「普通の兄ちゃん」役が一番難しい?カメレオン俳優・鈴木亮平が語る、有村架純との共演作『花まんま』

愛に溢れる幕末の英雄、絶対に諦めない救命医、お調子者だが凄腕の始末屋、知的で冷酷なエリートテレビマン……これまでにいくつもの濃いキャラクターを演じ分けてきた稀代のカメレオン俳優、鈴木亮平。そんな鈴木が有村架純とともにメインキャストを務める映画『花まんま』で挑んだ役柄は、意外なことに「普通の兄ちゃん」だった。

朱川湊人による原作を映画化した『花まんま』は、大阪の下町で二人きりで暮らす兄妹を描く作品だ。死んだ父との約束を胸に妹を守る兄・俊樹役を鈴木亮平、結婚を控えるなかで兄に話していない秘密を抱える妹・フミ子を有村架純が演じる。

4月25日の公開にあわせて実施した今回のインタビューには、前田哲監督と俊樹役の鈴木亮平が登場。関西を舞台にした人情話に出演することを決めた理由や、原作を大きく膨らませた脚本、結婚や家族のなかでの「役割」などについて話を聞いた。

※本文終盤で、作品のネタバレを含みます。

「普通の兄ちゃんを演じるのが、僕は一番難しいと思うんですよね」

—『花まんま』はどこか懐かしさを感じる関西らしい人情話でしたね。私も関西人なので親近感を覚えながら拝見しました。

前田哲(以下、前田):お、どこ出身なんですか?

—奈良です。作中にも台詞で出てきた法隆寺のすぐ近所なんですよ。

鈴木亮平(以下、鈴木):奈良は良いところですよね。僕はいま(奈良の)飛鳥を舞台にしたCMにも出演させてもらっていて。

前田:たしかに大阪行くたびそのCM見ますもん。「いこいこ奈良」ってやつ。

鈴木:「いざいざ奈良」ね。

前田:惜しいやん!

鈴木:時間ないので質問いきましょう(笑)。

—仲良しですね(笑)。さて、映画を観た後に朱川湊人さんによる原作『花まんま』も読みましたが、原作はほぼ子ども時代の物語で完結するんですよね。カラスと会話ができる婚約者といったアクの強い設定をはじめ、メインとなる大人時代の物語はほぼすべてオリジナルということに驚きました。

前田:プロデューサーも兼任している北敬太さんが書いてくれた脚本なんですが、面白いですよね。原作となる短編の最後の3行にある「妹は明日、学者肌の、マジメを絵に描いたような男性と結婚する」という部分が着地点となるので、その間のできごとをどう構成していこうかを話し合ったうえで書いてもらった脚本です。

前田:基本的にはお任せしていたんですが、着地が結婚式であることと「フミ子は大人になってからも繁田家と関係をつないでいたんじゃないかな」ということは伝えました。そこからすべてつくってくれて。北さんはすごい脚本家なんですよ。

鈴木:プロデューサーでもあるので、脚本家が現場につねにいるんです。

前田:助かりましたよね。映画は生き物なので、日々いろんなことがあるなかで変化していくし、新たに生まれるものもある。それを活かすために脚本を変えたいと思ったときにすぐ相談ができるし、ときにアイデアも出してくれるんですよ。

鈴木:脚本を変えると、脚本家の意図からズレていく可能性もありますよね。でも今回は現場でサポートして頂き、齟齬なく進められたのでとても良かったなと思います。すごくやりやすい環境でした。

前田:それは僕のおかげでもあるけどね。

鈴木:そうですか?

—(笑)。こうして真正面から家族愛を描く作品に鈴木さんが出演しているのはどこか新鮮でした。かつてインタビューで「オファーはいまの自分がやるべきか考えたうえで受ける」とお話されていましたが、本作のどういった部分にやるべき理由を見出したのか教えてもらえますか?

鈴木:おっしゃるとおり僕はいままで真っ直ぐな家族ものや人間ドラマはほとんどやったことがなかったんです。そんななか、今回はどこにでもいそうな「普通の兄ちゃん」を、自分が生まれ育った関西のネイティブな言葉で演じられるという点に興味を持ちました。これまで見せていなかった、演技ではない自分の裸の部分が出せるんじゃないかなと。それでぜひ挑戦してみようとオファーを受けさせていただきました。

—本当に近所にいそうな「普通の兄ちゃん」でしたね。レモンサワーが好きだったり、お好み焼きをテコで食べたり細部に人間性が出ていて。

前田:そういう普通の兄ちゃんが僕は一番難しいと思うんですよね。特徴のある役をつくるのも大変だと思うんですけど、どこにでもいそうなさりげなさを演技で表現できるのはさすがでした。

—今日はスーツ姿がバチっと決まっていますが、映画のなかではスーツより作業着が似合う空気感を出されていましたよね。本当に自然でしたが、演じるにあたって下調べなどはされたんですか?

鈴木:何にもしていないですね。でも作中で見せたような溶接に関しては高校生のときに授業でやっていたので今回溶接しながら懐かしいなと思いました。そういう意味でも素に近いのかもしれませんね。

前田:後輩にそれを教えるのも小慣れてましたよね。

鈴木:俊樹は「フミ子は俺が育てた」と言い張ったり自信家で自分勝手なところもあるんですけど、教え方はすごいうまいんじゃないかなって監督がおっしゃっていたんですよ。

それって自分のやってきたことに自信があるからこそだと思うんですけど、普段ダメなところが多くても、仕事になったときに後輩に教えるのがうまかったりする人って素敵ですよね。俊樹のそういうところが僕は良いなと思っていて。

前田:でもすぐ自慢するんですよね。「お前ら聞けよ」って(笑)。

鈴木:あと「花まんま」の意味を太郎くんに教えるシーンがありますよね。あそこで俊樹はすぐに答えを言うんじゃなくて「おまんま食い上げや言うたらなんや?」って聞くんです。それで本人に考えさせるという工程を踏む。それは教え方がうまい人ならではですよね。僕はそこが結構好きなんです。

前田:たしかにうまいな。それを演じた人がまたうまいし。

鈴木:(笑)。

—そういう教え方がうまい人が職場にいると空気が良くなりますよね。俊樹が勤める山田製作所は働き先としてすごく良さそうだなと観ながら思ったり。

前田:俊樹をそういうふうに育てたのが、オール巨人さん演じる山田社長なんですよね。面倒見がよくて偉そうにもしない。序盤で俊樹に「悪いけど、この仕事明日までにできるかな?」ってお願いする部分からも彼の人間性や俊樹との関係がわかりますけど、あの部分は脚本にはなくて。その場でやってもらったんですよ。

鈴木:この映画はそういうアドリブがいっぱいありますよね。

兄であることは呪縛?鈴木が考える「役割」の意義

—有村架純さんが演じるフミ子との兄妹関係もまたリアルで。鈴木さんには実際妹さんもおられますが、演じるうえでそこは参考になったのでは?

鈴木:たしかに妹がいることで、兄と妹の距離感に関しては掴みやすかったですね。ベタベタするような関係はリアルじゃないので、そういうものにはしたくなかったんです。妹との距離を保たないと怒られてきた思春期の歴史みたいなものがきっと俊樹にもあるので、近すぎない距離感を2人で自然とつくれたのは良かったですね。

関西人って仲が良いほどけなしちゃったりするじゃないですか。それがうまく表れているんじゃないかと。

—距離が近いと素直に褒めないのはありますね(笑)。兄としての俊樹の態度は素敵だなと思う一方、責任を感じすぎてある意味で呪縛のようにも見えました。そんな俊樹の思う「兄の役割」について、鈴木さんはどう感じられましたか?

鈴木:たしかに呪縛なんですが、彼にとってはそれが生きがいでもあるんですよね。それが彼のアイデンティティといいますか。

たとえば「フミ子を育てるために高校を中退して働いたんや」って俊樹は言いますよね。でも僕の想像では、俊樹は勉強ができなかったから「高校嫌やな」と思ってたんです。その時期に母親が亡くなって「しゃあないな」と働き始めたけど、本心では別に高校には行きたくなかったんじゃないかなって。そんなふうに想像力を働かせることを僕はいつも大事にしていて。一見すると妹のために学業を犠牲にしてきた優しく愛情深いお兄ちゃんなんですが、「人間ってそんな綺麗なことばっかりかな?」って考えるんです。

それを自分のなかで想像して、「でもこういう勝手な部分もあるよな」というふうに納得できると、演じているその役を愛せるようになっていく。俊樹にとって兄の責任は呪縛だし「兄貴はそんな役回りやで」と言ったりもするけど、その役目を喜んでるとも思うんですよね。

前田:たぶん、その役目を与えられたと思っているんですよね。だから悪い道に進んだりもせず、セーブもされてた。妹のためにちゃんとしなアカンと自分を律せたと思うんです。人間ってそんな強いものじゃないので、キッチリしようと思ってもなかなかそうはいかない。でも「妹を守る」と親父と約束をしはったから。その複雑な感情を演技で見事に表現されててね。

—悪の道には進まないけど、育っていく過程で一度イカつめの茶髪になるのがリアルですよね。

鈴木:あれは僕がやりたかったんですよ(笑)。一回はグレるでしょと思って。

前田:でもグレすぎない。またすぐ戻ってくるんですよ。

※以下、本編後半の内容が含まれます

鈴木の閃きで追加された部分も。ラストのスピーチをつくり上げた道のり

—そんな大変な道のりを感じさせるからこそ、最後の俊樹のスピーチで感動が押し寄せますよね。なかでも射的で取ったウサギのぬいぐるみのエピソードは見事だなと思ったのですが、あのパートはどのようにつくり上げていったのでしょうか?

前田:あそこは脚本からかなりアレンジが加えられていて。ベースとなるスピーチはもちろんあったんですが、「そこに俊樹の気持ちや、生っぽさをもっと入れたい」と亮平さんから提案があったんです。僕ももっと良くしたいと思っていたので、かなり早いタイミングからあの部分はどうしようかとずっと話し合っていました。

撮影の合間にも2人で相談して、互いに考えたものを脚本家に提案しながらブラッシュアップしていきました。なかでも大きいのは、いまおっしゃったウサギの話ですね。もともとウサギのぬいぐるみは、俊樹が妹のために頑張って手にした具体的なアイテムとしてアルバムとか引っ越しのシーンに入れようという思いがあったんです。そのためにウサギのオーディションもしたんですけど。

鈴木:ウサギのぬいぐるみをいっぱい買ってきただけでしょ!(笑)

前田:それが大事なんよ! ものすごい数のウサギを見せられて、喋らんけど面接して……それでこの子にしようかと決めて。さらにその子は耳の部分が硬いからって美術さんとサードの監督が頑張って調整してくれたり。それを亮平くんに話したら、それ面白いねってスピーチのウサギの部分を閃いてくれたんですよ。

—えっ、あれって鈴木さんのアイデアなんですか! 天才……?

前田:そう、もとのスピーチにはウサギの話はなかったんです。天才ですよ。

鈴木:天才じゃないです……。僕が撮影に入る前に、監督は子ども時代の映像を撮っていて、そのフッテージを、僕が撮影に入る前日に見せてくれたんです。観てみるとフミ子がずっとウサギを持っていて。それは何なのか監督に聞くと「あれはな、兄貴がフミ子のために射的で取ってあげてん。それを大事に持ってるんやで。だからそれを引っ越しの箱にも入れよか思てんねん〜」というようなことを言っていて。

前田:そんな喋り方はしてへん。似てへんな!

—(笑)。

鈴木:(笑)。「箱にも入れよか思てますわ」って言われたんです。それで「それ何かに使えたら良いですね」みたいな出発点からできあがっていったスピーチですね。

鈴木:今回演じてみてはじめてわかったんですが、結婚式ではこれまでお世話になったコミュニティの異なる人たちが一堂に会して、全員がこっちを見つめるんですよね。だから俊樹もあの場所ではじめて「あっ……。そっか、俺だけで育てたんじゃなかったんや……」ということに気づいたんだなと現場に行って思いました。たまたまその気づきが僕らが考えた原稿とも合致したんです。

前田:演者も、エキストラの方々も、スタッフも、本当に結婚式に参列してるような空気のなかで撮影できたんですよね。だからあのスピーチも、結婚式自体もすごくリアルな雰囲気が出せたんじゃないかなと。

—たしかに本当の結婚式のようなライブ感がありましたね。

鈴木:僕も演じていくうちに、監督は生っぽい演技が好きなんだなということがだんだんとわかってきて。

前田:そうなん?

鈴木:そうですよ。すべてが順調にいってきちっと収まったときにはあまりOKが出なくて、ちょっとズレたり想定と違うことが起きたり、そういう生々しさが出たときにOKがでたり。

前田:だって普段は間違えたり引っかかったりして、そんな綺麗に喋れないでしょ。でもその自然な感じを意図的にやるのはなかなか難しいんですよ。指示するとわざとらしくなってしまう。

鈴木:そうですね。だからスピーチの部分も、考えてきたものと少しズレたり、演じるなかでグチャッとなっても監督がなんとかしてくれるという安心感があったのは大きかったです。

前田:そういう信頼というか、愛とも言える関係はつねにありましたね。

鈴木:いや、愛とは言わないと思いますけど……(笑)。

—冷静! 結婚に対する考え方は時代とともに変化しており、俊樹が「結婚はゴールではない」と語るとおり、いまではあくまで選択肢のひとつと考える人が多数かと思います。鈴木さんは「時代が変わっても僕たちが結婚というものに感じる不思議な感情の正体を自分でも見つけたいと思い挑みました」と語っていましたが、その答えは演じるなかで出たのでしょうか?

鈴木:答え……というわけではないんですが。俊樹や僕の世代は、結婚に対する新しい価値観と古い価値観の両方を持っている気がするんです。リベラルな視点で考えれば、結婚はどちらかがどちらかの家に入るものでなければ、人をモノのように扱うものでもなくて、そこがゴールではなく、双方が平等な立場で迎える新たな始まりですよね。俊樹も頭ではそう思っているんです。

でもいざ結婚式になり、妹がウェディングドレスを着て相手と並んでいる姿を見るとたまらない気持ちになってしまう。そこには妹が赤ちゃんだった頃からいままでの思い出がぜんぶ蘇ってくるような、半分鈴木としての感情も入っていて。

やっぱり「結婚」というものに対して、少なくとも僕が抱いている想いって強いんだなと。「嫁いでいく妹よ……」という時代ではないんですが、その感覚はやっぱり染み付いていて。それはそれで素晴らしい感情なんじゃないかなと思いました。

前田:決してすぐ会えなくなるわけじゃないし、結婚式の前にはすでに引っ越しを完了してるからもう一緒に住んでないんですよ。だから結婚式で何かが決定的に変わるわけじゃない。でもセレモニーをすると、そこで一度区切られちゃうんですよね。気持ちに線が引かれるというか。そういう意味でも結婚式ってやっぱり旅立ちなんだなって改めて思いましたね。

鈴木:僕は妹がいるんですが、実際妹の結婚式に出たらこんなグッチャグチャな気持ちになるんだな、と感じました。もちろん俊樹のように自分で育ててきたわけじゃないんですが。

—じゃあ『花まんま』が良い予行演習になったかもしれないですね。

鈴木:逆に何も感じないかもしれませんけどね。今回含めたら2回目なので(笑)。

前田:そんなふうにはならんやろ。

鈴木:この仕事をしてたらそういうことって往々にあるんですよ。これ、前もお芝居でやったな……って(笑)。



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