Acid Black Cherryはなぜ売れる? V系ロックのホントを分析

日々、新しい音楽が生まれ続けている。それらの多くは既存のカテゴリーに類型化され、レコードショップの適切な棚に陳列されて、あるいはインターネットのリコメンド機能を通して、リスナーのもとに届けられる。音楽のみならず、ただでさえ情報量の多い今の世の中であるから、受け手は特定のジャンルに対して素通りしてしまうことも多い。しかしもし、自分が知らなかったその場所に、思わぬ発見や、驚くべきシンパシーがあったとしたら? 受け身でいても情報に不足しない今の時代だからこそ、「越境」や「多様化」という行為を自ら選び取ることで見えるものがあるのではないか。

Janne Da Arcのボーカリスト・yasuによるソロプロジェクト「Acid Black Cherry」(以下、ABC)も、一筋縄では理解できない濃さを持ったアーティストだ。ヴィジュアル系のエッセンスを耽美的に活かしながらも、耳なじみが良く、少し懐かしいような邦楽ロックを奏でる。さらにyasuのクリエイティビティーが存分に発揮されたアートワークやコンセプトアルバムの並々ならぬこだわりは、彼自身の気づきや疑問に満ちており、人柄の奥深さを垣間見せてくれる。オリコンチャートの常連であり、全国アリーナツアーを満員にするABCの本当の理由はどこにあるのか? 彼らの森に踏み込んでみたい。

ほぼ全てのオリジナル作品がオリコンチャート3位に食い込むのはなぜ? 明確なコンセプトを形にする豪華ミュージシャンの存在

Acid Black Cherry(以下、ABC)は、売れている。卓越した演奏テクニックに裏打ちされたヘビーな音作りで人気を誇るバンド、Janne Da Arcのボーカリスト・yasuが、2007年より始動したソロプロジェクトであり、2007年7月18日、1stシングル『SPELL MAGIC』でメジャーデビュー。これまでにシングル19枚、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム3枚をリリース。2012年3月に放った3rdアルバム「『2012』」はオリコンのウィークリーチャート1位を獲得し、売り上げ枚数20万枚を超えて話題を呼んだが、その他のアルバム、シングル共にほぼ全てのオリジナル作品をチャート3位以内に送り込んでいる。

曲作りにおいては、yasuが本名の「林保徳」名義で全ての楽曲の作詞・作曲を手がけ、キーボード&プログラミング、ギターのリフのアイデアなどのアレンジも行う、まぎれもない実力者である。

Acid Black Cherry
Acid Black Cherry

ABCというネーミングはまるでバンド名のように見えるが、yasuのソロプロジェクトのため、yasu以外、固定メンバーを設けていない。レコーディングもライブもバンドスタイルで行なってはいるが、その都度、yasuがやりたいことを最も具現化できると思うミュージシャンにオファー。ギターにΛuciferのYUKI、BREAKERZのAKIHIDEやLUNA SEAのSUGIZO、SIAM SHADEのDAITA、La'cryma ChristiのHIRO、ベースにはLa'cryma ChristiのSHUSE、ドラムにSIAM SHADEの淳士ら、ヴィジュアル系、HR / HM(ハードロック、へヴィメタル)界では屈指のテクニシャンが顔を揃える。確かな演奏に支えられ、ABCが奏でる楽曲は、ヘヴィネスと美しいメロディーが織りなすダイナミズムを体現し、女性ファンのみならず、ハード&ヘビーなメロディックロックを愛する男性ファンからも、熱い支持を得ているのだ。

ヒットメイカーが官能的なコンセプトを掲げる本当の理由

ABCは活動のスタート時から、一貫した1つのコンセプトを掲げている。そのコンセプトとは「エロ」。ちょっと鼻白む人もいるかもしれないが、yasuは単に目先の刺激やインパクトを狙ったわけではない。「エロ=性欲」は人間の本能が求める三大欲求=食欲、睡眠欲、性欲の1つだ。つまりABCの「エロ」は「人間が隠しきれない」ことや「本当に満たして欲しいもの」などの象徴だと言えよう。ABCにとっては、人間の本能を「音楽」という最も情動を揺さぶる表現行為を通して訴えることが、人間そのものの姿を浮き彫りにしていくことにつながるのだ。

余談かもしれないが、昔、ロックミュージシャンとロックファンの合い言葉は、まさに「セックス、ドラッグ、ロックンロール」だった。若者の憤り、やむにやまれぬ初期衝動を音楽として具現化したロックは、セックス&ドラッグとカルチャーとして強く結びつき、ロックは人間の本能としてセックスを歌った。yasuが己の表現に込めた「エロ」は、「ロックであること」への原点回帰と結びついているのだ。

これまでのロックとは異なる視点が、女性ファンの獲得につながった

ここで、ABCがこだわる官能的な世界を歌詞から見てみよう。たとえば初期の人気曲“Black Cherry”には<濡れて堕ちて 私の中に種を残して!>というフレーズが。2013年のヒットナンバー“Greed Greed Greed”には<ほら溢れ出しちゃった 言わせんじゃない 「欲しい」 早くソレで塞いで>などのセクシャルなフレーズにドキリとさせられる。


先ほど、昔のロックはよくセックスを歌っていたと述べたが、ABCはこれまでのロックとは違い、セクシャルなリリックを女性目線で描いているのも大きな魅力だ。ABCは女性の立場から女性のカラダのうずき、性への止められぬ衝動を描き、多くの女性ファンから共感を得て人気を拡大してきた。男の論理と視点から表現されがちなセックスを、妖艶なyasuが歌うことで女性の側に引き寄せる。ABCのコンセプトは、リスナーにジェンダーについても考えさせる、奥深さも持ち合わせているのだ。

シングル1枚に込める濃密なストーリーと、徹底したビジュアル表現

ABCのもう1つのアイデンティティーと言えるのが、CD制作において非常にアーティスティックなこだわりを発揮していることだ。まず注目したいのはジャケットワーク。シングルも1枚ごとに、その楽曲の世界観を突き詰めており、特にここ最近のジャケットワークは、スタイリッシュな美しさに目を奪われるものばかり。2013年発表の“Greed Greed Greed”では、歌詞に描かれる「自分の強欲」と「ピュアな部分」の両方をモチーフに、褐色に肌を塗り込んで強欲を表した「黒yasu」と白い服をまとったピュアな「白yasu」を合成した刺激的なビジュアルを展開。

Acid Black Cherry『Greed Greed Greed』初回生産限定盤ジャケット
Acid Black Cherry『Greed Greed Greed』初回生産限定盤ジャケット

同年11月リリースの夜の街で生きる女性をテーマにした“黒猫 ~Adult Black Cat~”では、セクシーな女性たちを従えたyasuがキャバレー風の背景を背負って妖艶な姿を見せる。


いなくなった「君」を探し求める切ない想いを詞に託した2014年3月リリースの“君がいない、あの日から…”では、美しい月とホタルのような灯に彩られた幻想的な夜空をバックに湖に佇むyasuがファンタジックに描かれ、同年10月リリースの“INCUBUS”では中世ヨーロッパの街並みを再現し、パートカラーを駆使して映画の1場面のようなアート性の高いビジュアルを提示した。

Acid
Acid Black Cherry『君がいない、あの日から…』ジャケット

Acid Black Cherry『INCUBUS』初回生産限定盤ジャケット
Acid Black Cherry『INCUBUS』初回生産限定盤ジャケット

ABCがいかに、音楽とビジュアルの融合を重要視しているが理解できる試みに満ちている。


「終わりゆく世界」に向き合って生まれた、「生きる」ことに対するとある覚悟

アルバムはより一層、コンセプチュアルだ。ABC史上、最大のヒットアルバムとなった2012年リリースの3rdアルバム「『2012』」のテーマは「生きる」。そのブックレットには、「現在」と、2012年12月22日以降の日付がないとされている「マヤ暦の予言」、核戦争などによる人類の滅亡(終末)を午前零時になぞらえ、その終末までの残り時間を「零時まであと何分」という形で象徴的に示す時計である「世界終末時計」の3つのキーワードを軸にした物語が描かれている。

その物語とは……歌うことが大好きだった天使が人間にそそのかされて、神の怒りに触れ、人間の暮らす地上には大地が揺らぐ天変地異が起きる。そして、天使は地上で世界の幸せを祈る1人の少女に出会い……という寓話だ。この物語の内容は、収録楽曲と密接にリンクしており、ABCチームはブログにこんな言葉を残している。

「『2012』」というアルバム全体を、“終わりゆく世界”と例えるとその中に収録されている楽曲は、その“世界の住人達”の物語。それぞれの主人公達にも、絶望的な試練が降り掛かかり、困難の中で必死にもがいています。その姿は、カッコ悪く見えるかも知れません。すごく情けなく見えるかも知れません。けれど、歌詞の中に出てくる主人公達は、誰も生きることを諦めていないのです。生きることを諦めてないからこそ、自分の「生きる意味」を一生懸命探そうと、必死にもがくのです。そして、彼らはいつか、その先に光があることを知ります。
「Team Acid Black Cherry オフィシャルブログ」より引用

「生きることを諦めない」をメッセージとする「『2012』」。ブックレットにはハートウォーミングなイラストを挟み込み、一見キュートでメルヘンな世界を描いているが、「『2012』」の発売日は、東日本大震災の約1年後となる3月21日。東日本大震災を経て制作されたこのアルバムは、震災後「全然音楽を作る気になれなかった」というyasu自身の葛藤も込められているように思う。普段、人間の根源的な部分に到達しようともがいているABCだからこそ、彼が「『2012』」に込めた想い、そこで表出された世界観が腑に落ちるのだ。


派手なだけじゃない。真心から始まった、1人でも多くの人に唄を届けるためのプロジェクト

そんな「『2012』」のメッセージを受け継ぎながら、ABCは2013年から2014年にかけて、ある新たなプロジェクトを立ち上げた。それが「Project『Shangri-la』」。新曲のリリースを続けながら、5ブロック・5期間に分けて日本全国、全都道府県をツアーで回るという壮大できめ細やかなプロジェクトだ。

公式サイト上では、「『2012』」の物語中に出てきた<世界が終わらなかったことがハッピーエンドではないのよ。美しい世界を取り戻すにはとても時間がかかるの>の言葉を引用しながら、「それは今の日本に少し似ているような気がします。2011年に我々を襲った『悲しみ』は、今もなお続いています」というyasuの考えが、スタッフの言葉を通して語られ、「もしも自分の作った音楽で誰かが笑顔になるなら、音楽を一生懸命やろう」と、このプロジェクトを立ち上げた主旨を説明していた。

プロジェクトが始まる前には、「1人でも多くの人にライブに参加してもらおうとすると、より会場を大きくするということが普通なのですが、それではyasuが考えていることとはちょっと違ってしまいます。では、長い期間のライブツアーを行おうとすると、今度は新曲を皆さんに届けられなくなる。いつもこのジレンマとの戦いでした」ということも吐露されていた。

ABCの音楽とパフォーマンスは、あでやかで華やかだ。しかしそれは、yasuの音楽に対する実直な姿勢とファンを大切に思う温かな心から生まれ落ち、ABCの世界観の表現へのこだわりと密接につながっている。一見、派手さばかりがクローズアップされがちなABCだが、そのクリエイティブは太い芯の通ったyasuの信念に基づいて、確かな歩みを続けている。

そして2015年2月25日。ABCは「『2012』」から約3年ぶりとなるニューアルバム『L-エル-』をリリースする。波乱の人生を送った1人の女性「エル」の人生を綴った壮大な物語と楽曲がリンクするというこのアルバム。昨年、「Project『Shangri-la』」を大成功でファイナルさせたABCが、今度はどんな世界観とメッセージを私たちに届けてくれるのか? 彼の新しいステージがとても楽しみだ。

リリース情報
Acid Black Cherry
『L―エル―』Project『Shangri-la』LIVE盤(CD+DVD)

2015年2月25日(水)発売
価格:5,184円(税込)
AVCD-32241/B

[CD]
1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
[DVD]
1. Greed Greed Greed
2. Murder Licence
3. 楽園
4. 蝶
5. 1954 LOVE/HATE
6. 黒猫~Adult Black Cat~
7. 君がいない、あの日から...
8. Maria
9. so...Good night.
10. ピストル
11. 罪と罰 ~神様のアリバイ~
12. Black Cherry
13. シャングリラ
14. doomsday clock
15. scar
16. SPELL MAGIC
17. 20+∞Century Boys
※コンセプトストーリーブック付き

リリース情報
Acid Black Cherry
『L―エル―』Project『Shangri-la』ドキュメント盤(CD+DVD)

2015年2月25日(水)発売
価格:4,860円(税込)
AVCD-32242/B

[CD]
1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
[DVD]
・『Project「Shangri-la」』完全密着ドキュメントムービー
・“Greed Greed Greed”PV
・“黒猫~Adult Black Cat~”PV
・“君がいない、あの日から...”PV
・“INCUBUS”PV
※コンセプトストーリーブック付き

リリース情報
Acid Black Cherry
『L―エル―』通常盤(CD)

2015年2月25日(水)発売
価格:3,240円(税込)
AVCD-32243

1. Round & Round
2. liar or LIAR ?
3. エストエム
4. 君がいない、あの日から...
5. L―エル―
6. Greed Greed Greed
7. 7 colors
8. ~Le Chat Noir~
9. 黒猫 ~Adult Black Cat~
10. versus G
11. 眠れぬ夜
12. INCUBUS
13. Loves
14. & you
※44Pフォトブック付き

イベント情報
Acid Black Cherry
『L―エル―』先行試聴会

2015年2月14日(土)12:00~、15:30~、19:00~
会場:東京都 恵比寿 ザ・ガーデンホール

2015年2月15日(日)12:00~、15:30~、19:00~
会場:愛知県 名古屋 DIAMOND HALL

2015年2月19日(木)12:00~、15:30~、19:00~
会場:福岡県 DRUM LOGOS

2015年2月20日(金)12:00~、15:30~、19:00~
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO

2015年2月21日(土)12:00~、15:30~、19:00~
会場:北海道 札幌 PENNY LANE24

2015年2月22日(日)12:00~、15:30~、19:00~
会場:大阪府 大阪ビジネスパーク円形ホール

料金:各会場 無料

プロフィール
Acid Black Cherry (あしっど ぶらっく ちぇりー)

ロックバンド・Janne Da Arcのボーカリストyasuのソロプロジェクトとして2007年始動。通称ABC。2007年シングル『SPELL MAGIC』でデビュー。現在までシングル19枚、オリジナルアルバム3枚、カバーアルバム3枚をリリース。 2012年3月21日にリリースした3枚目のアルバム「『2012』」では自身初のオリコンウィークリーチャート初登場1位を記録し20万枚を超える作品となった。収録曲でもある15枚目のシングル『イエス』は2012 年USEN 年間 J-POP リクエストランキングで1 位を獲得し、youtube の再生回数は865万回を超えるなど、ABCを一般層へと広げたきっかけの楽曲となる。2013年8月からは、「ABCの音楽を通して少しでも笑顔になってくれる人がいるならば、近くに行って唄いたい」という主旨で“Project『Shangri-la』” をスタート。全ての会場がSOLD OUTした全都道府県TOURと、追加公演として行われたアリーナTOURも含め自身最多の18万人を動員。



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