わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)×平間至(写真家) 対談

デジタル全盛の時代にあえてアナログでのレコーディングを敢行したD.W.ニコルズの新作『ニューレコード』。温かみと奥行きを持ったそのサウンドの素晴らしさはもちろん、本作にはフロントマンのわたなべだいすけ個人が抱える葛藤が注入されることで、バンドの表現力がより深み増しているように思われる。中でもバンドを続けることの喜びと苦しみを綴った8分を超えるラストナンバー“beautiful sunset”は、実に感動的な仕上がりだ。
今回の対談は、毎週恒例となっているD.W.ニコルズのUST企画「DWのUST」で1月20日に放送されたものであり、写真好きのわたなべが、TOWER RECORDSの「NO MUSIC,NO LIFE」シリーズなどで有名な写真家で、音楽好きとしても知られる平間至を迎え、音楽と写真について大いに語り合ったもの。片やアナログレコーディングを敢行したバンドマン、片やフィルムにこだわる写真家、この2人の対話から見えてくるものとは?

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

残しておきたい写真とか、自分を表現したいときは、ぜひフィルムを使っていただきたいですね。

―今回はわたなべさんご自身の提案で平間さんをお招きしたということですが、平間さんの写真のどんな部分に魅力を感じますか?

わたなべ:平間さんのことを知っているからというのもあると思うんですけど、なんとなく音楽を感じるんですよね。僕は最近「残していきたいもの」っていうのをテーマに色々考えていて、平間さんの写真には「残していきたいもの」が写ってるなってすごく感じて。

平間:写真を撮るときって、「残していきたい」っていう想いをみんな持って撮ってる気がして、それが写真の魅力につながってるんじゃないかな。

わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)×平間至(写真家) 対談
わたなべだいすけ

わたなべ:何かで見たんですけど、デジカメでプリントしたものって残っていかないんじゃないかって。今の子供たちの写真が将来なくなっちゃうんじゃないかっていう。

平間:データだけパソコンにあっても、20年後にそのパソコンは使えないでしょ? 毎回買い換える度にデータを移していけばいいんだろうけど、もしどこかで消えちゃったりすると、デジカメではたくさん撮られてるのに、写真がない人っていうのが出てくるかもしれないですよね。


わたなべ:フィルムはものとして残るからいいですよね。

平間:デジタル・カメラを使ってみて初めてわかったのが、フィルムで撮ってるときは、1枚1枚レンズを通してフィルムに残していることをちゃんと感じて撮ってたんだなってことで。

わたなべ:平間さんは、今この瞬間をなんとなく記録として撮っておきたい場合はデジカメを使って、ちゃんと刻んで、残しておきたい場合はフィルムを使うっておっしゃってましたよね。

平間:上手く使い分けられたらすごくいいと思うんです。でもやっぱり残しておきたい写真とか、自分を表現したいときは、ぜひフィルムを使っていただきたいですね。

デジタルにはない、アナログならではの「緊張感」

―平間さんは『ニューレコード』をもうお聴きになられたんですよね?

平間:音も素晴らしいし、歌詞も素晴らしいし、すごくいいアルバムですね。音が出てきた瞬間に、すごい立体感というか、ものがボンッと出てきたみたいな感じで、想像以上にアナログの魅力を感じましたね。でもアナログで録ったからってみんながそういう音で録れるわけでもないですよね? 気持ちの部分が大きいんじゃないかと思うんですけど、どうでした?

わたなべ:一発録りで録ったっていうのが大きくて、長いテープは使えなかったので、毎テイク集中して録りました。それはフィルムに刻んでるのと同じで、一回録ったら消せない。実際にテープが回ってるっていうのがすごく緊張感あったんですよね。

平間:さっき僕が言った、フィルムを感じて撮ってるっていう…。

わたなべ:そうなんです。まさにそのとおりで、今テープが回っていて、そこに音を刻んでいってる、残していってるっていうのがあったので、そういう想いがそのまま音に出たのかなって気がしますね。

平間:写真もそうで、デジタルをあまり使いたくない理由っていうのが、デジタルだと後で「ちょっと暗いけど後で加工すればいいか」って思っちゃう自分が怖いんだよね。そういう気持ちが写真全体に関わる気持ちになっちゃうような気がする。緊張感とか集中力がない、「まあ、いいんじゃない?」みたいな、自分がそこでダメになっちゃうような気がするんで、今のところは抵抗してるんです。

「ネガは楽譜で、プリントは演奏だ」

平間:50年前のクラシックの録音を聴くと、マイク2、3本で録っていた時代だと思うんですけど、録音もいいし、演奏も素晴らしいんですよね。例えばカメラでいうと、ライカ(平間の愛用するMシリーズは、50年ほど前に発売された35ミリのフィルムを使った機動力に優れたカメラ。以後のカメラに大きな影響を与えている。)っていうフィルムカメラはホントに素晴らしいんです。だから機械の発達って一体何なんだろうって思いますよね。レコードだって未だにすごい感動するじゃないですか?

わたなべ:例えばデジカメとかでもフィルムカメラ風のモードとかありますよね。結局どっちに行こうとしてるのかなって。

平間:でもデジタルは間違いなくアナログを向いてるよね。機能の面ではデジタルならではの機能があるけど、質感はアナログを目指してる気がする。

―「質感」ってまさに現代のキーワードだと思うんですよね。デジタルが一般的になってからは、質感がみんな同じになってしまって、均一化してしまってるっていう。

わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)×平間至(写真家) 対談
平間至

平間:みんなきれいでクリアなんですよね。音楽って、究極なことを言っちゃうと「音色」で決まっちゃうような気がする。メロディとかリズムとかそういうことではなくて音色、つまりは質感ですよね。そこがとっても大事な気がする。モノクロの写真って、黒と白のグラデーション表現なんですけど、それは音楽で言う低音から高音までのグラデーションとぴったり一致するんです。アンセル・アダムスっていう、ピアニストでもあるアメリカの風景写真家がいて、彼は「ネガは楽譜で、プリントは演奏だ」って言ってるんですよ。彼の作品はすごく白がきれい、ハイライトがきれいな人で、それは音楽で言うとすごく高音の抜けがいいっていう。

すぐできちゃったものって、すぐ消えちゃう気がしてるんですね。

わたなべ:平間さんはご自宅のオーディオにもこだわっていらっしゃるんですよね?

平間:「ああでもないこうでもない、スピーカーもうちょっと前かな?」とか毎日色々やってるんだけど、オーディオのために音楽を聴いちゃうんだよね。オーディオチェックのために音楽を聴いちゃったり、システムに合った音楽じゃないと聴かなかったり。それはちょっとまずいなって(笑)。

―わたなべさんはリスニング環境いかがですか?

わたなべ:ホントに自分でダメだと思うんですけど、家のオーディオ環境がまったく整ってなくて、コンポ壊れてるんですよ(笑)。聴くときは未だにディスクマン使ってて、CD買いに行ったときも、帰り道にもう聴きたいんですよ。

平間:僕もコンビニでポテトチップス買ったら帰り道で食べてます(笑)。

わたなべ:一緒ですね(笑)。データだとパソコンでポチッとやったらすぐに再生できるじゃないですか? でもCDって、CD屋さんに買いに行く、お金を払ってものをもらう、パッケージを開けてセットするっていう、この工程があってようやく音が出るじゃないですか? 僕ここが魅力だと思うんですよ。写真もそうで、デジカメだと撮ったら見れる、でもフィルムは現像してあがってきてやっと見れるっていう。

平間:手間がかかった方が楽しいよね。めんどくさい方が楽しい、絶対。

わたなべ:この前の時間と同じ時間が後にもあると思うんですよ。だからすぐできちゃったものって、すぐ消えちゃう気がしてるんですね。

平間:1枚の写真を撮るのは一瞬かもしれないけど、どれだけイメージを考えてきたか、それによって写真の奥行きが全然違うと思うんです。音楽もきっと一緒ですよね。曲ができるまでの蓄積がある。

どんどんデジタルな方向、簡単・便利な方向に行く中で、「ちょっと待てよ」って人たちも間違いなく増えてると思う。

―平間さんはご自身でバンドもやられていますが、写真との共通点、もしくは相違点をどんな部分に感じられますか?

平間:中学のときに初めてディープ・パープルのコピーバンドを組んで、30年ぶりに同じメンバーでまた結成して、2、3年前からやってるんですけど、結成して最初のライブをやって思ったのが、メンバー5人でやってるんで、自分が調子悪くても、他の人がよかったら、お客さんはいいわけじゃない? 写真は1人なので、自分がダメだったら間違いなくダメなんですよ。そこがすごく新鮮でした。

わたなべ:僕が平間さんをはじめ写真家の方に憧れるのって、それな気がします。個人で完結してるというか。僕も元々1人で弾き語りをやってたんですけど、弾き語りと写真を撮るのは似てる気がして、僕は1人でやるのに行き詰まりを感じてバンドになったんですけど、未だに1人で完結してる人を見ると無性に憧れますね。

平間:最近ミュージシャンの人でもフィルムカメラに興味を持ってくれる人が増えていて、そういう流れってまた動き始めてる気がして。どんどんデジタルな方向、簡単・便利な方向に行く中で、「ちょっと待てよ」って人たちも間違いなく増えてると思う。

わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)×平間至(写真家) 対談

わたなべ:この間音楽雑誌の企画でビクターの工場に行ってきまして、レコードを掘る機械を見せてもらったんですよ。色々話も聞かせてもらって、すごく勉強になって。

平間:僕も同じような経験を、フジフィルムの工場に行って、フィルムができるのを見たことがあるんですよ。なんとなくイメージだと、フィルム製造マシンをどっかから買ってきて、材料ダーッと入れるとできるのかなって思ったら、全然そうじゃなくて、職人さんがああでもないこうでもないって考えてて。ホントに職人技で、人の神業を結集したもので、すごくびっくりして。だから、ちゃんと愛着を持って使わなくちゃってすごく思った。

わたなべ:レコードも一緒でした。CDだとプレスだけど、レコードは職人さんの腕ひとつで変わってくる。それもさっき言ったアナログの前後、手間がかかるものっていう。前の時点で手間がかかってるものは、残っていくし、残して行きたいと思いますね。

平間:写真ができたのは1839年、170年ぐらい前で、でも当時の写真が未だにしっかり残ってるわけですよ。写真は意外と商業化されるのが早くて、発明されてから数年後には写真館があるんです。みんな家族写真とか撮って、それが未だに残ってて、それは僕らからすると全然関係ない赤の他人の写真なんだけど、なんかすごい存在感があるし、ものとしてめちゃめちゃ魅力的なんですよね。ものとしての魅力っていうのがやっぱりすごく大事だなって。

CDが売れないからといって、人と音楽が離れていってるわけじゃないと思う。

―では最後に改めて、『ニューレコード』に込めた想いを聞かせていただけますか?

わたなべ:リアルな話としてCDが売れないっていうのがあって、街の写真屋さんもデジタルに対応しようと色々工夫してがんばってる。僕が今ミュージシャンとしてできることは、『ニューレコード』っていう新しいアルバムに、音楽が大好きで、CDを作ることが楽しくて、バンドをこれからも続けたいというピュアな気持ちを、そのまま音楽として詰め込んで、今のシーンにアピールすることなんじゃないかと思って。デジタルプレイヤーとCDの音の差とかって、きっと若い子たちからしたらそんなに大差ないと思うかもしれないけど…。

平間:でも経験しないとわからないじゃないですか? 本物に出会わないと、偽物もわかんない。そこで選ぶのは自由だし、それはどうにもできないじゃないですか? でもいいものを作ったり見せていくことで、ちゃんと比べたらどっちがいいかは多分わかるわけで、それを1人1人がやっていけたらすごくいいですよね。でも今回の音なんかは、みんなわかりますよ。iPodに入っても、MP3になっても、伝わる音のよさが絶対あると思う。

わたなべ:すごく嬉しいです。ありがとうございます。僕らとしてやれることは、音楽が大好きだっていうことを音楽で表現することぐらいだと思ったんですよね。さっきのCDが売れないって話もそうですけど、若い子がギターを欲しいと思わないとか、フィルムのカメラを欲しいと思わないのは寂しいじゃないですか? 夢がないって思われるのは寂しいので、なるべく僕らがかっこつけて、夢が見られるような状態にしておきたいんです。

―音楽人口にしても写真人口にしても、きっと増えてるはずですもんね。

わたなべ:デジタルプレイヤーの普及で音楽は身近になったと思うんです。CDが売れないからといって、人と音楽が離れていってるわけじゃないと思う。フィルムのカメラを使ってないからといって、写真というものに興味がないわけではない。だから希望はあると思うんですよ。その人口が広まった人たちが、フィルムカメラだったり、CDとかアナログレコードに興味を持ってくれれば、どんどん広がっていくと思うんですよね。

イベント情報
ONENNIVERSARY TOUR
『〜あらためまして、こんにちは。〜』

2010年11月13日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:福岡県 福岡 DRUM SON

2010年11月14日(日)OPEN 16:30 / START 17:00
会場:広島県 広島 ナミキジャンクション

2010年11月16日(火)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:香川県 高松 DIME

2010年11月18日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 池下 CLUB UP SET

2010年11月19日(金)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2010年11月21日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

『「ニューレコード」発売インストアイベント』

2011年2月5日(土)START 15:00
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース

2011年2月6日(日)START 13:00
会場:東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース

2ndALBUM『ニューレコード』発売記念
『最新記録ツアー2011』

2011年3月19日(土)
会場:福岡県 DRUMSON

2011年3月20日(日)
会場:広島県 MUSIC CUBE11

『SANUKI ROCK COLOSSEUM』
2011年3月21日(月・祝)
会場:香川県 高松 会場未定

2011年3月24日(木)
会場:新潟県 GOLDENPIGS BLACKSTAGE

2011年3月25日(金)
会場:宮城県 仙台 パークスクエア

2011年3月27日(日)
会場:北海道 札幌 ベッシ―ホール

2011年4月23日(土)
会場:愛知県 名古屋 ell.FITS ALL

2011年4月24日(日)
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2011年5月5日(木・祝)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

リリース情報
D.W.ニコルズ
『ニューレコード』(CD+DVD)

2011年1月26日発売
価格:3,000円(税込)
AVCH-78025/B

1. バンドマンのうた
2. あの街この街
3. 一秒でもはやく
4. チャールストンのグッドライフ
5. 大船
6. 風の駅
7. HAVE A NICE DAY!
8. 2つの言葉
9. レム
10. Ah!Ah!Ah!
11. beautiful sunset
[DVD収録内容]
・一秒でもはやく
・あの街この街
・『ONENNIVERSARY TOUR 〜あらためまして、こんにちは。〜』@渋谷CLUB QUATTROライブ映像
・特典映像

プロフィール
D.W.ニコルズ

D.W.ニコルズ
05年9月わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。07年3月 鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、現在の4人編成に。一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…。バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W.=“だいすけわたなべ”が命名(C.W.ニコル氏公認)。09年9月9日に『マイライフストーリー』でメジャーデビュー、11年1月26日にアルバム『ニューレコード』を発表。また、毎週木曜日にMyspaceにて『DWのUST』を生放送し、毎回様々な事を発信中。

平間至

1963年生まれ。宮城県塩竈市出身。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家イジマカオル氏に師事。一連のTOWER RECORDS「NO MUSIC,NO LIFE」の広告の他、多数のアーティストのCDジャケット等を手掛ける。近年では、舞踊家田中泯の「場踊り」シリーズをライフワークとして撮り続け、世界との一体化を感じさせるような作品制作を追及している。また、2009年にはレンタル暗室とギャラリーを兼ね備えたスペース「PIPPO」をオープン。写真と人との繋がりの場を目指し、ワークショップを行ったり、塩竈フォトフェスティバルを開催するなど、写真普及の活動にも力を入れている。



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