深夜の視聴者を震撼させた、実験的すぎるテレビ番組『蓋』の手応えをディレクターに聞く

2021年9月某日。「テレ東で不気味な番組がやってる」「1人でうっかり見ると怖い」というTweetが未明に駆け巡った。本来、テレビ番組が放送されない午前4時台に謎の映像が10分間流れたのだ。

監視カメラやウェブカメラで撮影したような映像、誰かのPC画面のような映像が映ったかと思えば、暗い渋谷の下水道の様子が映し出される。放送事故のようにも見えるが、れっきとしたテレビ番組らしい。

テレビ東京のウェブサイトには「実験的蓋番組」という説明と『ハイパーハードボイルドグルメリポート』などを手掛けてきたディレクター、上出遼平が仕掛け人であるとの記載があった。未明に突如放送され、ネット上で注目された番組は、いったい何なのか? 本人に直撃取材を試みると上出は「地上波はいまこそブルーオーシャン」と語る。2020年には、国内総広告費でインターネットがテレビを抜いた。沈みゆくと言われて久しい業界で何を思うのか。

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平が仕掛ける「実験的蓋番組」

―この『蓋』というテレビ番組は、どういった経緯で生まれたんでしょうか?

上出:1年くらい前に、ヒップホップユニットのDos Monosから「MVをつくってほしい」と声をかけてもらって、そこが始まりです。

―これ、MVだったんですか?

上出:ぼくはテレビ局の人間としてドキュメンタリーばかりを撮ってきたので、つくり込んだ映像が得意ではない。そういう自分がMVをつくってもいいのかと思いましたし、どうせやるならMVの枠にとらわれずに面白いことをやりたかった。

一方でDos Monos側も「どうして音楽をつくったら、それに合わせてMVをつくる「お約束」があるんだろう? もっと別なやり方はないのか」という問題意識があったみたいです。

Dos Monos“medieval”のMV。『蓋』のロケ地で撮影された。

上出:ぼく自身はテレビマンとして自分の戦場で面白いと思えることを試みたいし、Dos Monos的には新しいプロモーションを模索したいという目論見が一致したので、1年ぐらいの時間をかけて番組制作と楽曲制作を同時に進めました。

―なぜ停波枠(深夜〜早朝の放送休止時間)に番組を放送しようと思ったんですか?

上出:ずっと思ってたんですよ。「停波枠、もったいなくない?」って。テレビ局って番組改編期に企画募集をするのですが、基本的にはレギュラー番組がびっしりつまっていて、若手が新しいことにトライする枠がない。それなのに、番組を一切放送しない時間があるのって謎じゃないですか。

もちろん停波枠とはいえ、スポンサーがつかないと番組を制作できないことは理解しています。ただ、逆にお金さえ持ってくれば停波枠を自由に使えるんじゃないかと考え、Dos Monosと共に、自分たちでスポンサーを探しました。

テレビ番組制作は、編成局に企画書を出して、通ったらタイムテーブルにはめてもらうのが一般的な流れなんですが、今回の場合は「スポンサーがつきました→停波枠が空いてますよね→企画あります→やらせてください」という流れでした。

もちろん1人で進めたわけではなく、先輩が各部署との調整や細かい契約上の手続きなどに奔走してくれたことで実現したのですが、オンエアまで社内のほとんどの人が内容すら知らなかったと思います。

じつはそんなに「驚き」がないインターネット

―とはいえ、実際の番組では、Dos Monosのメンバーが登場するわけでもなく、まったく関係ない不思議な映像を流したのはなぜですか?

上出:不可解な映像を無理やりお茶の間に届けたかったんですよね。異物が突如家に侵入してくる感じ。

―実際、視聴者からは狙い通りの反応が来ていたように思います。

上出:視聴者に驚いてもらいたかったというのが大きいです。それがテレビの醍醐味だと思っているので。

―驚かせられるのがテレビの魅力、ということですか?

上出:そうです。「テレビはネットに食われてる」と言われてますけど、じつはネットで驚く体験ってあまりないなと思ってるんです。ネットって自分で情報を取りに行くものだから、ある程度結果が想像できるし、サムネイルを見ただけで内容も予想できちゃうじゃないですか。ネットは確認するための作業が多い。

でも、地上波のテレビって、ふいに殴られるというか……テレビ画面を通して突然侵入される感じがする。

―惰性でテレビをつけていたら、突然変な映像が流れたらびっくりする、みたいな?

上出:そうですね。あと、この番組は宣伝もできないし、そもそも放送時間は朝4時だし、どうやったら注目してもらえるのかと考えたときに「事故」だなと。事故の瞬間を目撃した人って、それを広めたくなりますよね。だから放送事故を思わせる演出を随所に施しました。

―事故っぽい映像?

上出:簡単に言うと、現実かフィクションなのかよくわからない、その境目のモキュメンタリー(フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法)にしました。

ハッカーがテレ東の停波枠と渋谷中の監視カメラをハックしたという設定で番組を進める。監視カメラ風の映像は、GoProに長い一脚を取り付けて撮影しました。

―実際、監視カメラのハッキングって可能なんですか?

上出:他人のPCのウェブカメラにアクセスして、覗き見ることって余裕らしいんですよ。監視カメラも無防備なものは外部からアクセスするのは簡単みたいです。実際、世界中の監視カメラ映像を垂れ流してるサイトもありますし。こういう現実にある話をベースに映像をつくっていきました。

―ストーリーのメイン舞台は、渋谷の地下を流れる川ですよね。地下の暗渠に何かがいて、都市伝説になっているというような。

上出:そうですね。YouTuberとかマンション管理人とかいろんな人たちが登場しますけど、演者には役の設定を説明するだけで、基本はアドリブで進めてもらいました。

スタッフが映り込んじゃうと物語が成立しないので、演者一人で地下に潜入して、自分でカメラを回してもらいました。いま、ほとんどの人が何かしらのカメラを持ってますからね。僕は芝居の細やかな指示などはした経験がほとんどないので、役者さんが自然にその世界で振る舞える環境を用意することに集中しました。

『蓋』番組内で登場したYouTubeチャンネルは「Nちゅーぶ」という名前でYouTube内で視聴できる

―Twitterでは「放送事故か?」とすごく話題になりました。

上出:そうですね。Twitterの反応は全部見てました。もともと5話分だけつくって、あとは再放送を2周するつもりだったんですけど、Twitterの反応見てたら「視聴者とこんなにコミュニケーションが取れる機会はないぞ」と思ったし、「これだけ期待されたら再放送では逃げきれない」と思い、急遽スタッフを集め直して新しいエピソードをつくりました。

―視聴者とコミュニケーションを取る、とは?

上出:例えば『蓋』の考察とかまとめ記事をつくってる人がいたら、そのサイトをすぐに次のエピソードで登場させちゃう。「あなたの考察、読んでるよ」って伝えたくて。視聴者の反応をダイレクトに番組に反映するつくり方は新鮮でした。12月には渋谷Hikarieの8階で展示イベントを開催します。いろんな意味でギリギリのものになると思うので、たくさん人に体験してもらいたいです。

逆にいま、テレビがブルーオーシャン説

―「実験的蓋番組」を放送してみて、結果はどう感じてますか?

上出:予算的な話でいうと、追加エピソードをつくっちゃったので、黒字にはなってないです(笑)。

でも、手応えは感じました。テレビって一方通行のメディアだと思うんですけど、『蓋』は放送中のリアクションをリアルタイムで見て、それを次回の話に反映するっていう双方向でコミュニケーションがとれたので。

『蓋』には台本はないし、演技指導もしてないので、地下の川を歩く女の子の表情って事実なんですよね。監視カメラ風に撮影した映像だって、ぼくたちがつくりこんだものではなくて、あの瞬間の事実。だから全編フィクションというわけでもない。虚実皮膜っていうか、現実とフィクションの境目を撮ったものだと思ってます。

そういうのも含めて視聴者とコミュニケーションとりたかった。「これ、リアルだと思いますか?」「どういう感覚でこの映像を捉えてますか?」って。

停波枠を使ったり、モキュメンタリーだったり、捉えづらい演出をしたり、いろんな実験をつめこみましたけど、お金さえ用意すればこういうチャンレンジができると証明できた。

「テレビがつまらない」と言われて久しいですけど、逆にいま、テレビはブルーオーシャンだと思うんですよね。期待値が下がってるからこそ、面白いものつくったら目立てる。

やっぱり、同じ時間に大勢が目撃するっていう現象はめちゃくちゃ強い。ネットでもライブ配信はありますけど、ふいにお茶の間へ侵入していけるのがテレビの強み。

こういう企画が続けばいいですね。停波枠を競売にかけて番組をつくってもらうとか、クラウドファンディングとか。テレビがもっと遊べる場所だとわかったのは、実験の成果でした。あと星野源さんが見てくれたのは嬉しかったですね。ぼく、ポップスター大好きなので。

イベント情報
『蓋展』

2021年12月9日(木)〜12月21日(火)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8階
時間:11:00〜20:00
「炊き出し」
12月14日、12月15日
「講演」
12月16日19:00
出演:若林恵、上出遼平(テレビ東京)、Taitan(Dos Monos)
※展示内に番組映像あり


フィードバック 68

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • 深夜の視聴者を震撼させた、実験的すぎるテレビ番組『蓋』の手応えをディレクターに聞く

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて