藤原さくらの成長記録。僅か2年、上京からビルボードに立つまで

昨年春に、ミニアルバム『à la carte』でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター・藤原さくらの1stフルアルバム『good morning』がリリースされた。参加プロデューサーには、YAGI & RYOTA(SPECIAL OTHERS)、Curly Giraffe、青柳拓次(Little Creatures)、高田漣、そしてOvallよりShingo Suzuki、mabanua、関口シンゴと、錚々たる顔ぶれが並んでいる。さらには、参加ミュージシャンもH ZETT M(H ZETTRIO)、H ZETT NIRE(H ZETTRIO)、鈴木正人(Little Creatures)、栗原務(Little Creatures)、伊藤大地、松下マサナオ(Yasei Collective)、別所和洋(Yasei Collective)、類家心平など超豪華なメンツ。そんな大先輩たちとともに作り上げた本作は、ポール・マッカートニーやワールドミュージックへの愛情がたっぷりと注ぎ込まれた、粒揃いの楽曲集となっている。

それにしても、どうだろうこの堂々とした歌いっぷりは。先日行われたBillboard Live TOKYOでのライブのときにも思ったことだが、名うてのベテランミュージシャンを率いて、臆することなく楽しそうに歌う姿にはすでに貫禄すら感じさせる。天然キャラと、かわいい歌詞の世界、そして飛躍的に成長を続けるボーカル。これらのギャップ、ちぐはぐさこそが、藤原さくらのオリジナリティーとなっていくのだろう。「上京をして、心境が大きく変化した」という彼女に話を聞いた。

自分の全力を出すためには「絶対に楽しまなきゃ」という気持ちで臨んだら、もうリハーサルから本番までずーっと楽しくて。

―昨年春のデビューミニアルバム『à la carte』リリース以降、何度かライブを観させてもらっているのですが、さくらさんの素の部分がどんどん前に出てきていますよね。

藤原:もともとMCがすごく苦手で、「なにを話したらいいんだろう」っていつもガチガチになっちゃってたんです。でも、今年に入ってツイキャスを始めたり、ネットでいろんな人とコミュニケーションをとったりする中で、「ライブもこれくらいリラックスした感じでやればいいのか」と思うようになって。前よりももっともっと楽しんで、気負いせずにやれるようになってきてはいると思います。

藤原さくら
藤原さくら

―先日のビルボードでのライブも、錚々たるミュージシャンに囲まれながら、堂々と頼もしい演奏をされていましたね。

藤原:自分が二十歳になって最初の舞台がビルボードだなんて、夢見心地な気分でした。ビルボード出演者の最年少記録を更新したのも、すごく光栄なことだと思うし、自分の全力を出さなければいけないなと……そのためには「絶対に楽しまなきゃ」という気持ちで臨んだら、もうリハーサルから本番までずーっと楽しくて。終始ニヤニヤしてました。

―ビルボードライブの数日前、Twitterに「上手くなってから人前でやろうとか、時間もったいない。そんなの永遠に何もできない。過去を振り返った時に自分で『よくもまぁこんなのを人様に晒したものであるな』と我が身を呪うことはあるけど、それでもやるべき。通過点。しかもきっとその通過点を好きって言ってくれる人もいるはず」って書いていたじゃないですか。あのツイートはとても共感したし、700以上リツイートされていましたよね。

藤原:リツイート数には私もびっくりしました(笑)。ただ、あれはビルボードのことではなくて、自分の英語力についてつぶやいたものだったんです。私、英語がすごく下手だったですけど、「できるようになってから英語で歌おう」じゃなくて、下手だったときも歌っていたからこそ、英語の先生にも「上手だね」って言われるようになった今があるんですよね。たとえ100パーセントの自信がなくても、ちょっとでもできるようになったらどんどん表現していく。それってすごく大事なことだし、みんなにそのことを伝えたいなと思ってツイートしたんです。

今までは、大好きなポール・マッカートニーのライブを観ても、「すごいな」「最高だな」って思っていただけだったのが、嫉妬が湧いてきた。

―さくらさんが、そういう考えに至ったのはいつ頃から?

藤原:約2年前に上京して、一人暮らしを始めてから考え方が変わりましたね。自分一人で考える時間がすごく多くなったからだと思います。あとは、人前でたくさんライブをやるようになって、素晴らしいミュージシャンとたくさん出会うことで、自分はまだまだだなって感じたことも大きいです。例えば本を読んでても、「池上彰になりたい!」って思うんですよ……って、なに言ってるんだろう、私。

―(笑)。

藤原:「無知の知」というか、「自分はダメだな」って気づくことがまず第一歩だなと思って。音楽にしても、いろんなすごい方と共演して、「この人はなんでこんなすごいアレンジを思いつくのだろう」とか、自分の無知を認めた上で、そこに辿りつくための「なんで」「どうやって」を考えるようになりました。今までは、大好きなポール・マッカートニーのライブを観ても、「すごいな」「最高だな」って思って満足していただけだったのが、嫉妬が湧いてきたりとか。

―同じ土俵に立っているんだという自覚ですよね。

藤原:そうですね。「自分はどうしたら成長できるのか」を突き詰めると、そのためには普段の練習だったり、自分が「楽しい」と思うことを、どんどん追求していくしかなくて。「もう、これだけ練習して、ベストを尽くしてるんだから、それでダメだったら自分を許すしかない」というところまでやってみようと。自分なりのベストを瞬間瞬間で出していくことが、自分の中で自信に繋がっているのかなって思いますね。

藤原さくら

―小さい目標を立てて、一つひとつ達成していく、みたいな。

藤原:福岡にいたときは、本当に怠惰な人間だったので(笑)。お父さんとバンドをやってた頃は、「練習しろ」って言われてたんですけど、そう言われると「やりたくない」って思っちゃうんですよね。でも一人になって、誰もなにも言ってくれなくなったから、自分で自分に課さないと本当にダメ人間になると思って。

―すごい人たちとたくさん出会って、自分の無力さを知って、そこで打ちのめされちゃう人もきっといると思うんですよ。人と比べてしまうと落ち込むこともあるし。

藤原:もちろんそういうときもあるんですけど、お姉ちゃんに相談したら、「みんな岡田准一じゃ面白くないでしょ?」って言われて。

―え?(笑)

藤原:岡田准一はパーフェクトじゃないですか。でも、「岡田准一がいい」っていう人もいれば、「松田翔太がいい」っていう人もいるわけで。自分にしかできないことは絶対あるはずだし、「藤原さくらがいい」っていう人もいるかもしれないから、岡田准一を目指さなくてもいいんだなって。あ、別に岡田准一を目指してたいわけじゃないですけど(笑)。でも、一人暮らしを始めて自分が強くなったなって思いますね。

ワールドミュージックの中には、1曲でアルバム1枚分くらいの情報量があるんですよ。

―昨年春にメジャーデビューしてから、見える景色も変わりましたか?

藤原:変わりましたね。私のことを知らなかった人たちに出会う機会が、今までよりもはるかに多くなりました。ONE OK ROCKのオープニングアクトをやらせてもらったこともそうですけど、自分とは違ったジャンルのお客さんの前で歌っても、「音楽が大好きで、楽しくてやっている」という共通点だけで、ちゃんと届くんだということをすごく感じました。

藤原さくら 撮影:西槇太一
撮影:西槇太一

―この1年で、いろんなことを吸収したんでしょうね。それが本作『good morning』にもフィードバックされている気がします。

藤原:そうですね。相変わらずワールドミュージックはずっと好きで、気になったものは片っ端から聴いていったので、本作にはその影響もあると思います。

―例えば?

藤原:とにかくタンゴが好きで、タンゴに関する本を読んだり、フラメンコ教室に通ったりしているんです。タンゴって、アコーディオンとかマンドリンとかを使っているんですけど、今作に入ってる“How do I look?”にどうしてもアコーディオンを入れたかったので、プロデューサーのShingo Suzukiさんにリクエストしたんです。そうしたら、「この曲はバンドネオン(鍵盤がボタン式のアコーディオンに似たタンゴの楽器)の方がいいかもね」という話になって、バンドネオンを取り入れてもらったんですけど、すごくいい感じになってめちゃくちゃ嬉しかったです。

―さくらさんにとって、ワールドミュージックの魅力ってなんですか?

藤原:いつもなにかを「好き!」ってなったときは、なんでだろうと考えてノートに書き出したりするんですけど、きっとワールドミュージックはリズムが好きなのだと思いますね。タンゴは割とリズムがカチッと決まっているのですが、ワールドミュージックの中には、いろんな要素が混ざっているものが多くて、1曲でアルバム1枚分くらいの情報量があるんですよ。そういうところが好きなのかもしれないです。「これ、なんの音なんだろう」って思いながら聴くのが好きで、調べてみたら謎の民族楽器だったりすると、「使いたい!」って思ったりして(笑)。

―フラメンコとかタンゴって、マイナー調のものが多いじゃないですか。その辺も惹かれるのでは?

藤原:マイナー調の曲、好きですね! 私、マイナー調の曲しか作れない(笑)。

―ポール・マッカートニーでも、マイナー調の曲が好きですか? たとえば、“Michelle”や“Your Mother Should Know”とか。

藤原:はい! 大好きですね。ポールはマイナー調のいい曲、すっごく多いですよね。でも、そういう少し暗めの曲って、なかなかライブではやってくれない(笑)。ファンを喜ばせようと思うと、やっぱり明るい曲が中心になるんですかね? たまにはコアな曲もやってほしいなって思うんですけど。

―ポール以外で、今作を作っているときによく聴いていたのは?

藤原:ミンディ・グレッドヒルというシンガーソングライター。彼女のアルバム『Anchor』(2012年)は憧れるくらい、すっごく好きです。

―カリフォルニア生まれのアーティストですね。確かに、アコースティックポップの中でも、バンジョーを使ってたり、世界中のいろんなジャンルの要素が混まざっていたりして、さくらさんと通ずる部分はありそうです。

藤原:ミンディ・クレッドヒル以外も、production dessineeさん(「良いメロディ、グルーヴィーな音楽」をコンセプトに世界中から作品をセレクトしているレーベル)がリリースしている作品は、自分にとって好みのものが多いですね。

もう、「楽しさ」しかないです。「なんで自分が音楽を始めたのか?」というのも、元をたどれば「楽しいから」だから。

―今作は、前作に比べて日本語の歌詞が増えましたよね。それが最初に言った「素の部分が前に出てきている」という印象にも繋がっているとは思います。

藤原:そうですね。『à la carte』は英語が多かったんですけど、日本語でしか伝わらないこともあるだろうし、今回は日本語の曲を多めに作ろうかなとは最初から思っていました。1曲目の“Oh Boy!”は日本語と英語が混ざっていますが、曲を作っていくうちに、混ぜても違和感がないなって思えたんですよね。日本語と英語って、発音上はかけ離れているんですけど、歌い方によっては共存できるんだなって。

―それに、今作は恋愛をテーマにした曲が多いですよね。

藤原:はい。自分が言いたいことや言えなかったことを、「曲にしてしまえばいい!」と思ったんです。例えば、昔好きだった人のこととか、曲にしたらスッと楽になるようなこともあって。今回、高校生の頃に作った曲をレコーディングしてたりするんですけど、恋愛面でも、当時よりも成長していたらいいですね(笑)。

―“これから”も恋愛がテーマになっていますが、これはさくらさんが曲を作り始めてから2番目にできた曲なんですよね。それでこの余白のある書き方は、歌詞のクオリティーとしてもすごいなと。

藤原:この曲は、オーディションを受けるときに「オリジナル曲が必要だ」と言われて作った曲です。生まれて初めてのライブでやった唯一のオリジナル曲でもあるんですよ。そのくらい前の曲だから、今聴き返すとめちゃくちゃ恥ずかくて、ずっと「発表するのは嫌だ」って言ってたんですけど、ディレクターが「この曲いいよ、入れよう」って何度も言ってくださって。「そんなにいいって言うなら……」と最初は半信半疑だったんですけど、プロデューサーのCurly Giraffeさんにアレンジしてもらったら、自分でも何度も聴いてしまうくらいの名曲に生まれ変わりました。すごく嬉しかったですね。

Curly Giraffe(『morning bell』@Billboard Live TOKYO) 撮影:西槇太一
Curly Giraffe(『morning bell』@Billboard Live TOKYO) 撮影:西槇太一

―深夜に自宅で作業をしていたら近所からクレームが来て、それからは曲を朝に作ることが多くなったそうですね。アルバムタイトル『good morning』は、そのことが由来だと先日のライブでもおっしゃっていましたが、朝に作るのと夜に作るのとだと、なにか違いはありましたか?

藤原:ありましたね。作り方そのものは特に変わっていないですけど、やっぱり明るいときに作るようになってからは、ポップな曲が増えたかもしれません。夜だといろいろ考えてしまって、「ウワーッ」となることが多いからでしょうね。あと、朝の方が集中力も上がりました。曲を作り始めたら「楽しいー!」ってなっちゃって、気づいたら1日で6曲作っちゃったりとか。

―すごい!

藤原:やっぱり「作りたい!」と思ったときに作った曲の方が、後々聴いてもよかったりするんですよね。だから朝に作業をするのはいいなと思っています。作らないときは全然作らないというのは、プロとしてやる以上、ダメなのかなとも思うんですけど。ただ、今は「楽しいー!」という気分に任せていますね。

藤原さくら 撮影:西槇太一

撮影:西槇太一

―今日のインタビューでも、「楽しい」っていう言葉が何度も出てきましたね。

藤原:もう、「楽しさ」しかないです。「なんで自分が音楽を始めたのか?」というのも、元をたどれば楽しいからであって。本当に音楽が好きで、救われたりだとか、「うわあ、こんな曲作りたい」って思ったりだとか、そういうことが日々起こる中で、自分も音楽を作って、誰かにそういう気持ちになってほしいと思うからなんですよね。だから、お客さんのリアクションが見られるライブは、自分にとってご褒美です。週に1回あったらいいのに(笑)。

―今後の目標は?

藤原:いろいろありすぎて……一つひとつ挑戦していける1年にしたいですね。今年、フラメンコダンスの発表会があるので、それに向けても頑張りたいなと思ってます。

リリース情報
藤原さくら
『good morning』(CD)

2016年2月17日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-64482

1. Oh Boy!
2. 「かわいい」
3. I wanna go out
4. maybe maybe
5. How do I look?
6. 1995
7. BABY
8. good morning
9. Give me a break
10. これから
11. You and I

イベント情報
『藤原さくらワンマンツアー2016「good morning~first verse~」』

2016年6月25日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 天神 イムズホール

2016年7月1日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

プロフィール
藤原さくら
藤原さくら (ふじわら さくら)

福岡市出身。20歳。父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。2014年3月、高校卒業と上京を機に、オリジナルアルバム『full bloom』でインディーズデビュー。楽曲制作やライブ活動を本格的に開始し、CM出演での歌唱や、テレビドラマへの曲提供などで話題となる。2015年3月18日、スピードスターレコーズよりミニアルバム『à la carte』でメジャーデビュー。2016年2月には初のフルアルバム『good morning』をリリース。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 藤原さくらの成長記録。僅か2年、上京からビルボードに立つまで

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて