対米仕様DCPRG 菊地成孔インタビュー

「野音史上2番目」と言われる豪雨の中で行われた伝説の復活ライブ、ジャズの名門レーベル「インパルス」からのリリースとなった2枚組のライブ盤『ALTER WAR IN TOKYO』に続き、いよいよ久々のオリジナルアルバム『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』を発表するDCPRG(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN)。タイトルからもわかるように、本作は1stアルバム『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』のセルフカバー的な意味合いがあると同時に、ジャパニーズアンダーグラウンドのアンファンテリブル「SIMI LAB」や、ボーカロイドの「兎眠りおん」といった8MCが参加した、異色のラップアルバムでもある。なぜ、このような驚きの作品が生まれたのか? それは、DCPRGとアメリカの、因縁とも呼ぶべき関係性に起因していると言ってもいいかもしれない。4月12日に新木場スタジオコーストで行われる単独公演には、SIMI LABのゲスト参加も決定。今から楽しみでならない。

SIMI LABは存在全部が衝撃ではあったんですけど、「一緒にできるかも」っていう予感にドキドキしたんですよね。

―活動再開以来、ライブ盤のリリースはありましたが、オリジナルのリリースはひさびさですね。

菊地:ご存じの通りCDが全然売れない世の中なので、「ライブ録音をして、配信で出せばいいんじゃない?」という、スタッフサイドの判断があったんです。ただ、いつまでもライブ盤の配信をオフィシャルブートみたいにバンバン出しててもしょうがないって感じになってきて、ユニバーサル・ジャズさんとイーストワークスエンターテインメントさんから、共同原盤の形で出さないかという話をいただきまして。さらにそれは、インパルス(1960年にニューヨークで創設された老舗ジャズレーベル)のレーベル使用許可が出たと。僕が働きかけたわけじゃなくて、気が付いたら段取りがスタッフの間で進んでたんですけどね(笑)。

菊地成孔
菊地成孔

―『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』というタイトル通り、1stの『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』のセルフカバーのような意味合いのある作品となっているわけですが、最後に「USA」とつけたのは何故なのでしょう?

菊地:それはシャレみたいなもんで、インパルスの作品だということですよね。インターナショナルサイズと言っても、実際どれくらいの市場で、どれくらいの国の人がCD屋さんで手に取るかわかったもんじゃないですけど、話的にドメスティックなものではないと。それで、どう考えてもインパルスですし、ユニバーサルですから、北米メインだろうってことで「USA」って入れたんです。あと「SECOND」っていうのは単純に、1枚目からちょうど10年ぶりなんで、新しいメンバーで1枚目をもう1回やるんだっていうイメージですね。

―しかも、ただセルフカバーをするのではなく、ラップが大きくフィーチャーされていることに驚きました。

菊地:「次にDCPRGのアルバムを作る場合はラッパーとコラボレーションしたい」っていうのは比較的早くからあって、とはいえ、誰とどういう風にやるかっていうのは全く決まってなかったんですね。それとは別に、SIMI LABのファンは必ずこれでやられたっていう“WALK MAN”っていう曲を2009年にYouTubeで聴いて、衝撃を受けたんです。ただ、その年はDCPRGが活動を再開した年で、我々の本丸の方もワヤワヤでしたし、SIMI LABがどういう連中かも全くわかんなかったんですよ。

―SIMI LABのどんな点に惹かれたのですか?

菊地:僕はヒップホップのフロウがやがてラップの方じゃなくて、トラックの方に来るだろうってずっと思ってて、ただ実際には来てなかったんですよね。ジャパニーズ・アンダーグラウンド・ヒップホップはすごい優秀なラッパーを輩出してるんですけど、トラックはガチガチで、エレクトロに近くなって行った。それに対して、SIMI LABの“WALK MAN”は、トラックが揺れてる、トラックがフロウしてるってことにすごい衝撃を受けたんです。彼らの存在全部が衝撃ではあったんですけど、「一緒にできるかも」っていう予感にドキドキしたんですよね。

2/4ページ:どぎついブラックユーモアですね。東京からジャジーヒップホップが来たら、ボーカロイドがラップしてたっていう(笑)。

フィックスされたリズムのあるトラックにラップが乗るんじゃなくて、全員がバラバラに、パッと聴くとフリージャズに聴こえる、そういうトラックにラップが乗ったら面白いんじゃないかって

―では、実際にSIMI LABを起用するに至るまでは、どんな変遷があったのでしょう?

菊地:さっきも言ったように、ラッパーを入れたいっていう話は最初からしてたんですけど、ユニバーサルさんはユニバーサルさんなので(笑)、インターナショナルリリースに際して「ラッパーを入れたいです」っていったときに、具体的にどういうことになっちゃうかというと、担当の方がまずオファーのメールを投げてくれたのがコモンで。

―話がでかい(笑)。

菊地成孔

菊地:そこでユニバーサルという会社のオーバーグラウンドぶりに圧倒されるんですけど(笑)、コモンから「シーズン的に今はどのオファーも断ってる」って返答がきて、「当たり前だろ」って思ったんですけど(笑)。そこでハッと、最初コモンって言われてびっくりして忘れてたんですけど、SIMI LABのことを思い出したわけです。もしユニバーサル側が問題なければ、USオーバーグラウンドじゃなくて、ジャパニーズ・アンダーグラウンドの、相模原の子たちでやりたい子がいるんですけどって言ったら、「あ、じゃあいいですよ」って。

―そこはオッケーなんですね(笑)。

菊地:鷹揚なんですよね、ビッグカンパニーは。それでダメ元でSIMI LABにコンタクトしてみたんです。僕らのことは知らないだろうし、実際に会ったら知りませんでしたし、そういう人に僕らのトラックを投げて、やってくれるかなんてわからないじゃないですか? とはいえ、さっきも言ったように“WALK MAN”っていう彼らの実質上のブレイクスルーのトラックが、僕が持ってるヒップホップ観というか、ポリリズミックに揺らぐっていうことが大切なんだっていうのを無意識的にやってたので、「ひょっとしたらやってくれるかも」ぐらいに思ってたんです。

―「一緒にできるかも」っていう。

菊地:ただ、アルバムがかなり話題になってた時期だったんで、他にもフィーチャリングのオファーがたくさん来てたろうし「やってくれるわけないか」とも思ってたんですよ。それでも、一縷の望みをかけてオファーしたら、一発でOKだって話が来て、「え? OKなの?」っていう(笑)。後から話を聞いたら当然オファーはたくさん来てたんだけど、僕らとやりたいって思ってくれたみたいで。

―今作でSIMI LABとは新曲とSIMI LABのカバーで共演していて、1stのセルフカバーの“キャッチ22”では菊地さんご自身もラップをされてますね。

菊地:僕の本懐っていうか、1番の狙いは、フィックスされたリズムのあるトラックにラップが乗るんじゃなくて、“キャッチ22”みたいに、全員がバラバラに、パッと聴くとフリージャズに聴こえる、そういうトラックにラップが乗ったら面白いんじゃないかっていうのがまずあったんです。ただ、具体的に難しいだろうとは思ってて、実際SIMI LABにこのトラックも送ってたんですけど、これはスルーってことだったんですね。でも、アルバムにラップが入ること自体は決まったから、本懐も誰かやれそうな人で入れてしまおうってことで、自分でやろうかなって(笑)。

―なるほど(笑)。

菊地:でも、自分1人だとバカみたいなんで、大谷(能生)君を誘って。彼はお互いジャズメンだけどものすごいヒップホップ好きで、ラップもやりますよって立ち位置だってことを知ってたんで、完パケて、トラックダウンも終わってて、あとはラップを乗せるだけってタイミングで、「次のDCPRGのインパルス盤でラップしない?」って言ったら、大谷君は全然バリアフリーで、「やりますよ」って(笑)。

菊地成孔

どぎついブラックユーモアですね。東京からジャジーヒップホップが来たら、ボーカロイドがラップしてたっていう(笑)。

―“キャッチ22”には、さらにもう1MC加わってますね。

菊地:ボーカロイドを入れるっていうのはイタズラ程度で、ラッパーを入れるっていうほどの気合いは入ってなかったんです。言ってしまえば対米仕様なので、単にギャグとして、アメリカ的にも国内的にも面白いかなと思って。ただ、ボーカロイドにかわいい歌を歌わせるわけにはいきませんので、ボーカロイドをフィーチャリングした3人のラッパーがいて、ボーカロイドがマイク回しをするっていう、どぎついブラックユーモアですね。東京からジャジーヒップホップが来たら、ボーカロイドがラップしてたっていう(笑)。

―元々ボーカロイド自体に興味はあったんですか?

菊地:僕、ボーカロイドって名前を知ってるだけで、どんなものかわかってなかったんですよ。去年ぐらいまで、初音ミクさんっていうのは声優さんがいて、ドラえもんみたいな、大山のぶ代さんがいるようなもんだと思ってたんですけど (笑)。

―へぇ、それは意外です。

菊地:で、ボーカロイドのパフォーマンスを整えることを調教っていうらしいんですけど、ラップ用に調教した人はいないということなので、どうやったらいいか誰もわかんなかったんですね。自分でラップ録って近似値で入れるとか、いろんな策はあったんですけど、結構グダグダになって(笑)。でも、元々明確なスタイルがあったわけでもなく、聴いたらそんなに嫌でもなかったので、納品ギリギリで上がってきたものをCDJに取り込んで、僕が擦りとか入れつつ、録音し直したんです。

―それで“キャッチ22”の3MCが揃ったと。

菊地:そう、大谷君、ボーカロイド、僕っていうマイクリレーが入って、SIMI LABが4MCで7MCですよね。あとはアミリ・バラカの「DOPE」っていう演説のテープは前からライブで使ってたんで、許諾を取って入れると実質上8MCっていうね。6人のMCと、ボーカロイドと、アミリ・バラカの昔の長い演説のテープが入って、うちらはラップを乗せるトラックを提供するんだっていう、その極端なコンセプトは比較的早くに固まり、納品はギリギリだったっていう(笑)。

3/4ページ:アメリカデビューで変なことになっちゃうっていうのを、統計上の事実として、自発的にやろうと。

アメリカデビューで変なことになっちゃうっていうのを、統計上の事実として、自発的にやろうと。

―最初に、タイトルに「USA」と入れたのはインパルス盤だからっていうことが大きいというお話でしたが、DCPRGはこれまでもアメリカを常に意識して活動をしてきましたよね? 本作において、改めてアメリカを見つめた部分があるとすれば、それはどういう点かをお聞きしたいのですが。

菊地:確かに、DCPRGにとってアメリカっていう存在は大きかったんですが、一段落ついたんで2007年に活動停止したっていうところもあったんです。現実的にも、妄想的にも、アメリカのことを考えるのがあんまり面白くなくなっちゃったていうか。そうしたら、降って湧いたようにアメリカから出すっていう話になったわけなんですけど、今回はアメリカに対してコンセプチュアルな気負いはないんです。今アメリカに進出することの意味がどれくらいあるのかっていうところで、少女時代がアメリカに進出したじゃないですか? ただ、あれは中国とやりたいからだと思うんですよ。実際アメリカでセールスして、アメリカで一流にならなくてもいいんじゃないかとか思うんで、アメリカのマーケットとしての魅力が具体的にどうなってるかはわからないんですよね。

菊地成孔

―ざっくりとお聞きしますが、今のアメリカをどう見ていらっしゃいますか?

菊地:とにかく今アメリカはものすごく疲れてて、危機感もいっぱいで、今年のアカデミー賞なんか見てても、フランス人が作った無声映画に4部門もあげちゃったりして、元気だったらそんなことしないと思うんですよね。僕アメリカのテレビドラマが好きで、『glee』とかもオタクって言えるほど見てるんですけど、伝わってくるのが今アメリカはくったくたに疲れてて、何とかして夢を取り戻さなきゃってことに必死だっていう。

―そんなアメリカでデビューすることに関して考えるところはありますか?

菊地:昔からあるじゃないですか? ブルーコメッツがエド・サリバンに出たとき和服を着てたとか、宇多田さんがUTADAって名前に変えるとか、ドリカムさんが自然体で行ったとか、色々あるけど、坂本九さんの“スキヤキ”以外、成功した例はないわけです。でまあ、アメリカに行くとみんな気張って洋風になるんですよ。自然体で行ったのは結局“スキヤキ”だけで、自然体風だったドリカムさんもつぶさに見ると対米仕様になってますし、単純に歌が英語とかね。なので、アメリカデビューってなると気張っておかしくなるっていうのが定番だなっていうのがあったんで、ちょっとおかしなことをしようと。

―ああ、あえて型にはまってみようと。

菊地:そうそう、いつものDCPRGそのままで行けばいいっていうのはリアルな意味でいいと思うんですけど、ただそれだと何も面白くないんで、アメリカデビューで変なことになっちゃうっていうのを、統計上の事実として、自発的にやろうと。そうじゃないと、ボーカロイドにラップさせるなんて馬鹿げたことは実行に至らないですよ(笑)。しかも、日本語のラップが延々続いて、アルバムの最後に突然アミリ・バラカが出てくるっていう、「気狂ってるよね」っていう感じが、制作時のモチベーションになってましたね。

―ある種のトンデモ感を狙ったというか。

菊地:とはいえ、ダメなもん出しちゃダメだから、出来は気に入ってるんですけど、ある種、歌舞いてるっていうか。とんでもないのはわかってるんだけど、でもいいよねっていう。大谷君のラップも、保守的なリスナーからは色々あると思うんですけど、やがて歴史が証明するだろうと(笑)。DCPRGの1枚目自体が、出たときはとんでもなかったわけなんで、「こんなもんで踊れるわけがない」って言われたんですよ。だけど、あっという間に踊れるようになったんで、10年間の歴史が証明したわけですよね。

4/4ページ:日本人はこれから韓流とかいろんなことに備えてですね、飲んでも踊り狂えるような体力が必要になってくるんじゃないですかね(笑)。

日本人はこれから韓流とかいろんなことに備えてですね、飲んでも踊り狂えるような体力が必要になってくるんじゃないですかね(笑)。

―4月12日には新木場スタジオコーストでのライブがあって、ゲストでSIMI LABも出演すると。DCRPGとしては、この日のライブで何らかのチャレンジというか、計画していることがあったりしますか?

菊地:今はメンバーが多くてあんまりリハもできないですから、とにかくSIMI LABと合わせるんだっていうので手一杯ですね(笑)。我々だけでやる曲はできるんで、SIMI LABと合わせる曲を何曲にするかですね。レコーディングのときとか、彼ら若いんでリテイク50回とかやるんですよ。パンチインを嫌うので、ジャズのアドリブと一緒ですよね、8割方上手く行っても1個失敗したら最初からもう1回やるっていう。だから徹夜仕事になりまして、若くないと無理だなっていう(笑)。あの感じでリハをやったらどうなるんだろうっていう、そのことで頭が一杯ですね。

―DCPRG自体も若返り、さらに若いSIMI LABが加わり、めちゃめちゃフレッシュですね。

菊地:おっさんたちが途中で寝るんじゃないかっていう(笑)。

―しかも、ライブ当日は特別に協賛のロン サカパ(プレミアム ラム酒)が飲めるそうですからね。

菊地:去年、キップ・ハンラハンが来日して打ち合わせをした時に飲んで、そこで1本空けちゃったんですが、強いお酒ですよね。とても美味しいですけど、こんなもんばら撒かれてどうなるのかっていう(笑)。座って「イェー!」って感じの粋なジャズならいいですけど、うちらがガンガンにやってですね、ラム飲んでどうなっちゃうんだろうっていう(笑)。

菊地成孔

―雨の野音とは違った意味の伝説のライブになるかもしれませんね(笑)。

菊地:ただやはり日本人はこれから韓流とかいろんなことに備えてですね、飲んでも踊り狂えるような体力が必要になってくるんじゃないですかね(笑)。ダークラム飲んで、2〜3時間のジャズファンクのバンドだったら楽勝っていうようなことが求められると思うんで、ぜひ経験してもらいたいですね(笑)。

リリース情報
DCPRG
『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』

2012年3月28日発売
価格:3,059円(税込)
UCCJ-2095

1. キャッチ 22 feat. JAZZ DOMMUNISTERS & 兎眠りおん
2. サークル / ライン
3. 殺陣 / TA-TE CONTACT & SOLO DANCERS
4. マイクロフォン・タイソン feat. SIMI LAB
5. トーキョー・ガール
6. UNCOMMON UNREMIX feat. SIMI LAB
7. デュラン feat. 「DOPE」(78) by アミリ・バラカ

イベント情報
Ron Zacapa presents
『菊地成孔 DCPRG』

2012年4月12日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST
出演:DCPRG
料金:スタンディング6,500円 指定席7,000円 当日券7,500円

プロフィール
DCPRG

菊地成孔が、アフロ=ポリリズムを世紀末からゼロ年代の東京のクラブ・シーンに発生させ、持続させたファンクバンド。ポリBPMによるフェイズの深化、マイルス・デイビスのエレクトリック・ファンクと菊地雅章マナーによるマイルスを、クロスリズムのアフリカ的な実践によって、さらなる進化を世界で唯一実現した。2007年に休止した後、2010年10月9日、雨の日比谷野外音楽堂で新メンバーによる伝説的な復帰を遂げた。



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