柳楽優弥が語る、映画『竜二』リメイクへの挑戦と「人間臭さ」への回帰。7年の歳月がもたらした覚悟

1983年に公開され、伝説的な熱狂を生んだ映画『竜二』。金子正次が主演・脚本を務め、ヤクザの世界から足を洗い、平凡な日常を生きようと葛藤する男の姿を生々しく描いた本作は、いまも多くの映画ファンの心をとらえている。

その金字塔とも言える作品のリメイクが、10月30日に公開される。本作において、主人公・竜二役を任されたのが柳楽優弥だ。オリジナル版が公開されたのは、柳楽が生まれるよりも前のこと。熱狂的なコアファンを持つ作品に挑むことへのプレッシャー、そしてコロナ禍を経て企画からクランクインまで「7年間」という異例の歳月を費やした背景には、どのような葛藤と対話があったのだろうか。

いまの時代にこの作品を成立させるために、何を残し、何を変えるのか。その暴力描写は、そのセリフは、作品にとって本当に必然性のある表現なのか――。主演として現場で問いを投げかけ続けた柳楽優弥に、たしかな手応えを得るまでの道のりと、いま改めて惹かれるという「人間臭さ」について、じっくりと話を訊いた。

あらすじ:1984年から1990年にかけての、新宿・歌舞伎町。腕っぷしが強く、情に厚いヤクザ・竜二(柳楽優弥)は、舎弟たちから慕われる男。愛するまり子(川栄李奈)と出会い、息子が生まれ、守るべき家族を得たことを機に、裏社会から足を洗うことを決意する。カタギとなった竜二は、酒屋の配達員として懸命に働き始めるが、決して楽ではない。それでも、自ら望んで手に入れた、慎ましくも穏やかな暮らしのはずだった。しかし、薬物に溺れた兄弟分・カズ(三宅健)、そして舎弟であり、竜二にとって「もう一つの家族」でもある直(萩原利久)とひろし(JUNON)が、再び竜二の前に現れる。

7年間の保留と対話。伝説的映画『竜二』リメイクのオファーを受けて

─オリジナル版『竜二』は柳楽さんが生まれる前の作品ですが、今回リメイク版の主演オファーを受けた際、どのようなお気持ちでしたか? プレッシャーなどはありましたか?

柳楽優弥(以下、柳楽):オファーをいただく数年前に、純粋な興味でオリジナル版は一度見ていました。実際にオファーをいただいて、この作品が当時の熱狂的でコアなファン層を獲得している伝説的な映画だということをより深く知って。その作品をリメイクすることの意味や、演じきれるかという自信に対して、最初は半信半疑なところがありましたね。

というのも、オファーをいただいたのはいまから約7年前で、僕はまだ20代後半だったんです。その年齢で、この世界観や竜二という人間の深みを表現するのはなかなか難しいのではないかと感じていました。

─そこから実際に撮影に入るまで、長い時間がかかったのですね。その間、企画はどうなっていたのでしょうか?

柳楽:完全にキャンセルになったわけではなく、台本をいただきつつ水面下でずっとプロジェクトは続いていました。その後コロナ禍に入り、明けてからまた監督やプロデューサーといろいろと対話を重ねていくなかで、気づけば7年ほど経っていたという感じです。

最初はやはり、「なぜいま、この作品をわざわざつくり直すのか?」という疑問も少なからずありましたし、何より「自分に務まるのか」という不安が大きかったです。好奇心だけでリメイクに関わるのは、オリジナル版のファンの方に対しても失礼だという思いもありました。

でも、その7年というプロセスを経ていくなかで、対話を重ねるごとにだんだんと自分のなかで「腹が決まってきた」という感覚がありました。オリジナル版に対する尊敬の念はまったく変わりませんし、あの作品を「超える」とか「追う」といったことは一切考えていません。オリジナルは絶対的なものですから。

ただ、この企画が消滅せずに7年間も水面下でキープされ続けたことには、きっと意味があるはずだと。そう信じられる理由が自分のなかでも見つかってきて、自然と「しっかりこの作品に向き合おう」という気持ちに変わっていきました。

─世に出ない運命の作品であれば、コロナ禍で消滅していたかもしれないと。

柳楽:ええ。どうなるかわからない状況でもしっかりキープされていて、そのプロセスも含めて、僕はこの作品に携われてよかったと心から思っています。結果的に年齢も重ねて、いまの自分だからこそマッチした部分もあるはずです。見てくださる方に楽しんでもらえたらありがたいですが、まずは制作に携われたこと、そして自分自身が成長できる現場を経験できたことに深く感謝していますし、たしかな自信も得られました。

現代の観客に届けるためのアップデート。「作品のなかで本当に意味のある表現か?」

─バイオレンスシーンや女性に対する描写について、柳楽さんのほうから「慎重に話し合いたい」というご提案があったとうかがいました。この点について、特に意識されたことは何でしょうか?

柳楽:僕自身、これまでバイオレンス要素の強い作品に参加させていただくこともありましたし、暴力描写そのものを否定しているわけではありません。ただ、「それが作品のなかで本当に意味のある表現になっているか」ということを、監督やプロデューサーと事前にしっかり共有しておきたいと思ったんです。決してこうしてほしいという意味合いではなく、個人的な確認として。

例えば現場で、妻のまり子に対して平手打ちをするという演出のアイデアが出たことがありました。アクション部とは事前に話せていなかったのですが、僕と監督のあいだでは「それは今回のキャラクターとは違うのではないか」という認識の共有ができていたので、その場で話し合って変更することができました。話し合っていた意義が、しっかり現場で生かされた瞬間でしたね。

─オリジナル版がつくられた1980年代と現代とでは、視聴者の感覚も大きく変わっていますよね。

柳楽:そうなんです。「ビンタをする」という行為が、キャラクターの延長線上にある表現として必然性があればいいんです。でも、「それっぽいからやる」とか「現場の勢いでやってしまう」というのは、いまの視聴者の方にとっては単なる「ノイズ」になってしまうと感じています。

純粋に物語を楽しんで見ていたのに、一つの暴力描写や女性に対するセリフがノイズになって、ずっと引っかかってしまうと、作品としてすごくもったいないですよね。時代によって表現の定義や受け取られ方は確実に変わってきています。

僕はいま30代半ばで、監督など上の世代の方々と、これから増えてくる下の世代のちょうど中間に位置し始めている感覚もあって。だからこそ、疑問に感じたことや違和感があれば、「これはどうなんでしょう?」と投げかけること、そして対話することはすごく大切にしなければいけないなと意識的に取り組みました。

─そうした違和感を口にできるようになったのは、ご自身のなかでも変化した部分と言えますか?

柳楽:そうですね。主演として作品に関わらせていただくうえで、そういう対話を重ねないとダメだなということを学べた現場でもありました。ただ自分だけの感覚で突き進むのではなく、対話をとおして視野が広がっていく感覚がありましたね。時代が違い、常識が違い、いまは配信などで世界中の人が作品を見る時代です。だからこそ、一つひとつの表現の受け取られ方を決して軽視してはいけないと強く思っています。

川栄李奈との4度目の共演。現代における「まり子」の強さと夫婦のあり方

─今回、妻のまり子役を演じる川栄李奈さんとは4度目の共演ですね。役づくりについて、どのようなお話をされましたか?

柳楽:川栄さんとはこれまでに3度一緒に作品に向き合ってきた仲なので、圧倒的な信頼感がありました。だから今回は、役づくりとして事前に「こうしよう」と細かく話し合うような次元はもう超えていたというか。

もちろん作品についての対話はしましたが、何か意図してつくり上げるというよりも、これまでの共演で培った信頼関係のもと、一緒に撮影という山を乗り越えていくような、本当に夫婦になったような感覚がありました。

─オリジナル版のまり子は、いわゆる「3歩下がってついていく」という印象が強かったですが、今回の川栄さん演じるまり子は、より芯の強さが際立っているように感じました。

柳楽:普通に考えて、竜二が一番辛い時期をともに過ごし、交際して結婚するという前提がある時点で、まり子はすごく強い女性ですよね。彼と一緒にいるという確固たる覚悟がある。川栄さんご自身も仰っていましたが、その「強い女性」という見え方の方が、僕も今回の『RYUJI 竜二』という映画の世界観にはすごくしっくりきました。

オリジナル版を正確に追いかけているかと言われれば違うかもしれませんが、そもそも1980年代の女性の寄り添い方を現代でそのまま表現しても、「え?」と違和感を持たれてしまうと思うんです。現代にこの作品が生まれ直す理由として、まり子という女性の描かれ方のアップデートは、必然的な表現の一つなのだと思います。竜二に依存するのではなく、しっかりと彼と向き合って二人の将来をつくっていこうとする、現代ならではの力強さがありましたね。

─そうした二人の関係性や夫婦のあり方は、川栄さんと話し合ってつくっていったのでしょうか?

柳楽:話し合ったというよりは、自然とそうなっていった感じです。先ほど、バイオレンスのさじ加減などを事前に話し合うことの大切さに改めて気づかされたとお話ししましたが、その一方で、現場が持つ力もあると信じているんです。狙ってつくれるものもあれば、狙ってもつくれない空気感もある。

今回の『RYUJI 竜二』は、そういう部分を信じていいタイプの作品だと思いました。そもそも7年のプロセスを経てクランクインしているので、リメイク版としての物語がもうしっかりとでき上がっていた。それに、監督やプロデューサーの方々が先陣を切って舵を取ってくださっていたので、信頼して委ねていこうと。

テクノロジー全盛の時代だからこそ響く、不器用で誠実な「人間臭さ」

─竜二は「昭和の男性像」を象徴するようなキャラクターですが、あまり多くを語らず、体を張って人と向き合うような不器用さを感じます。柳楽さんご自身は、竜二のどのような部分に魅力を感じましたか?

柳楽:元々、北野武さんの映画や高倉健さんの出演作のような、言葉は多くないけれど内面が深く響いてくるような作品や人間ドラマが好きだったんです。今回の竜二も、初稿の台本の段階ではもっといろいろと自分の気持ちを説明するキャラクターだったのですが、台本を改訂していく過程でだんだんと口数が少なくなっていきました。

ただ何かと何かの狭間で、黙って真剣に揺れ動いている。僕自身もそのほうが竜二らしさを感じました。彼はすごく誠実で、自分にとっての「最適解」は何かをいつも真剣に探している。そういう不器用だけれど真っ直ぐなキャラクターは演じていてすごく好きでしたし、楽しかったですね。

─現代は人間関係が希薄になり、SNSやテクノロジーを通じて効率よく他者と関わることが主流になっているようにも感じます。そんな時代に、竜二のような「人間臭さ」を描くことの意味をどうとらえていますか?

柳楽:最近、効率化や合理性が求められる現代で、僕自身も「人間はどうあるべきなんだろう」と考えることが増えました。様々なことが合理的で便利になっていく一方で、「説明しきれない何か」がちゃんと存在していることの尊さを感じるというか。

いまの時代に「昭和の雰囲気が最高だ」と無条件に礼賛することはできません。アップデートすべき常識は当然あります。ただ、それでも僕たちが過去の時代の作品に惹かれるのは、そこに理屈を超えた「人情」や「人と人との結びつき」が濃密に描かれているからだと思うんです。

─過去の表現や価値観をそのまま受け継ぐのではなく、その意味を問い直したうえで、それでも残るものがある。効率化された現代社会に生きているからこそ、竜二の生き様が新鮮に、そして深く刺さるような気がします。

柳楽:そうですね。数年前の自分だったら、インタビューで「人情が……」なんて話すことはあまりなかったと思うんですけど、いまはそういう言葉がすごく自然に出てくるし、まわりの人たちも共感してくれることが多いんです。やっぱり時代そのものが、大きな変わり目に来ているのかもしれません。

テクノロジーが進歩すればするほど、その反動として、仁義や愛情、目に見えない絆といった「人間臭いもの」の響き方や大切さが、より強く浮き彫りになってきている気がします。そんな時代に『竜二』という作品がリメイクされて世に出ることで、図らずもいまの社会の空気に寄り添ったり、何かを問いかけたりする瞬間があるのではないかと信じています。これまでのヤクザ映画や極道映画を見るのとは、少し違った視点で楽しんでいただける作品になっていると思います。このタイミングで、この作品に携わることができて本当によかったです。

プロフィール
柳楽優弥 (やぎら ゆうや)

1990年3月26日生まれ。映画『誰も知らない』(2004年)で、第57回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を日本人初・史上最年少で受賞。映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)では第90回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞などを受賞した。主な出演作に、ドラマ『ゆとりですがなにか』、『ライオンの隠れ家』、Disney+『ガンニバル』、Netflix『九条の大罪』など。主演映画『RYUJI 竜二』が2026年10月30日より公開。2027年1月8日には『映画 九条の大罪』の公開を控える。

映画情報
『RYUJI 竜二』

2026年10月30日(金)から全国公開

原作:金子正次「竜二」
主演:柳楽優弥
出演:川栄李奈 萩原利久 JUNON(BE:FIRST) 田中美里 RYUKI(MAZZEL) 千原ジュニア 三宅健 伊藤英明
監督:水田伸生
脚本:冨岡淳広
企画プロデュース・制作:セディックインターナショナル
制作協力:ダブル・フィールド
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
主題歌:BE:FIRST“It's not a bad life”
2026年製作 / 92分 / PG12 / 日本
©︎2026「RYUJI」製作委員会


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