菅野よう子が引き合わせた若き才能、Aimer×青葉市子対談

2011年のデビュー以来、クリエイター集団・agehaspringsや作曲家の澤野弘之、阿部真央らとのコラボレーションを通じて、その個性を際立たせている女性シンガーソングライター、Aimer。彼女の新作『誰か、海を。EP』は、アニメ『残響のテロル』のエンディングテーマに起用されたタイトル曲において、作曲を菅野よう子、作詞を女性シンガーソングライターの青葉市子が担当し、シンガーに徹したAimerを含め、針を振り切った三者の表現が濃密な音楽空間を生み出すに至っている。

6月にリリースされた最新アルバム『Midnight Sun』をはじめ、かなりのハイペースで作品を重ねてきた彼女がこの作品で見せた大きな進化の原動力を探るべく、作詞を手掛けた青葉市子との対談を行った。デビュー4年目でありながら、細野晴臣や坂本龍一、小山田圭吾、U-zhaanらと共演を重ねてきた青葉に誘われ、Aimerが辿り着いた深海の風景とは?

1曲聴き終わった後に、何時間もかけて芝居や映画を観たときのような濃密な体験であったり、大事に思ってもらえたりするような、そんな音楽を作ることが出来たらいいなと思っています。(青葉)

―“誰か、海を。”は、普段は異なるフィールドで活躍している三人が意外な組み合わせとも言えるコラボレーションによって作り上げた曲ですよね。

青葉: 1曲聴き終わった後に、何時間もかけて芝居や映画を観たときのような濃密な体験であったり、大事に思ってもらえたりするような、そんな音楽を作ることが出来たらいいなと思っています。今回、菅野さんが、その場所へ辿り着けるよう、私たち二人を引き合わせてくれました。

―どういう経緯で、青葉さんがAimerさんの曲の作詞を手掛けることになったのでしょうか?

青葉:アニメ『残響のテロル』の音楽を担当されることになった菅野さんから、私のところに「歌詞を書いてもらいたい」と連絡があったんです。

青葉市子
青葉市子

―Aimerさんは、青葉さんが書いた詞を初めて読んだとき、どのような印象でしたか?

Aimer:まず最初に私がいただいたのは、市子さんの歌詞が乗る前のデモで、歌メロを菅野さんが歌ったものでした。そのあとに市子さんの歌詞をいただいたんです。その時点で、私は市子さんのことを一方的に存じ上げていたというか(笑)、最新アルバム『0』、中でも“いきのこり●ぼくら”の声がすごく好きだったので、その前のアルバム『うたびこ』だったり、過去の作品を全部買って聴いていたんです。だから、市子さんの歌詞を歌うことになったことが、すごく嬉しかったんです。

Aimer
Aimer

青葉:えー、そうなんだ!(笑) びっくり、知らなかった。


Aimer:だから、今日もこうやって対談の機会を与えていただいて、すごく嬉しかったです。市子さんとはこの曲のレコーディングで初めてお会いしたんですけど、そのときは一瞬しかお話出来なかったんですよね。

青葉:ツアーに行く直前だったので、大荷物をかかえて、「こんにちはー!」って、スタジオにドカドカ入っていって、菅野さんを交えた三人で歌詞の譜割の話をして、すぐに出てしまったんですよね。

Aimerさんの声を聴いたとき、「この声と一緒に、私も深いところに行きたいな」と思いました。だから、彼女を奈落の底に引きずり込もうと(笑)。(青葉)

―青葉さんが、他のアーティストに歌詞提供することは、これまでほとんどなかったですよね。自分以外の人が歌う、しかもアニメのエンディング曲になる、ということで、普段の曲作りとはどういった違いがありましたか?

青葉:菅野さんにお会いしに行ったら、アニメにまつわる資料を渡されて、「なんでもいいから好きに書いてみて」と言ってくださいました。歌詞に関しては、使いたいと思っていた単語のストックが私のなかにあって、Aimerさんの音楽と声を念頭に、歌詞を膨らませていったんです。

―具体的には、どのように膨らませていったのでしょうか?

青葉:菅野さんに、私が歌おうと思って書いていた3曲分の歌詞をサンプルとしてお見せしたら、菅野さんから各歌詞の好きな部分を抜き出して「こういう感じがいい」と意見をもらいました。だから、この曲には1曲ではなく、数曲分のエネルギーが入っています。

Aimer:そう。一つひとつの言葉が濃密ですよね。

青葉:一つひとつの言葉は主張が強いんですけど、この歌詞ではひたすら時空に歪みがでるように心がけました。「なにかを伝えたくて発してみるんだけど、どこにも答えがない」ということをずっと言い続けたかったんですよね。見える透明のような……。そういう葛藤は、日々を生きて、作品を作っていく中で、ついてまわる現象なんですけど、この曲の歌詞を書いている中で最終的に行き着いたのは「海に行きたい」という気持ち。なので、「誰か、海を。」というタイトルを付けました。

Aimer『誰か、海を。EP』ジャケット
Aimer『誰か、海を。EP』ジャケット

―自分ではなく、Aimerさんが歌う、ということを念頭においた際に、どういったことを意識されましたか?

青葉:Aimerさんの声を聴いたとき、「この声と一緒に、私も深いところに行きたいな」と思いました。だから、彼女を奈落の底に引きずり込もうと(笑)。しかも、足からドボンと入るんじゃなく、頭からゴボゴボって突っ込んでいくような感じ。菅野さんの音世界と、言葉と、声が手をつないで「降り注ぐ針の雨をくぐって、笑いながらワーッと逃げる」、そんな歌詞にしたかったし、三人がいたらより濃厚な世界が作れるんじゃないかと思いました。

Aimer:笑いながら逃げるという感覚はよく分かります。決して明るい曲ではないんですけど、歌っていると、気持ちが振り切れて、「アハハハ」って笑いがこみ上げてくるような高ぶりがあるんですよ。

青葉:曲の印象やアニメのストーリーを合わせてみると、一見シリアスに思うかもしれませんけど、全然そうじゃなくて、そういうシリアスなところとはかけ離れたところでぴょんぴょんジャンプしているみたいな世界観なんですよね。

―ある種の狂気をはらんだ世界というか。

Aimer:曲にも歌詞にもそういう狂気性が含まれているので、歌っているとき、特に後半は感情が振り切れているだけでなく、振り切れた先のなにかに触れたような感覚があったんですよね。

ボーカルブースに入ったら、菅野さんから「野獣になれ!」というディレクションがあったんです。(Aimer)

―Aimerさんは青葉さんの歌詞をどのように受け取って、歌で表現したんでしょうか?

Aimer:私が誰かに書いていただいた歌詞を歌うときは、歌詞を読み込んで、そこに込められた意味とか理由を自分なりに考えて、解釈し直してから歌うことが多いんです。でも、市子さんの歌詞は詩的で、情景が真っ先に浮かんでくるので、意味とか理由に寄るよりも、言葉が呼ぶ景色をイメージして、身を任せるようにそのイメージを声で表現しようと思ったんです。

青葉:アニメで流れているのは1番だけの短いバージョンなので、早く2番も聴いてもらいたいな。私の中では分裂していく感じが体感として分かってくる2番が大事で、Aimerさんが歌われている<ひしめく声たちの~>という一節は、どんどん溺れていく感じが伝わると思うんですよね。

Aimer:この曲はメロディーも振り切れているので、歌うときには、頭で考えなくても、言葉とメロディーの強さにもっていかれる感じがあったんですよね。

青葉:Aimerさんは歌入れのとき、菅野さんに「もっとゴリッとしていいよ」って言われてましたよね?

Aimer:ふふふ。「野獣になったほうがいい」とかね(笑)。普段の私が自分で書いた歌詞や人の歌詞を歌うときは、自分の感情をどの程度解放するか、コントロールする範囲を決めて臨むんですけど、今回その範囲を設定しないままボーカルブースに入ったら、菅野さんから「野獣になれ!」というディレクションがあったんです(笑)。何度か通して歌ったら、歌い終わったときに息切れしたくらいでした。

青葉:私が個人的に好きなのは、1番と2番の間にあるコーラスだけのパート。私はあそこがものすごく好き。


Aimer:実は、あのコーラスパートはどういう仕上がりになるのか知らされないまま、レコーディングのときに、菅野さんからその場で「こうやって歌って」と指示されるままにコーラスを重ねていったんです。そうしたら、最後にコーラスアレンジの全貌が分かったんですけど、その声のかみ合い方は今までに経験したことがないようなものだったので、自分としてもあのコーラスパートはすごく好きですね。

青葉:声だけで世界観が表現できてるんじゃないか、歌詞いらないんじゃないか、と思っちゃうくらい素敵ですよね(笑)。

この曲がじわじわ心を侵食していったらいいなと思っています。(Aimer)

―最初に青葉さんから、「1曲で濃い体験を与えたい」というお話がありましたが、Aimerさんは音楽の伝え方、伝わり方について、どう思われますか?

Aimer:私としても、菅野さんと市子さんと一緒に、こういう挑戦的な曲で声という1つの役割を担えたことが嬉しいですね。アニメ自体も踏み込んで、視聴者に問いかけている部分が大きい作品ですし、私が毎週アニメに引き込まれているように、毎週観ているうちにこの曲がじわじわ心を侵食していったらいいなと思っています。

―菅野さん、青葉さん、Aimerさんがそれぞれの才能を最大限に発揮することでこの曲は成立していて、今までのAimerさんの楽曲とはまた違った世界観がありますよね。

Aimer:私自身の音楽の取り組みとしても、菅野さんや澤野(弘之)さん、阿部真央さんをはじめ、色んな方とのコラボレーションを通じて、自分の新たな引き出しを開けてもらっている感覚があります。誰かと手をつないで自分の音楽を広げていくことで、どんな人にも振り向いてもらえるような歌を届けていきたいですね。

澤野弘之(左)とAimer
澤野弘之(左)とAimer

青葉:Aimerさんの声は、美術館のなかでずっとそこにある彫刻みたいだなって思うんですね。きれい。だから、私はこの曲で1番と2番の間のコーラスパートが好きだったりするんですけど、いつかはAimerさんの声だけのアルバムを聴いてみたいですね。

インターネットライブは、目の前には誰もいないはずなのに、インターネットの向こうに何万人かの人が観てると思うと、逆に視線を感じるんですよね(笑)。(Aimer)

―ライブでのアプローチ方法に関しては、お二人はどういうお考えをお持ちでしょうか?

Aimer:先日LIQUIDROOMでのライブ(2014年7月9日のワンマンライブ)をこっそり拝見させていただいたんですけど、そのときも市子さんの声を聴いて、「世界がそこにある」って思う程、声に惹かれました。

青葉:わ、観てくれたんですね! 言ってくださいよー(笑)。でも、すごく嬉しいです。

Aimer:あのときのライブでは、入場者にプチプチ(梱包用の気泡入り緩衝材)を配っていて、「なにに使うんだろう?」と思っていたんですけど、市子さんが“火のこ”という曲で「じゃあ、今から使います」って言って、そのプチプチをみんなで潰して火の粉の音を再現したじゃないですか。ホントにたき火が燃えているような音がしたし、そういうライブでのコミュニケーションのやり方にすごく感動しました。

青葉市子のライブより
青葉市子のライブより

青葉:そう言えば、あの日のリハーサルで“誰か、海を。”を歌っていたんですよ。

Aimer:それは聴いてみたいです!

青葉:あの日のライブは、ステージもプチプチでデコレーションしたんですけど、さっきもお話したように、ここ最近は舞台を観るようなインパクトをライブで作り出したいと思っていて。もちろん、ただ歌うというライブも出来るんですけど、それだけだと手が余っているような気がするんです。私自身、舞台を多く観に行ってることもあって、歌い手兼演奏者であると同時に、役者や美術家だったり、色んな役割を担うことが出来るんじゃないかと思っていて、色々挑戦してみたいんですよね。

―Aimerさんは、水族館やプラネタリウムなど、色んな空間で行ったライブをインターネット配信されていますよね。

Aimer:私は時間や場所に左右されず、みんなにライブを楽しんで欲しくて、思いつきで始めたインターネットライブを続けてきたんです。例えば、誰もいない深夜の新江ノ島水族館の「クラゲファンタジーホール」を使わせてもらって、クラゲを映し出しながらライブを聴いてもらったり、教会や六本木ヒルズだったり。そのライブにはお客さんを入れずにやってきたんですけど、目の前には誰もいないはずなのに、インターネットの向こうに何万人かの人が観てると思うと、逆に視線を感じるんですよね(笑)。

―これから初のワンマンライブが控えていらっしゃっていますが(取材は8月下旬に敢行。ワンマンライブは8月27日大阪、9月5日東京にて開催)、チケットは即完だったそうで、それはインターネットを使ってお客さんと密なコミュニケーションを図ってきた結果なんでしょうね。

Aimer:お客さんを入れたライブ経験はこれから積み重ねていきたいと思っているんですけど、音源は音源として、その伝え方を高めていきつつ、生身のお客さんとコミュニケーションをいかに取っていくことが出来るのか、ライブならではの伝え方はこれからどんどん試行錯誤していきたいと思っています。

Aimerのライブより
Aimerのライブより

青葉:Aimerさんの声をどこで聴きたいかと今考えていたんですけど、私は潜水艦の中で聴いてみたい。まぁ、潜水艦ライブというのは、現実的ではないかもしれないけど(笑)。いつかライブで一緒に歌いたいですね。二人いれば、“誰か、海を。”のコーラスパートも再現出来るじゃない?

Aimer:わ、嬉しい! ぜひ、一緒に歌ったり、遊んだりしたいです。

青葉:遊びましょう! すっごい声が響くところとかに一緒に行って、ひたすら歌ったりしたいな。

イベント情報
Aimer
インターネットライブ『Stardust August ~playback~』

2014年9月6日(土)22:30からUstreamで配信
※開始時刻が変更になる場合がございますので予めご了承ください。

青葉市子
『アワぶくツアー』

2014年9月6日(土)
会場:香川県 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 カフェレストMIMOCA

2014年9月11日(木)
会場:長崎県 波佐見町 モンネポルト

2014年9月12日(金)
会場:福岡県 cafeTeco
※予定枚数終了

2014年9月13日(土)
会場:佐賀県 CIEMA

2014年9月14日(日)
会場:熊本県 Denkikan

2014年9月16日(火)
会場:宮崎県 陶磁器工房 庸山窯(小林市)
※予定枚数終了

2014年9月17日(水)
会場:鹿児島県 GOOD NEIGHBORS

2014年9月26日(金)
会場:神奈川県 横浜中華街同發新館

2014年9月27日(土)
会場:茨城県 mfp(守谷フレンドパーク)

2014年10月15日(水)
会場:埼玉県 senkiya

2014年10月18日(土)
会場:岐阜県 本田
※予定枚数終了

2014年10月19日(日)
会場:栃木県 宇都宮 悠日カフェ

2014年10月24日(金)
会場:新潟県 上越 ラ・ソネ菓寮

2014年10月25日(土)
会場:富山県 nowhere
※予定枚数終了

2014年10月26日(日)
会場:石川県 金沢 kappa堂
※予定枚数終了

2014年10月31日(日)
会場:三重県 ツァラトゥストラハカク語リキ

リリース情報
Aimer
『誰か、海を。EP』期間生産限定盤(CD+DVD)

2014年9月3日(水)発売
価格:1,800円(税込)
DFCL-2080

[CD]
1. 誰か、海を。
2. 白昼夢
3. for ロンリー with 阿部真央
4. 眠りの森(Kazuki Remix)with Yuuki Ozaki(from Galileo Galilei)
5. Cold Sun(Ryo Nagano Remix)with 永野亮(APOGEE)
6. 誰か、海を。(TV size)
7. 白昼夢(TV edit)
8. 誰か、海を。(instrumental)
[DVD]
・「残響のテロル」ノンクレジットエンディングムービー

Aimer
『誰か、海を。EP』通常盤(CD)

2014年9月3日(水)発売
価格:1,500円(税込)
DFCL-2079

1. 誰か、海を。
2. 白昼夢
3. for ロンリー with 阿部真央
4. 眠りの森 (Kazuki Remix) with Yuuki Ozaki(from Galileo Galilei)
5. Cold Sun (Ryo Nagano Remix) with 永野亮(APOGEE)
6. 誰か、海を。(TV size)
7. 白昼夢(TV edit)
8. 誰か、海を。(instrumental)

青葉市子
『0』(CD)

2013年10月23日(水)発売
価格:2,160円(税込)
VICL-64215

1. いきのこり●ぼくら
2. i am POD (0%)
3. Mars 2027
4. いりぐちでぐち
5. うたのけはい
6. 機械仕掛乃宇宙
7. 四月の支度
8. はるなつあきふゆ

プロフィール
Aimer(えめ)

青葉市子(あおば いちこ)
1990年出生、京都で育つ。17歳からクラシックギターを弾き始め、2010年1月、19歳の時に1stアルバム『剃刀乙女』でデビュー。これまで、細野晴臣、坂本龍一、小山田圭吾、七尾旅人、U-zhaanなど錚々たるアーティストたちと、作品やライブで共演を果たしてきた。これまでに、最新アルバム『0』を含め、計4枚のオリジナルアルバムを発表。


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