頭脳派fhánaが考える世界進出。アニソンは1つの武器でしかない

これまでCINRAではfhánaが作品をリリースするたびに取材を行い、様々な角度からfhánaという特異なユニットの面白さを伝えてきたつもりだが、今回の取材ほど彼らが、特に中心人物である佐藤純一が、その想いをはっきりと口にしたことはなかったように思う。

当初はニューシングル『コメットルシファー ~The Seed and the Sower~』が、鉱石好きの少年を主人公としたアニメ『コメット・ルシファー』のオープニング曲ということもあって、メンバーの少年少女時代を振り返ろうと考えていた。しかし、会話の入口として先日行われた初の海外ライブについての感想を聞くと、そこから佐藤の世界進出に対する考えが、さらには「もっと売れたい」というストレートな想いが出てくるに至ったのだ。

文字数の関係でカットになった部分も多いのだが、佐藤は経済の変動や、具体的なパラダイムシフトを例に挙げながら、これから世界に目を向けることの重要性を強く語ってくれた。そしてそれは、fhánaが1stアルバムとそのツアーで一連のサイクルを終え、今回のシングルから本当の冒険をスタートさせたことを意味している。それでは、メンバー四人の言葉にぜひ耳を傾けてみてほしい。

経済のニュースを見てても、日本とか先進国はこれ以上先がない、もう伸びないというのは、ものの道理として明らかじゃないですか?(佐藤)

―9月末にアメリカのアトランタで開催された『Anime Weekend Atlanta』で、初の海外ライブが行われましたね。

佐藤(Key,Cho):実はアトランタに行く前から、「海外展開したい」ってすごく思ってたんです。でもそれは、「世界に憧れがあるから」みたいなポジティブな理由ではなくて、日本に限界を感じる部分があるからなんですよね。日本だけだとパイが小さいから、国内で上を目指すよりも、もっと視野を広げて、海外展開を考えていかないとなって。中でも、まずはアジアだと思っていて。アジアはまだ日本や東京というブランドが通用するから、そこを攻めない手はない。ただ、アジアでヒットしたものが欧米でフックアップされることはほとんどない。逆に、欧米で認められるとアジアでもヒットしやすくなったりするから、欧米で認められて、その既成事実を持ってアジアに行けたらと思ってるんです。

fhána『Anime Weekend Atlanta』ライブより
fhána『Anime Weekend Atlanta』ライブより

―なるほど。今回のアトランタのライブはその第一歩になったと。

佐藤:経済のニュースを見てても、日本とか先進国はこれ以上先がない、もう伸びないというのは、ものの道理として明らかじゃないですか? 日本はこれからお年寄りが増えて、労働人口が減って、音楽だけじゃなく、全体的に弱くなって行くのは仕方ない。だからこそ、外に目を向けなければと思うんですよ。韓国とかはもともと国内市場がそんなに大きくないから、海外で売ることを前提でやってるじゃないですか?

―K-POPが成功した背景はそこですよね。

佐藤:日本はガラパゴス化しつつ、何とか国内だけで成り立ってきたけど、どんどん何ともならなくなると思うんです。だから外に目を向けて活動して行きたいと思っていたときに、今回のアトランタのお話があって。あと『J-MELO』という世界150か国で放送してるNHK WORLDの番組があるんですけど、その番組内で世界各国の視聴者が好きな日本人アーティストに投票する企画(「J-MELO Breakthrough Artist Showcase 2015」)があって、fhánaが3位になったんですよ。しかも、エントリーされた曲が“Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~”で、アニメのタイアップ曲じゃないから、アニメのファンがfhánaに投票したわけではなくて、曲を聴いて気に入ってもらえたんだと思うんですよね。そういうこともあって、やっぱりこれは世界に目を向けた方がいいぞと。

―発想を転換させるような出来事が続いたわけですね。

佐藤:今までの経験則として、パラダイムを変える発想って、上手く行くパターンが多かったんです。「ボーカロイドという面白いフィールドがあるぞ」と思って行ってみたら、そこからつながってfhánaが生まれたり、その前にFLEETとしてバンド活動を始めたときも、「ライブハウスでやっててもな……」と思って、当時はまだニコニコ動画とかもなかったけど、「これからはネットだ」と感じて音源を公開してみたりしたら、そこから上手くことが進みだした。そういう感覚を今海外に対してすごく感じてて、ある程度まではスルスルっと行くんじゃないかって気がしてるんですよね(笑)。

海外でも認められることを狙って、向こうの土俵に合わせるのではなく、このままのfhánaでスルスルっと認知される感じがいいと思うんですよね。(佐藤)

―yuxukiくんはいかがですか? 海外展開について。

yuxuki(Gt):普段は大体海外の音楽を聴いてるし、もちろん海外には行きたいんですけど、唯一懸念があるとしたら、言葉の問題ですかね。向こうの人は歌詞の意味が分からないと思うので、そこだけは若干心配ですけど、サウンド面はアトランタに行ったときも反応がよかったし、何とかできたらいいなと思ってますね。

―ライブだと現地のお客さんは日本語で歌ってくれるんですか?

towana(Vo):歌ってくれましたね。サイン会で直接お話しする機会もあったんですけど、日本語をしゃべれる方が結構いたんですよ。好きが高じてだと思うんですけど。

kevin(PC,Sampler):アニメから覚えたんでしょうね。

『Anime Weekend Atlanta』サイン会の様子

佐藤:そういう意味では、アニソンをやってることも武器になるんですよね。海外にはアニメファンの方がたくさんいるので、そこをきっかけに広げて行けるのはやっぱり大きいです。洋楽みたいなポップスをやって英語で歌うのではなく、基本的には日本語のまま普通にやればいいと思うんですよね。だけど、海外の人たちに向けてやってる姿勢を示すために、たまに英語の曲も作るというくらいのバランスがいいんじゃないかなって。

―確かに、「アニメ」が媒介になることで、日本語でも受け入れられやすくなりますよね。

佐藤:今まで色々な日本の大物アーティストが欧米進出に挑戦してあまり成果が上げられてなかったりしますが、基本的には欧米でも認められるために、向こうの土俵に合わせて勝負をしていたと思うんです。でもやっぱり、オリジナルでないものはなかなか向こうでは認めてもらえない。比較的上手く行ってるパターンって、自然体だったりしますし。だからこのままのfhánaでスルスルっと認知される感じがいいと思うんですよね。「全米デビュー!」って大きく打ち出して海外進出していくのではなくて、「普通にアニソンやってて、欧米とかアジアでも結構知られてますけど何か?」みたいな感じがかっこいいんじゃないかなって(笑)。

―おぎやはぎみたい(笑)。飄々と、いつの間にか成功してるっていう。

佐藤:fhánaっていい意味で何でもアリだと思うので、アニソンをたくさん作らせていただいてますけど、アニソンじゃなきゃダメということもないし、「ホントはアニソンバンドじゃないんです!」とか言うつもりもないし、「J-POPなんてダサいから、海外で認められたいんです」ってことでもない。「これがfhánaですけど」って感じで、スルスルっとやっていけたらなと思います。もちろん各国ごとにローカライズはする必要はありますが、とはいえ完全には相手の土俵で勝負しない方がいいと思うんです。

yuxuki:確かに、そうですよね。昔、NEW ORDERが1曲日本語の歌詞で歌ったときとか、何度聴いても違和感が(笑)。

―たまに海外アーティストが日本語で歌った曲があるけど、あんまりかっこいいものではないもんね(笑)。

佐藤:最初から英語の新曲を作るならいいんですけどね。もともと日本語の持ち曲の英語版を作ったりしたら、違和感が出てしまいますよね。

kevin:せっかくJ-POPのフォーマットを持ってるわけだから、それをそのまま海外に持って行って新鮮だと思われた方が、すごく合理的な感じがします。

(海外にいる人の)日本のアニメ文化に対するリスペクトがすさまじいんですよね。(kevin)

―実際に海外でライブをしてみての手応えはどうでしたか?

kevin:すごく感じましたね。というのも、3日間のイベントで、僕らは2日目のトップバッターだったんですけど、まさかのアンコールをいただいたんです。「時間押しちゃうけどいいんですか?」って周りを見たら、現地のスタッフさんが「やっちゃえやっちゃえ」みたいな感じで(笑)。

towana:トリじゃなくてトップバッターで、アンコールが起きるなんてまったく想定してなかったよね。

kevin:日本のアニメ文化に対するリスペクトがすさまじいんですよね。コスプレしてる人がほとんどで、むしろコスプレしてない方が恥ずかしいくらいの感じだったから、ホントに熱狂的だなと思いました。サイン会で、「カナダから来ました」って人もいて。カナダからアトランタって、すごい距離じゃないですか?

towana:日本の『アニサマ(Animelo Summer Live)』を今年観に行ったって言ってくれる人もいました。

kevin:ホントにすごい熱量でしたね。

―だったら、そこを攻めない手はないと。

kevin:そう、「鉄は熱いうちに打て」ですね。

「ここでヒットしないと」という焦りというか、「今こそいい曲出さなきゃ」みたいな意識はすごくあります。(towana)

―そんなタイミングでリリースするシングルは、初めてアーティスト盤とアニメ盤の2種類が発売され、収録曲や音質にもこだわりが見られます。これは今まで以上にアーティストとしてのfhánaを強く打ち出したいという考えがあってのことなのでしょうか?

佐藤:そういう考えはもちろんありましたね。今回は、『コメット・ルシファー』の企画の初期の段階から「主題歌はfhánaで」と名前が出ていたそうなんです。だから、今までのタイアップは「こういう曲にしてほしい」というオーダーがあったんですけど、今回はそれが全然なくて、「fhánaらしく作ってください」とだけ言われたので、今までで一番いい曲を作るくらいのつもりでいましたね。

―その熱が、アッパーな曲調にも表れていると。

佐藤:そうですね。あと、売れたかったんですよね(笑)。

―今日の佐藤さんはいつも以上に熱いですね。海外展開の話もそうだし、これまではそういうことを直接口に出すことはあんまりなかったと思うんですけど。

佐藤:今までは、ゲームのプレイヤー目線だったというか、fhánaというゲームがあったとして、それを画面の外でプレイしてる感じだったけど、今は画面の中に入り込んで自分が登場人物になったような心境の変化があるんですよね。アルバムを作って、ツアーをやって、ひとつのサイクルが終わったときに、「次はどうしよう?」ともがいてる過程が、前作(2015年8月リリース)の“ワンダーステラ”だったと思うんです。悩んでたからこそ、曲調もプログレっぽい複雑な展開になったのかなって、今になって思います。そこから何となく道筋を見つけて、「本当の冒険の旅がここから始まる」という気持ちですね。

―それはfhána全体で共有してる感覚ですか?

kevin:僕は今回からというよりも、1stアルバム以降、もうちょっと欲が出てきている感じがあります。“ワンダーステラ”のときもそうでしたし、今回その段階がまた上がったのかなって。今までリーチしなかったところに届けたいという欲が強くなりました。全然違うリスナー層にも、それこそスルスルっと入って行きたい(笑)。

yuxuki:アルバムをそれなりに聴いてもらえたことによって、色々な人に出会うことができて、音楽仲間が増えたんですよね。そういう人たちと話をしてると、うちらはまだまだだなって思うし、負けてられないなって気持ちも出てくるので、どんどん次のステップに行きたい気持ちが強くなっています。

―特に刺激になった出会いってありましたか?

yuxuki:ふとしたきっかけで、日本のロック界隈のバンドの人たちと知り合うことができたんです。意外とアニメ好きが多くて、集まってはアニメ談義をしてます(笑)。そういう人たちが僕らの曲を聴いてくれて、いい反応をしてくれたことが嬉しかったです。自分たちとそういうバンドのフィールドが近づいたというか、普段ロックを主に聴く人にも僕らの曲が伝わるかもと思えたので、そういう人たちにもより届くよう、頑張らないとなって思います。

―towanaさんはどうですか?

towana:メジャーデビューして丸2年が経ったんですけど、自分の気持ちとしてはまだまだ新人なんです。でも外から見れば、もう「新人」の枠に入れてもらえる感じではないと思うし、「中堅」というにはまだ早い。「ここでヒットしないと」という焦りというか、「今こそいい曲出さなきゃ」みたいな意識はすごくあります。新人という冠が取れても、どれだけの人に受け入れてもらえて、ライブにも来てもらえるか、というのは考えますね。

短いスパンで盛り上げを作るんじゃなくて、10年とか20年という単位で歴史を作っていけたらなと相変わらず思ってます。(佐藤)

―実際、今回の“コメットルシファー ~The Seed and the Sower~”は、さっきおっしゃたような熱量を持って、平たく言えば「ちゃんと売れるものを」ということも念頭に置きつつ作っていったわけですか?

佐藤:そういうことですね。曲を作る前に、andropとかヒトリエのライブを観に行って、すごい盛り上がってるのを観て、「fhánaもイケてるはずなんだけどなあ」みたいなことを思って作りました(笑)。

―今日の佐藤さんいいですね!(笑) もちろん、andropやヒトリエのかっこよさを認めつつ、fhánaなりにライブで盛り上がるような曲を作ってやろうと。

佐藤:一番最初は、これとは全然違う、Every Little Thingみたいな曲を作ろうと思ってたんですよ。

―ポピュラリティーのある曲にしようと。

佐藤:そう。みんなが歌えて、明るくて、でもちょっとせつなくて、1990年代感があってみたいな。でも、他のバンドからの刺激を受けて、「いやいや、もっと攻めよう」と思って。

―yuxukiくん作曲の“c.a.t.”に関しても、同じような想いがありましたか?

yuxuki:これもライブ意識はかなり高いです。しっかりしたグルーヴがほしくて、ベースをthe band apartの原さんに弾いてもらいました。

―今回のシングルが新たな始まりの作品であることは確かですね。

佐藤:「The Seed and the Sower」って、「種と種を蒔く人」という意味で、<新しい種を蒔こう>という歌詞もあるんですけど、fhánaの音楽の種を世界中に蒔いて、それが実を結んでくれたらいいなっていう想いが込められています。そのための本当の冒険の始まりということですね。

kevin:面白いことに、“ワンダーステラ”の最後の歌詞が<冒険の地図を見つけた>なんですよ。

佐藤:“ワンダーステラ”で地図を見つけて、“コメットルシファー ~The Seed and the Sower~”で旅に出たんです。

fhána
fhána

―美しい流れですね! さすがはfhána(笑)。では最後に改めて、今後のビジョンについて話していただけますか?

佐藤:ちょっと前までは、人々が共通の価値観を持つことが難しくなって、「島宇宙化」とか「蛸壺化」と言われる中、細分化した各ジャンル間をいかにクロスオーバーさせていくのか? という話が盛んでしたけど、今やそういうわけでもなく、その島宇宙というか内輪の規模を大きくして行ったら、そのまま世界につながってました、みたいなあり方の方がいいんじゃないかという話をしてて。なので、今の感じのままスルスルっと世界に接続したいですね(笑)。急速に色々な分野でこれまでの秩序が再編されつつあると思うので、既存のパラダイムにとらわれずに活動していきたいなと。あとは結成当初のインタビューからずっと言ってる通り、短いスパンで盛り上げを作るんじゃなくて、10年とか20年という単位で歴史を作っていけたらなと相変わらず思ってます。

―長期的な視野で歴史を作るという意味で、以前のインタビューでYMOの例が出たことがあったかと思うんですけど、YMOも世界で活躍して歴史を作ってきたわけで、今fhánaもそこに向かいつつあると言えるかもしれないですね。

佐藤:YMOとか(ウォーレン・)バフェットとか(笑)。比較するのはさすがにおこがましいですけど、世界に出て行くことに関しては、「行ける気がする」っていう感じはありますね。

リリース情報
fhána
『コメットルシファー ~The Seed and the Sower~』アーティスト盤(CD)

2015年10月28日(水)発売
価格:1,404円(税込)
LACM-14409

1. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
2. c.a.t.
3. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(Instrumental)
4. c.a.t.(Instrumental)

fhána
『コメットルシファー ~The Seed and the Sower~』アニメ盤(CD)

2015年10月28日(水)発売
価格:1,296円(税込)
LACM-14410

1. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
2. コスモスのように
3. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(Instrumental)
4. コスモスのように(Instrumental)

イベント情報
『コメットルシファー ~The Seed and the Sower~』発売記念イベント

2015年11月6日(金)START 19:00
会場:東京都 池袋 サンシャインシティ噴水広場

プロフィール
fhána (ふぁな)

佐藤純一 (FLEET) + yuxuki waga (s10rw) + kevin mitsunaga (Leggysalad) のインターネット3世代によるサウンド・プロデューサーと、ボーカリストのtowanaによるユニット。2013年夏、TVアニメ『有頂天家族』のED主題歌『ケセラセラ』でメジャーデビュー。『Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-』への初出演を果たし、iTunesの「NEW ARTIST 2014」にも選出されるなど、シーンを問わず各界から注目を集めている。2015年2月に1stアルバム『Outside of Melancholy』をリリース。その後、アルバムを引っさげた初のワンマンライブツアー『Outside of Melancholy Show 2015』を開催し、大盛況。ライブパフォーマンスでも注目を集めている。



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