門脇麦×二宮健 いまの20代が考える、岡崎京子カルチャーについて

寂しさを埋めるような時間の過ごし方をした、思い出したくない青春時代は誰しもあるはず。1990年代カルチャーを代表する漫画家・岡崎京子が生み出した短篇漫画『チワワちゃん』は、そうした脳裏に焼き付く青春の爆発と終わりの瞬間をとらえている。

1994年に発表された本作を現代にアップデートした、新たな映画作品『チワワちゃん』が、1月18日に公開される。監督は二宮健、主演は門脇麦。20代半ばの、1990年代をリアルに知らない世代である2人は、岡崎京子作品『チワワちゃん』から何を感じ、どこに共感したのだろうか。

岡崎京子は眩い光と、「死と隣り合わせ」の影の世界を描いていた

「いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。たった一人の。一人ぼっちの。一人の女の子の落ち方というものを。それは別のあり方として、全て同じ私たちの。」(2004年刊行の物語集『僕たちは何だかすべてを忘れてしまうね』より)

1996年1月、岡崎京子は交通事故で重症を負い作家生活が途絶えるすこし前に、自身の作品を振り返る言葉として上記を残した。まるで、彼女がこれまで描いてきた作品を総集するような言葉だ。

岡崎京子作品の多くは、眩い光の中にひそむ終わりのようなものが描かれているように思う。それを身近な言葉に据え置くならば「死と隣り合わせ」、という言葉が近いのだろうか。映画『チワワちゃん』の原作である、1994年に発表された短篇漫画『チワワちゃん』は、たった34ページほどの物語の中にそうした岡崎の哲学が凝縮され、最高傑作として名高い作品だ。

本取材で「きらめきの影に隠れた、鬱屈とした青春時代の寂しさやもやもやが描かれていた」と2人に伝えると、門脇麦は「キラキラした青春映画だった、と言われることがほとんどだったのでビックリした」と言った。

左から:門脇麦、二宮健

—登場人物たちはみんな普通の女の子、男の子で、潜在的には煌めきよりも虚しさや孤独を抱えているように見えました。門脇さんは初めて台本を読んだときに、どんな印象を受けましたか?

門脇:想像以上にクラブで遊んでいるシーンが多かったので、「この作品のテイストに馴染めるのだろうか」と心配でした。クラブに行ったこともないし、彼らの毎日遊ぶような日常がリアルに感じられなくて。

でも、岡崎京子さんの作品は華やかな人たちが主人公として描かれることが多くて、スポットライトを浴びているからこそ感じる孤独や終わりが描かれている印象を強く持ちました。

門脇麦
門脇演じるミキが、クラブで遊ぶシーン。© 2019『チワワちゃん』製作委員会

—派手な人たちのキラキラした映画でしょ、と思われがちですが違うと。

二宮:映像はキラキラしていますからね、でもそれは光量の問題で内容とは関係ない(笑)。

門脇:光量の印象はありますね(笑)。遊んでいる人たちの映画でしょ、とジャンルを分けられてしまいそうですがそうではなくて、若者の誰もが抱えている葛藤を描いている作品だと思います。

私もこういう華やかな人たちとは無縁の人生だったのに、台本を読んで演じてみて、彼らの葛藤が痛いほど刺さってきたり、無理なく共感できたりしました。多くの人から視線を注がれる立場だからこそ、虚無感や孤独が強いんだと思います。

© 2019『チワワちゃん』製作委員会

『チワワちゃん』は鬱屈とした青春と、その爆発を描いた物語

たしかに、映画のほとんどは彼らの遊び場であるクラブが舞台となっている。クラブで毎日のようにつるんでいた男女グループを通じて出会った「チワワちゃん」という女の子は、Instagramから火がついて一躍人気モデルとなるが、専門学校を辞め、アルバイトで働き、最後にはAV女優にまで転落していく。

そんな彼女が突然、東京湾バラバラ殺人事件の被害者として報道される。残された仲間たちにチワワの話を聞いて歩くミキ(門脇麦)。そこで初めて分かったのは、誰もチワワちゃんの本名も、境遇も、本性も知らないまま、ともに過ごしてきた、ということだった。

吉田志織演じるチワワちゃんとミキ。© 2019『チワワちゃん』製作委員会

青春の爆発と終わり──『チワワちゃん』が描いた鬱屈とした青春時代は2人にもあったのだろうか。

—お2人には『チワワちゃん』の登場人物たちのような、鬱屈とした時間はありましたか?

門脇:私は長年バレエをやっていたんですけど、14歳くらいの頃に辞めてしまって。この先どうしようか、悶々と悩んでいた時期が、いちばん鬱屈としていたと思います。

二宮:僕は今もそうかもしれないです(笑)。でも僕の場合は、永遠に自意識過剰だから鬱屈としているんだと思います。自意識をコントロールできるかどうかで、心持ちは変わりますよね。

二宮健監督

1990年代カルチャーを知らない20代。岡崎京子は「いい意味でも悪い意味でも、純文学」

現在門脇は26歳、二宮監督は27歳。岡崎京子が作品を生み出していた1990年代カルチャーを、リアルタイムでは知らない世代だ。しかし、岡崎京子の作品はそうした「世代間」の違いで押し込まれてしまうような物語ではない。恋やセックス、女友だち、生と死など、どんな世代にも通ずる普遍的な価値観を常に描き、個々の人間の物語を見つめた。

彼女は著書『僕たちは何だかすべてを忘れてしまうね』内のエッセイでこう書き記す。「日本の女の子の人生の、幸福と不幸と困難さと退屈さについていってみよう」。その言葉には二宮監督の言う「純文学」という言葉がしっくりとハマるような気がする。

—映画『チワワちゃん』は舞台を現代に置き換えていますが、世代間の違いをふっ飛ばして、作品の根本にある魅力が描き出されていると感じました。

二宮:作品の舞台を2017年から2019年に移したことは、大きなチャレンジでした。無理に小細工はせずに、キャラクターや背景はそのままにして、原作の持っている芯を届けたかった。岡崎京子さんが1990年代というカルチャーに当て込まれていたところから、枠組みを外して自由な解釈ができる領域に、この映画を届けられたら意義深いことだと思いました。

チワワちゃんに関しては、現代に欠かせないInstagramモデルに置き換えました。ディティールさえ変えれば、2019年だからこそ描けたものがあった。それは岡崎京子さんの作品の根本が普遍的だから、できることだと思うんですよね。そういう意味では、岡崎京子さんの作品は純文学のような性質を持っているのかなと思います。

—複数ある岡崎京子作品の中でも『チワワちゃん』を映像化されたいと思った理由は?

二宮:20代のうちに自分の手で『チワワちゃん』を映画化することを目標として掲げていたんです。初めて読んだのは大阪から上京してきた22歳の頃。うまくいかなくてつまずいていたときに、『チワワちゃん』で描かれていた「青春の爆発と終わり」や「何かを乗り越えようとあがく若者たちの姿」が印象的で、自分のやりたいテーマはここにつまっていると思いました。

『チワワちゃん』を読んでから、岡崎京子さんを知って他の作品も読みましたが、自分がいちばん映画化したいと思ったのは『チワワちゃん』でした。物語のプロットとしても、1人のキャラクターのことをいろんな人がいろんな視点で語る作品を作りたかったんです。

若者たちのアンバランスさを描くため、撮影現場ではとにかく遊んだ

「若者たちの温度感を伝えたかった」と二宮監督は言う。残酷なまなざしと若者たちの目的もなくフラフラ生きるアンバランスさ、そうした世界観を音楽や映像、キャスティングなどの演出で見事に描いている。

—エッジのきいた演出でしたが、世界観を出す上で特にこだわられたことは?

二宮:全編を通してわがままを言いましたけど、特に意識したことは登場人物全員のキャラクターがきちんと分かる映画にしたい、ということ。誰が、どういうことをしていて、チワワとどういう関係なのか。一人ひとりの営みが分かるように描こうと意識しました。

—門脇さん演じるミキをはじめ、登場人物とキャスティングの力は非常に感じました。門脇さんとはどのようなお話を?

二宮:ミキがどうすれば観客といい距離で物語と寄り添えるのか、随所随所でよく話しました。門脇さんとの対話から急遽シーンを追加したり、意見をもらうこともあったり。あとで周囲から聞いたら、そういうことを門脇さんがするのは珍しいらしく、僕にとっても新鮮で面白かったです。

—Have a Nice Day!による主題歌“僕らの時代”など、音楽の印象も非常に強かったです。

二宮:音楽にもとてもこだわりましたね。世界観を守るために、劇中歌は書き下ろしをお願いして。現場でも音楽を爆音でかけて「さあ、遊んでください!」と俳優陣に声をかけました。

Have a nice day!“僕らの時代”(Apple Musicはこちら

門脇:どういう仕上がりになるのか想像もつかないまま、ひたすら遊んで。朝から晩までハイテンションを保つのは大変でしたけど、できあがったものが想像を上回る格好よさで感動しました。

「死」を見つめているからこそ描ける「生」。岡崎京子の哲学はここにあり

岡崎京子は雑誌『ユリイカ』(1988年12月号)で死生観を語ったことがある。

「私自身が非常に現実的な人間で、『生の世界』や『死の世界』という分離認識がありません。(中略)先に書いた文章と相反するかもしれませんが、私には“死にながら生きている”そして“そこからの再生のレッスン”という死生観しかありません」。

岡崎京子が描いてきたのは「死と隣り合わせ」だけれども、「生きることを選択した私たちの未来」。私の嫌いなものって? 好きなものって? 何をしたいの? 登場人物たちを鏡にして、「私」が「私」という存在を取り戻すことを『チワワちゃん』で体験してほしい。

© 2019『チワワちゃん』製作委員会
公開情報
書籍情報
プロフィール
門脇麦 (かどわき むぎ)

2011年、TVドラマで女優デビュー。13年、バレリーナ役で登場した東京ガスのCMが話題を呼び、三浦大輔監督作「愛の渦」では体当たりの演技を披露する。その後、NHK連続テレビ小説「まれ」(15)では土屋太凰演じるヒロインの同級生役を好演。入江悠監督の「太陽」(16)では神木隆之介とともに主演を務め、「二重生活」(16)で初の単独主演を果たす。17年は、主演作「世界は今日から君のもの」をはじめ、ヒロインを演じたホラー「こどもつかい」、ベルギーの女性監督バンニャ・ダルカンタラが日本を舞台に描いた「KOKORO」、大林宣彦監督作「花筐/HANAGATAMI」など出演作が目白押しとなった。舞台でも活躍し、ミュージカル「わたしは真悟」(16~17)では高畑充希とダブル主演を務めた。今後は、小松菜奈とダブル主演の映画「さよならくちびる」の公開などを控えている。

二宮健 (にのみや けん)

1991年生まれ、大阪府出身。幼い頃から映画制作に興味を持ち、大学の卒業制作『SLUM-POLIS』(2015年)が、話題を呼び全国で劇場公開。代表作に『MATSUMOTO TRIBE』(2017年)『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』(2017年)、『チワワちゃん』(2019年)など。2019年3月に最新監督作『疑惑とダンス』を公開予定。



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