アラン・マッギー来日記念、UKロックとマッドチェスターを再考

「マッドチェスター」とは一体何だったのか?

Primal Screamの来日ツアー(2013年5月)や、今も語り草になっているMy Bloody Valentineの国際フォーラムでの来日公演(2013年9月)、さらにはThe Chemical Brothersの来日ツアー(2016年10月)など、世界的なアーティストによる数々の来日公演を実現させてきたクリエイティブチームが、8月12日に東京・お台場の特設会場で音楽イベント『UTYO』を開催する。

Underworldなどのアートワークを手がけてきたアート集団、TOMATOのサイモン・テイラーも参加するこのイベント、現段階で出演が決まっているのがBlack Grapeと、アラン・マッギーの2組。Black GrapeはHappy Mondaysの主要メンバー、ショーン・ライダーとBezにより1993年に結成されたグループで、アラン・マッギーはOasisやPrimal Scream、My Bloody Valentineらが所属した「Creation Records」の主宰者だ。

Creation Recordsのドキュメンタリー映画『Upside Down』トレイラー映像

Black Grapeとアラン・マッギー。この並びを見て連想するのは、個人的には1980年代後半~1990年代初めにイギリスで勃発した「マッドチェスタームーブメント」だ。折しも、今年4月に22年ぶりの日本武道館公演を終えたばかりのThe Stone Rosesが、6月のグラスゴー公演で「解散」を匂わすような発言をして物議を醸している。そこで本稿では、Happy MondaysやThe Stone Rosesらが活躍したマッドチェスタームーブメントとは一体何だったのか、改めて振り返ってみたい。

The Stone RosesとHappy Mondays――狂騒の中心にいた2組

「マッドチェスター(Madchester)」とは、イギリスの都市・マンチェスター(Manchester)と、「狂った」という意味を持つ単語「Mad」を掛け合わせた造語である。その名の通り、マンチェスターに存在していた今はなき「ハシエンダ」というクラブを中心に起きたムーブメントで、主に60年代のサイケデリックロックに影響を受けたバンドたちが、アシッドハウスをはじめとする当時のダンスミュージックを大々的に取り入れ発展させたサウンドを指すことが多い。

たとえば、イアン・ブラウン(Vo)、ジョン・スクワイア(Gt)、レニ(Dr)、マニ(Ba)によるThe Stone Rosesは、中期The BeatlesやThe Byrdsを彷彿とさせるメロディー&ハーモニーと、The SmithsからLed Zeppelinまでをも網羅する超絶ギター、そして「人力ハウス」とでもいうべき強靭なグルーヴを融合させたオプティミスティックなサウンドにより、それまでのポストパンク、ネオサイケが持っていた陰鬱な空気を吹き飛ばした。

一方、Happy Mondaysは酒焼けしたようなショーン・ライダーのしわがれた声と、ソウルやファンク、ブルーズ、フォークなど雑多な音楽スタイルをぶち込みグツグツと煮込んだスープのようなサウンド、そしてマラカスを振りながら踊り狂うBezの強烈な存在感によって、シーンの「顔」となった。

熱狂の渦中にいたバンドたちと2つの名作。1991年、ムーブメントは終焉へ

他にも、後に元Oasisのノエル・ギャラガーが、ローディーを務めていたことでも有名なInspiral Carpets、初期Deep Purpleを思わせる、ヘヴィーなオルガンロックのThe Charlatans、キーボードやバイオリン、トランペットを含む7人編成で、“Sit Down”など高揚感溢れるポップソングを数多く輩出したJamesなど、多種多様なバンドが次々と登場しシーンを賑わせた。

マッドチェスタームーブメントはイギリス全土に広がり、The Soup DragonsやFive Thirty、Ocean Colour Sceneなど、一時期は猫も杓子も「おマンチェ」状態に。日本では、フリッパーズ・ギターが“GROOVE TUBE”や“奈落のクイズマスター”といった曲で、いち早くマンチェスターサウンドを取り入れていた。

ムーブメント化して玉石混淆状態に陥ったものの、なかにはPrimal Screamの“Loaded”や“Come Together”、My Bloody Valentineの“Soon”など、マッドチェスターというカテゴリーを超越するような名曲も生み出された。

そして、それらの曲が収録されたアルバム、すなわちPrimal Screamの『Screamadelica』、My Bloody Valentineの『Loveless』がリリースされた1991年には、マッドチェスタームーブメントも終焉を迎え、シューゲイザーやグランジ、ブリットポップといった新たなシーンと入れ替わる。しかし、ダンスミュージックを通過したリズムの解釈、60年代ロックの持つポップネスなどは、形を変えながらも以降の音楽スタイルへと着実に受け継がれた。

アメリカ発祥のユースカルチャー「サマー・オブ・ラブ」から50年を迎える2017年

マッドチェスターはドラッグカルチャーとも強く結びついており、服用すると多幸感をもたらすエクスタシー(MDMA)が、フロアには大量に出回っていた。そのため、60年代アメリカのヒッピーカルチャーや「フラワームーブメント」「サマー・オブ・ラブ」と比較されることも多い。スペインのイビザ島が発祥と言われ、マッドチェスタームーブメントを引き起こすきっかけとなった一連の動きが、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と名付けられたのも、そうした理由からである。

オーディエンスのいるフロアとステージの垣根を取っ払い、会場全てが一体となったコミューン的世界を目指していたのも、エクスタシーの影響だったのは間違いないだろう。ミュージシャンが「ロックスター然」とするのはカッコ悪いとされ、だぼだぼのパーカーにパンツ姿という、あえてダサく着こなす「スカリーズ」なるスタイルも流行した。なお、そうしたカルチャーは、マッドチェスタームーブメントを代表するレーベル、「Factory Records」の社長であり、ハシエンダの経営者でもあるトニー・ウィルソンの回顧録を基にした映画、『24 Hour Party People』(2002年)のなかで、生き生きと描かれている。

今年で1967年のサマー・オブ・ラブからちょうど50年。セカンド・サマー・オブ・ラブからは約30年という、言わば「節目の年」。そんなタイミングで、Black Grapeとアラン・マッギーが日本で「邂逅」を果たすのは、なんとも感慨深いものがある。

Black Grape『Pop Voodoo』(2017年)収録曲

さらにアランは『UTYO』の開催にあたり、The Libertines、The Killers、Kaiser Chiefs、Kasabianなどを発掘した『Death Disco』を再開することを発表。ワールドツアーの開催に伴い、UTYO制作委員会が主導するクラウドファンディングも始動している。来たるイベント『UTYO』と『Death Disco』の再開が、「サード・サマー・オブ・ラブ」を引き起こすキッカケになるのかどうか。今後の詳細、続報を待ちたい。

イベント情報
『UTYO』

2017年8月12日(土)
会場:東京都 お台場特設会場
出演:
Black Grape
アラン・マッギー
and more

プロジェクト情報
CAMPFIRE

アーティスト達の生々しいロックンロールライフをフィルムに収め世界中へ届けたい! by UTYO制作委員会



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