anderlust、小林武史、NYLON編集部に訊く、大衆を魅惑する方法

越野アンナと西塚真吾による男女ユニットanderlustが、小林武史プロデュースのシングル『帰り道』でデビューを果たす。「抑えきれない旅への衝動」を意味する「wanderlust」から「w」をとった造語をユニット名に冠した二人は、どこか1990年代を思い起こさせる雰囲気の楽曲やアートワークが印象的。しかし、その一方では「枠にとらわれない」ということを何よりも大事にし、今後は映像やアートなど、他ジャンルを専門とした新メンバーの加入も視野に入れているそうで、こうした考えは2010年代的だと言えよう。

果たして、anderlustの旅はどこへ向かうのか? メンバーと小林武史、主題歌を務める映画『あやしい彼女』の水田伸生監督、そして『NYLON JAPAN』編集部に、2016年における「ポップアイコン」「ポップミュージック」に欠かせない要素とは何かを伺いながら、その行方を追った。

2010年代的な視点で、90年代男女ユニットを再構築

雑誌『NYLON JAPAN』とソニーミュージック主催のオーディション『JAM』のミュージックパフォーマンス部門でNYLON賞を受賞したシンデレラガール・越野アンナと、これまで主にサポートやアレンジの仕事をしてきた西塚真吾による男女ユニット・anderlustが、小林武史をプロデューサーに迎えたシングル『帰り道』でデビューを果たす。表題曲の“帰り道”は多部未華子主演の映画『あやしい彼女』の主題歌に起用され、越野はこの映画で銀幕デビューも飾っている。

小林武史がプロデュースした男女ユニットと言えば、すぐに名前が浮かぶのはMy Little Loverだが、1990年代中盤には他にもglobeやEvery Little Thingなどがデビュー。CMやドラマなどのタイアップが全盛で、CDが売れまくるメガヒット時代であり、小林や小室哲哉以外にも、SPEEDを手掛けた伊秩弘将、モーニング娘。を手掛けたつんく♂らが活躍し、「プロデューサーの時代」とも呼ばれた、非常に華々しい時代であった。

あれから約20年が経過し、音楽業界の状況は様変わりした。CDの売り上げは極端に落ち込み、ファンアイテム化が進む一方、配信を巡っては一進一退が続いている。また、プロデューサーとしては中田ヤスタカを筆頭に、ヒャダインやtofubeatsなど、新たな世代が台頭してきた。そんな中、現代のポップアイコンとして、きゃりーぱみゅぱみゅや水曜日のカンパネラのコムアイといった、強力な個性を放つ女性アーティストが浮上。彼女たちは多ジャンルに及ぶクリエイターとのコラボレーションによって、その魅力をお茶の間レベルにまで届けることに成功している。そして、まさにこの2010年代的な視点を持って、男女ユニットという形態を再構築しようとするのが、anderlustであるように思う。

anderlust

「『生きるってことは捨てたもんじゃないよ』っていうことを伝えられるアーティストになりたい」(越野)

1996年生まれ、現在大学1年生の越野アンナは、6歳までLAで過ごしている。小さい頃からピアノを習い、「耳にする曲のメロディーやコードを勝手に変えて遊んでいた」そうで、「音楽は自分にとってなくてはならないもの、血みたいなものだと思ってる」とまで語る。帰国後は自作曲を中心にソロで地道なライブ活動を行っていたが、前述の『JAM』をきっかけに、英語力を買われてスペースシャワーTVの洋楽番組でVJを務めるなどしていた。アメリカ育ちならではの越野のキャラクターを、『NYLON JAPAN』編集長の戸川貴詞、『あやしい彼女』監督の水田伸生、および西塚はこう語る。

戸川:(オーディション時の)ステージ上での彼女はひと際明るく、パワフルでした。そのときギターの弾き語りを披露してくれたんですが、演奏自体はまだ荒削りだったものの、まっすぐに心に届く歌声が印象的で、スキル云々を超越した、他の人たちとは明らかに違う存在感を放っていました。

水田:旺盛な好奇心と人を惹きつける笑顔を持っています。映画がクランクインして間もない頃、出番でもない撮影に見学に現れ、その日の最終カットまで一度も椅子に座ることなく瞳をキラキラさせながら撮影を見ていて、その謙虚な姿勢と強靭な集中力に脱帽しました。

水田伸生監督
水田伸生監督

西塚:僕は人見知りなので、様子をうかがって入っちゃうタイプなんですけど、彼女は初対面のときからハイテンションで、スキンシップがアメリカンなので、正直最初は引いたというか、身構えましたね(笑)。でも、まず歌声がすごくいいなって思ったし、溢れ出るパワーと、表現する意志の強さに惹かれました。

そんな彼女の音楽に対する真摯な姿勢は、自身の過去の体験から来るものである。

越野:クサい台詞になっちゃうんですけど、私は「生きるってことは捨てたもんじゃないよ」とか「辛いことがあっても乗り越えられるよ」っていうことを伝えられるアーティストになりたいと思っています。日本に来てから中学校まではインターナショナルスクールに通っていたので、ほとんど英語の環境だったんですけど、日本で仕事をするために日本語をちゃんと勉強したくて、日本の高校に行こうと思ったんです。でも、中学3年生のときに国語の成績がひどくて(笑)、ホントに苦労しちゃって。そのときに支えてくれたのが音楽だったから、私にとっては「神様、仏様、音楽様」って感じなんですよね。その恩返しをしたいなって思ってます。

anderlustが作り上げる「エッジ」と「大衆性」のバランス

1990年生まれの西塚真吾は幼少期から兄の影響でピアノを習い、中学からベースを始めると、高校生のときにYUIの大ファンになり、そこから音楽プロデューサーを志した。音楽学校を卒業後、ライブのサポート、レコーディング、アレンジなど、裏方の仕事を行っていたが、サポートメンバーとして越野のライブに参加したことをきっかけに、「サポートだけでは見えない世界も勉強したいと思った」と、ユニット結成の経緯を語る。

西塚:anderlustはジャンルにとらわれないで、そのときどきで感じていることを表現できるユニットだと思います。僕は結構王道寄りというか、ポップで丸いものが好きなんですけど、その一方ではトゲのあるものもかっこいいと思うので、どっちもやりたいんですよね。ただ、どんなときでも音楽の質は絶対に下げたくないというか、逆に、そこで一本筋を通せば、どんなことをやっても大丈夫だと思うんです。あと個人的に思うのは、今って打ち込みでいろんな音楽が作れる時代ですけど、僕は人間味のある音が魅力的だと思うので、そこは大事にしていきたいと思っています。

昨年まではロングヘアで紫のブリーチを入れ(デビューに向けて、気合いを入れるためにバッサリ30cm切ったとのこと)、また「昔からBLURが大好きで、だから私が作る曲はジャンルがバラバラなのかも」と語る越野は、個性的かつエッジの効いた感性の持ち主。そんな彼女が生み出した原曲を、西塚が確かな技術と知識によって、マスへと向けた楽曲へと変換していく。anderlustはそんなバランスに優れたユニットだとも言えそうだ。

越野アンナ、西塚真吾
越野アンナ、西塚真吾

小林武史が考える、「引っかかる要素」とは?

プロデューサーを務める小林武史に「今の時代、多くの人に聴かれる音楽であるために必要不可欠なのはどんな要素だとお考えですか?」という質問を投げると、こんな答えが返ってきた。

小林:メロディーの琴線、物語のフック、その時々に感じる新しさなど、引っかかる要素が必要だというのは、いつの時代でも同じだと思います。

小林武史"
小林武史

anderlustのデビュー曲“帰り道”は、まさにこの「引っかかる要素」が隅々にまで散りばめられた一曲だと言えるだろう。80年代歌謡曲の色合いを残した、90年代J-POP風のメロディーは、聴く世代によって新鮮さと懐かしさを与え、転調を含んだサビの歌い回しも耳に残る。また、そもそも男女ユニットという形態自体は古今東西数あれど、「女性ギターボーカルと男性ベーシスト」という組み合わせは珍しく、越野の裏拍のカッティングも引っかかりになっている。そして、<あの雲がまた抜けていったら 帰り道が見える かな>という最初のサビが、ラストでは<あの雲がまた抜けていったら 帰り道が見える きっと>と、疑念から希望に変化する歌詞の物語性は、「生きるってことは捨てたもんじゃないよ」という越野の想いとリンクしている。

この楽曲が完成するまでの経緯を、越野、西塚、小林は、それぞれの立場で次のように振り返る。

越野:“帰り道”は映画の世界観を表現するために、完成までに何度も形が変わった曲です。それまでは洋楽っぽい曲ばっかり作ってたんですけど、「ちょっと違う感じを作ってみよう」という中で、Charaさんとか、90年代の音楽をたくさん聴いて書きました。だから、これがデビュー曲に決まったのは、正直びっくりしましたね。デビュー曲で「帰り道」っていうのも、ちょっと笑えるなって(笑)。

小林:昭和の名曲が出てくる映画の主題歌なので、メロディーや歌いまわしは和のテイストを意識しましたが、バンドサウンドとして大げさにならないで、フットワークのいいようなサウンドや雰囲気作りを目指しました。

西塚:僕がanderlustとして初めてレコーディングしたのが“帰り道”で、子供の頃から聴いてる音楽を作ってきた小林さんがいらっしゃって、緊張でガチガチのレコーディングでした(笑)。今の音楽はいろんな楽器を重ねて作りますけど、そういうのに比べると音数が少ないのが印象的で、フレーズや音色にはこだわってレコーディングしました。

『帰り道』には表題曲の他に、越野が『JAM』の最終審査のときに弾き語りで歌った“風船 ep.1”と、最近できた曲だという“A.I.”を収録。バンドアレンジも含め、王道のJ-POP感がある“風船 ep.1”と、洋楽寄りのせつない雰囲気を纏った“A.I.”は、ジャンルにとらわれないというanderlustの多様性の一部を感じさせるもの。オーディションから現在までをギュッと濃密に凝縮した本作は、まさに旅の始まりの1枚だと言えよう。

『NYLON JAPAN』のエディターに訊く、現代のポップアイコンに必要な2つの要素

ビビッドな色合いと1970年代風の衣装がファッショナブルな印象を与えるクリエイティブディレクションは、『NYLON JAPAN』の宇都宮定典が手掛けている。

宇都宮:楽曲を聴かせてもらったとき、普遍的なポップソングだと感じたと同時に、僕自身は90年代に回帰する感覚に陥りました。それ自体は僕の青春時代とリンクしてしまっただけなんですけど、せっかくなのでその感覚を重視して90年代の短冊型シングル(8cmシングル)をイメージしたアートワークにしています。それが結果的に、今の時代からするとエッジーになる上に、大衆性=ポップ感の再構築にも繋がるのではと思いました。

anderlust『帰り道』ジャケット"
anderlust『帰り道』ジャケット

越野にとっては新鮮であり、兄がいた西塚にとっては「無意識的に懐かしさを感じた」というアートワークは、楽曲そのものと同様に、男女ユニットが花盛りだった90年代の感覚をアップデートしたもの。また、宇都宮は現代のポップアイコン像についてこう話す。

宇都宮:ライトな音楽リスナーは、楽曲を聴くに至るまでの初期段階として、まず確実にアートワークやMVから入ります。雑誌ひとつを取っても文章力や編集力、情報量で伝えたくても、シンプルに「可愛いもの」や「かっこいいもの」に敵いません。Instagramもまさにそうなんですよね、とにかく可愛くないとテキストまで見ないですから。そういう意味で言うと、現代のポップアイコンに「存在感」と「キャラクター性」は不可欠です。立ち姿そのもので魅了させる力。そこをまず突破しないと、音を聴くにまで至ってくれません。越野さんはそういった意味で、非常に魅力的な存在だと思っています。今回のシューティングをした時も、初めての撮影とは思えないくらいの勘のよさを発揮して、制作チーム一同感心しました。普段モデルを撮っていても、そこまで思うことってなかなかないですから。

「音楽」を「音楽」だけで伝えない、2010年代的クリエイション

現在anderlustは枠にとらわれない新しい音楽表現を追求し、ショートムービーのコンペティションを開催中。このコンペティションは「映像やアートなどの才能を持つ、3人目のメンバー募集」でもあるといい、宇都宮の言う「ビジュアルの時代」という感覚を反映したものだとも言えるだろう。「私たちの音楽がコアになって、台風みたいに周りを巻き込んで行きたい」と越野が語るように、anderlustの可能性はどこまでも広がっている。

西塚:「こうじゃなきゃいけない」っていうのは持ってなくて、いろんな変化があっていいと思ってます。自分が貫きたいものはしっかり持って、その上でいろんな人たちとどう融合していけるのかがすごく楽しみですね。

越野:私はanderlustのことを結構客観視してる部分があって、子供の成長を見てるような感覚なんです。今後どういうものを得て、どんな風に育っていくのか。この楽しみをみなさんと共有できたらいいなって思っています。

リリース情報
anderlust
『帰り道』初回限定盤(CD+DVD)

2016年3月30日(水)発売
価格:1,620円(税込)
SRCL-9013/4

[CD]
1. 帰り道
2. 風船 ep.1
3. A.I.
[DVD]
1. “帰り道”MUSIC VIDEO
2. “帰り道”MUSIC VIDEOメイキング映像

anderlust
『帰り道』初回限定盤(CD+DVD)

2016年3月30日(水)発売
価格:1,300円(税込)
SRCL-9015

1. 帰り道
2. 風船 ep.1
3. A.I.
4. 帰り道 ~Instrumental~

イベント情報
『anderlust デビューシングル発売記念フリーライブ』

2016年4月3日(日)
会場:静岡県 サンストリート浜北
[1]START 13:00
[2]START 16:00

2016年4月4日(月)
会場:東京都 モリタウン 東館1F 光の広場
[1]START 17:00
[2]START 19:00

2016年4月5日(火)
会場:東京都 ららぽーとTOKYO-BAY
[1]START 17:00
[2]START 19:00

2016年4月6日(水)START 18:30~
会場:神奈川県 ラゾーナ川崎プラザ 2F ルーファ広場

2016年4月7日(木)
会場:埼玉県 ららぽーと富士見 1F 屋外広場
[1]START 17:00
[2]START 19:00

2016年4月8日(金)
会場:東京都 ららぽーと豊洲 シーサイドデッキ メインステージ
[1]START 17:00
[2]START 19:00

2016年4月16日(土)
会場:埼玉県 イオンレイクタウン mori
[1]START 13:00
[2]START 15:00

作品情報
『あやしい彼女』

2016年4月1日(金)から全国公開
監督:水田伸生
脚本:吉澤智子
音楽:三宅一徳
劇中歌プロデュース:小林武史
出演:
多部未華子
倍賞美津子
要潤
北村匠海
志賀廣太郎
小林聡美
配給:松竹

プロフィール
anderlust
anderlust (あんだーらすと)

新時代のアーティストの発掘を目指して、女性ファッション雑誌NYLON JAPANとソニーミュージックによって2014年に開催されたオーディション『JAM』のミュージック・パフォーマンス部門で、日本人離れしたメロディーセンスと卓越した歌唱力が評価されNYLON賞を受賞した越野アンナ。その後、枠にとらわれない新しい形の音楽表現を模索しながら活動をつづけていた彼女が、ライブを通じて知り合ったミュージシャン西塚真吾と共に立ち上げたユニットが「anderlust」(アンダーラスト)。旅立ちへの第一歩を踏み出そうとするなか、小林武史とともに制作した楽曲“帰り道”が、映画監督・水田伸生氏の耳にとまり、2016年4月1日公開の映画『あやしい彼女』の主題歌&出演(越野のみ)という大抜擢を受け、2016年3月30日ソニー・ミュージックレコーズよりメジャーデビューが決定。



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