表現はひとつじゃない ベベチオ インタビュー

新作『リビングのデカダンス』を発表する2人組=ベベチオの早瀬直久は、もしかしたら「音楽じゃなくてもよかった」人なのかもしれない。学生時代から、好奇心の赴くままに様々なアートに触れ、今もそれを続けている早瀬にとって、その中からたまたま選び取ったのが音楽だったのではないか? 今回のインタビューを通して、僕はそんな風に思った。もちろん、まるでマイナスイオンのように、リスナーの心にじんわりと染み入る天性の歌声は、それだけで早瀬が音楽をやることの理由だと言える。ただ、映像的な楽曲にしても、せつなくもくすっと笑える歌詞にしても、やはり様々なアートに触れてきた彼だからこそ作り得るものであることは間違いない。そして、そこで大事なのは、どんな表現方法であるかということではなく、そこにちゃんと自分自身が反映されているかどうかなのだ。少しでもアートに携わるものにとって、とても意義のある対話になったと思う。

そういうちょっと…やりたがりみたいな、学生のよくあるパターンですよね(笑)

―早瀬さんと平良さんは元々高校の同級生だったんですよね?

早瀬:そうなんです。クラスとかは一緒になったことないんですけど、平良はバンドマンでもててるという感じで(笑)。その頃僕は趣味で映画を撮ったりしてて、音楽は全くしてなくて、自分がバンドやるなんてイメージも全然なかったですね。

―音楽を聴いてはいたんですか?

早瀬:大好きで聴いてたんですけど、音楽の授業も全然できませんでしたし、楽譜ももちろん読めませんし、まさか自分がって感じでしたね。その後、芸大に行って、自分たちで撮った映画の上映会をするときに、「音楽の著作権料がなんぼかかる」って話になって。「それだったら自分で」っていうのが曲を作り始めたきっかけで、実際やってみたら意外とできるとか思って、毎日のようにMDに録音してました。それが21とか22の頃かな。

―でも元々は映画がやりたくて芸大に行ったわけですよね。

早瀬:学生だけで作るってなると、短い映画でも必死だったんですよ。撮影したテープをパソコンに取り込むだけで何時間もかかったりして。学生だし、勉強もあったりしてなかなか進まない中で、音楽を作るのとは速度が違ったっていうのはひとつあったんですよ。あとは大学では劇団もやってて、作家として書いたりもしてたんです。

表現はひとつじゃない ベベチオ インタビュー
早瀬直久

―映画、音楽、演劇と、色んなことをされてたんですね。

早瀬:そうなんです。そういうちょっと…やりたがりみたいな、学生のよくあるパターンですよね(笑)

―中でも特にどの作業が好きでした?

早瀬:話を作るのが1番好きでしたね。せつない生活の中で、でもちょっと笑ってしまうみたいな感じを出すっていうのは、今のベベチオの曲とも共通する部分だと思います。未だにやるんですけど、絵コンテみたいのを書いて、それを軸にアレンジを考えたりしますね。

―ベベチオの曲ってすごく映像的だと思うんですけど、そういうところからも来てるんですね。映像的な曲の作り方をする人はたくさんいても、絵コンテまで書く人はなかなかいないでしょうから。

早瀬:そうかもしれないですね。それがPVになるわけでもないですからね。なんか自分なりのメモみたいのってあるじゃないですか? 走り書きでわけのわからない、そういう感じなんです。

―ああ、それわかるなあ。僕もめっちゃメモしますもん。あとで見返すかっていうとそうでもないんだけど、なんか書いとかないと落ち着かないみたいな。

早瀬:僕そういうちっちゃいメモ帳いっぱいありますよ。ひさびさに見返してみると、「これなんかええ感じやな」っていうのと、「ホンマ意味わからへん」っていうのありますね(笑)。あと僕日記をMDにずっと録ってたんですよ。20歳から3年間ぐらい録ってて、50本ぐらいあるんですけど、最近それを聴きながらお茶飲んだりしてて、「録ってて良かったな」って(笑)

―ただの日記なんですか? それとも作家的な、ちょっとお話っぽくしたりとか?

早瀬:最初はホンマにその日のことをしゃべってるんですけど、途中でテンションあがってわけわからなくなってくるみたいな(笑)

―ちょっとDJ気分?

早瀬:何やってたんだろうなって思うんですけど…でもきっとそうですね(笑)

2/3ページ:表現するにあたって、これをやったら恥ずかしいとか、かっこ悪いとかってホンマに最近なくなってきて。

ひとつの夜を作っていくみたいなことをしてたのはすごく糧になってると思います。

―そして、ベベチオを結成したのが2000年ですね。

早瀬:高校の同窓会でライブをやったんですよ。“おっぱいがいっぱい”って曲あるじゃないですか? あれと、ジミヘンと、コステロのカバーをやったんです(笑)

―めちゃくちゃな組み合わせ(笑)

早瀬:でも、それがなんか評判よくて(笑)。それで「実はこんな曲も書いてんねん」って周りの人に聴かせたら、「めっちゃいいやん」って言われて、俺も音楽やっていいのかなって。

―それまで自作の曲を外で発表したりとかはなかったんですか?

早瀬:全然してなかったんです。ひたすら自分で曲を作る日々があって、気づいたら髪の毛めっちゃ長かったんですよ(笑)。それで美容室に行って、「実は最近曲作ってて」とかって話したら、「ここでライブやってよ」って言われて。まだ5、6曲しかなかったんですけど、いきなりワンマンライブをして。

―へえ、それはすごい。

早瀬:それを25回とか毎月やってたんですよ。何もわからなかったんで、それを続けてたら「いいねえ、君」みたいな話が湧いてくるか? とか思いながら、ずっとやってたんです(笑)

―普通最初はライブハウスのブッキングライブからスタートするのに、全然違いますね。

表現はひとつじゃない ベベチオ インタビュー

早瀬:それをしたかったんですけど、どうやったらそれになれるかわかんなかったんですよ。ほんで後で聞いたら、平良はバンドマンですからもちろん知ってて、「知ってたけど、早瀬がめっちゃこだわってんのかと思って」って(笑)

―(笑)

早瀬:ライブハウスに出て30分やるのもバンドマンとして当たり前に大事なことなんですけど、ひとつの夜を作っていくみたいなことをしてたのは大きな糧になってると思います。絵描きの子とかもよく来てて、「東京に行こうか、大阪にいようか、このライブに来ていつも考えてます」とか、アンケートにそんなことばっかり書いてあって、「何しに来てんねん」っていう(笑)

―もちろん、それだけ大切な場所だったってことですよね。

早瀬:そうですね。やってて良かったと思うことはいっぱいあります。

表現するにあたって、これをやったら恥ずかしいとか、かっこ悪いとかってホンマに最近なくなってきて。

―では『リビングのデカダンス』について聞かせてください。3年ぶりの新作で、それ以前までのリリースペースと比べると結構間が空きましたが、この3年間はどんな3年間でしたか?

早瀬:『ちょうちょ』(1stフルアルバム)を出してから1年後くらいに、1回アルバム制作に入ろうとしたんですけど、平良くんは普通に会社勤めしてるんで、なかなか思うようにレコーディングが進まなかったんですよ。大変な中でまわしていくのももちろん大事なことかもしれないけど、そのときは、苦痛に感じるんだったら1回止めようかって。満を持して「やりたい」って状態になったらやろうって言って、気が付いたら1年半くらい経ってたっていうのが実際のところですね。

―その間早瀬さんはどうされてたんですか?

早瀬:4曲目に入ってる“写真の声”っていうのが、『ALBUM EXPO』っていう、富士フイルムさんとか写真家の方たちと一緒にやったイベントのテーマソングなんですけど、そのイベントには企画段階から参加してたんで、それに熱中してた時期もありましたね。

―写真も元々お好きなんですか?

早瀬:好きですね。今はやっぱりデジカメが主流ですけど、アルバムを手にとって見るのってやっぱりよかったなって。パソコンの中に何千枚も画像データがあるのが悪いとは言わないけど、ちゃんとプリントして、写真っていう実体を感じるのも大事ですよってことを、説教くさくなく展示しましょうっていう企画展をやったんです。

―いいものをちゃんと認めていく、という意味でいえば、ベベチオの音楽もデジタルと生音のバランスがすごくいいし、さらに言うと大衆的なポップさと、洗練されたアレンジのバランスもすごくいいですよね。どちらかに無理に偏っているわけではなくて。

早瀬:日に日にそうなんですけど、表現するにあたって、これをやったら恥ずかしいとか、かっこ悪いとかってホンマに最近なくなってきて。もちろん、へりくだるとか迎合するとかってことではなくて、誰にでもわかるような言葉で歌詞を書いても、元々僕が持ってる言葉の温度感とか肌触りって、やっぱり出るんですよね。それを今回のアルバムで再確認できたのは良かったですね。パッと書いても、しっかりした芯があれば全然大丈夫だなって。

―早瀬さんの言葉のチョイスはすごく独特ですもんね。

早瀬:ちょっと多面的というか、こっちから見たらこう取れるとか、ちょっと俯瞰で見て角度変えたらすごい景色が変わるみたいな、それをわかりやすい言葉で表現できたら奥深いと思うんですよ。そのときの気持ちで聴いた感じも変わるし、例えば10年後聴いたらまた違うだろうし、そういうことができたらその人にとっていいことできたなって思いますね。

2/3ページ:そうなんです。やっぱ続くんです。どんなことがあっても「続く」って言いたい。

そうなんです。やっぱ続くんです。どんなことがあっても「つづく」って言いたい。

―『リビングのデカダンス』っていうタイトルにはどんな意味が込められてるんですか?

早瀬:「暮らし」っていうイメージがまずあるんですね。僕らが住むリビング、ワンルームでもそこがリビングだし、その中で起きることっていう。あと、デカダンスって退廃的だったり、ネガティブなイメージを含むんですけど、そういうものって絶対あるし、無視できないし、それをどう使うかが大事なんだろうなって常日頃思ってて。

―ネガティブなものは絶対避けられないけど、それをどう捉えるか。僕はベベチオの音楽から、絶対避けられないものとして「別れ」っていうのをすごく感じるんですよね。人との関係、恋愛ももちろんそうだし、今回の“BOY”っていう曲だと、成長するっていうことも何かを手放すことだったりとか。

早瀬:うん、別れってすごい悲しいイメージがあるけど、結構好きやったりするんですよね。すごい真っ直ぐ泣ける感じがあって。小さい頃、夏休みになると1ヶ月間九州のいとこの家に行って、帰るときはいつも大号泣して別れてたんですね。反抗期だった兄ちゃんでさえ、ちょっと尖がってんのに、やっぱり別れるとき大号泣してて。それって最高だなって、次男ながらに思ってて(笑)

―(笑)

早瀬:すごくいいせつなさがあって、そこに僕は魅せられてるというか。別れがあるからずっと覚えていられる、それを大事にできるっていうのがあるので、ふとした時にそういう感覚が出てくるっていうのは常にあるかもしれないです。

―だからこそ、アルバムの最後に“つづく”っていう曲が入ってるのは、すごく感動的だなって思ったんですよね。別れは必ずある、でもそれを踏まえた上で、「続くんだよ」って。

早瀬:そうなんです。やっぱ続くんです。どんなことがあっても「続く」って言いたい。この曲は気張らずに大事なこと言えたなって感じですね。命がつながれていく、誰かが死んでも、誰かが生まれて、どんどん続いていくっていう、すごい大きなイメージでもあるし、ただ単に毎日が続いていく、またご飯が炊けたぐらいのテンションでもあるんです。

―それこそ、今回のアルバムを作る前は、ベベチオを続けることにも葛藤があったわけですよね?

早瀬:そういう意味も込めてて、「続くねんな」って。平良ともできるときは一緒にやって、僕1人でもいろいろやったりするので、形態がいろいろだったとしても、それでも続いていく。ベベチオってものを失くす理由なんてそこにはなかったし、僕はやれることをやるっていう。

―聴く人にはどのように伝わってほしいとかっていう思いはありますか?

早瀬:みんなそれぞれの暮らしがあって、つらいときに、傷口があったらそこに染みるだろうから、それぞれ思うように感じてもらえればいいんですけど、ひとつ要望するなら、歌詞カードを読みながら聴いてもらえると、言いたいことが何割増しかでわかってもらえるかなと。

―「早瀬さん語」みたいのありますもんね。

早瀬:ちょいちょいあるんで(笑)、それを感じてもらえるといいかなって。

表現はひとつじゃない ベベチオ インタビュー

表現の方法が何であっても、「やっぱベベチオやな」、「やっぱ早瀬くんやな」って思ってもらえるものを提案できて、それでご飯食べていけたら嬉しいですね。

―6月に東京と大阪でレコ発ライブがありますが、ライブはどういった空間にしたいですか?

早瀬:3月20日に大阪でイベントをやったんですけど、そのときに昔の写真のスライドショーとか、僕が作った映像を流して、昔話をしゃべりながらやっていくみたいなライブをしたんですよ。それをみんなすごく楽しがってくれて。もちろん音楽だけみっちりやるのもいいんですけど、人となりが見えて、その人がわかった上で、その人がこれを歌ってるんだなって思ってもらえると、浸透率が高いんだなって。

―今後もいろんなことができそうですね。

早瀬:表現の方法が何であっても、「やっぱベベチオやな」、「やっぱ早瀬くんやな」って思ってもらえるものを提案できて、それでご飯食べていけたら嬉しいですね。なんやかんや興味はいろいろあるので、野望というか、「こんなんできたらいいな」っていうのは常にあるんです。

―ちなみに、最近興味があることは?

早瀬:僕お茶がすごい好きで、最近伊藤園の方と仲良くなったんですけど、というのも、お茶の裏に俳句載ってるじゃないですか? 僕2回選ばれてるんですよ(笑)

―じゃあ、今度はミュージシャンを集めて句会を開いたらいいかもしれないですね(笑)。

早瀬:いいですねえ! そしたら僕着物着ていくかもしれないです(笑)

リリース情報
ベベチオ
『リビングのデカダンス』

2011年4月27日発売
価格:2,520円(税込)
XNHL-14003

1. bit
2. いとしいときわ
3. キーワード
4. 写真の声
5. 愛のカタチ
6. BOY
7. ブギのカギ
8. 蛍
9. どこ吹く風
10. 水の泡
11. つづく

イベント情報
ベベチオ『ジャポネイオン2011』
『リビングのデカダンス』Release Live

2011年6月24日(金)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京都 下北沢 GARDEN
出演:ベベチオ
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

2011年6月25日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 心斎橋 BIG CAT
出演:ベベチオ
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

ベベチオ『リビングのデカダンス』インストアライブツアー

2011年5月1日(日)START 15:00
会場:大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース

2011年5月14日(土)START 17:00
会場:北海道 HMV札幌ステラプレイス

2011年5月15日(日)START 13:00
会場:福岡県 キャナルシティ博多 B1Fサンプラザステージ

2011年5月22日(日)START 15:00
会場:大阪府 タワーレコード梅田大阪マルビル店 イベントスペース

2011年5月22日(日)START 18:00
会場:大阪府 タワーレコード難波店 イベントスペース

2011年5月30日(月)START 19:00
会場:東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース

プロフィール
ベベチオ

2000年結成、早瀬直久(Vo,Gt)、平良正仁(Ba)による2人組ポップスユニット。ボーカル早瀬の透明な歌声に「懐かしいのに新しい」独特のサウンドでファン層を着実に増やしている。2008年にはJR東日本CM「恋の中」や上野樹里主演映画の「幸福のスイッチ」のテーマ曲“幸福のスイッチ”等を含むセルフプロデュースによる1stフルアルバム『ちょうちょ』を発売し、話題を集める。近年、製薬会社商品のCMナレーション等、早瀬の声をお茶の間に届けられる様、徐々に音楽以外の活動の幅をも広げている。



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