女性SSWとして唯一無二で在り続ける小島麻由美、本格的に再始動

部屋の奥にはアップライトピアノ、真ん中にはスピーカーと音源制作用のコンピューターやアナログテープレコーダー。そして壁には、小島自身が描いたCDジャケットのイラストが貼られている。取材に訪れた場所は、マンションの1階にある彼女の自宅兼プライベートスタジオ。日常感が漂う空間にて、和やかでリラックスしたムードの中での取材だった。

今年夏にリリースしたミニアルバム『渚にて / On the Beach』に続き、約4年ぶりのフルアルバム『路上 / On the Road』を完成させた小島麻由美。一言で言うなら、とてもご機嫌な音楽が形になっている。スウィングする8ビートに、軽やかな歌声。ASA-CHANG、カジヒデキ、塚本功、ハッチハッチェル、Dr.kyOnなど豪華なミュージシャンたちが、とにかく全身で楽しんで演奏している。1995年のデビューからはもうすぐ20年。いまだ彼女に追随するような存在の女性シンガーが登場していないのは、彼女のセンスと音楽への向き合い方が唯一無二のものであるゆえだと思う。新作について、そして音楽と生活について、語ってもらった。

(音楽活動の原動力は)やっぱり、好きだから。快楽度が高いからですよね。

―普段はお子さんを育てながら曲を作ったり制作をしたりしているんですよね。ここは自宅兼スタジオっていうことでしょうか?

小島:というより、まあ、自宅です(笑)。スタジオっていうほどのものじゃないですよ。この部屋は曲を作ったりする場所なんですけれど、今後はもうちょっとちゃんと歌を録れるようにしたいなって。

小島麻由美
小島麻由美

―実際に来てわかったんですが、生活と音楽がすごく密着しているんですね。

小島:あはは! 恥ずかしいです、子ども泣いてるし(笑)。

―子育てが落ち着いたから、音楽活動を本格的に再始動することを決めたそうですね。

小島:そうです。下の息子はまだ2歳だけど、昼帯はけっこう自由に動けるようになったので。

―子どもが生まれてから、小島さんの日々の暮らしの中で、音楽のあり方は変わってきました?

小島:特に変わらないですね。音楽を作るのも聴くのも、やっぱり大好きだし。ただ、子どもがいるから5時以降は何もできないのね。食事の支度をしてお風呂入れて終わり。だから音楽活動は、夕方までが勝負。スタッフがみんな協力してくれるから、たまに無茶してレコーディングスタジオに連れて行ったりもするけれど。

小島麻由美が手掛けたアートワーク

―以前はかなりマイペースな暮らしの中で、自分の好きなペースで音楽をやられていた。でも、子どもができると子ども中心のペースになるわけですよね。大変じゃないですか?

小島:もう、大変! スタッフや家族の協力がないと、子ども二人を育てながら音楽やるのは絶対に無理ですね。事務所の社長が子どもたちを見てくれるからツアーもできるけど、そうじゃなかったら難しいですよ。

―そこで改めてお伺いしたいんですけれど、今の小島麻由美さんが音楽活動をする原動力やモチベーションって、どういうところにあるんでしょうか?

小島:それはやっぱり、好きだから。快楽度が高いからですよね。出来上がったCDも、何度も聴いてるんですよ。嬉しくて(笑)。

―実は8年前にインタビューさせていただいた時にも、同じ質問をしたんです。小島麻由美さんの音楽の原動力は何ですか? って。

小島:本当? 何て言ってました?

―「自分の作品を聴くのが楽しいから」って。

小島:あははは! 進歩のない人間だな(笑)。

昔は、基本的に自分のCDしか聴かなかったのね。特に最新の音楽が大きな音でかかってると「ちょっとうるさいな、小さくしてよ」みたいな感じだった。

―自分の音楽を聴くのが好きだし、自分が面白いと思うものを作る。そういうところは変わってないわけですよね。

小島:変わってないですね。でも、聴く音楽は少し変わってきたかな。

―どう変わってきたんでしょう?

小島:昔は、基本的に自分のCDしか聴かなかったのね。特に最新の音楽が大きな音でかかってると「ちょっとうるさいな、小さくしてよ」みたいな感じだった。でも最近は他の人のCDや新しいものも聴くようになりました。

―たとえば何を聴いてますか?

小島:最近で言うと、The Strange Boys(2007年デビュー、アメリカ・テキサス州出身のガレージロックバンド)とかよかったなぁ。あと、Black Lips(2003年デビュー、アメリカ・ジョージア州出身のガレージロックバンド)は娘も好きなんです。前は昔のレコードしか好きじゃなかったのね。「The Zombies(1964年デビュー、イギリスのロックバンド)はやっぱりシビれるなあ」とか、そんな風に聴いてた。

小島麻由美

―8年前には、「自分がやっている音楽の軸は19歳の頃に作ったデモとそんなに変わっていない」と言っていました。そこに関してはどうでしょう?

小島:確かに、前々作の『スウィンギン・キャラバン』(2006年)を出した時ぐらいまではそうだったと思います。やっぱりスウィングが曲の軸になってましたからね。でもここ最近はずいぶん違います。

―どう変わりました?

小島:やっぱりドラムが変わったのが大きかったんですよ。ASA-CHANGからハッチ(ハッチハッチェル / 元デキシード・ザ・エモンズ)になって、ハッチはやっぱり8ビートが最高な人だから、自然とそっちになっていった。それと同時に、さすがに自分もスウィングに飽きてきてたんですよね。

―ハッチさんの叩くビートって独特ですよね。単なる杓子定規な8ビートじゃない。

小島:彼が叩くドラムは、なんかヤクザっぽくてたまんないですよね。フィルもわかってるんですよ。うまく説明できないけど、ハートにくるよね。本当に素晴らしいです。

―今回のアルバムは、1曲目の“モビー・ディック”のオープニングも「ドン、ドン」ってドラムから始まるし、小島さんの歌がもちろん真ん中にありつつも、演奏陣がフィーチャーされていますよね。


小島:だって、プレイヤーが最高なんです! カジくん(カジヒデキ)のベースも、つかもっちゃん(塚本功)のギターも最高。

―今回、小島さんの作品では初めてエレキベースを使われているんですよね。やってみてどうでした?

小島:最高、最高! やっぱり私はウッドベースが好きで、エレキベースを入れるのはあんまり気が進まなかったんです。でも今回は、手慣れた感じで進めていくより新しいことをやろうと思って、「エレキベースはどう?」ってプロデューサーに言われて「やろう、やろう!」と。で、レーベルメイトでもあるカジくんに「やってください」って声かけたらやってくれたんですよ。

―そこにギターの塚本さん、キーボードのDr.kyOnさん、パーカッションのASA-CHANGさんが加わる。この三人は小島さんとずっとやってきた方で。

小島:そうですね、ずっとやってきたからもうツーカーです。

―結果、かなり豪華なメンツになりましたよね。このバンド編成でやってみて、感触はどうでした?

小島:最高! 刺激的です。8ビートもゾクゾクします。みんなで揃ってセッションすると相性いいんですよ。現場もすごく楽しかった。

―皆さん、キャリアもそうですけれど、腕もかなりのものですしね。

小島:いや、それがね、いわゆる上手な人たちではなんですよね。

―え、そうなんですか?

小島:なんというか、手慣れたベテランプレイヤーな感じがしないんですよ。器用なプレイヤーたちじゃなくて、「これしかできない」って感じ。だから、聴いててフレッシュなんです。

小島麻由美

―なるほど。スタジオミュージシャン的な熟練ではない。

小島:そうそう(笑)。上手くないのが最高!

―確かに、アルバムを聴いていると、すごくご機嫌な感じが入ってるんですよ。楽しく音楽をやっている感じ。

小島:実際、すごく楽しかったからね。冗談ばっかり言って、和気あいあいとやってた。ハッチはお喋りが面白いし、カジくんは静かで優しい人だからそれを見てクスクス笑ってる感じで(笑)。いい現場だったな。

面白くて、とっかかりがあって、イカしてて、気がきいてて、最高で、ぴったりな歌詞って、なかなかパーッとは書けないんですよね。

―ただ、現場のムードはすごくよかったようですが、アルバムの制作は当初予定されていた10月から完成が延期したということですよね。これはどういう理由だったんでしょう?

小島:うーん、大雑把に言えば歌詞です。歌詞を書くのが大変だった。

―どういうところが大変だったんですか?

小島:面白くて、とっかかりがあって、イカしてて、気がきいてて、最高で、ぴったりな歌詞って、なかなかパーッとは書けないんですよね。

―曲にハマらないという感じなんでしょうか。

小島:歌詞が耳障りなもの、歌詞が目立って聴こえてくるようなものは、相性よくないんだなって思うんです。いい歌詞だと、歌詞のことを忘れてその曲を聴けるんだけど、上手くはまってないと、なんか気になって鳥肌が立っちゃう。まあ、今に始まったことじゃないんですけれど。

―以前から歌詞には苦労してたんですね。

小島:うん。ファーストアルバムを作る頃からずっと。でも「まあこんな感じ?」って言って適当に書いて歌う気にはならないんですよ。そうしたら、大好きになれるはずの曲がまあまあの曲になったり、聴きたくない曲になったりする。曲がよくても、歌詞次第で全部台無しになっちゃうから。

―それはもう、時間がかかりますよね。歌ってしっくりくるものを確かめるしかない。

小島:だからって、さも立派な歌詞がのってるわけじゃないんですけどね。簡単な歌詞なんです。でも、音との相性があるんですよ。

ジャケットの絵は、「もう描けない、もうほんと、できないから!」って言いながら毎回描いてる(笑)

―アルバムタイトルは『路上 / On the Road』ですが、これはジャック・ケルアックの小説『路上』が元ネタになっていますか?

小島:そうですね。

―前作の『渚にて / On the Beach』も文学作品を元にしたタイトルなわけですが、この2つは繋がったりしています?

小島:します(笑)。前作が「オン・ザ・ビーチ」だから、次は「オン・ザ・ロード」にしようって。タイトルはそういう軽いノリでつけたいですよね。いいでしょ?(笑)

―いいですね(笑)。ジャケットのアートワークは、今作も含めて基本的にご自分で手掛けられているんですよね?

小島:もちろんデザイナーさんはいるんですけど、絵を描くのは自分でやってますね。「もう描けない、もうほんと、できないから!」って言いながら毎回描いてる(笑)。

小島麻由美『路上 / On the Road』ジャケット
小島麻由美『路上 / On the Road』ジャケット

小島麻由美8thアルバム『BLUE RONDO』(2010年)ジャケット
小島麻由美8thアルバム『BLUE RONDO』(2010年)ジャケット

―あ、そうなんですか? そこにはけっこうこだわりがあるのかと思ってました。

小島:「時間ももうないけど、ジャケットどうするの?」ってスタッフに言われて、「もう絵はイヤだよ~、描けない~!」って言いながら描いてます(笑)。

—そうなんですね。そうやって描かれた絵が作品として出来上がったときは、ご自身ではどういう気持ちなんですか?

小島:自分が描いた絵でも、好き嫌いはありますよね。でも、出したものに関しては、自分で「げっ」とは思わず、全部愛着あります。今年に出した2枚のジャケットは自分でもすごく好きです。

小島麻由美『渚にて / On the Beach』(2014年)ジャケット
小島麻由美『渚にて / On the Beach』(2014年)ジャケット

考えてると涙が出てくるけど……デビューの頃からいいスタッフばっかりだった。

―こうやって生活と音楽が密着している場所で過ごしながら、音楽とはまた違ったところでいろんな人と触れ合う一方で、ミュージシャン仲間と一緒に緻密に音楽を作られているわけですよね。小島さんの音楽仲間の方々の人間性や特徴とかの共通点って、どういうところにあると思いますか?

小島:なんだろう……今回の作品に参加してくれたミュージシャンはみんな、どこかちょっと子どもっぽくておかしくて、愛されキャラっていうか。「もう、この人たちダメだなぁ」とか思うんだけど、演奏すると「あなたたち最高ね」ってなる。まあ、人格者じゃないよね(笑)。

―ははは! うんうん。

小島:人格者だったら、音楽じゃなくて違うことをしてると思う。でも、みんないろんなことを抱えながら、音楽が好きでたまらなくてやってるんだなと思うと、グッときますよね。

―そういうところも鳴らしている音に出てる感じでしょうか。

小島:どうだろうなあ。でも、みんなやっぱり格好いいんですよ。休憩中や食事の時に喋ってたりすると「この人たち、どうなんだろう……」と思うけど、いざステージに上がって演奏すると本当に格好いい。ミュージシャンっていいねって思う(笑)。

小島麻由美

―なるほど。そういう周りの人たちを見た視点で、改めて自分自身を見るとどうでしょう? ミュージシャンとしての「小島麻由美」って。

小島:まあ、似たようなもんだよね(笑)。ダメだと思う。もうちょっとちゃんとしようと常々思ってるんですけど。

―そういう「愛されキャラ」なところって、自分の音楽にも出てる感じはありますか?

小島:どうなんでしょうね。それは聴いた人のほうがよくわかるかもしれないな。私自身は、そこまで自分のことは客観的には見られないので。

―アルバムを聴いた感触として言うと、とにかくご機嫌に作ってる感じはすごく出ていると思います。

小島:ああ、本当ですか? それはよかった! 実際ご機嫌に作りました(笑)。

―そして12月にはこのメンバーでライブも開催されますね。

小島:そうなんです。2部構成にしてて、最初はASA-CHANGにスウィングのドラムを叩いてもらって初期の曲を中心にやって、後半はハッチの8ビートのドラムで新作を中心にやる。豪華でしょ? 自分自身でも楽しみなんです。

―これがリリースパーティーでもあり、デビュー20周年の前祝いみたいな場にもなる。

小島:そういうことになります。

―子育てにも少し余裕ができてきて、しかも来年は20周年ということで、活動もより精力的にやっていこうという感じでしょうか。

小島:そうそうそう。まだちゃんと言えないんですけれど、いろんな企画を考えてますね。

―デビュー20年を目前にして、どんな感慨がありますか?

小島:本当に嬉しいですね。こんなに長く続けられると思ってなかったから。

―こんな生活ができるとは思っていなかった?

小島:うん。やっぱりお客さんがいてくれたから、ここまで作ることができたんだと思います。あと、スタッフに恵まれてました。そういうことを考えてると涙が出てくるけど……デビューの頃からいいスタッフばっかりだった。自分がやりたいことをいろんな理由があって続けられない人はたくさんいるだろうから、ラッキーだったなって思います。

information

リリース情報
小島麻由美
『路上 / On the Road』(CD)

2014年12月3日(水)発売
価格:2,800円(税込)
DDCB-12073

1. モビー・ディック
2. テキサスの黄色い花
3. 白い猫
4. 水曜日の朝
5. 素敵なロックンロール
6. あなたはミー・私はユー
7. メリーさんの羊
8. 泡になった恋
9. あなたの船
10. モダン・ラヴァーズ

イベント情報
YEBISU GARDEN PLACE 20th Anniversary presents
『L'ULTIMO BACIO Anno 14 小島麻由美 2014年最終公演』

2014年12月18日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
料金:5,800円(ドリンク別)

プロフィール
小島麻由美 (こじま まゆみ)

東京都出身。1995年デビュー。アルバム『セシルのブルース』はジャズ、ジンタ、歌謡曲などの影響と少女的感性が結びついた「古くて新しい」音楽として注目をあつめる。作品毎に意匠を変化させながら、「スウィングする日本語の唄」を軸に、数多くの冒険的、圧倒的な作品を発表。独自のコンボ・サウンドとともに立上がる唯一無二の世界が音楽リスナー達を魅了しつつづけている。NHK『みんなのうた』に提供した“ふうせん”では、自らイラスト・アニメーションも手がけた他、イラスト&散文集『KOJIMA MAYUMI'S PAPERBACK』等も発表。多方面にその才能を発揮している。近年では「キッチン泡ハイター」CM曲などでも唯一無二の歌声を響かせている。デビュー20周年となる2015年を目前に、12月3日にはフルアルバム『路上 / On the Road』をリリース。今までのスローペースを払拭する本格的再始動を果たす。2015年も精力的な活動を計画中。



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