矢沢永吉、JUMPなどワクチン・検査パッケージ技術実証の裏でライブハウスや小劇場の実情は?

音楽コンサートの「ワクチン・検査パッケージ」技術実証はじまる

11月8日に熊本・熊本城ホールで開かれる矢沢永吉のコンサートで、通常枠の約1,500席に対し、新型コロナウイルスのワクチン接種者やPCR検査の陰性者に限定したチケットが500席追加で販売された。

国が9月から進めている、ワクチン接種歴またはPCRなどの検査結果のいずれかを確認することで感染対策の制限を緩和できる「ワクチン・検査パッケージ」の技術実証の一環だ。

ほかにも10月23日に千葉・幕張メッセで開かれたL'Arc~en~Cielのコンサートでは、販売済の1万席に加えて、ワクチン接種証明やPCR検査での陰性証明、抗原検査での陰性証明のいずれかを有する人を対象に5,000席が追加販売された。

12月11日、12日に愛知・名古屋の日本ガイシホールで開催されるHey! Say! JUMPのコンサートでは、全席が技術実証の対象となり、最大収容人数である8,000席を1日2公演分、計3万2,000席を販売。

いずれもコロナ禍に各地方自治体が設定しているイベントの人数上限を超えて実施することになり、コロナ以前と同じように音楽や舞台を鑑賞できる日々に向け、実験と検証が続々と始まっている格好だ。

しかし「ワクチン・検査パッケージ」はライブハウスや劇場なども対象としているにもかかわらず、技術実証が決まっているのは11月1日時点で、都内の映画館2件と、北海道の2件、計4件のみにとどまっている。スポーツ観戦や音楽コンサートなど大型なイベントは79件(うち音楽イベントは7件)実施されるのに対し、非常に少ない数だ。

「ワクチン・検査パッケージ」の仕組みと課題を、イベント開催の観点から整理していきたい。

「ワクチン・検査パッケージ」とは何か

「ワクチン・検査パッケージ」は、来場者のワクチン接種歴もしくは検査結果を確認することで、感染対策のための人数制限が緩和される仕組みだ。ワクチン接種がさらに進んだ段階で日常生活での制約を減らしていくために、9月頭に政府の新型コロナ分科会がたたき台を発表した。

現在は本格的な導入に向け、10月から飲食店や大規模イベント、ライブハウス・小劇場、旅行等を対象に技術実証を行なっている。

新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年3月以降、音楽ライブや舞台、スポーツ観戦といったイベントを開催するためには、基本的に各自治体が定める「イベントの開催制限」に従うことになっている。

制限の基本となるのは内閣官房の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、「上限5,000人かつ収容率50%等」を設定するほか、観客のマスク着用、換気、大声の抑制、時間の制限(開催は21時まで)、3密の回避(1グループ4人まで、なおかつグループごとに1メートル以上の間隔を空ける)など、さまざまな感染対策を徹底するよう要請されており、各自治体はこれを元に、地域の感染状況に応じて開催制限を更新してきた。

例えば9月28日に緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全都道府県で解除されて以降、現時点での東京都大阪府のイベント開催時の収容率は「大声なし」の場合は100%、「大声あり」の場合は50%。人数上限は「5,000人又は収容定員の50%のいずれか大きいほう」となっている。

つまり大声で歌う音楽ライブを行なう場合、定員300人のライブハウスなら150人まで、収容人数3万人のスタジアムなら1.5万人まで集客することが可能だ。

「ワクチン・検査パッケージ」を活用できるようになると、都道府県による確認を受けたうえで、現在の人数上限を上回る人数や、収容率100%でイベントを実施できるようになる。

L'Arc~en~Cielのコンサートのように1万人を超えて集客できたり、Hey! Say! JUMPのように会場の収容人数最大まで観客を呼べたりするようになるのだ。

いまのところパッケージを使っても「マスク着用」「大声の抑制」「換気」「3密の回避」といった感染対策は行なうことが前提となっているが、ライブ・エンターテイメント市場規模がコロナ禍によって大幅に落ち込んだいま(ぴあ総研によると2020年度は前年比82.4%減の1,106億円)、集客人数だけでもコロナ以前に回復することは音楽・演劇業界を支えるうえで大きな意味を持つだろう。

どのようにワクチン接種歴を確認するのか? Hey! Say! JUMPではレーザーで密回避も

「ワクチン・検査パッケージ」では客に対し、具体的にどのようなかたちでワクチン接種歴もしくは検査結果を確認していくのか。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の10月1日時点の発表によれば、技術実証では次のような方法を取るとしている。

①ワクチンの2回目の接種完了から2週間が経過している場合は、接種証明(予防接種済証、ワクチン接種証明書及び接種記録書)を入場前に確認(コピー、写真でも可)

②2週間が経過していない場合は、入場3日前以内に採取された検体を用いたPCR検査等の結果証明を入場前に確認

③どちらも持っていない人に対しては、入場1日前以内に採取された検体で抗原定性検査等を行ない、検体採取日時を確認する

①~③いずれの場合も、マイナンバーカードや運転免許証等で本人確認をする。これらに、従来のようなマスク着用、換気、大声の抑制、入場者リストの作成といった感染対策、さらには「新技術の活用による3密回避」などを組み合わせて技術実証を行なうと公表している。

11月の矢沢永吉のコンサートの追加席では、①と②を組み合わせたかたちを取っている。

ワクチンの2回目接種から2週間以上経っている人は、証明書を10月中にインターネット上から写真登録。経過していない場合は、事前に送付されるPCR検査キットで「開催3日前の午前中に唾液を摂取」して運営へ郵送し、開催前日に専用ページで通知される検査結果が陰性だったら、参加可能となる。

全4公演を収容率100%で行なうHey! Say! JUMPのコンサートはさらにハイテクだ。

ワクチン接種歴の確認や事前の検査だけでなく、AIの画像診断技術でマスク着用率を確認したり、レーザーで密集する場所を把握したり、複数の測定器でCO2濃度を測定したりして、デジタル技術で感染リスクを抑えられるか検証する。レーザーおよび画像解析で観客が分散退場できているかの確認まで行ない、大掛かりな技術実証となる予定だ。

こうしたイベント当日や事後のアンケート調査とあわせて、ワクチン証明や検査結果の確認手順や、各技術に実効性はあるのか、国が検証していくとしている。

ライブハウス・小劇場はどうなる? 北海道では11月末、提案中の愛知県は「早くても12月」

大規模な音楽コンサートの技術実証は始まりつつあるが、気になるのはライブハウスや小劇場でのイベントだ。

9月30日に内閣官房が候補案件の第1弾を発表した際、「北海道、愛知県、大阪府、熊本県にあるライブハウス・小劇場等のなかから技術実証を行う店舗を選定」し、具体的な店舗名は後日サイトで公表するとしていた。

しかし11月1日に更新された「技術実証の選定案件一覧」では、10月後半に東京都23区内の映画館で2件、11月下旬から12月上旬にかけて北海道札幌市のライブハウスで1件、ライブハウスや小劇場で1件、計4件の実施しか発表されていない。

そもそも発表された対象は、なぜ1道1府2県だけだったのか。

内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室に取材したところ、「公表した9月30日時点では、ライブハウス・小劇場を提案してきた自治体が、その1道1府2県だけだったため」と回答した。

技術実証は基本的に、まずは各府省庁や地方自治体から実施したい施設や店舗、イベントの提案がある。そのなかから適正に技術実証を実施できる体制が施設や運営側にあるかどうか、同推進室の定める委員会が検討したうえで選定している。「9月30日で応募は締め切っているわけではなく、その後も各自治体から提案があれば候補案件として選定していく」(同推進室担当者)とのことで、都内の映画館で実施された2件については、その後東京都側から申請があったものになる。

残る大阪府、愛知県、熊本県が提案したライブハウス・小劇場の技術実証については、現在も検討中ということになる。具体的にどの店舗で、どれくらいの数が提案にあがり、実施が決まっているかは「公表しているものがすべて」だそうだ。

いずれにせよ、他県や多くの施設で実施されるには、各自治体が地域のライブハウスや劇場と連携をとりながら提案していけるかどうかが、一つの肝となっている。10月27日に兵庫県は技術実証の実施を初めて発表したが、飲食店の11店舗のみでライブハウスや劇場の名前はなかった。

一方で大阪府や愛知県の発表によれば、国側の選定に時間がかかっている気配も見られる。

大阪府の吉村洋文知事は10月6日の会見で、ライブハウスや飲食店の技術実証について「中身について国と協議中で、まだ具体的になっていないのが現状です。特にいま政権も変わりまして、担当大臣も辞めてごろっと変わりましたので」と、停滞感を口にしていた。

できるだけ10月中に実施すべきだとしつつも、「最後に中身を詰めてくるのは国なので。総理も解散するとおっしゃってますし、どこまで実現できるか現実的に(はわからない)、現状そういうところです」と、内閣交代と衆議院解散によって難航する恐れがあることを示唆していた(※10月14日に岸田首相は衆議院を解散。19日公示、31日投票の日程で衆院選が実施された)。

愛知県の大村秀章知事は10月13日の会見で、定員800人のライブハウスで技術実証の枠組みを提案していることを発表。しかし「われわれのところに(国側から)日付だとかアーティストだとかどういうかたちでやるかの具体的な連絡は来ていない」「できれば年内、年内と言っても12月でしょう」と、実施はまだまだ先になると予見している。

特にライブハウスは2020年のコロナ禍以降、営業の自粛や休業を余儀なくされ、閉店に追い込まれる店が全国各地で相次いでいる。日常生活の回復に向けた「ワクチン・検査パッケージ」という仕組みが打ち出されようとも、導入前に施設の経営が持ちこたえられなければ元も子もない。早めに技術実証できるかどうかが大きなカギを握るだろう。



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