椎木が恋をモチーフにした曲を書くことが多かったのも、きっと「本能的に喜怒哀楽が溢れ出すもの」として愛や恋を捉えているからなんだと思うし、見返りを求めない純粋無垢な愛と綺麗すぎる綺麗事だけを追い求めて人と世界を心から愛していたい、と切に願うからこそ、愛したいのは自分が愛されたいからで、優しくしたいのは優しくされたいからだーーという本音も見過ごせずに頭を抱えて、また見返りを求めない純粋な愛を求めてもがく様がそのまま、どうしようもなく狂おしい「心の破裂音」みたいな歌になってきたんだろうし、聴く人が自分の日々をMy Hair is Badに投影してしまう理由なんだろう。

たとえば“真赤”のように失った恋を刻みつける歌では、My Hair is Badの場合は「愛していた」よりも「愛されていたかった」のほうが強烈に表出する。一方、“戦争を知らない大人たち”や“シャトルに乗って”のように目の前の世界を淡々と切り取っていく歌には、世界の中で過ぎていく日々がいつまでも穏やかで愛せるものであってほしいという祈りが込められている。いつだってMy Hair is Badが歌にし続けてきたのは、人への愛と誠実さを追い求めるほど「それは本当の優しさなのか?」と出口のない自問自答を繰り返してしまう心模様だ。その心の動きがライブでのブチ切れ感やヒリヒリになってきたのだろうし、その場で溢れ出す言葉の連打だけで構成される、歌詞を持たない名曲“フロムナウオン”になってきたんだと思う。

椎木知仁
椎木知仁

ただ、『boys』の素晴らしさの多くは、自分自身の心を抉って曝け出すだけではない歌と音楽を掴んでいる部分にある。たとえば“化粧”。報われない恋にズタズタになりながらも強がる女性の姿を「化粧」に重ねる歌を、雄大なストリングスで包み込んでいくアレンジが新鮮だ。この音楽的な拡張について言えば、ホールツアーを経たことで音楽的なブラッシュアップを図り、リズムとグルーヴを主役にした『hadaka e.p.』によって獲得した新しいソングライティングが呼んだものなのは間違いない。そしてそれと同時に、愛を希求するからこそ傷ついていく人間の姿を生傷のまま晒すのではなく、抱き締めて赦そうとする視線がこのストリングスに映っているように思う。

アルバム冒頭を飾る“君が海”もそうだ。過去の恋と青春を夏の海に重ねて疾走する「マイヘア黄金律」の1曲だが、走るほど開けていく和音が雄大な情景を立ち上がらせて、永遠にならなかった恋を傷のまま晒すのではなく「包み込む」歌として聴こえてくる。こうしてサウンドのスケールアップによって王道を塗り替えた1曲が表すように、瑞々しい青春性が弾けながらもバンドとしての成熟も同時に感じさせることが『boys』の素晴らしさの多くを担っているのだ。

My Hair is Bad

そして、限りなく椎木ひとりの作曲過程の変化によってMy Hair is Badを塗り替えようとした『hadaka e.p.』を経たからこそ、今一度3人としての「My Hair is Bad」の歩みに目と音を向けられたのだろう。My Hair is Badが始まった地元・上越の風景と仲間を淡々と綴る“ホームタウン”はまさにそうだし、ラスト2曲、“舞台をおりて”と“芝居”では、<幸せな役だけ / 演じて行くわけにはいかない><残った傷も汚れも恥じたりしないでいい>と歌う。愛した分傷ついたこと、人に優しくしたいだけだからこそ混乱していくこと……その全部を抉らずに赦し、痛みと悲しみがあって初めてドラマや映画になるのだと受け入れている。それはつまり、これまでの歌とバンドの道のりを丸ごと抱き締めて、My Hair is Bad自身でMy Hair is Badの歌すべてを肯定して、救って、愛することと同義だ。その温かさこそが、今作の心臓なのだと思う。

My Hair is Bad・椎木知仁より寄せられたコメント
My Hair is Bad・椎木知仁より寄せられたコメント
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リリース情報

My Hair is Bad『boys』初回限定盤
My Hair is Bad
『boys』初回限定盤(紙ジャケット仕様 / CD+DVD)

2019年6月26日(水)発売
価格:4,536円(税込)
UPCH-29333

[CD]
1.君が海
2.青
3.浮気のとなりで
4.化粧
5.観覧車
6.ホームタウン
7.one
8.愛の毒
9.lighter
10.怠惰でいいとも!
11.虜
12.舞台をおりて
13.芝居

[DVD]
LIVE at LIVE HOUSE「心斎橋BRONZE」2019年1月12日
『boys』レコーディングドキュメント

My Hair is Bad『boys』通常盤
My Hair is Bad
『boys』通常盤(CD)

2019年6月26日(水)発売
価格:3,024円(税込)

1.君が海
2.青
3.浮気のとなりで
4.化粧
5.観覧車
6.ホームタウン
7.one
8.愛の毒
9.lighter
10.怠惰でいいとも!
11.虜
12.舞台をおりて
13.芝居

プロフィール

My Hair is Bad
My Hair is Bad(まい へあー いず ばっど)

椎木知仁(Vo,Gt)、山本 大樹(バヤ / Ba,Cho)、山田淳(やまじゅん / Dr)による、新潟県・上越市出身の3ピースロックバンド。2008年結成。2013年にTHE NINTH APOLLOより『昨日になりたくて』をリリースし、2016年には『時代をあつめて』でEMI Recordsからメジャーデビュー。2019年6月26日の『boys』リリースに伴う「サバイブホームランツアー」では、最終公演をさいたまスーパーアリーナで2days開催することを発表した。

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