ポップスを凌駕するスガ シカオ。20周年に向けてどこに進むのか?

アルバムリリース前後にツアーを開催したスガ シカオの変化とは

10月21日、東京・豊洲PITにて『SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2016 「THE LAST」 ~ENCORE~』が行なわれた。スガ シカオは今年1月にアルバム『THE LAST』をリリースする前に、その収録曲を演奏するツアーを行なうという変則的な活動に出た。つまり、リリース前と後に1回ずつツアーを開催したということになる。なお、赤坂BLITZでも2日間にわたり公演が行なわれたが、この豊洲PITではホーン隊3人の「FIRE HORNS」が加わる、という趣向。

photo:中河原理英
photo:中河原理英

“赤い実”でスタートした本編は『THE LAST』の全曲を含む19曲、プラスアンコールで3曲、計22曲のセットリスト。FIRE HORNSの登場は全部で3回だったが、登場するたびにステージから放たれる音の温度がぐんと上がり、フロアが歓声でそれに応える。アンコールのラスト、“イジメテミタイ”ではホーン3人がステージのフロントまで出てきて、スガ シカオと共に熱いパフォーマンスを見せた。

9月30日の赤坂BLITZも観たが、各地を回ってきただけあってバンドグルーヴがよりいっそう強靭に、かつ緻密に仕上がっている。ライブでは「20周年ワクワクメドレー」と題した10曲からなるスペシャルメドレーも披露。MCでも、初期曲“ふたりのかげ”の前に、「デビュー前、所沢に住んでいた彼女と付き合っていて、その頃の話を書いた」と語ったり、アンコールの最初で「“夜空ノムコウ”を歌う時は、『SMAPのカバーです』って言って歌うようにしている」とSMAPと曲そのものへの感謝の意を言葉にし、“夜空ノムコウ”を演奏するなど、曲目、MC共に20周年を振り返る場面も多くあった。

スガ シカオがデビューから10年ともにライブ活動を行なった大所帯バンド「FAMILY SUGAR」を終了させ、現在のコンパクトな編成のバンドを新たに立ち上げ、ホールからオールスタンディングの大規模ライブハウスへ会場を変えた、その最初のツアーを僕は観ている。正直、お客さん、戸惑っていた。そうかあ、戸惑うかあ。すっげえいいライブなのになあ。でもまあスタンディングに慣れてないからしょうがないのか……とか思ったのがウソのようなことになっている、今のスガ シカオのライブは。ステージの上も下もひたすらに熱いし、一緒になってひとつのでっかいグルーヴを作り出している。お客さんが戸惑っていたの、遠い昔のようです……って、考えたら10年くらい前になるんだから、そこそこ遠い昔なのか。

photo:中河原理英
photo:中河原理英

「すごくよかった」ことにはもはや驚かない。スガ シカオが足を踏み込む新たなフェーズ

とにかく。総じて、終始右脳と左脳に同時に激しく訴えかけてくる、つまり「身体が反応する」と「思考にずしーんとくる」の両方が常にある、最高のステージだった。が、スガ シカオのライブ、ここ数年……いや、10年ぐらいかもしれないが、とにかく長きにわたってそのような鉄壁なすばらしさを維持しているので、「すごくよかった」ということに関しては、そう驚くにあたらない。なので、それとは別に、観ていて頭をよぎったことについて、最後にちょっと書いておきたい。

photo:中河原理英
photo:中河原理英

「右脳と左脳に同時に激しく訴えかけてくる」、つまり肉体的快楽性のきわめて高いファンクという音楽スタイルに、思考に思考を重ねた上で生まれた、いわば本当に意味のある言葉を乗せたい、そういう音楽をやりたいというのは、デビュー以来一貫してスガ シカオが追求してきたことだが、それが新しいフェーズに入りつつあるのではと、このステージからも感じた。

何が「も」なのかというと、『THE LAST』というアルバムからも同様のものを感じたからなのだが、じゃあその「新しいフェーズ」とはなんなのかというと……言語化しづらいので雑な言い方をしてしまうが、「わけわからん」「なんじゃこりゃ」な次元に突入しつつある、という感触を受けたのだった。

ファンクをはみ出して「これ大昔のハードロック?」みたいに響く曲がある。表面は普通に歌ものとして捉えることができるが、よく聴くと、これ、ノイズの領域にそっと片足つっこんでない? という曲がある。弾き語りがハマるフォーキーな曲があるのは初期から変わらないが、そういうストレートな曲でさえ、ただ素朴には響かない。曲の底とか裏とかあたりで、何かが蠢いている。「ファンク」とか「フォーク」とか、あるいは「J-POP」という形式を、「スガ シカオの音楽」という内容の方が超えてしまっている、そういう段階に入っているように響くのだ、どの曲も。そのように見えるのだ、どの瞬間のパフォーマンスも。

photo:中河原理英"
photo:中河原理英

聴きやすいポップスとしてバランスをとるのをやめて、己のもっとも濃い部分を描こうという意志でもって作られたのが『THE LAST』というアルバムだったのだから、ライブもそういう方向に進んだのは頷けるが、にしても、ここまでかあ。ヤバいなあ。本人もメンバーも、ストレートに、熱く、気持ちよさそうにやってるんだけどなあ。それ以外の、というかそれ以上のものが出ちゃってるよなあと、つくづく思った。

すでに告知されているように、来年2017年はスガ シカオデビュー20周年にあたる年で、それを記念して5月6日にさいたまスーパーアリーナで『スガフェス! スガ シカオ~20年に一度のミラクルフェス~』が開催される。この豊洲PIT公演と同日に、第一弾アーティスト発表として、怒髪天の名前がアナウンスされた。という、でっかい節目のでっかいトライアルが待っている時に、スガ シカオ自身の音楽が、パフォーマンスが、あるいは自身そのものが、そういう方向に進んでいくというのは、いいことなのか否か判断に迷う。が、少なくとも、おもしろいことになるのは間違いない。

イベント情報
『スガフェス! スガ シカオ~20年に一度のミラクルフェス~』

2017年5月6日(土)
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
出演:
スガ シカオ
怒髪天
and more
料金:入場券8,000円 プレミアムVIPチケット18,000円

プロフィール
スガ シカオ
スガ シカオ

1997年デビュー。1stアルバム『Clover』以降、全てのオリジナルアルバムがTOP10入りを記録。2011年、所属事務所からの独立を発表し、同時に活動の場をインディーズに移す。インディーズ活動と並行し、2013年4月シングル『アイタイ』をメジャーリリース。各音楽チャートで軒並み上位を記録し、シーンに於ける存在感を改めて示した。その後も、メジャー / インディーズの枠組みに捉われない独自の活動を行ってきたが、2014年5月に発売した『アストライド / LIFE』でビクター / スピードスターレコーズと契約しメジャーフィールドに完全復帰。2016年1月20日には、6年ぶりのオリジナルアルバム『THE LAST』をリリース。2017年5月6日にはデビュー20周年を記念して、さいたまスーパーアリーナにて『スガフェス! スガ シカオ~20年に一度のミラクルフェス~』を開催することが決定している。



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