若き焙煎家たちのコーヒーへの情熱。沖縄・コーヒーカルチャーの現在とこれから(前編)

いま、沖縄には、高い技術と志を持つコーヒーの焙煎家たちが増えている。カフェやレストランなど沖縄の飲食店で個性ある美味しいコーヒーが飲めるようになったのも、彼ら、若き焙煎家たちの存在があってこそだ。今回は、そんなこれからの沖縄のコーヒーカルチャーを育て、牽引する2人を迎えた。 一人は那覇市の栄町市場に小さな珈琲店をかまえ、コーヒーの新しい魅せ方を提案し続ける『COFFEE potohoto』の山田哲史(写真右)。そして、もう一人は東京の『堀口珈琲』でコーヒーを学び、宜野湾市で父から受け継いだ珈琲店を2015年に新たにオープンさせた『YAMADA COFFEE OKINAWA』の山田浩之(写真左)。それぞれ地域に根づきながらも、広い視野を持つ彼らに、沖縄のコーヒーの現在とこれからを訊く。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

今はこれまでと同じやり方では、美味しいコーヒーは焙煎できない

—山田浩之さんは東京の『堀口珈琲』で仕事をされていたそうですね。お父様が焙煎家だったにも関わらず、東京でコーヒーの仕事に就こうと思ったのはなぜだったのですか?

山田浩之(以下、浩之):やるからには専門的に勉強したかったんです。『堀口珈琲』はコーヒーの生産国からお客さんのカップ一杯まですべてカバーしている会社だったので、一通りそこで学びたいと思ったんです。

—2015年に『YAMADA COFFEE OKINAWA』をオープンした時、それまでお父様が経営していた珈琲店から変えたところはどこだったのでしょうか?

浩之:やっていることは一緒なんです。コーヒーセミナーなどをやるために少し内装を変えたくらいで。ただ、焙煎の仕方はすべて変えましたね。というのも、基本的に、コーヒーという素材がすごいスピードで進化していて、特にここ5年くらいは原料の品質がどんどん上がって来ているので、必然的にアプローチは変えていかなくてはいけないんです。

—アプローチを変えるとは?

浩之:最近は個性が強いコーヒーがどんどん出てくるので、そこに対応するような焙煎が必ず必要になってくるんですよね。こちらの焙煎のスキルに素材を当てはめるというよりは、素材に自分の焙煎を当て込んだ時に、自然と変わるんですよ。

—ここ数年、個性的な豆が採れはじめていると。

浩之:個性的な豆に着目しだした、ということですね。それと、これまで産地開拓が進んでいなかったようなエリアに、消費国の人間、もしくは本国の輸出業者などがどんどん入り込んでいったというのもあります。

山田哲史(以下、哲史):僕もそれはすごく感じますね。『COFFEE potohoto』をオープンして10年ですが、最初の頃に比べると、いまはいい意味で個性がはっきりしたコーヒーがたくさん出てきていて、自分自身、焙煎方法がずいぶん変わってきています。豆の個性をはっきり出すような焙煎に変わってきている感じです。そうしないと、いい素材があってもその豆の良さを活かせないままになってしまう。

—山田哲史さんは本土から沖縄に移住してからコーヒー店をオープンさせたそうですが。

哲史:沖縄に住むまではコーヒーの仕事はしていなかったんです。でも、それまでやっていた仕事は先が見えてしまって、世界が広がらなかったんですね。コーヒーには、世界中に関わっている人たちがいる。コーヒーを通して世界を見てみたいと思ったのが、コーヒーに興味を持ち始めたきっかけだったんです。

ローマやミラノよりも、栄町の方が断然面白い

—それまでコーヒーを嗜好品として好きだったんですか?

哲史:22歳くらいまでは缶コーヒー3本くらいしか飲んだことなかったですね(笑)。だけど、そうやって自分のやりたいことを模索していた時期に、ある店で飲んだコーヒーが甘かったんですよ。その時、はじめて素材が良くていいロースティングされた豆は「甘い」ということを知ったんです。

—そこでコーヒーの世界に目覚めたと。

哲史:しかもコーヒーを通して世界の人たちと関われる。それに焙煎すればするほど難しいし、淹れるのも難しいから、60、70歳になっても情熱を持ってできるんじゃないかというイメージが湧いたんです。

—『COFFEE potohoto』が店を構える栄町市場は昔から地元の方々に愛される市場で、いまでこそ観光客もいますが、10年前はもっとローカルな場所だったのではないですか?

哲史:そうですね。だけど、そこにも惹かれたんです。いろいろなものがうごめいている感じが好きで。

浩之:栄町市場は雰囲気すごいですもんね。町のパワーがみなぎっているというか。

哲史:だからヨーロッパに行った時も、ローマやミラノもよかったんですけど、やっぱり栄町の方が面白いなって(笑)。それは北欧に行った時も思いましたね。北欧よりも断然栄町の方が面白いですよ。

沖縄にはコーヒーの樹が、すぐそばにある

哲史:沖縄はコーヒーの露地栽培(ビニールなどを持ちいらず外の畑で栽培すること)ができるでしょ。そこも沖縄でコーヒーをやるのは面白いと思ったきっかけです。今後、栽培をやるかというと、そちらまで手を出したら大変だから、自分はしっかりと焙煎をやっていきたいと思うけれど、やろうと思えばできるし、実際、栽培されている生産者のところを見に行けるし、沖縄で採れたコーヒーが手に入ったり、焙煎できる可能性がある。そういう世界があるのは沖縄の魅力ですよね。

—実際、沖縄のコーヒーはどういう味なのですか?

浩之:沖縄のコーヒーは「ニューワールド」と言って、ブラジルの「ムンド・ノーボ」という品種が由来だというのはよく聞くんですが、そもそも「いいコーヒーはこういう環境下でできます」というある程度の条件があるんです。たとえば標高が高いとか、昼夜の寒暖の差があるとか、年間どれくらいの雨量があるとか、どのくらいの平均気温があるとか。

—その条件を沖縄は満たしているのですか?

浩之:それで言うと、沖縄は生産現場の先端といわれる国々と比べると充分とは言えません。しかしそれはそれで、ちゃんとキャラクターとして味に表れていると思います。決して悪いコーヒーではなくて、きちんと作れば、あるレベルの味のコーヒーは絶対にできるんです。要はそのプロセスが大事なので。とはいえ、こんな小さな島ではまとまった量はつくれないし、沖縄は台風もあるので、商業ベースに乗せる量を生産するのは容易なことではないと思います。

哲史:コーヒーの麻袋一袋も出荷できるかどうかですよね。だから大きな産地になるということはないけれど、沖縄でも美味しいコーヒーができる可能性はある。プロセスが大事といったけれど、つくり方によって、例えば、ハニーとかナチュラルにするということで、風味を加工の段階でつけるようなイメージをすれば、面白いものができるんじゃないかな。

浩之:そうですね。でもホント、沖縄でコーヒーをつくっているんだ、というだけで、気分は変わりますよね。コーヒーがすぐ身近にあるというのは日本では沖縄でしか感じることができない感覚だと思います。

哲史:やっぱり本土にいると、産地の身近さをあまり感じないと思うんですよ。でも沖縄は実際、コーヒーの樹がそばにあるしね。そういう環境でコーヒーの仕事ができるのは面白いですよ。

コーヒー生産者の努力を忘れてはいけない

—お2人ともにコーヒーの生産者を訪ねていらっしゃいますよね。浩之さんは東ティモールに、哲史さんは台湾の生産者を毎年訪ねていると伺いました。そうやって実際に生産地にいくことでコーヒーに対する思いは変わりますか?

浩之:もちろん変わりますね。特に僕が行った生産国は、独立してから間もなくて、これからコーヒーで発展していこうと生産者は頑張っています。だからこそ、そこから届いた豆は絶対に無駄にできないなと思うんです。こういう環境の中でいいコーヒーをつくった生産者は評価されるべきだと思うし、僕らの仕事はそれをちゃんと伝えていくことだと思います。いい生産者がまっとうな評価を与えられるように、その間にちゃんとした姿勢で入る。

哲史:この4年、毎年台湾の生産者を訪ねに行っていますけれど、年によって、雨が多かったり少なかったりで、生産者によってその出来はさまざまなんです。でもがんばっている生産者のコーヒー農園は、天候が厳しい環境下であってもしっかりと育っている。その努力を思うと、こちらもいいものを焼かなきゃという想いが強くなる。僕自身、台湾に行く前は、美味しいコーヒーが日本に入って来ることは当たり前と思うところもあったんです。だけど生産者たちの努力を見た時、ここに美味しいコーヒーがあることは奇跡に近いんだと思いました。そういう意識は忘れてはいけないし、それを知ると、多少クオリティの落ちる豆だったとしても、自分たちが工夫してロースティングすることによって、それがいい個性になったり、悪い部分があったらそこを消してあげることもできると思えるし。

浩之:結局コーヒーも農作物なんですよね。農作物である以上、土壌やその年の気候が出来を左右するし、時間が経てば鮮度は落ちる。この考え方は野菜だったらごくごく当たり前のことで、やっとそれに目が向けられたということ。だけど、そういうコーヒーへの捉え方って、沖縄でコーヒーをやっているとお客さんに伝わりやすいなという印象があるんです。沖縄って農作物に対する意識の高い人がすごく多い。だから、農作物として品質の高いコーヒーは美味しいんだということをすんなり理解してくれる人が多いように思いますね。農業に携わる人も多いし、安心安全な野菜を使いたいと思う人も多いので、それは沖縄の特異性かな。

<後編に続く>

COFFEE potohoto
住所 : 沖縄県那覇市安里388-1
営業時間 : 10:00~18:00
(金曜・土曜は19:00まで)
定休日 : 日曜日
電話番号 : 098-886-3095
駐車場 : なし
Webサイト : http://www.potohoto.jp/
YAMADA COFFEE OKINAWA
住所 : 沖縄県宜野湾市宜野湾3-17-3
営業時間 : 10:00~19:00
定休日 : 月曜日
電話番号 : 098-896-1908
駐車場 : あり
Webサイト : http://shop.yamadacoffeeokinawa.com/


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