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アピチャッポンはなぜ世界から絶賛される? その特殊な才能を探る

アピチャッポンはなぜ世界から絶賛される? その特殊な才能を探る

『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』
インタビュー・テキスト
小林英治
撮影:豊島望 通訳:谷本浩之 編集:野村由芽

この展覧会自体がひとつの大きなゴーストという装置と見なすことができるかもしれません。

―あなたの作品で重要なモチーフのひとつに光と影があります。今回展示されている最初期の作品『Windows』(1999年)も、薄暗い空間の中で明滅する光を映し出した映像作品です。

アピチャッポン:それまでは16ミリフィルムなどで実験映画を撮っていたのですが、『Windows』は初めてHi8(ハイエイト)のビデオで撮った作品です。窓から差し込む光がテレビ画面に反射していて、それをビデオで撮ることによってフリッカー現象(蛍光灯やブラウン管を用いたディスプレイに生じる細かい明滅、ちらつき)を起こし点滅しているんですね。そのエレクトリックな質感と光の見え方がフィルムにはない刺激的なもので、新しい発見となりましたし、とても重要な作品になりました。

『窓』1999年 シングルチャンネル・ヴィデオ SDデジタル、カラー、サイレント 11分56秒 東京都写真美術館蔵
『窓』1999年 シングルチャンネル・ヴィデオ SDデジタル、カラー、サイレント 11分56秒 東京都写真美術館蔵

―フリッカー現象は、メディアを媒介にして現れる像としてのゴーストという意味合いもあり、展覧会テーマとも繋がってきますね。

アピチャッポン:はい。これは両親が経営する病院の中で撮影したのですが、自分にとってゴーストというのは、ポリティカルなメタファーとして使っている部分もありますが、他にも自分の子供時代に暮らした環境や記憶、過去という得体の知れないものに対してなど、いくつかのメタファーを意識しています。

そういう意味では、この展覧会自体がひとつの大きなゴーストという装置と見なすことができるかもしれません。ここで観客が体験するものは、実際に触ることができない視覚的なもので、すべてを持ち帰ることができません。

アピチャッポン・ウィーラセタクン『灰』2012年 シングルチャンネル・ヴィデオ 東京都写真美術館蔵
アピチャッポン・ウィーラセタクン『灰』2012年 シングルチャンネル・ヴィデオ 東京都写真美術館蔵

アピチャッポン・ウィーラセタクン『灰』2012年 シングルチャンネル・ヴィデオ 東京都写真美術館蔵
アピチャッポン・ウィーラセタクン『灰』2012年 シングルチャンネル・ヴィデオ 東京都写真美術館蔵

―その得体の知れないものというのは、恐怖でもあるし、一方で惹かれてしまうという相反する対象でしょうか?

アピチャッポン:そうですね。たしかに怖い部分と好奇心と両方あるのですが、もしかしたら自分にとって作品というのは、子供のときにおもちゃで遊んだり、新しい道具を使ってみたり、光を発見したりといった、純粋な喜びや楽しみから作っているところがあるのかもしれません。

―幼少期の体験ということでいえば、あなたの実家が診療所であったということは、やはり影響を与えていると思いますか?

アピチャッポン:もちろん生まれ育った場所という意味で影響はあります。ただ、それは病気や疾患といったことの哲学的な意味での影響ではなくて、病院という居場所で子供時代を過ごしたときの生活のリズムや、その空間の光や音や匂い、そういうものの影響だと思います。

「完璧な映画」というのは何だろう? と思ったんです。

―『カンヌ国際映画祭』でパルムドールを受賞した『ブンミおじさんの森』(2010年)にも発展した「プリミティブ」というプロジェクトなど、近年は、地元の若者や映画出演者たちとの協働作業を積極的に行なっていますが、それは通常の映画制作と比較すると珍しい作り方ですよね。

アピチャッポン:アートとして映像を作るときと、映画を作るときは少しアプローチが異なるのですが、映画の場合はある程度物語を自分の中で考えていて、その物語にある程度マッチする人を探します。そして、見つけたら、今度はその人たちからいろんなものをいただきながら内容を膨らませていきます。

例えば、私が長く一緒に仕事をしているジェンジラー(・ポンパット・ワイドナー)。彼女の体験や記憶、連れて行ってもらった場所などから物語が変容していくことが多々ありました。

アピチャッポン・ウィーラセタクン

―プロの俳優ではない一般の人と作ることが重要なことなんですね。

アピチャッポン:もちろんそうです。

―それはなぜでしょう?

アピチャッポン:プロの俳優はある意味で入れ物(容器)であり、そこに台本なりキャラクターをつめ込んで演じます。でも、私の場合はまったく違うアプローチなので、リアルに生きている人たちの中にすでに入っている本当の物語を一緒に共有して使わせてもらうというのが、とても重要な意味を持ちます。

―その協働によって、監督も彼女たちの人生に何か影響を与えているわけですよね。

アピチャッポン:まさにその通りです。出演者たちも刺激やインスピレーションを受け、制作プロセスを通して記憶や体験の探求ができるし、そこで出てきたものが、また私の映画にとって違う意味を生み出していくわけです。

アピチャッポン・ウィーラセタクン『ゴースト・ティーン』2013年 インクジェット・プリント
アピチャッポン・ウィーラセタクン『ゴースト・ティーン』2013年 インクジェット・プリント

―その制作スタイルは徐々にでき上がっていったものなのでしょうか?

アピチャッポン:映画を作り始めた最初の頃は、自分ですべてをコントロールしようとして、スクリプトからキャスティングから、完璧に撮ろうとしていました。でもある時期から、そこの「プロセス」に含まれる重要性に気づいて、当初のプランを遂行することよりも、そこまでの過程における体験がとても重要に思えるようになったんです。もちろん映画というのは、できあがったらひとつのプロダクトになってしまうわけですけど。

―予定通りに作ると何かこぼれ落ちてしまうものがあったということですか?

アピチャッポン:というよりも、例えば人間は病気になって初めて「病気になりました」と認識しますけど、まったく病気にならないのは異常なことで、人間は本来病気になるものだと思うんです。そういう視点から映画を見たときに、「完璧な映画」というのは何だろう? と思ったんですね。

実際、問題が起きたときにこそ、想像してなかったミラクルやエネルギーが現場に生まれます。だから今は、映画を作るときは問題を楽しむというか、その問題からどんな展開が生まれるのかをすごく重要視しています。

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イベント情報

『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』

2016年12月13日(火)~2017年1月29日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 地下1階展示室
時間:19:00~
※ただし、2017年1月2日、1月3日は13:00からの上映となります。
※木・金曜は夜間開館日のため展覧会は20:00までご覧いただけます。
休館日:月曜(祝日の場合は翌日、1月3日は開館)、12月29日~1月1日
料金:600円 学生500円 中高生・65歳以上400円
※小学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜は65歳以上無料

『アピチャッポン本人が選ぶ短編集』

2016年12月13日(火)~2017年1月5日(木)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階ホール
時間:各日19:00~(2017年1月2日、1月3日は13:00からの上映)
※木・金曜は展覧会が20:00まで開催されているため、展覧会を鑑賞後、スムーズに上映イベントを鑑賞可能
休館日:月曜(祝日の場合は翌日、1月3日は開館)、12月29日~1月1日
料金:当日(1プログラムにつき)一般1,500円 学生1,200円 中高生1,000円 65歳以上1,000円 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1,000円
リピーター割1,000円(本プログラム当日券または『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』展のチケット提示)

プロフィール

アピチャッポン・ウィーラセタクン

映画作家・美術作家。1970年、バンコク生まれ。タイ東北部のコーンケンで育つ。1999年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で短編映画『第三世界』が上映され、国際的な注目を集める。2000年に完成させた初長編『真昼の不思議な物体』以来、すべての映画が高く評価されている。2015年には新作『光りの墓』がカンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、大きな称賛を得た。美術作家としても世界的に活躍しており、2016年は『さいたまトリエンナーレ2016』に参加、横浜美術館『BODY/PLAY/POLITICS』展に出品、2016年12月から東京都写真美術館にて個展『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』を開催。

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