フェムテックを学ぶことが、働きやすさにつながる? 伊藤千晃さんと考える、これからのウェルビーイング

近年ますます注目が集まる「フェムテック」。最近では、女性が抱える健康課題をサポートするために、フェムテックを活用した取り組みをはじめる企業も増えてきている。

今年3月、ケーブルテレビ最大手であるJ:COMが社内向けイベント『J:COM meets Femtech!』を本社オフィスで開催。

最新のフェムテックアイテムを実際に見て触れることのできる展示スペースを設置し、セミナーも実施。これまで興味はありながらもなかなか触れる機会がなかった従業員に向けて、フェムテックや女性の健康課題について知識を身につけられるリアルな場をつくった。

今回、こちらのイベントを、フェムテック・フェムケアの大切さを積極的に発信する元AAAの伊藤千晃さんが訪問。最先端のフェムテックアイテムと、現場のリアルな課題感に触れながら、イベントの様子をレポートします。

さらに、J:COMの担当者とともに、フェムテック・フェムケアに着目する理由や、すべての人が自分らしく、生き生きと働くために必要なことについて語り合いました。

生理・妊活・更年期・男性向けまで。進化の続くフェムテックアイテム

展示スペースには、吸水ショーツをはじめ、月経カップやデリケートゾーンケアアイテム、男性用の妊活アイテムなど幅広いジャンルのフェムテックアイテムがずらりと並ぶ。

これまでさまざまなフェムテックアイテムを試してきたという伊藤千晃さんも興味津々。

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イベントには、アジア・日本のフェムテック市場を牽引し、啓蒙普及にも取り組むfermata(フェルマータ)株式会社も協力。展示スペースの横では、女性の健康課題の実情について学べるセミナーを実施し、フェルマータのセールスマネージャー森本将也さんが登壇した。

フェルマータの取締役・村上茉莉さんに、展示スペースを案内してもらった。

・月経カップ

伊藤:月経カップはずっと気になっているのですが、どうしてもお手入れが大変そうというイメージがあり、ハードルが高くて……。

村上:最近は初心者の方でも使いやすい小さめのサイズや、柔らかいものなど種類もたくさん出てきています。フランス生まれのヘルスケアブランド「Claripharm(クラリファーム)」の月経カップは、煮沸洗浄に使えるケース付き。水を入れて電子レンジで加熱するだけなのでお手入れもとても簡単でおすすめです。

・デリケートゾーンケア

伊藤:気軽に取り入れられるデリケートゾーンケアアイテムはフェムケア初心者におすすめです。

・性交痛軽減アイテム

村上:「オーナット」は、医療の専門家と協力してつくられた性交痛軽減アイテムです。柔らかい素材でできたリングを挿入側の根本に装着することで、挿入の深さを調節できます。言い出しづらい悩みに対して、コミュニケーションのきっかけにもなると人気のアイテムです。

伊藤:どうしても「多少痛くても我慢するのが当たり前」と思ってしまいがちですが、こうしたアイテムがあると、「悩んでるのは自分だけじゃないんだ」と思えますね。

・メンテックアイテム

村上:これまで妊活は女性主体のイメージがありましたが、最近は男性の不妊問題にも注目が集まっています。「TENGA MEN’S LOUPE メンズルーペ」は、自分の精子の活動状態をスマホで簡単に見ることができるんですよ。

伊藤:わ〜すごい! こうしたプロダクトを間に挟むことで、これまでパートナーとは話しにくかったことも、話題にしやすくなるかもしれませんね。

「TENGA MEN’S LOUPE 」 / TENGA提供

「赤ちゃんを抱きながら泣いていました」 伊藤千晃さんとフェムテックの出会い

展示スペースをめぐったあとは、伊藤千晃さんへのインタビューを実施。自身のライフスタイルに大きく影響を与えたフェムテックへの思いを聞いた。

―伊藤さんは、出産をきっかけにフェムテックに興味を持ったそうですね。

藤:私は30歳で子どもを産んだのですが、産後の身体の変化にとても驚きました。骨盤が開いて戻らず、筋力は衰え、髪も肌もボロボロ。でも、自分のケアどころじゃなくて……赤ちゃんを抱きながら泣いていました。

思えば、これまで出産について聞かされてきたのは、赤ちゃんのことばかり。自分の身体がどうなるか、それにどう対処すればいいのかなんて誰も教えてくれませんでした。

そんななか、知り合いに「海外ではいまフェムテックというものが広がっているよ」と教えてもらったのをきっかけに調べてみたところ「もっと早く知りたかった!」ということばかり。興味が尽きず、ついには「認定フェムテックエキスパート」の資格まで取得しました。

―いまでは積極的に情報発信もされています。

伊藤:私自身、フェムテックやフェムケアについて「知れば知るほど快適になる」という実感があったので、これを多くの女性に共有したかったんです。幸い、SNSではたくさんの方にフォローいただいていて、なかには若い子たちも多かったので、「いまから知っておいてほしい」という思いで積極的に発信するようになりました。

今回のイベントもそうですが、若いうちからフェムテック・フェムケアについて学べる機会がどんどん増えてほしいと感じています。

『J:COM meets Femtech!』開催の背景にあった思い

続いて、今回のイベントを企画・開催したJ:COM経営企画室マネージャーの鈴木直也さん、ビジネスデザイン本部の小橋奈那さんも交えて、今回のイベントについて意見交換を行なった。

―まずは、本イベントを企画・開催した意図について教えてください。

鈴木:イベントを主催したのは、社内のさまざまな部署から集まった従業員で結成されたチーム、「イノベーション推進タスクフォース」で、さらに趣旨に賛同する有志を加えた計16名の従業員です。

このタスクフォースのミッションは、最先端の技術や分野を探究し、J:COMのビジネスや新事業のアイデアを模索すること。そこで、ここ数年関心が高まっているフェムテックを研究してみないかと、僕の方から提案したことが始まりでした。

というのも、数年前に妻が卵巣嚢腫の手術を受けたことや、日ごろから同僚の女性社員がPMS(月経前症候群)に苦しむ姿を見てきて、何かテクノロジーの力を少しでも役立たせることはできないのかという思いがありました。そこでフェムテックについて学ぶことが、身近な女性をサポートすること、ひいては、女性が働きやすい環境をつくることに役立てられるのではないかと考えたのです。

伊藤:多くの男性は、女性の苦労を気にかけつつも、どうしていいかがわからないというのが現状だと感じます。そこを、自らの経験から「なんとかできないか」と動いてくれる男性がいると知って、とてもうれしく感じます。

―フェルマータに企画・運営の協力をお願いしたのは、どういった経緯があったのでしょうか?

鈴木:まずは情報収集をしようと昨年11月に経済産業省のロビーで行なわれたフェルマータの展示イベントを訪れたことがきっかけでした。

その内容が大変わかりやすく、まさにこういったことを社内でやりたいと思い、その場でフェルマータさんにお声がけさせていただいたんです。

―伊藤さんはイベントを体験していかがでしたか?

伊藤:まず展示を見ながら驚いたのが、ここ数年のフェムテックの進化です。たとえば、吸水ショーツも、数年前には黒かピンク色がほとんどでしたが、いまはカラフルなものが増えて、素材もオーガニックコットンや速乾性のものなど、さまざまな種類がありました。

また、男性の妊活アイテムなど、メンテックも興味深いものがたくさんありました。

フェムテック・フェムケアの浸透、男性も一緒にみんなで目指していくには?

―たしかに、会場には男性社員の参加者も目立ちました。

小橋:そうなんです。イベント前に女性の健康課題に関するアンケートを行なったところ、800名からの回答があり、そのうちの54%が男性からでした。

鈴木:当社は6~7割が男性社員ということもあり、男性が女性の健康課題について知ることは、女性社員の働きやすさに大きく影響するとも思います。そういった意味でも、今回のイベントにはぜひ男性に参加してほしいという思いがありました。

伊藤:鈴木さんのような男性社員が先導に立って推進した今回のイベントは、とても貴重だと感じます。今後、フェムテックやフェムケアが広く認知されていくには、性別を問わないすべての人からの理解は欠かせないと感じています。

言葉やアイテムを一人歩きさせず、根本にある女性の健康課題の理解を広げる

―フェムケア・フェムテックの認知が広がりはじめているなかで、男性も一緒に盛り上げていくにはどうしたら良いと思いますか?

小橋:私は仲間の輪を広げていくことが大事だと感じます。今回の有志メンバーにも男性が半分いるのですが、いまではフェムテックについて気兼ねなく話すことができる仲間です。

地道かもしれませんがこうやってじわりじわりと理解の輪を広げていくことが、一番の近道なのではないでしょうか。

伊藤:同感です。私は男女混合グループで活動をしていたのですが、やはり思春期の頃は、生理痛など女性ならではの悩みについてなかなか話すことができなくて。でも、年齢を重ねるなかで少しずつ自分から話しやすい環境をつくっていきました。

たとえば、フェムテックを勉強するようになってからは、周りの人にも「こんなことを勉強したよ」「こんなものがあるんだよ」と話すことも増えました。女性が恥ずかしがらずに、性や身体のことを話題にすることで、それが「はしたない」ことではないんだと示すことが大事だと思っています。

鈴木:男性も、たとえば新しいトレンドとしてフェムテックの可能性に興味を持ってみると、プロダクトにも自然と目が留まるようになると思いますし、フェムテックの領域にも抵抗なく参加できるような気がします。

伊藤:それは、私もすごく感じています。ただ一方で、本質的な問題を忘れないでほしいなという思いもあって。それこそ最近、フェムテック系のイベントにスーツ姿の男性が目立つようになってきて、「今後フェムテックが『来る』から」みたいな発言を聞いてしまうと、不安にもなるんです。

言葉やアイテムだけが一人歩きするのではなく、根本にある女性の健康課題への理解を深めていくことを置き去りにしないようにしたいですね。

誰もが自分らしく働けるように。ウェルビーイングの実現を目指して

―J:COMではウェルビーイングの実現を重要課題の一つに掲げていますが、そのためにフェムテック・フェムケアはどのように役立つと考えていますか?

小橋:J:COMは、全体で見ると男性が多い会社ではありますが、女性が5割を超える部署もあります。すべての社員が生き生きと自分らしく働くためには、会社として女性の健康課題に取り組むことはとても重要だと感じており、生理休暇などの制度も導入しています。しかし、アンケート結果から読み解くと、そういった制度を利用している従業員は4%未満なんです。

もっと利用しやすい制度や風土を醸成していくのはもちろんですが、フェムテックやフェムケアを一人ひとりの選択肢の一つとして活用してほしいという思いがあります。

鈴木:会社では、年配層の男性ほど、その領域は進みづらい部分があると思うんですよね。若手や中堅層がもっと意見を言いやすくなる場をつくりたいという思いもありました。

小橋:会社という組織ではどうしてもトップダウンで物事が動きがちで、そこに閉塞感を抱いてしまう若手や中堅層は多いと思います。

今回、有志メンバー16人でこのようなイベントを立ち上げたことは、ボトムアップを示すことになったはず。フェムテックを入口に、会社全体にこうしたムーブメントを起こすことは、やりがいや働きがいを生み出すといった部分でも、意味のあることなんじゃないかと思っています。

―伊藤さんは、実際にフェムテックやフェムテックケアを取り入れることによって「働きやすさ」に役立っていると感じることがありますか?

伊藤:やっぱり、体や心が健康でいい状態でいられると、仕事でも子育てでも、とにかく前向きでいられますよね。

私自身、フェムテックの力を借りるようになってからは、ライブでもよりいいパフォーマンスができるようになったと感じています。これまで多くの女性が我慢してきた、つらさや悩みを解決する選択肢を増やすためにも、今後ますますフェムテックが当たり前のものになればいいなと思います。

社内ムーブメントから社会へ。J:COMが目指すこと

―今回のイベントを経て、今後取り組みたいことや新たな目標などはありますか?

小橋:J:COMでは、北は札幌、南は熊本まで全国65の拠点があります。各地域と連携した取り組みの一つとして、子どもたちのICTリテラシー向上を図る「あんしんネット教室」を開催しています。すでにある自治体や学校とのつながりを活かして、今後は身体や性について学ぶ機会をつくれないかと考えています。

日本ではいまだに性について学ぶ機会が少なく、情報の地域格差も感じています。できるだけ若いうちから正しい知識を身につけていくことが社会を変えていくことにもつながるはず。ぜひ今後実現できたらうれしいです。

伊藤:素晴らしいですね! 私は自分の身体や性にちゃんと向き合ったのが30代になってからだったので、もっと早くから情報や知識を身につけられていたらと悔やむことがたくさんあります。

ただ、いま6歳の息子を育てながら、母親としてどのように伝えたらいいのか悩むところもあって。そうした機会があれば母親も子どもと一緒に学び、成長していくきっかけができますよね。応援しています!

女性の活躍や働きやすさ、ウェルビーイングという観点での課題が山積みのなか、一つの企業ができることは、きっとまだまだたくさんあるはず。

身近な女性の健康課題に気づき、知ることは、視野を広げ、タブーをなくしていくことにつながっていくのだろう。従業員の声から始まったこのムーブメント。その波紋が広がり社会を変える大きな力になっていくことに心から期待したい。

イベント情報
『J:COM meets Femtech!』

2024年3月18日(月)13時~18時、JCOM株式会社 丸の内オフィス にて開催。

一人ひとりが自分や周囲の人たちの健康に向き合ってほしい”という推進メンバーの想いから、従業員向けウェルビーイングの向上や、フェムテック市場を知り新たな事業を考えるきっかけづくりの場として開催し、従業員約110名が参加した。
プロフィール
伊藤千晃 (いとう ちあき)

1987年1月10日生まれ。 2017年にダンスボーカルユニットAAAを卒業し、2018年よりソロ活動を始動。 アーティスト、モデル、タレントとして多方面で活躍し、美容・ファッションに関する豊富な知識で同世代の女性からの支持も高い。 近年では自らの経験より、フェムテックやオーガニックを通して、全ての女性たちが輝ける生き方について発信している。 2022年3月にフェムテック協会認定資格2級(認定フェムテックエキスパート)を取得。



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