「芸術祭まつり」な現状に放たれる、古都・京都からの挑戦状

日本全国のどこかで毎年「国際美術展」が行なわれる中、ついに京都でも

「ついに京都が動いたか……」(ブラインド窓の隙間から外を眺めつつ)。

2013年に『PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015』(以降『PARASOPHIA』)の開催が初告知されたとき、そんな気分になったアート関係者は多かったのではないか。ブラインドはともかく。

Lisa Anne Auerbach, American Megazine #1, 2013. Ink on paper. Installation view with mega-girls, Los Angeles Municipal Art Gallery, 2013. Photo by Lisa Anne Auerbach, courtesy of Lisa Anne Auerbach and Gavlak. © Lisa Anne Auerbach
Lisa Anne Auerbach, American Megazine #1, 2013. Ink on paper. Installation view with mega-girls, Los Angeles Municipal Art Gallery, 2013. Photo by Lisa Anne Auerbach, courtesy of Lisa Anne Auerbach and Gavlak. © Lisa Anne Auerbach

全国どこもかしこも、ビエンナーレ、トリエンナーレという「芸術祭まつり」の様相を見せる今。その中にあって、多数の美大を抱え、アーティストも多く輩出する京都で大型国際美術展の不在が続いたのは意外でもある。かつて『京都ビエンナーレ』が何度か開催されたが(2003年、高嶺格が旧マンガン採掘トンネルで手がけた作品『在日の恋人』は今も語り草)、継続はしていない。それだけに「ついに」感も強い。

ウィリアム・ケントリッジ、蔡國強、ピピロッティ・リストなどの大物アーティストや、日本からは、高嶺格、やなぎみわ、田中功起らが参加

『PARASOPHIA』は2015年3月から2か月間にわたり、京都市美術館、京都府京都文化博物館などで開かれる。世界各国のアーティスト40名が参加する、現代芸術の大規模展だ。ウィリアム・ケントリッジ、蔡國強、ピピロッティ・リストら大物勢、スーザン・フィリップスやドミニク・ゴンザレス=フォルステルなど中堅世代、さらにサイモン・フジワラ、ヤン・ヴォーなど若手の人気作家も参加。日本人作家には、高嶺格、田中功起、やなぎみわ、といった名が並ぶ。

Installation view of Stan Douglas, Luanda-Kinshasa, 2013. Single-channel video projection, 6 hr. 1 min. (loop), color, sound
Installation view of Stan Douglas, Luanda-Kinshasa, 2013. Single-channel video projection, 6 hr. 1 min. (loop), color, sound

気になるのは、『PARASOPHIA』がどんな芸術祭を志すのか。都市部では『横浜トリエンナーレ』『あいちトリエンナーレ』があり、今年は『札幌国際芸術祭』も誕生した。そこはやはり「京の人間は、よそさまと似たりよったりの無粋はしまへんで?」(脳内妄想です)という古都の矜持もありそうだ。それはpara(別の、逆の)とsophia(知恵)をつなげた造語による、この芸術祭の愛称からもうかがえる。

去る9月30日、東京、国際交流基金での『PARASOPHIA』最新記者会見では、河本信治アーティスティックディレクターがこれを語る場面があった。その哲学者然とした風貌から、開口一番「最初は引き受けるつもりがなかった」とまさに「para」な告白。ではなぜ就任したかといえば、「既存の日本の芸術祭と異なり、民間から生まれた動きだから」だった。

歴史遺産を食い潰す前に、それだけに頼らない新しい京都の文化作り

『PARASOPHIA』は、京都経済同友会(地元の企業経営者らが個人参加する経済団体)の発案に、府・京都市が協働することになったいきさつがある。同会の長谷幹雄会長が『ヴェネチアビエンナーレ』を訪ね、京都も歴史遺産を食い潰す危機に陥る前に、それのみに頼らない新しい文化作りを、と考えたのが契機だという。一方の河本ディレクターは、そこに可能性を感じると語った。

やなぎみわ《『日輪の翼』上演のための移動舞台車》2014 写真:沈昭良
やなぎみわ《『日輪の翼』上演のための移動舞台車》2014 写真:沈昭良

なお、河本ディレクターもかつて関わったドイツ・カッセルの老舗芸術祭『ドクメンタ』は、当地出身の美術家で大学教授のアルノルト・ボーデによる提唱で始まった。背景には、ナチスに禁じられた前衛芸術の復活という志があったが、『PARASOPHIA』も時代の節目に産声を上げつつある。3.11以降、また最近の不穏な世の流れにおいて、各芸術祭にもお祭り感とは異なる傾向が目立ってきた。ただ、現状26組が明かされた『PARASOPHIA』作家ラインナップからは、そうした事情に留まらず、いわば思索性の強い世界が描かれそうである。

PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015 オープンリサーチプログラム03[レクチャー/パフォーマンス]ドミニク・ゴンザレス=フォルステル「M.2062 (Scarlett)」京都府京都文化博物館別館 2013年9月6日 写真:林直 提供:PARASOPHIA事務局
PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015 オープンリサーチプログラム03[レクチャー/パフォーマンス]ドミニク・ゴンザレス=フォルステル「M.2062 (Scarlett)」京都府京都文化博物館別館 2013年9月6日 写真:林直 提供:PARASOPHIA事務局

たとえば、プレイベントとして開催された、ウィリアム・ケントリッジの「時間」をめぐる壮大な映像インスタレーションや、『オープンリサーチプログラム』として実施された『風と共に去りぬ』の主人公に扮したドミニク・ゴンザレス=フォルステルのレクチャー兼パフォーマンス。また今回の記者会見後、東京初プレイベントで講演したアン・リスレゴーの作品もそうだ。彼女は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などSF小説に着想した3Dアニメ表現を展開する。SFも思考実験メディアだが、単にその視覚化でなく、含みのある読み替えといった感じ。彼女をふくむ数組は今回、既存作に加え新作も披露する。

「町おこし」でもなく、「具体的な利益」も求めない『PARASOPHIA』は何を目指すのか?

いわゆる「わかりやすいおもしろさ」に溢れる芸術祭にはならない気もする。ただ、そこに色濃く漂う作家それぞれの美学のようなものが、玄人受けに留まらない芸術祭を目指すうえで鍵になるのかもしれない。河本ディレクターは終始穏やかながら、ときおり眼光鋭く持論を語る瞬間が心に残った。かつて学芸課長を務めた京都国立近代美術館では、固定観念を揺さぶるスター作家、ダグラス・ゴードンがアート界を痛烈に皮肉る轟音ライブを仲間と敢行した出来事もあった。「アレに公式OKを出した人でもあるのか?」と思うと、また興味が湧く。

Still from Aernout Mik, Touch, rise and fall, 2008. Video installation. Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Still from Aernout Mik, Touch, rise and fall, 2008. Video installation. Courtesy of the artist and carlier | gebauer

来場者数25万人を目標に掲げる一方で、河本ディレクターは「町おこしではないし、具体的な利益を求めてもいない。展覧会はメディアであり、『PARASOPHIA』は未来の世代に託す文化資産、創造活動のプラットフォームを目指します」と語る。この言葉は、現状明らかにされていない定期開催への意思表示でもあるだろう。

先日、文芸誌『すばる』で藤田直哉(SF・文芸評論家)の「前衛のゾンビたち――地域アートの諸問題」掲載を機に、アートフェス隆盛とアート本来の存在意義をめぐって意見が噴出、ということがあった。『PARASOPHIA』はこうした議論にも「もう1つの思想」として一石を投じるのか? そういえば『東京ビエンナーレ』もないけれど(20世紀にありました)、京の様子次第では東でもコトが起こるのか? そんなこともふくめ、来春、古都の桜とともに全貌を現すこの芸術祭に注目したい。

イベント情報
『PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015』

2015年3月7日(土)~5月10日(日)
会場:京都市美術館、京都府京都文化博物館ほか
参加作家:
リサ・アン・アワーバック
ナイリー・バグラミアン
蔡國強
ヨースト・コナイン
スタン・ダグラス
サイモン・フジワラ
ドミニク・ゴンザレス=フォルステル
ヘフナー/ザックス
石橋義正
笠原恵実子
ウィリアム・ケントリッジ
アン・リスレゴー
眞島竜男
アーノウト・ミック
スーザン・フィリップス
フロリアン・プムヘスル
ピピロッティ・リスト
アリン・ルンジャーン
笹本晃
高嶺格
田中功起
アナ・トーフ
ローズマリー・トロッケル
ヤン・ヴォー
王虹凱
やなぎみわ
ほか



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