素晴らしい世界には「あなた」が必要だ。fhánaが掲げる理想主義

人々の「生」の営みを祝福するハイブリッドバンド、fhána

fhánaの2ndアルバム『What a Wonderful World Line』リリースツアー追加公演がZepp DiverCity Tokyoにて行われた。まず、開演時間を確認しようと思って会場のスケジュールを見て、「あっ」と思った。6月には「小沢健二」と「銀杏BOYZ」の名前が並んでラインナップされている。これが2016年か。バブルの面影を引きずりながらも暗雲が立ち込める1990年代において、『LIFE』(1994年)という巨大な物語に大衆を巻き込んだポップスター(小沢健二)、虚無に支配された2000年代に、血みどろになりながら「個」を叫ぶことで時代を切り裂こうとしたパンクのカリスマ(銀杏BOYZ)、そして10年代も折り返し地点を過ぎた今、再び「個」と「個」をつなぐことで物語の再編を試みる、インターネットを出発点とし、アニソンの文脈も持つハイブリッドバンド(fhána)。この三者が並ぶのが2016年なのだ。時代は動いている――そう感じざるをえない。

実際に、この日のfhánaの演奏には時代を、そして文化を前進させようとする意志があった。サポートメンバーの2人を加えた6人の演奏者を中心に、1曲1曲を丁寧に奏で、目の前にいるオーディエンスに届けていく、そんな「人」と「ポップミュージック」の普遍的な関係性を実直に作り上げた全26曲、約3時間。決して大仰な仕掛けや演出が用意されていたわけではないが、1曲1曲に物語を込め、そして聴き手一人ひとりの命にも物語を見出し、それらを「線」でつないでいこうとする彼らの試み――直訳すれば「なんて素晴らしい世界線」という肯定的なアルバムタイトルが象徴する、時代の閉塞感のなかで、それでも私たちが出会い、話し合い、別れ、また出会うという営みを祝福しようとする強固な理想主義がそこにはあった。

『fhána What a Wonderful World Line Tour 2016』 撮影:HAJIME
『fhána What a Wonderful World Line Tour 2016』 撮影:HAJIME

「細分化された物語」から音楽を抽出し、新しく「大きな物語」を紡ぐという試み

この理想主義を紐解くには、彼らがメジャーデビュー以降関わり続けている「アニソン」がひとつのキーワードになる。現状、fhánaのリリースした全てのシングル表題曲にはアニメのタイアップが付いている。それだけ彼らにとってアニメ文化は大きなバックグラウンドになっているが、それとは反対に、二枚のフルアルバム『Outside of Melancholy』と『What a Wonderful World Line』で彼らが試みたのは、「アニメソング」から「アニメ」の余韻を残したまま「ソング」を切り離し、「アルバム」という新たな物語の一部として再編することだった。アルバム全体をコンセプチュアルに作り込むことで、シングル曲はアニソンとは別の使命、別の物語の一部としての機能を宿すことになるのだ。

10年以降、日本でテレビ放送されるアニメ作品の数は、年を経るごとに右肩上がりに増えているという。放送される本数が増えているということは、それだけ個々の放送期間も短く、細分化され消費されているということでもある。「細分化された物語」の増殖。それは、90年代に『新世紀エヴァンゲリオン』が物語をあえて「描かない」ことで暴き出した、人々のなかにある「物語への欲望」に対する最終的な対症療法的回答とも言えるかもしれない。fhánaは、そうした「細分化された物語」から音楽を抽出しつなげることで、新しく「大きな物語」を産み出そうとする。ここで重要になるのは、個々の物語の存在以上に(それはあくまで前提なのだ)、それをつなげようとする意志。つまり「世界」ではなく「世界線」を描くことなのだ。

小沢健二と銀杏BOYZの狭間からfhánaが提示する新しい価値観

この日、佐藤純一(Key,Cho)はMCで「fhánaの物語は、fhánaだけでは作っていない。みんなで作っているんです」と語った。fhánaとは、他者とともに作る物語であるということ。それは、このライブ全体を通して証明されたことだろう。“The Color to Gray World”で始まり、アンコールを“gift song”で締める、アルバム『What a Wonderful World Line』と同じ物語の骨子を描きながら、そのなかに“ケセラセラ”や“いつかの、いくつかのきみとのせかい”などの過去曲を組み込むことで、オーディエンスと自分たちで作り上げてきたバンドの物語をも重ね合わせるセットリスト。覚醒感のあるメロディーとtowana(Vo)の歌声を活かした流麗なバラードや、バンドサウンドとエレクトロニクスを絶妙に配合して生まれる屈強なファンクポップなど、多彩な楽曲が流れるようにつながっていく。ここで1曲1曲は、そしてオーディエンス一人ひとりは絶対的な「他者」だ。しかし、そんな他者同士が存在することを受け入れ、つなげていくことで、「世界線」が立ち昇っていく。

towana(Vo) 撮影:HAJIME
towana(Vo) 撮影:HAJIME

佐藤純一(Key,Cho) 撮影:HAJIME
佐藤純一(Key,Cho) 撮影:HAJIME

90年代の小沢健二には、彼ひとりで「世界は素晴らしい!」と断言するダイナミズムがあった。00年代の銀杏BOYZの峯田和伸には、「世界は素晴らしい!」と言い切れないリアリティーを極限まで音楽に刻みつけようとする切迫感があった。今、fhánaはその狭間から新しい価値観を提示する。「世界は素晴らしい!」と言い切るためには、「あなた」の存在が必要なのだと。まったく別々の物語を背負った私とあなたが対話し、つながること。その瞬間にこそ世界線は描かれ、私たちはこの世界を祝福することができるだろう――そんな、fhánaがこの時代に描く理想を強く感じ取ることができた夜だった。

セットリスト
1. The Color to Gray World
2. 虹を編めたら
3. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
4. tiny lamp
5. divine intervention
6. little secret magic
7. Critique & Curation
8. c.a.t.
9. Antivirus
10. lyrical sentence
11. いつかの、いくつかのきみとのせかい
12. ケセラセラ
13. 追憶のかなた
14. ホシノカケラ
15. 街は奏でる
16. Cipher
17. What a Wonderful World Line
18. Relief
19. ワンダーステラ
20. 星屑のインターリュード
21. white light
アンコール
1. ソライロピクチャー
2. Outside of Melancholy
3. 光舞う冬の日に
4. kotonoha breakdown
5. gift song
イベント情報
『fhána What a Wonderful World Line Tour 2016』

2016年6月4日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 お台場 Zepp DiverCity

リリース情報
fhána
『What a Wonderful World Line』初回限定盤(CD+Blu-ray)

2016年4月27日(水)発売
価格:3,888円(税込)
LACA-35557

[CD]
1. The Color to Gray World
2. What a Wonderful World Line
3. ワンダーステラ
4. Relief
5. little secret magic
6. Antivirus
7. 虹を編めたら
8. Critique & Curation
9. c.a.t.
10. Appl(E)ication
11. 追憶のかなた
12. ホシノカケラ
13. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
14. gift song
[Blu-ray]
1. “What a Wonderful World Line”PV
2. “虹を編めたら”PV
3. “コメットルシファー ~The Seed and the Sower~”PV
4. “ワンダーステラ”PV
『リスアニ!LIVE 2016』ライブ映像
5. 虹を編めたら
6. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
7. divine intervention
8. 星屑のインターリュード
9. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~

fhána
『What a Wonderful World Line』通常盤(CD)

2016年4月27日(水)発売
価格:3,240円(税込)
LACA-15557

1. The Color to Gray World
2. What a Wonderful World Line
3. ワンダーステラ
4. Relief
5. little secret magic
6. Antivirus
7. 虹を編めたら
8. Critique & Curation
9. c.a.t.
10. Appl(E)ication
11. 追憶のかなた
12. ホシノカケラ
13. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
14. gift song

プロフィール
fhána
fhána (ふぁな)

佐藤純一(FLEET)+yuxuki waga(s10rw)+kevin mitsunaga(Leggysalad)のインターネット3世代によるサウンドプロデューサーと、ボーカリストのtowanaによるユニット。2013年夏、TVアニメ『有頂天家族』のED主題歌『ケセラセラ』でメジャーデビュー。これまでに7枚のシングルをリリースしており、その表題曲のすべてがテレビアニメのタイアップを獲得している。そして8枚目となるニューシングル『虹を編めたら』は、TVアニメ『ハルチカ~ハルタとチカは青春する~』のOPテーマとなっており、新人アーティストでは異例とも言える8作品連続でのタイアップ獲得を果たし、注目を集めている。



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