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菊地成孔 1万字インタビュー

菊地成孔 1万字インタビューをdel.icio.usに追加 このエントリーをはてなブックマークに追加 菊地成孔 1万字インタビューをlivedoorクリップに追加 菊地成孔 1万字インタビューをlivedoorクリップに追加 (2009/12/07)

本インタビューは、「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」の新作を発端に、「わかりたいあなたのためのCINRA的・菊地成孔入門」として構想された。博覧強記の音楽家・菊地成孔の正体を見極めよう、という目論見である。しかし、その狙いは見事に外れてしまった。鋭敏な感性と精緻な知性に裏打ちされた、音楽・ダンス・映画等々に関する膨大な固有名詞を台風の様に巻き込んでいく彼の言葉は、吐き出されるとともに地平線の向こうへと消えていった。あっという間に。彼に追いつくことは生半可ではなかったのだ。それでいて、親しみやすいアニキのような雰囲気をたたえた彼。なぜか「一緒に飲みながら話を聞いてる」錯覚にも襲われてくる本稿、ぜひ「右手に哲学書、左手にビール」をご用意いただきお読みください。

(インタビュー・テキスト:木村覚 写真:柏井万作)

PROFILE

1963年6月14日、千葉県出身。音楽家、文筆家、音楽講師。 アバンギャルド・ジャズからクラブシーンを熱狂させるダンス・ミュージックまでをカバーする鬼才。1984 年プロデビュー後、山下洋輔グループなどを経て、「デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン」「スパンクハッピー」といったプロジェクトを立ち上げるも、2004 年にジャズ回帰宣言をし、ソロ・アルバム『デギュスタシオン・ア・ジャズ』、『南米のエリザベス・テイラー』を発表。2006 年7月にUA×菊地成孔名義で発表したスタンダード・ジャズ・アルバム『cure jazz』が大ヒット。2007年12月には初のBunkamuraオーチャードホール公演を成功させ、2008 年からは菊地成孔ダブ・セクステット、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールで活動中。最新作は菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『New York Hell Sonic Ballet』(ewe)。
PELISSE [index]
Naruyoshi Kikuchi 菊地成孔


ダンスとダンスミュージックの「特殊域」を模索しています

―菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール(以下「ぺぺ」と略称)の新作『New York Hell Sonic Ballet』が10月28日に発売されました。今日は、この新作をめぐって菊地さんからいろいろなお話が聞けたらと思っております。ぼくはダンス研究が専門なので、とくに「バレエ」「ダンス」について聞きたいことがたくさんあります。また、新作のみならず「菊地成孔」というミュージシャン・著述家のことがよく分かる、若い読者に向けたいわば「菊地成孔・入門」になるようにということも目論んでおります。

早速ですが、新作のタイトルは「New York City Ballet」(世界最高峰のバレエ団のひとつ)にちなんだ、というか、もじりですよね。

菊地:もう字義通りで、ひとつは「New York」、もうひとつは「Hell Sonic Ballet」です。以前『エスクワイア』誌の取材でブエノスアイレスに行ったんですが、そこで出会ったタンゴがこのバンドの出発点でした。バンドの初期設定として、南米やヨーロッパ、アジアのエッセンスはあったんですけど、北米は避けていたんですね。ただそのうち、バンドにありがちな「更新」が起きまして、今度は北米に行ってみようということになったわけです。そこから「New York」が召還するものとして「コンテンポラリー・ダンス」と「バレエ」と「オペラ」があるのでは、と考えていったわけです。

―本作は「ハイブリッドなダンスミュージックアルバム」、「踊れるアルバム」などと謳っていらっしゃいますね。菊地さんにとって「ダンス」とはどんなものなのでしょうか?

菊地:「定義出来ない」という意味では、「ダンス/ダンスミュージックは存在しない」というべきかもしれません。モードでも踊れるし、音楽を無視しても踊れるわけです。「レゲエではタオルを振る」というように音楽とダンスがくっついている場合は中間的で、その両極には無数のダンスがあるんです。

僕は「ジャンル・ミュージックの内に安住しないこと」が自分の仕事だと考えているんですね。例えば、DCPRG(デート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン)では、立った状態で、踊って聴くなんていう聴取スタイルが、生前にされたことはないであろうマイルス・スタイルをクラブでしてみたわけです。DCPRGは解散しましたが、つねにダンスとダンスミュージックの特殊域を模索しているつもりなんです。


「裸の女の人がいるけれども、なにも出来ない」みたいな

―それでは、ペペの目指す音楽とは、どのようなものなのでしょうか。

菊地成孔 1万字インタビュー

菊地:ペペは、基本はシッティング・ミュージックなんです。観客は、踊りやすい音楽を前にしているものの、座らせられているので踊れない。しかもクラシック音楽という設定なので、ドレスアップしている観客は「踊りたくても踊れない」。そんな一種の「拷問状態」を与えるというアイディアで始めました。

「トルメント」はスペイン語の「拷問」という意味で、「ペペ・トルメント・アスカラール」とは「伊達男の甘い拷問」という意味なんですね。「裸の女の人がいるけれども、なにも出来ない」というような。そうした状態にある観客を、今度はフロアに移して「立って踊っていいよ」と言ったらどうなるか? そんなことをやってみたわけですが、今日のクラブカルチャーはとても成熟しているので、どんな音楽でもノるんです。それを見たときに生まれたアルバムの構想は、一個のバンドがフロアでもコンサートホールでも聴ける、というメタな状況を作るということでした。

―なるほど。観客の聴取スタイルに対するアプローチがまずあったんですね。

菊地:ゆらめくようなロックな踊りってあるじゃないですか。ぼくはあれ、「海藻」と呼んでいるんですけれど、それからブラックミュージックのインターロック(体幹運動)を前提とするリラックスした踊りがありますね。いまのフロアには、この二つのダンスしか基本的には無いと思うんです。黄色人種である日本人が、自分を白人であると考えるか黒人であると考えるかという違いで分かれるんですけれど、この二つの中間項が抜けちゃっている気がします。この、中間層にして最高層であるのが、じつはクラシック・バレエを基礎にするものだとか、コンテンポラリー・ダンスを基礎とするようなものなんですね。初期のぺぺはタンゴをやっていたので、その頃は「フロアの中で社交ダンスが起こったらいいな」、なんて妄想していました。

2/5ページ:妄想出来るものは、いつか現実になるって信じているんですよね

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