映画界で相次ぐ性被害の告発。制作現場の労働環境、匿名可能のアンケートで調査へ

メイン画像:一般社団法人Japanese Film Project提供

映画界で、監督や俳優から性被害を受けたと訴える女性たちが相次いでいる。映画監督有志や小説家らが声明を出すなど影響が広がるなか、映画界のジェンダーギャップや労働環境の改善に取り組む団体「Japanese Film Project」が、実態を把握するためのアンケート調査を実施中だ。

集計結果は一般公開され、映画界の労働環境改善のために活用していくという。団体の発起人を務める映像作家・歌川達人は、「問題を解決するためには現場の人の声が必要」と訴え、アンケートへの回答を呼びかけている。

すでに400件の回答 賃金や労働環境、ハラスメントや性被害についての質問も

ウェブアンケートでは、過去に一度でも映画制作現場で働いたことがある人から回答を受け付けている。

俳優も対象としており、設問は契約関連や就業時間、安全管理、賃金のほか、ハラスメントや性被害など多岐にわたる。匿名での回答も可能だ。

アンケートを実施する「一般社団法人Japanese Film Project(以下、JFP)」は、歌川がジャーナリストの伊藤恵里奈、映画監督の西原孝至とともに2021年7月に設立した。

日本映画界におけるジェンダーギャップや労働環境、若手人材不足などの問題解決を目的としており、実態調査や提言などの活動を行なう。設立直後には、21年間で製作された大作映画における女性監督の割合が「32人に1人」などと報告する調査結果を公表(*1)。2022年2月に法人化し、現在はメンバーも増え8名で活動している。

今回のアンケートは、トヨタ財団2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の一環として、3月下旬から集計をスタートした。

同月初旬、期せずして『週刊文春』が映画監督・榊英雄の性加害疑惑を報道。その後映画界では告発が相次いでいるが、アンケートは週刊誌報道が出る前から準備していたという。

集まった回答数は、すでに400件以上。歌川によると、制作現場でハラスメントや暴力被害にあったと訴える声が多数届いているという。その多くが若手のスタッフで、パワーバランスで弱い立場にいるため被害を言い出せなかったり、訴えても撮影現場から外されたりするなど、「泣き寝入り」せざるをえない状況だったと報告している。

アンケートは6月30日に締め切り、労働問題の専門家などの分析をふまえて調査結果をまとめ、公表する予定だ。

聞くべきは、搾取されている「現場の人たち」の声 

歌川が強調するのは、現場で働く人たちの声を聞き、可視化することの重要性だ。

「これまでも映画業界を良くしようという活動は至るところで起きてきましたし、自分もなんとかしたいと思って活動してきましたが、結局業界内のパワーゲームになってしまい、具体的な話が全然進まないなと感じていました。

現場の労働環境を良くしたい、問題を解決したいとなったとき、本来誰の声を聞かないといけないかというと、現場の人なんです。けれど、いままでは映画監督たちばかりにマイクが向けられていた。一方で、監督は権力構造のなかで見ると『搾取できてしまう側』にいる。その立場にいるごく一部の人が集中して声を上げるだけではなかなか物事は解決しないし、ある種パフォーマンスのようにならざるを得ない一面もあると思います。

いろんな人がいろんなところから声を上げられる社会になっていかないと問題は解決しない。ではみんな声を上げましょうといっても、現場の人たちはなかなか声を上げられない。声を上げたら仕事に悪影響がでる恐れがありますし、そもそも忙しすぎて声を上げる余裕がないからです」

そうした背景から、匿名性を担保する実態調査が必要だとJFPの設立時から考えていたという。

「3月頃からたくさんの人が声を上げ始めて、いろいろな角度から声が出てきていて。それはすごく良い流れだなと思って、報道やTwitterをみていました。

今回のアンケートは決してアリバイ的にやるのではなく、結果を公表したうえでどうすればいいか、有識者とともに考え、改善のための提言につなげていきたいと思います」

園子温への告発も これまでの経緯は

映画界では、監督や俳優らの性加害疑惑の報道が相次いでいる。

俳優に性的関係を強要したと報じられた映画監督の榊英雄は3月9日、声明を発表(*2)。「今回の記事上で、事実の是非に関わらず渦中の人とされてしまった相手の方々にも、大変申し訳なく思っております」と謝罪したが、「記事の内容につきましては、事実であることと、事実ではない事が含まれて書かれております」とコメントした。

3月28日には、俳優の木下ほうかが『週刊文春』による性加害疑惑の報道を受け、芸能活動の無期限休止を発表した。

また、4月初旬には「週刊女性PRIME」が映画『愛のむきだし』などを手がけた園子温の性加害疑惑を報道。園は制作プロダクションの公式サイトを通じて、「映画監督としての自覚のなさ、周りの方々への配慮のなさを自覚し、今後のあり方を見直したいと思っております」と謝罪する声明を出した(*3)。一方で、報道については「事実と異なる点が多い」とつづっている。

 ◇

アンケートは以下のリンクから。映画制作現場で働いたことがある全ての人を対象としている。回答は2022年6月30日まで。

映画制作現場の労働環境改善に向けたアンケート調査2022

またJFPでは、コロナ禍を受けた文化庁助成金「ARTS for the future!(AFF)」の「映画上映」および「映画製作」に申請した人を対象とする実態調査も行っている。両アンケートの締め切りは2022年4月30日。

AFF映画上映分野におけるアンケート実態調査

AFF映画製作分野におけるアンケート実態調査



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