曇り空も基地もある。若き映画監督・仲村颯悟が伝える「沖縄のリアル」。

日本最年少の映画監督として中学生の時に長編映画『やぎの冒険』で監督デビューした仲村颯悟が、2016年2月に待望の2作目となる『人魚に会える日。』を公開する。

『人魚に会える日。』は、基地移設にあたり、自然を壊すことに赦しを乞うために生け贄を捧げるという伝説がある村「辺野座」をひとつの舞台として繰り広げられる物語。つまり、そこには普天間基地移設にともなう辺野古沖埋め立ての問題が入り込んでいる。賛成、反対という2つの意見だけがメディアでは取り上げられがちだが、そうではない。沖縄の人々の想いはもっと複雑で様々であるということが、この映画の中からはありありと伝わってくる。

今回、仲村は完全自主制作でこの映画に臨んでいる。大人のスタッフやスポンサーを入れず、全員大学生スタッフだけで映画を撮り、宣伝も自分たちで担う形となった。その真意と、彼が捉える「沖縄の今」を聞いた。

※ 本記事は『人魚に会える日。』『やぎの冒険』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

「いままでの沖縄映画は、普通に撮ったら映るものを意識的に取り除いていたと思うんです」

—『やぎの冒険』を発表した当時は、中学生が撮ったということでかなり注目されました。今回、仲村さんにとって5年ぶりの2作目となるわけですが、この期間、仲村さんはもう映画を撮りたくないと思っていたそうですね。

仲村:『やぎの冒険』は、大人のスタッフが関わってくれて、全国公開になり、海外でも上映されて、思わぬ反響でした。一方で、「どうせ大人が撮ったんだろう」というようなことも結構言われました。いまなら全然なんとも思わないんですけど、中学生だった当時の僕は耐えられなかったんです。

—中学生監督ということで大きな話題になった分、複雑な反応があったわけですね。

仲村:その後も映画は撮りたい気持ちはあったんですけど、また批判されるかもしれないし、2作目となると自分の中で自信のないものができてしまった場合、見向きもされなくなるだろうという不安とプレッシャーで、新しい作品を撮るまでの覚悟がなかったんです。

—なぜ『やぎの冒険』は大人が撮った作品だと思われたのでしょうか。「飼っているやぎを食べる」という描写に、「命をいただいている」という「食育」的な視点が見られたからでしょうか。

仲村:それもあると思います。だけど「食育」という視点は、作品が出来上がった後に大人がつくった宣伝文句で、僕としては「食育」という意識はなかったんです。ただ、「やぎが走りまわる映像を撮ってみたい」というところから物語をつくっていったもので、「やぎは食べるものでしょ」という沖縄では当たり前のことを撮っただけでした。だけど、「食育」というテーマに当てはめると、中学生がつくった作品としてはできすぎていたのかもしれません。

—仲村さんにとっては「普通の沖縄」を撮っただけだったんですね。

仲村:そうですね。普通に沖縄を撮ったら、ああなったという感じです。でも、じゃあ「普通」とは何かということだと思うんです。沖縄を舞台にした映画はこれまでもいろいろありました。『涙そうそう』だったり『チェケラッチョ』だったり。でも、いままでの沖縄映画は、普通に撮ったら映るものを意識的に取り除いていたんじゃないかと思うんです。たとえば「基地の話は沖縄映画にはふさわしくないから」とか、「今日みたいな曇りの日は、沖縄っぽくないから撮影しないでおこう」って取り除いていたところを、僕は取り除きたくなかった。だから『やぎの冒険』のようなものが生まれたというだけであって、普通に撮ったらああなったということなんです。

「『僕が知っている沖縄』と『外から見た沖縄』がこんなにも違うことに愕然とした」

—2作目を撮る覚悟ができなかった中、5年が経った今、『人魚に会える日。』を撮ろうと思えたのには、どういう経緯があったのですか?

仲村:実は『人魚に会える日。』は、中3の時に一度書いていたシナリオで、いつか撮りたいなと思っていた題材でした。もう撮れないんだろうなと思っていたんですけど、大学で沖縄から関東に出た時に、「僕らが知っている沖縄」と「外から見た沖縄」ってこんなにも違うんだと感じることが多くて。それで、自分たちで「今の沖縄」を伝えられることできないかと思ったんです。

—その時に、中学生の時に書いたシナリオを思い出した、と。

仲村:その時のシナリオは、ホントにそのまま「ジュゴンを見たい小学生の話」という単純なストーリーだったんですが、そこに実際、関東に出て来たから見えてきた、「伝えたい沖縄」の姿を付け加えていこうと思いました。「犠牲」というテーマが入って来たのは関東に来てから書き加えたものです。

—基地移設問題に揺れる「辺野古」を彷彿とさせるのが、今回の映画の舞台である架空の地域「辺野座」です。辺野古の海には実際ジュゴンが生息しているわけで、ジュゴンが棲む辺野古の海を描くには基地移設の問題が入り込まざるを得ません。仲村さんは沖縄市の出身ですが、沖縄県の中でも、日常に感じる基地の存在感は地域によって違いますよね。

仲村:違うと思いますね。僕の家は嘉手納基地が近いし、普天間の子が見る基地も違うし、北谷であればアラハビーチとかで外人さんとバスケするような関わり方もあって、那覇は那覇で基地がないから、あんなに過激な反対デモをしている人もいる。沖縄と言うと一括りで見られがちですけど、その中でも地域の人によっていろんな想いがあるんです。

—沖縄の人々にとって、基地問題は、政治のことである以前に、自分たちの生活に関わることですからね。

仲村:ほんと生活の一部なんですよ。だからこそ、賛成反対だけには分けることはできないんです。そういう意味でも、関東のニュースで見る「沖縄」というものに違和感がありました。その大きなきっかけが「慰霊の日(6月23日、沖縄の民間の人々を巻き込んだ地上戦が終わった日)」に対する認識の違いでした。

—沖縄では6月に入ると新聞やニュースでも「慰霊の日」に関する報道が増えてきますね。

仲村:沖縄ではそれが当たり前なんですが、関東ではそれがまったくなかったのが一番の衝撃だったんです。

—沖縄のことが知られてない、と。

仲村:ショックというよりは、愕然としたという感じです。沖縄のことそんなに知らないんだという悲しさではなく、同じ日本なのに、こんなにも知らない人がいて、こんなにも温度差があるんだという驚きです。だから『人魚に会える日。』は、関東に行かなかったら出来なかった作品だと思います。

—沖縄にずっといたら絶対に撮れなかった作品だと。

仲村:そうです。それで大学1年の時の6月23日に覚悟を決めました。沖縄のことを伝える手段として、僕にとって唯一の武器になると思えたものが映画だったんです。

「観終わった後に悩んでほしい。こういうふうに答えが出せていない状況が今の沖縄の状況なんですから」

—少し内容に踏み込んでいきますが、今回、出演者の一人としてCoccoさんが出ていますよね。

仲村:以前、Coccoが「沖縄タイムス」の連載で「基地問題をなくせるなら私が生贄になる」という原稿を書いていました。それを読んですぐに、今回の映画にはCoccoが必要だと思って、すぐに「出てください」って出演をお願いしたんです。

—Coccoさんだけでなく、この映画に出てくる人たちは基地に対して様々な想いを持っています。家族の間、友達の間、生まれた地域によっても想いが違う。

仲村:間違いなくそうで、友達と話していても、普天間は普天間で、嘉手納は嘉手納で、それぞれの場所やコミュニティによってもいろんな想いがあるし、家族が基地の中で働いているという人もいるし、アメリカ人とのハーフの友達もいる。同じ教室の中でもいろんな立場や意見があることを経験してきたんです。だから映画の中にもそんな感じでキャラクターの構成を考えようというのがありましたね。だからみんなが主人公みたいな感じで、一人一人が重要な存在なんです。

—反対でも賛成でもない、いろいろな意見がある、ということ自体がメッセージになる、と。

仲村:観た人に、観終わった後に悩んでほしいんです。映画を観ている間が映画じゃなくて、観終わった後にも引きずってほしい。観客を苦しませたいんですよ。だって、こういうふうに答えが出せていない状況が今の沖縄の状況なんですから。「基地がなければ平和」って言うけれど、基地のない沖縄を僕らは見たことないわけで、基地がなかったらどうなるのかも一向にわからないまま、いろんな議論がなされているんですよね。でも、ただ、みんな平和になることを願っているだけなんです。

「僕自身の想いというよりも、みんなの想いが詰まった映画」

—高校生以外のキャストには、津波信一さんやアイモコさんなど沖縄の役者やタレントさんが集まっています。仲村さんから声をかけたのですか?

仲村:大人のキャストのみなさんは、『やぎの冒険』の時にもお世話になった方々なので、電話したりメールしたりして直接依頼しました。川満しぇんしぇ〜(川満聡/沖縄の喜劇役者)とは今回初めてでしたが、あまり映画とか出ない方で、依頼する時も全然連絡がつかなくて、最終的にFM沖縄でのラジオ終わりに直接ラジオ局でお願いしたんです。そしたら企画書を見て「出る」と言ってくれて。自主制作なのでノーギャラであることも伝えたら、「全然いいよ」と言ってくれて、名護の撮影現場にも見に来てくれました。今回、そんな一人一人のキャストの人たちの想いも映画の中に詰まっているんだと思っています。

—自主制作なので、参加してくれている人たちの協力あってこそですよね。

仲村:だから、僕自身の想いというよりもみんなの想いが詰まった映画だと捉えています。その分、宣伝で出来ることは、自分で全部やろうと。

—宣伝費用はクラウドファンディングで集めたそうですね。

仲村:そうなんです。去年の2月くらい、最後の編集作業をやっている時に、沖縄の企業に協賛を依頼しにいったんですが、この映画が基地を盛り込んでいるということもあって、協賛金が集まらなかったんです。いろんな企業の担当の方々からはみな、「個人的には協力したいけれど、企業としては厳しい」と言われて。だったら、クラウドファンディングという個人から資金を集えるものにしようということになったんです。

—家族の中でさえ賛成反対やいろいろな意見があるのだから、企業となるとより難しい。でもそれが現状だとも言えます。

仲村:だから「なんで協賛してくれないんだ」というよりは、沖縄ってそういう状況なんだと納得した感じでした。でも、宣伝費がないとポスターもつくれないし、それがないと劇場のブッキングもはじまらない。それでクラウドファンディングで募集をかけたら18日目に目標金額の300万集まったんです。そのサイト史上、最速だったそうです。

—それくらい、想いのある人はたくさんいた、と。

仲村:それが自信に繋がりましたね。企業に協賛を断れ続けられた時には、途方に暮れていたのですが、個人ではこんなに応援してくれているんだと。だから、もっと胸張ってこの映画を発信しようと思えました。出演者のみなさんだけでなく、応援してくれる人たちの想いも引き受ける。監督としての責任がさらに増えたと思っています。

「僕はまだ、簡単に『沖縄を好き』って言えないんです」

—今回の映画をつくるにあたって、沖縄を離れたことによって見えて来た沖縄というのが大きなきっかけになっていますが、もともと沖縄を出たいと思っていたんですか?

仲村:そうですね。沖縄でやることは何もないと思ってました。東京って、沖縄から見たら夢の国なんですよ。やっぱり沖縄にいたら、そのまま適当な感じで人生を過ごしてしまいそうな気がして、それもイヤだったので、外に刺激を求めた部分もあります。でも、関東に出たら、結局、沖縄でやり残したことがあることに気づいて、沖縄で映画を撮っちゃったんですけど(笑)。

—沖縄を好きだと言えるところはありますか?

仲村:僕は沖縄が好きって、なかなか言えないですね。まだ言えないです。多分、沖縄を少し見ただけだと、沖縄はいいところで、大好きだという人はいっぱいいると思うんですけど、どんどんどんどん掘り下げて、いろんな問題やこれまで歩んできた経緯を見ると、嫌いな部分が大きくなってくるんじゃないかなと思います。簡単に好きって言えないと思うんです。

—その一方で、自然との繋がりを大切にしてたり、伝統や家族を大切にする沖縄の姿もあります。そういう故郷に対する誇りは?

仲村:それはあるんです。でもやっぱり好きというほどでもないかな。それよりは、もっと将来的に、自分たちが大人になった時に、沖縄を輝かせていきたいという想いの方が強いです。

—そのために自分たちの世代が何をすべきかが問われてくる、ということですね。

仲村:そうですね。MONGOL800やHY、かりゆし58といった音楽のアーティストさんたちは、みんな、沖縄の戦争の話を歌っているし、やっぱり沖縄に生まれたから自分たちがすべきことがそれぞれあるのかなということは感じるんです。僕たちも今回、沖縄の若者だからこそ伝えられる映像があると思ったからこの映画を撮ったし、それを発信しなくてはいけないという使命感みたいなものがありました。そういう想いをみんな抱えているんだと思います。沖縄で生まれ育った僕らの世代がどう感じているのか、それが映画を通して感じてもらえたら嬉しいです。

プロフィール
仲村颯悟

1996年沖縄県生まれ。小学生の頃からホームビデオカメラを手に、数多くの作品を制作。13歳の時に手がけた自身初の長編デビュー映画『やぎの冒険』(2010年)が国内外の映画祭に次々と招待された他、沖縄県内で大ヒットし、ビートたけしや塚本晋也監督からも絶賛された。現在、慶應義塾⼤学環境情報学部に在学。5年ぶりの⻑編2作目となる『人魚に会える日。』が、2月21日より沖縄・桜坂劇場、28、29日沖縄市民小劇場あしびなー、2月27日より宮古島よしもと南の島パニパニシネマにてロードショー。また、3月3日〜7日東京・ユーロライブ、3月26日よりシネマート心斎橋、4月2日〜8日名古屋・シネマスコーレにて公開決定。



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