Chara+YUKIの魔法を解き明かそうとしても、2人は踊り続けるだけ

「幻」となることがあらかじめ決められていたユニットChara+YUKIの復活

「Chara+YUKI、20年ぶりの復活」というと、若いリスナーのなかにはまるで20年前にCharaとYUKIがユニットを組んで精力的な活動をしていたと誤解する人もいるかもしれないので、最初にタイムラインを整理しておきたい。当時、Charaは第二子出産のため産休に入る直前、YUKIがソロアーティストとして本格的に活動を始めるのは3年後のこと。つまり、1999年11月にリリースされた“愛の火 3つ オレンジ”は、音楽シーンを代表する2大フィメールポップアイコンの競演として大きな話題となったものの、シングルのカップリング曲もなし、ライブもなし、テレビ出演もなしという、1曲だけの「幻」となることがあらかじめ決められていたユニットだった。

Chara+YUKI“愛の火 3つ オレンジ”(1999年バージョン)ジャケット
Chara+YUKI“愛の火 3つ オレンジ”(1999年バージョン)MV

その「幻」が、20年の時を経て実体をともなって目の前に現れたのが、今回のChara+YUKIのアルバム『echo』ということになる。ただ、本作について語る前に、CharaとYUKIにはもう1つ振り返っておくべき歴史がある。それは、20年前のChara+YUKIに先立って水面下で準備が進められていて、2001年に2作のシングルと1作のアルバムを発表したバンド、Mean Machineだ。メンバー全員女性の5人編成のこのバンドで、CharaとYUKIはボーカルをとることなくツインドラム(とコーラス)を担当。世間からの期待に背を向けたそのアティチュードは遊び心やノリのようにも思えたが、当時のバンドのビジュアルイメージからも明らかなように、そこには少なからず1990年代にアメリカ東海岸のパンクシーンで勃興したRiot Grrrl(ライオットガール)ムーブメントへの共振もあった。

Mean Machine『スーハー』を聴く(Spotifyを開く

2人の音楽的交流の通底にあったRiot Grrrl的なパンク精神、シスターフッドへの目配せ

Charaがトータルサウンドプロデューサーを、YUKIがトータルリリックプロデューサーをそれぞれ務めた全8曲を収録したアルバム『echo』。そのコンセプトは、20年前のChara+YUKIを正統に引き継いだもの、つまり2人のパブリックイメージでもある「陽」のサイドを掛け合わせることから「新しいポップ」を生み出そうという試みだが、そこにはMean Machineも含む彼女たちのこれまでの音楽的交流の通底にあった、Riot Grrrl的なパンク精神、現代風の言葉で言い換えるなら「シスターフッド」への目配せもあるに違いない。

オリジナルのヴィブラフォンやメロトロンの音色に導かれた穏やかなイントロとは打って変わって、トランペットの盛大なファンファーレから始まる“愛の火 3つ オレンジ(2020 version)”。感動的なのは、お馴染みの終盤のリフレイン<愛の火 3つ オレンジ ゆ~らり ゆ~らり>の後に書き加えられた新たなリリックだ。そこでの<洗濯機>や<湯がく>といった生活に密接したワードとともに刻まれる<まだ 始まったばかりなの Let's party! It's party!>というフレーズは、文字通りここからパーティー(=アルバム)が始まることの宣言だけでなく、リスナーと同じようにありきたりで、でもそれこそが尊い、日常の生活を送っている2人からの、「シスターフッド」へのゆるやかな連帯(パーティー)の意思のようにも聴こえてくる。

そのように、「幻」のようなユニットであったが故に、そして当時は2人ともポップアイコンとしてあまりにも眩しい存在だったが故に、20年前にはまだ直視することができなかったChara+YUKIの真価が、そのメッセージ性においても、その音楽性においても、(もちろん20年分の音楽家、そして生活者としての経験と蓄積もそこにのっかって)全方位的に開花したのが、今回のアルバム『echo』だ。

参加した豪華製作陣から、本作にかけられた魔法を解き明かす

“ひとりかもねむ”の作曲は、“Junior Sweet”をはじめとするこれまでCharaの数々の名曲を手がけてきた大沢伸一(“楽しい蹴伸び”のミックスも担当)。“楽しい蹴伸び”の作曲は、近年Charaのツアーでバンマスも務めてきたマルチプレーヤーのTENDRE。“YOPPITE”の作曲は、これまでコンポーザーとしてもプレーヤーとしてもChara、YUKIの両者と深い繋がりのある白根賢一。アルバム『echo』のそれ以外のすべての作曲、そして全8曲すべての作詞はChara、YUKI、あるいはChara+YUKIの連名となっている。

他にも、Seiho、Kan Sano、mabanua、A.G.O(CIRRRCLE)、高桑圭、小林祐介と吉木諒祐(THE NOVEMBERS)、岸田繁(くるり)といった音楽シーンのキーマンたちがプロデューサーやプレーヤーとしてこぞって参加している本作。でも、そんな参加ミュージシャンのクレジットと首っ引きになりながら本作にかけられた魔法を解き明かそうとしてみても、CharaとYUKIはそこからスルリと身をかわして、楽しそうに歌い踊り続けるばかりだ。

『echo』は、時間軸や批評軸から完全に自由になった2人の「実体」が記録されている

シンガーとして、そしてミュージシャンとして、これまで長いキャリアを歩んできた2人。個々のソロ作品においては、その作品における新機軸やキャリア上の位置付けを、インタビューやレビューでつねに問われる立場であり続けてきたことだろう(自分もそれを問うてきた一人だ)。しかし、<なんかCharaと踊りたいんだよね>だとか<歌ってよYUKI>だとか、そんなフレーズがごく自然に曲中で交わされる本作『echo』には、そんな時間軸や批評軸から完全に自由になった2人の音楽家の生々しい「実体」だけが記録されている(ちなみに、これは昔からだけど、後輩のYUKIが先輩のCharaを「Chara」と呼び捨てにできる2人の関係性にも、そんな自由さが表れている)。

自由なのは詞作やコンポーズだけではない。あれだけ個性的な「声」の持ち主である両者が、曲のなかでその境界が溶け合って、反転して、その判別さえつかなくなるような瞬間。そのスリルが、自分にとってChara+YUKIの最大の聴きどころだ。

Chara+YUKIアーティスト写真

「反転」というのは、もしかしたら本作の裏テーマの1つかもしれない。Chara、YUKI、それぞれの近作と比べても、屈託のないポップチューン、ダンスチューンが並ぶ本作『echo』。それはリリックにおいても同様で、そこには重苦しい時代のムードに敢えて背を向けて、作品の中だけでも2人の力で音楽的なユートピアを現出させようという強い意志が込められているように感じられる。

アルバムの最後に収められた表題曲“echo”では、それまでの陽性なサウンドとは一転、岸田繁のブルージーなギターにのせて、「勇敢な人」に向けて「うたをうたいたい」という最後の願いが吐露される。20年前と比べても、現在の生活や未来の生活に明るいビジョンを持つのが困難になっているこの時代にこそ、Chara+YUKIのすべてを反転させてしまうパワーに満ちた「シスターフッド」による、健やかなポップミュージックがより必要とされている。そんな気がするのだ。

リリース情報
Chara+YUKI
『echo』(CD)

2020年2月14日(金)発売
価格:2,750円(税込)
ESCL-5219

1. 愛の火 3つ オレンジ(2020version)
2. You! You! You!
3. ひとりかもねむ
4. 楽しい蹴伸び
5. YOPPITE
6. 鳥のブローチ
7. Night Track
8. echo

Chara+YUKI
『echo』(LP)

2020年2月14日(金)発売
価格:3,850円(税込)
ESJL-3117

[Side-A]
1.愛の火 3つ オレンジ(2020version)
2.You! You! You!
3.ひとりかもねむ
4.楽しい蹴伸び
[Side-B]
1.YOPPITE
2.鳥のブローチ
3.Night Track
4.echo

Chara+YUKI
『楽しい蹴伸び』完全生産限定盤(LP)

2020年1月31日(金)発売
価格:1,430円(税込)
ESKL-3

[Side-A]
楽しい蹴伸び
[Side-B]
楽しい蹴伸び(Instrumental)

イベント情報
『Chara+YUKI LIVE “echo” 2020』

2020年4月8日(水)
会場:東京都 Zepp Tokyo

2020年4月9日(木)
会場:東京都 Zepp Tokyo

2020年4月22日(水)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside

2020年4月23日(木)
会場:大阪府 Zepp Osaka Bayside

プロフィール
Chara
Chara (ちゃら)

1991年9月シングル『Heaven』でデビュー。一貫して「愛」をテーマに曲を創り、歌い続けている日本で唯一無二の女性アーティストである。オリジナリティ溢れる楽曲と独特な存在感により人気を得て、1992年には日本レコード大賞ポップ・ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。2020年1月初の台湾単独ライブを開催。5月6日(水・休)には初の日比谷野外大音楽堂での単独ライブ開催が決定。デビュー28周年を迎えてもなお感覚と感情に素直に突き動かされ、精力的に活動している。

YUKI (ゆき)

JUDY AND MARYのヴォーカリストを経て、2002年にシングル「the end of shite」でソロ活動を開始。現在までに、音楽チャートで1位を獲得したアルバム5枚を含む、9枚のオリジナルアルバムをリリース。前衛的でありながらポップに仕上げる独自の世界観、独特の歌声、唯一無二のライブパフォーマンスで圧倒的な存在感を放ち続けている。今後も、振り幅の大きな音楽活動とそれに伴うライブ、アートワークの全てから目が離せない。

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