気候変動から見た衆院選。これ以上の温暖化を防ぐため、どの党に投票すべき?

(メイン画像:Photo by Ma Ti on Unsplash)

10月31日に迫る衆議院選挙。現在の政治に対して有権者が意思を示すことのできる大切な機会だ。

残念ながら気候変動問題は大きな争点にはなっていないのが現状だが、それでもより意欲的に問題に取り組む姿勢を見せている候補者や政党を支持することは、持続可能な地球環境のために社会の仕組みを変えていくことの後押しになる。自分の消費行動を考え直したり、省エネに努めたりすることだけでなく、投票に行って意見を表明することも、個人でできる気候変動への行動のひとつだ。

では、今回の選挙戦に臨む各党は気候変動問題にどんな方針を打ち出しているのだろう? ここでは、特集『Habitable World──これからの「文化的な生活」』の一環として、気候変動対策のさまざまな論点とともに今回の衆院選を考える。

気候変動対策は「争点」にならない?

「政権選択」に向けた衆議院議員選挙の投開票が10月31日に迫る。発足したばかりの岸田政権(自民・公明連立)に対し、立憲民主や共産、国民民主、社民、れいわ新選組の野党5党は共闘態勢で政権交代を訴え、キャンペーンは大詰めを迎えている。

岸田文雄首相は今回の選挙を「未来選択選挙」と命名した。「皆さんの未来を託してほしい」とアピールしている。しかし、与野党の論戦に耳を傾けても、私たちの未来に直結する地球温暖化問題など、国際社会が共有すべき課題は主要な争点になっていない。

ドイツで先に実施された総選挙では気候変動対策が最大の争点の一つになった。温暖化の主因である温室効果ガスをめぐり、削減目標の前倒しを掲げた「緑の党」が大躍進し、第3党になった。日本とはあまりにも対照的な選挙模様である。

コロナ対策は重要だ。貧困層への対処や格差是正に向けた経済対策も言うに及ばない。しかし、脱炭素化に向けた具体的な取り組みもまた急務である。候補者のあいだで活発な議論がなされないのは「気候変動対策は票にならない」との認識からだろうか。私たちはこの「難問」にどう向き合えばよいのだろう。

温室効果ガスの削減目標は? 国際機関は「46%削減では足りない」

「気候危機の打開、これを選挙の大争点にしていきたい。2030年までに(温室効果ガスの)思い切った削減がないと、未来はないですから」。選挙公示前の10月17日、国政政党9党の党首が「ネット党首討論」(ニコニコ主催)に臨んだ。気候変動対策は論議の対象にならなかったが、最後に共産党の志位和夫委員長がそう言って、くぎを刺した。

2015年に採択された温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比較し「2度未満」に抑えようとするもので、「1.5度未満」が努力目標。まずはこの「1.5度未満」を達成するため、各国も、そして日本の各政党も、2030年と2050年に向けた温室効果ガスの削減目標を掲げている。「温室効果ガスの削減目標」。これが気候変動対策の第一の論点である。

日本政府はいま、「2013年度比で2030年46%削減、2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げている。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量を、森林の吸収や排出量取引などで吸収される量を差し引いて全体として実質ゼロにすることだ。

菅義偉前首相は昨年10月の所信表明演説で「わが国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言する」と述べている。じつは、日本では政府だけでなく、すべての政党が「2050年目標」として「カーボンニュートラルの実現」を掲げており、これは文字通りの国家目標である。

問題は、そこに至る2030年に向けた当面の削減目標だ。国際研究機関「クライメート・アクション・トラッカー」によれば、日本はパリ協定の目標のために「2013年度比で60%以上削減」が必要だという。選挙公約でこの要求に則した目標を掲げているのは共産、社民の革新政党だけ。最大野党の立憲は、政府目標と革新政党のほぼ中間値の「55%削減」、与党の自公と、維新は現状の46%としている。

「脱石炭」に各党はどう取り組むか

とはいえ、目標を唱えるだけなら誰でもできる。空念仏とならないよう、どう実現させるかがポイントである。そこで留意したいのが、気候変動対策の第二の論点「脱石炭火力発電に向けた取り組み」である。石炭火力発電が排出する二酸化炭素が温室効果ガス増加の元凶になっているからだ。

先の「ネット党首討論」に続いて翌18日には日本記者クラブでも討論会があった。気候変動対策については共産の志位委員長と岸田首相の質疑応答だけだった。志位委員長は「気候危機は非常事態であり、危機感を共有して緊急に行動すべき。その試金石が石炭火力への対応だ」と述べ、石炭火力からの撤退についてただしたが、首相から明確な回答はなかった。

気候変動対策をめぐり、国際社会では、石炭火力発電をどうするかが最大の争点になっている。10月31日からグラスゴーで始まる『国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)』でも、石炭火力発電の段階的な廃止は重点議題の一つだ。国連は、先進各国に対して2030年までの段階的廃止を求めているが、日本は非効率な発電所は廃止する方針を示しているものの高効率のものは継続させ、G7(先進7カ国)のなかで唯一、石炭火力新増設を計画し、その撤退期限すら持たない国となっている。

安倍前政権の環境相・小泉進次郎氏は、2019年12月、『COP25』の演説で、「脱石炭」の意思を示さなかったことで海外から猛烈な批判を浴びた。日本では現在、石炭火力は発電量の約3分の1を占め、液化天然ガス(LNG)火力に次ぐ「基幹電源」である。高効率の石炭火力を輸出する政策も進めている。

今回の衆院選で石炭火力について各党はどんな公約を示しているのか。政権与党の自民・公明は「非効率な石炭火力はフェードアウト(徐々に取り除く)させ、発電効率の高いものは今後も維持する」方針を示し、「脱石炭」の明記はない。

立憲は「石炭火力からの転換を図る」とし、石油・石炭火力は当面緊急時のバックアップ電源として活用する方針を示すが、2030年までの目標の明記はない。「2030年に脱石炭」を公約に掲げているのは共産、社民、れいわ新選組の3党だ。

ただ日本では、東日本大震災に伴う福島第1原発事故の「後遺症」を考慮する必要もある。この事故で国内の原発の割合が大きく落ち込んだため、電力各社は石炭火力の比重を増やしたという事情があるからだ。

関連して、「再生可能エネルギーの導入とその目標設定」についても触れておきたい。政府が示している基本計画案では、2030年の電源構成比率は36〜38%。自民は衆院選に向けた公約で「最大限の導入」として具体的数値は示していない。公明は政府計画案と同じ。野党については、「割合を拡大する」としている維新と、国民民主の40%以外は50%を目指す。

「炭素の価格付け」、カーボンプライシングとは?

気候変動対策に絡む第三の論点で、国際社会で大きな争点になっているのがカーボンプライシングだ。「炭素の価格付け」とも呼ばれる。先の小泉氏は「石炭火力と同様に、カーボンプライシングが国際社会で最も注目されるテーマだとは、日本では認識されていない」と漏らしている。

カーボンプライシングは、二酸化炭素の排出量に応じ、企業や消費者に費用負担を課す仕組みである。具体的には主に「炭素税」と「排出量取引」の二つの方法がある。

炭素税については、二酸化炭素の排出量に応じて企業などから税金を徴収するものだ。1トン当たりいくら、というかたちで課税する。世界銀行の発表によれば、2021年現在デンマークなど27か国が導入済み。日本では2012年から二酸化炭素の排出量に応じて課税する「地球温暖化対策税」を導入しているが税率は低く、炭素税の本格的な導入に向けた議論はこれからだ。

炭素税は、その税収を給付金のようなかたちで国民に再配分するといった方法も論議になったが、すでにガソリン税や地球温暖化対策税などがガソリン代や電気代に上乗せされている現状も踏まえ、さらなる税負担へのアレルギーは根強い。もともと電気代も高く、消費増税もあった。産業界を中心に反発が大きい。

排出量取引については、企業や団体に対して二酸化炭素排出の上限(目標)を設定。「これ以上排出してはいけない」と義務づける。目標より少なければ、差し引いた残りを「排出権」として売ることができる。超過した場合はその分の権利を買って埋め合わせる。日本では東京都や埼玉県がすでに導入している。

環境政策に関する市民からの問いかけに各党が回答

さて、今回の衆院選では、気候変動対策は熱い争点になっていないが、市民グループなどがアクションを起こしている。有志が「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」を立ち上げ、国政政党へ公開質問状を送ったのもその一つ。質問は19項目67問。気候変動対策を含む環境問題に関する項目もある。これまでに紹介した「四つの論点」を踏まえて見ていただきたい。

「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」ではコロナ対策、働く人の権利、ジェンダー平等などを含む19項目に対し、6つの党が回答している(サイトはこちら

2018年に当時15歳だったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリが始めた学校ストライキに共感し、2019年に若者たちによって立ち上げられた環境保護活動「Fridays For Future Japan」は告示日直前に各政党とオンライン上で公開討論に臨んだ。テーマは「環境政策の方針」「石炭火力」「原発」「若者の声の政策反映」。「2030年までの石炭火力廃止」といった問題に対して同じ「○」の回答でも、再生可能エネルギーや原発の活用など、その中身について各党の姿勢や方針の違いがよくわかる。討論の様子はライブ配信され、現在も動画が公開されている。

「Fridays For Future Japan」が10月17日に行なった「将来世代×各政党 気候変動政策討論会」の動画。各党の議員が登壇した(サイトはこちら

コロナ禍で「政治」は国民からの強いプレッシャーがあれば、目の前にある課題を危機と捉えて対処した。しかし、気候変動の危機に関しては、まだまだ危機とは捉えていないように見える。

先の「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」はこう呼びかけている。有志がそれぞれの問題意識から持ち寄った質問を煮詰め、政治家にただした。「私たちひとりひとりの未来を選択する一助になれたらと思います。そして、私たちの切望する未来を共に創って行きましょう」。

政治家とのオンライン討論会を開催した「Fridays For Future Japan」。トゥーンベリの影響を受けて結成の中心メンバーとなった鹿児島大学2年の中村涼夏さんは環境相当時の小泉氏と何度も面会し、国会で発言する機会も与えられた。その彼女が訴える。(毎日新聞「『大人は責任放棄』 孤独や絶望乗り越え、20歳が温暖化対策訴え」)

「温室効果ガスを多く出す石炭火力発電を廃止する議論が見えてこないのは大問題。将来、影響を受けるのは私たち若者なのに、問題の深刻さに気づいていないのではと思ってしまう」。中村さんは衆院選を前に、動きの鈍い政治家や政府の姿に落胆しつつも運動を続けている。「気候危機に終わりはないから」と。



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