弱音もエロも誠実に歌うWANIMAは、なぜ若者の心を打つのか?

聴き手の人生の拠り所となる、新たなヒーローバンド

最初にWANIMAを観たのは『京都大作戦2015 ~いっ祭 がっ祭 感じな祭!~』だった。「すごいバンドがいる」という評判は聞いていた。シーンを背負う存在になるとか、次世代のヒーローになるとか、そういう言葉も聞いていた。「ホントにかっこいいんですって!」と目をキラキラさせて彼らのことを話す人もいた。でもそういう人に「どういうところがすごいの?」と聞くと、「とにかくライブを一度でも観たら虜になる」と言われることがほとんどだった。

たしかにそうだった。YouTubeの小さな画面では彼らのすごさを理解しきれていなかった。

WANIMA
WANIMA

WANIMAがやっているのは、鳴らしている音と、鳴らしている人自身の人となりが太く結びついたタイプの音楽だ。だから彼らの本質はステージ上で一番生々しく表れる。スタイルやテクニックを見せびらかすようなものではなく、目の前にいるオーディエンスとどう向き合うか。楽しさをどう共有し、鬱憤や閉塞をどう霧消させるか。そんな思いから生み出されるエネルギーが、ロックバンド本来の魅力として放たれる。

だから、彼らのライブはただ騒いで盛り上がるだけでは終わらない。歌っている内容や、バンドマンの生き様自体が、オーディエンス一人ひとりの心に突き刺さる。単に消費されて終わるのではなく、バンドの存在が聴き手にとっての人生の支えや拠り所になっている。大袈裟なことを言っているように思うかもしれないが、たとえばHi-STANDARDや10-FEETは、聴き手の人生に寄り添ってきたタイプのバンドだ。そうなることを引き受ける「人間の器の大きさ」を持ったバンドマンが、ヒーローとしてステージに立てる。数十分ほどの短い時間だったけれど、WANIMAが『京都大作戦』の沸き立ったキッズたちを前に見せたのは、そういうことを痛感させるステージだった。


絶妙に使いこなす「エロ」の要素

そして、すごく印象的だったのは、彼らのMC。「ワンチャン狙いに来ました、WANIMAです。男女が夜にスパーリングすることをワンチャンって言います」と松本健太(Vo, Ba)は高らかに叫んでいた。「迷いなら捨てて、後腐れなしで!」と叫び、披露したのは“いいから”。<いいから気持ち良くするから><軋むベッド 乾いた音が響く><君の好きな場所を探り当てる>と、あからさまにセックスのことを歌った曲で、オーディエンス全員を巻き込むような熱を生み出していた。同じくライブの定番曲となった“BIG UP”も男女の夜の関係を歌った曲だ。


11月4日に彼らは1stアルバム『Are You Coming?』をリリースした。タイトルの意味は「イキそう?」。前述の“いいから”に加え、昔からライブでやってきた“1CHANCE”も収録している。<迷いなら捨てて 後腐れ無しで!!>というのはこの曲で歌っている1フレーズ。彼らはどんな場所でも「ワンチャン」を決まり文句のようにしてきた。エロはWANIMAというバンドにとって欠かせない要素のひとつで、バンドのかっこよさと不可分に結びついたものだった。

サザンオールスターズや西城秀樹も「性」の表現を得意とした

では、なぜWANIMAは高らかにセックスを歌うのか? CINRA.NETに掲載されたインタビューで、松本は「真面目な歌だけじゃなくて『エロかっこいい』いうのもひとつの武器として持ってるので、新しいんじゃないかなって。パンクは特別意識せず、音とちゃんと真面目に向き合っています。エロに対しても真面目ですし(笑)」と語っている。パンクだけでなく、R&Bやレゲエやヒップホップに彼らのルーツがあることも、そのひとつの理由であるようだ。

WANIMAのオフィシャルサイトに掲載されたインタビューでも、松本は「おれらはエロカッコイイ音楽が好きだったので。海外のR&BのPVとか、セクシーでエロカッコイイじゃないですか」と語っている。たしかに、たとえばMiguel(アメリカ出身のR&Bシンガー。2013年に『グラミー賞』ベストR&Bソング賞受賞)の“Coffee”など、海外のR&Bシーンには「セクシーでエロかっこいい」楽曲が豊富にある。<愛の営みが出し入れの遊びになって 出し入れの遊びがピロートークになって ピロートークが甘い夢になって 甘い夢が朝のコーヒーになる><君を起こしたくない 君が眠るのを見ていたい>と歌うこの曲は、まさに一夜の情事をリリカルに描いたナンバー。映像もセクシーだ。


一方、日本のR&B・レゲエシーンでは、WANIMAと同じく『京都大作戦』に出演していたMINMIが、“#ヤッチャイタイ”という曲をヒットさせている。この曲では<くちづけされたらもう止まらないの ワタシ暴れ馬 暴走しちゃいそう>と「女の子の本音」が歌われる。WANIMAの「エロかっこいい」楽曲に頻出する「ビッチ」という言葉とも呼応するようなテイストだ。


こうしたR&Bやレゲエのカルチャーに比べて、たしかにパンクシーンやロックシーンでは、「エロかっこいい」曲を得意とするバンドはあまり多くない。しかし、もともと「性」を歌うことはタブーでもなんでもない。サザンオールスターズや西城秀樹など日本の名だたるポップスターもそれを得意としてきた。そういうところにも繋がるオープンなマインドが、バンドシーンにおけるWANIMAの独自性になっているのだと思う。

安定なんてない時代を「不安」と捉えるか、「ワンチャン」と捉えるか

そして大きなポイントは、彼らの「エロかっこいい」は、決して「背徳」でも「過激さ」でもないということ。あくまで日常の延長線上に「ワンチャン」がある。誰もが当たり前に持っている欲望と充足の中にそれを位置づけている。さらに言えば「男女が夜にスパーリングすること」を「ワンチャン」と言い換えたことで、それをいろんな意味に広げていくことができる。言ってしまえば、誰かに勇気を出して話しかけることだって、何か初めてのことにトライすることだって「ワンチャン」だ。

アルバムのラストに“また逢える日まで”という曲がある。ここで彼らはこう歌っている。<全然うまくいかない とんだ世の中 時代にのまれて 痛みにも慣れて 何を捨てまた失えば…? 生きる価値を…>。

今、世間では「若者の多くが将来に不安を持っている」と言われている。高校生・大学生・20代社会人の3,000人を対象とした電通総研の『若者まるわかり調査2015』では、64.4%が「自分の将来が不安」と感じ、77.3%が「日本の将来が不安」と感じていると発表された。海外各国との比較でも、若者がそう感じる割合は日本が突出しているのだという。そして、その背景には、1990年代から20年続いてきたデフレ不況の中で、悲観的な言葉が繰り返されてきたこともあるはずだ。

ここまで考えていくと、彼らの「エロかっこいい」は伊達や酔狂ではなく、ただチャラいだけでもなく、最初に書いた「バンドの存在が聴き手にとっての人生の支えや拠り所になっている」ということと太く結びついていることに気づかされる。どんな時代も、誰であっても、未来は不確定だ。どうなるかはわからない。でも、その不確定性を「不安」と捉えるか「ワンチャン」と捉えるか――。WANIMAの鳴らしている音楽は、そんなことを問いかけているようにも思える。

リリース情報
WANIMA
『Are You Coming?』(CD)

2015年11月4日(水)発売
価格:2,484円(税込)
PZCA-76

1. ここから
2. 夏の面影
3. いつもの流れ
4. Japanese Pride
5. SLOW
6. TRACE
7. 1CHANCE
8. リベンジ
9. いいから
10. Hey yo...
11. エル
12. THANX
13. また逢える日まで

イベント情報
WANIMA
『Are You Coming? Tour』

2015年11月21日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-WEST

2015年11月26日(木)
会場:兵庫県 神戸 太陽と虎

2015年11月27日(金)
会場:京都府 MUSE

2015年11月29日(日)
会場:岡山県 YEBISU YA PRO

2015年12月2日(水)
会場:群馬県 高崎 club FLEEZ

2015年12月3日(木)
会場:福島県 郡山 HIP SHOT

2015年12月5日(土)
会場:青森県 弘前 Mag-Net

2015年12月6日(日)
会場:秋田県 Club SWINDLE

2015年12月8日(火)
会場:岩手県 盛岡 Club Change WAVE

2015年12月9日(水)
会場:宮城県 仙台 CLUB JUNK BOX

2015年12月10日(木)
会場:新潟県 LOTS

2015年12月12日(土)
会場:富山県 SOUL POWER

2015年12月13日(日)
会場:福井県 CHOP

2015年12月15日(火)
会場:神奈川県 横浜 F.A.D YOKOHAMA

2016年1月15日(金)
会場:静岡県 浜松 窓枠

2016年1月16日(土)
会場:静岡県 UMBER

2016年1月29日(金)
会場:長野県 LIVE HOUSE J

2016年1月31日(日)
会場:石川県 金沢 EIGHTHALL

2016年2月4日(木)
会場:山口県 周南 RISING HALL

2016年2月5日(金)
会場:広島県 広島 CLUB QUATTRO

2016年2月7日(日)
会場:大阪府 なんば Hatch

2016年2月9日(火)
会場:福岡県 DRUM Be-1

2016年2月11日(木・祝)
会場:鹿児島県 Caparvo Hall

2016年2月12日(金)
会場:宮崎県 SR BOX

2016年2月14日(日)
会場:熊本県 DRUM B.9 V1

2016年2月16日(火)
会場:長崎県 DRUM Be-7

2016年2月17日(水)
会場:大分県 DRUM Be-0

2016年2月19日(金)
会場:愛媛県 松山 WstudioRED

2016年2月21日(日)
会場:愛知県 名古屋 DIAMOND HALL

2016年2月27日(土)
会場:東京都 Zepp DiverCity

プロフィール
WANIMA
WANIMA (わにま)

熊本出身の松本健太(Vo,Ba)、西田光真(Gt,Cho)、藤原弘樹(Dr,Cho)によるスリーピースバンド。2012年12月より現在のメンバーで活動開始。2014年、Ken Yokoyamaの全国ツアー『Peach Boys Tour』に4か所帯同。2014年8月には、PIZZA OF DEATH RECORDSとレーベル&マネージメント契約を果たす。2014年10月、初の全国流通盤 1st mini Album『Can Not Behaved』をリリース。そして2015年11月4日、待望の1st full album『Are You Coming?』をリリースする。



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