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evening cinemaインタビュー 日本のポップス史を継ぐ新たな才能

evening cinemaインタビュー 日本のポップス史を継ぐ新たな才能

evening cinema『A TRUE ROMANCE』
インタビュー・テキスト
矢島由佳子
撮影:西槇太一
2017/05/17
  • 233

evening cinemaの原田夏樹。今のうちにこの名前を覚えておいて、きっと損はない。約2年前から、Suchmos、Yogee New Waves、never young beach、Awesome City Club、LUCKY TAPESなど、25歳前後の人たちを中心にインディーシーンが盛り上がり、「シティポップ」なんていうキーワードが広まったりもしたが、それらのバンドは今、それぞれが活躍のフィールドを広げ、「シティポップ」という括りもほぼ聞かなくなかった状況にある。evening cinemaは、その次の世代の新たなシーンを牽引する存在になるはずだ。

原田の特徴は、「哲学」を大学院で専攻していることにある。大瀧詠一、岡村靖幸、SMAP、さらにはYogee New Wavesなどの「サンプリング」の仕方も、哲学の研究とつながっているという。哲学を勉強しているからこそ分かる人間の心情を揺さぶる歌詞の書き方も、ずるい。ソングライターとして大きな可能性を秘めている青年は、哲学の知識も、音楽への考え方も、そして「愛」に対する深いエモーションも、すべて誠実に語ってくれた。

芸術、音楽、文学、すべてつながっているんじゃないかなと思って、思想や哲学にのめり込んでいきました。

―今、おいくつですか?

原田:23歳で、今年から大学院生です。

―大学院でなにを勉強してるんですか?

原田:哲学です。専門でやってるのは、知覚で。知覚にもいろいろあって、視覚領域とかは結構研究が進んでいるんですけど、聴覚の問題が、海外ではそこそこホットなのに、日本ではあまり研究されてないんですよ。僕としては、やっぱり音楽が好きだから、「耳で感じることの重要性」みたいなことを研究したくて。

原田夏樹
原田夏樹

―大学でも哲学を専攻してた?

原田:そうですね。でも大学のときは、わりと広く勉強してました。認識一般の問題もやったし、なぜ全然違う心を持った他人と同じ言葉を喋ってコミュニケーションできるのか、とか。

―めっちゃ気になるんですけど、深く聞いていくとそれだけで取材時間が終わってしまいそうなので……(笑)。そもそも、なぜ哲学を専攻しようと思ったんですか?

原田:あ、それは必然だったんです。僕、大瀧詠一さんが大好きなんですけど、彼が主張している「分母分子論」っていうのがあって。

―大瀧さんが論じたポップス論ですね(明治以来、日本の音楽はすべて洋楽=「世界史」からの輸入であり、その後は「世界史」を分母に邦楽=「日本史」が生まれるようになって、さらにその「日本史」を分母にした新たな邦楽=「日本史」が生まれている、という論考。1983年、雑誌『FM fan』に掲載)。

原田:そう。一方で、柄谷行人という思想家・文芸批評家が、文学についてのインタビューで、「日本の近代小説に完全なオリジナルはなくて、西洋からの輸入のうえに対して、日本人の感性が乗っかって成立している」みたいなことを言っていて。「音楽でいうと、大瀧詠一が言っていることだよね」って言ってたんですよ。

そこで「あれ?」と思って。それから、考え方とか構造的、形式的な部分というのは、芸術、音楽、文学、すべてつながっているんじゃないかなと思って、思想や哲学にのめり込んでいきました。

原田夏樹

原田夏樹

今、ceroとかSuchmosは、わりと世界史を取り入れているけど、僕がやりたいのはそういうことではなくて。

―evening cinemaがスタートしたのは2015年ですよね?

原田:そうですね。2年前の8月とか。

―それまでバンドはやってたんですか?

原田:いや、これが初めてのバンドなんです。それまで曲は少し作ったりしてたんですけど、“jetcoaster”という曲ができたときに、「この方向性だったらバンドをやりたいかも」「一人で作ってるだけじゃなくて、外に向けて発信したいかも」と思って、バンドを結成したのがスタートでした。

―その「方向性」っていうの、具体的に言語化できますか?

原田:僕、松田聖子さんとかSMAPも、すっごく好きなんですよ。それまでは、ナンバーガールみたいな、ギターがかっこいい曲を作ってたんです。でもやっぱり、自分が一番大切にしたいのはメロディー、歌だなと思って。

“jetcoaster”ができたときに、うまく言葉にはできないんですけど、自分で「きたな」って思ったんです。これだったら、とりあえずネットにアップすれば、どこかしら声かけてくれるんじゃないかなって。そしたら本当に、今のレーベルが声をかけてくれました。

原田夏樹

―大瀧さんが大好きだというのも、メロディーや歌の部分が大きいですか?

原田:そうですね。自分の根っこには、THE BEATLESがあると思っていて。こういう言い方あれだけど……作曲をする点では、THE BEATLESの曲を10曲20曲コピーすれば、多分、ある程度誰でも曲を書けるようになると思うんですよ。ある程度のパターンとかが詰まっているから。

「分母分子論」でいうと、僕が尊敬している1970~80年代ミュージシャンの人たちって、世界史を分母にして日本史を乗っけてたんですよね。で、日本のニューミュージック全盛を迎えて以降、その日本史を分母にした日本史に転倒したって、大瀧さん本人も言っていて。

今、ceroとかSuchmosは、わりと世界史をガンガン取り入れているほうだと思うんですけど、僕がやりたいのはそういうことではなくて。「日本史分の日本史」(洋楽から影響を受けた邦楽をベースにした邦楽)を作りたいと思ってます。日本人の感性、心を大事にしたいんです。

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リリース情報

evening cinema『A TRUE ROMANCE』
evening cinema
『A TRUE ROMANCE』(CD)

2017年5月17日(水)発売
価格:1,728円(税込)
LUCK-2001

1. true romance
2. わがまま
3. night flight
4. her song
5. lonely night
6. 傷痕
7. jetcoaster(unplugged ver.)(ボーナストラック)

イベント情報

CINRA×Eggs presents
『exPoP!!!!! volume97』

2017年5月25日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
evening cinema
ORESAMA
PELICAN FANCLUB
ササノマリイ
indischord(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール

evening cinema
evening cinema(いぶにんぐ しねま)

フェイヴァリットアーティストに大瀧詠一、岡村靖幸、Steely Danを挙げるボーカル兼コンポーザー原田夏樹を中心に2015年結成。80年代ニューミュージックに影響を受けたメロディーセンスと現代の20代男子の瑞々しい感性で90年代初頭のポップスをアップデート。無名の新人ながら蔦谷好位置氏も感嘆したその作家能力に注目が集まり、2016年7月1stミニアルバム『Amost Blue』でデビュー。

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