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アピチャッポンはなぜ世界から絶賛される? その特殊な才能を探る

アピチャッポンはなぜ世界から絶賛される? その特殊な才能を探る

『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』
インタビュー・テキスト
小林英治
撮影:豊島望 通訳:谷本浩之 編集:野村由芽

私にとって夢というのは、究極の映画です。

―ところで、今朝は何か夢をご覧になりましたか?

アピチャッポン:うーん、今日は見てないですね(笑)。最近見た面白いものだと、どこかで洪水が起きた後だったみたいで、自分の下半身が水に沈んでいる状態で街をさまよっているという夢を見ました。

―夢日記をつけているそうですが、夢は書くともっと見るようになると聞いたことがあります。

アピチャッポン:ああ、そうなるといいですね。私は目覚めてすぐに書きとめるようにしているんですけど、朝起きてシャワーを浴びたりしているうちに、どんどん抜け落ちていって忘れてしまいます。夢を記述するというのは、何か逃げてくものを掴んでいくような、不思議な感覚ですよね。

―それこそゴーストみたいな。

アピチャッポン:そうそう(笑)。

『ゴースト・ティーン』の前に立つアピチャッポン
『ゴースト・ティーン』の前に立つアピチャッポン

―あなたにとって夢というのはどんな存在ですか? 日本では、「他人の夢の話はつまらない」などと重要視されない場面も多いので、おうかがいできたらと。

アピチャッポン:私にとって夢というのは、究極の映画ですね。生理学的には人間の脳は何か情報を整理しなくてはいけなくて、そのプロセスの中で夢を見ているんですけど、常に夢は受動的なものです。そういう意味では、映画館の椅子に座って見ながら受けとめる映画も夢と似ていると思うんです。

アピチャッポン・ウィーラセタクン『ナブア森の犬と宇宙船、2008年』 2013年 発色現像方式印画  東京都写真美術館蔵
アピチャッポン・ウィーラセタクン『ナブア森の犬と宇宙船、2008年』 2013年 発色現像方式印画 東京都写真美術館蔵

―夢の本質はストーリーにあるのではなくて、さっきおっしゃったような、モヤモヤした中で掴み損ねる感じにあると思うんです。アピチャッポンさんの作品には、その夢の質感が上手く表現されていると思います。

アピチャッポン:ただ、夢と映画の大きな違いは、映画はどうしても切り取られたフレームの中でしか見られないということです。実際の夢は360度開かれていますよね。だから、もしかしたら今後VRのような技術がもたらすものというのは、今まで夢に追いつけなかった映画が、だんだん夢に近づいていくことにあるのかもしれない。

時間や場所を超えて、自分自身の意識が別のところにトラベルしたとき、それは自己なのか魂なのか。

―というと、将来的にはVR的な作品も作ってみたいですか?

アピチャッポン:自分の作品でも使いたいと思っているんですけど、まだ今の段階では技術的には未発展なので、しばらくは様子を見ています。もしかしたら、私の究極的なアート作品は、視覚ではなく脳に直接刺激を与えてイメージを投影させるものかもしれません。『メコンホテル』(2012年)という映像作品では実際そういうシーンが出てくるんですけど、おそらく実現するのも時間の問題だと思いますね。

アピチャッポン・ウィーラセタクン

―そういった脳科学の分野にも興味があるんですね(展示室入口に展示されたアーカイブコーナーには参考書籍として神経学者であるオリヴァー・サックスの『色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記』がある)。

アピチャッポン:はい。それから、ネイティヴアメリカンたちが儀式のときに使うサボテンのペヨーテ(幻覚剤)が、時間や空間を行き来する道具としてとらえられていたというのも興味があります。そういった外から摂取した化学物質が脳にもたらす作用についても関心を持っています。

―では、1960~70年代のカウンターカルチャーやサイケデリックのムーブメントにも興味ありますか?

アピチャッポン:そうですね。ただ、その時代は調べる取っ掛かりにはなるかもしれませんけど、私自身がアプローチするものは、もっと時代を遡った別のところにあると思います。おそらく私が興味を持っているのは、スピリット(魂)と呼ばれているものかもしれません。時間や場所を超えて、自分自身の意識が別のところにトラベルしたとき、それは自己なのか魂なのか? ということに関心がある。

―輪廻転生はあなたの映画でもたびたび描かれていますね。日本の観客が、既存のコードにとらわれないあなたの映画に驚きを覚えつつも、どこか懐かしく感じられるのは、深いところで民話や伝説が息づく世界に類似性を見出すからかもしれません。

アピチャッポン:私が日本の漫画を読んでも共通性を感じますよ。『蟲師』とか素晴らしいですね。それから、日本の言い伝えにある、夢を食べる動物・獏の話もとても好きです。

アピチャッポン・ウィーラセタクン

―SNSなどに象徴されるように「今」というリアルタイムが重視される時代には、あなたの作品のようにどこかに時間が移動したり、過去や記憶を思い返したりということが逆に見直されてきたと言えるのかもしれません。

アピチャッポン:面白いコメントですね。ただ、相反するかもしれないですけど、私自身は「今」ということが重視される瞑想をすごく大切にしているんです。でも、結果的に完成したものを通して、常に過去の時間や記憶、あるいは未来にアプローチすることを大切にしている。自分自身がその矛盾を抱えながら、過去や未来を行ったり来たりしているのかもしれませんね。

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イベント情報

『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』

2016年12月13日(火)~2017年1月29日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 地下1階展示室
時間:19:00~
※ただし、2017年1月2日、1月3日は13:00からの上映となります。
※木・金曜は夜間開館日のため展覧会は20:00までご覧いただけます。
休館日:月曜(祝日の場合は翌日、1月3日は開館)、12月29日~1月1日
料金:600円 学生500円 中高生・65歳以上400円
※小学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜は65歳以上無料

『アピチャッポン本人が選ぶ短編集』

2016年12月13日(火)~2017年1月5日(木)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階ホール
時間:各日19:00~(2017年1月2日、1月3日は13:00からの上映)
※木・金曜は展覧会が20:00まで開催されているため、展覧会を鑑賞後、スムーズに上映イベントを鑑賞可能
休館日:月曜(祝日の場合は翌日、1月3日は開館)、12月29日~1月1日
料金:当日(1プログラムにつき)一般1,500円 学生1,200円 中高生1,000円 65歳以上1,000円 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1,000円
リピーター割1,000円(本プログラム当日券または『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』展のチケット提示)

プロフィール

アピチャッポン・ウィーラセタクン

映画作家・美術作家。1970年、バンコク生まれ。タイ東北部のコーンケンで育つ。1999年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で短編映画『第三世界』が上映され、国際的な注目を集める。2000年に完成させた初長編『真昼の不思議な物体』以来、すべての映画が高く評価されている。2015年には新作『光りの墓』がカンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、大きな称賛を得た。美術作家としても世界的に活躍しており、2016年は『さいたまトリエンナーレ2016』に参加、横浜美術館『BODY/PLAY/POLITICS』展に出品、2016年12月から東京都写真美術館にて個展『アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち』を開催。

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