台湾を代表するヒップホップレーベル・KAO!INC.のキーマンに聞いた、台湾ラップの「今」

中国語のラップ、聞いたことありますか? もしまだ聞いたことがないのなら、台湾で最も有名なヒップホップレーベル『KAO!INC.』のアーティストから聞くのがオススメ。彼らは台湾の若者の心情をストレートに表現した楽曲を数多く生み出し、中国語圏をはじめ台湾の若者たちから絶大なる人気を得ています 。 今回、台湾の音楽通なら知らない人はいない、現在ワールドツアー中の『KAO!INC.』から代表のDELA(デラ)と李英宏(リー・インホン) aka DJ Didilongに、台湾のヒップホップシーンについて幅広くお話を伺いました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

1995年、台湾にヒップホップが輸入された

ーはじめに『KAO!INC.』の代表であるDELAさんが、台湾でヒップホップレーベルを立ち上げるまでの経緯を聞かせてください。

DELA:まず1995年くらいに、台湾にヒップホップという音楽ジャンルが入ってきました。この頃はよくDr.Dre(ドクター・ドレー)なんかを聴いていましたね。その後、大学生になってDJを始めたり、色んなレコードを掘って、友だちと毎晩、音楽の話をしてたり。

ー いいですね。たとえばどんなことを話していたんですか?

DELA:当時聞いていたヒップホップは、ほとんどアメリカの黒人が作ったものばかり。だから、もし台湾でラップをするならどう作る? 中国語を使うならどんなリリックになる? ということをよく話してました。あとは、台湾の同年代の若者が自作のデモ音源をネット上で公開してて、これもみんなでよく聞いていた。ほとんどがひどい出来だったけど(笑)。でも、Hot Dog(台湾ヒップホップシーンのパイオニア的存在のアーティスト)など、数は少なかったけど、台湾でも本格的にヒップホップをやろうとしている人がいると知って、驚いたのは覚えているよ。

ー 聴いて楽しむというところから、実際に自分でレーベル『KAO!INC.』を立ち上げようと思ったのはなぜでしょうか?

DELA:昔は台湾でもヒップホップが好きな人は少なかったから、まさに「ヒップホップ好きはだいたい友達」みたいな感じで。毎日集まって、あーだこーだ言っているうちに自然に秘密結社ようにグループが生まれていった(笑)。レーベルを設立した2005年頃は、もちろん台湾の音楽の主流はポップス。だから大学を卒業したとき、ヒップホップをはじめとしたブラックミュージックのシーンをもっとでかくしていきたいと思って。まずは仲間たちと一緒にアーティストを探し始めて、自宅を改装して簡単なスタジオを作ってレコーディングからスタートしました。

ヒップホップをやっていると言うと、鼻で笑われることも多かった。

ー 小さなコミュニティから誕生した『KAO!INC.』。現在、レーベルがスタートして12年が経ちましたが、取り巻く周りの環境に変化はありましたか?

DELA:始めた頃と比べると、環境は大きく変わったと思います。昔はポップスとR&Bとロックしか台湾にはなかった。でも、今はヒップホップが1つのジャンルとして認められるようになったし、大きなライブも開催できるようになった。

李英宏:特にここ数年、変化があったように感じます。今年は中国でヒップホップ番組『中国有嘻哈(The Rap of China)』が爆発的な人気になり、中国語ラップという大きなムーブメントが起きました。この番組には台湾のアーティストも多く出演していましたし。

ー それまでは中国語でラップをやるということは一般的ではなかったのでしょうか?

李英宏:台湾でヒップホップが普及し始めた頃は、他のロックなどのジャンルに比べると、アーティスト側にも自信がなかった。本当にこれでいいのか? という迷いがいつもあったと思う。それにヒップホップをやっていると言うと、鼻で笑われることも多かった。だけど、ここ数年で僕たちを馬鹿にしていた人たちがフォローするようになってきてきた。

ー 台湾でヒップホップがここ数年で大きな注目を集めた原因は何でしょうか?

李英宏:数年前に台湾の若者の間で「文青(ウェンチン)※」というトレンドが生まれ、それがあらゆる分野のカルチャーに影響を与えました。僕たち『KAO!INC.』は、アメリカのラッパーがよく歌ういわゆる「金・女・車」をテーマにしたラップはしない。むしろ生活上で感じたことをリリックに書き留めて表現している。だからこの「文青」というムーブメントと一緒に注目を集めたとも思っています。

※文青とは「文芸青年」の略。いわゆるメジャーではないマイナーな音楽や映画を好み、スキニーパンツ、カメラ、村上春樹を愛する人たちのこと。日本語で言うと、サブカル系。

台北の生活で感じたリアルをそのまま音楽に

ー そんな盛り上がりをみせる台湾のヒップホップシーンの中で、『KAO!INC.』アーティストが他のヒップホップアーティストと異なるのはどんな点ですか?

DELA:まず『KAO!INC.』にいるアーティストの共通点は「ちょっと変」(笑)。私も含め、みんな基本恥ずかしがり屋なんです。つまり自分が作る音楽にプライドを持っているけれど、それを外に広めていくことに積極的とは言えない。これまでも『KAO!INC.』にお願いだから入れたい、とかそういうアーティストはほぼいなかったし、逆に、強く勧誘することも恥ずかしくてできなかったりする(笑)。

ー 楽曲面やリリックに関しては、どんな特徴があると思いますか?

DELA:さっき李英宏も言った通り、自分たちは「のし上がっていくぜ!」というメッセージよりも、生活上で感じた感情をそのまま音楽にしている。ラップで一番大事なのは自分の内面を言葉として外に出していくこと。ギャングスタ上がりのラッパーも台湾にはもちろんいるけど、彼らは彼らの生活の中で沸き起こるメッセージがあるし、私たちは私たちの生活の中で感じることがある。

李英宏:僕も学生時代に感じたことや、道端で出会った犬について思いを馳せてラップしたり……。『KAO!INC.』のアーティストはみんな、生活感のある音楽を作っていると思う。

ー ではDELAさんが『KAO!INC.』のレーベルを運営する上で、一番大切にしていることは何ですか?

DELA:自分の仕事はプロデューサーとして、アーティストと楽曲を世界中に広めること。だからこそアーティストを選ぶ上で一番重視しているのは、音が耳に入ってきた時に「ドキドキ」するかどうか。つまり心が動かされるかなんです。この感覚がないなら、『KAO!INC.』で一緒に音楽を作り続けることは難しいとは思ってます。

言語の壁を超えて「観客の体と第6感」を揺さぶりたい

ー今年からワールドツアーを始めたんですよね。

DELA:そうです。単純に自分たちが次に向かうべき場所がどこなのかを知りたいと思いまして。これまで10年以上台湾国内で活動してきて、最近ではありがたいことにチケットも完売することが増えてきた。でも自分たちのことを知らない場所で挑戦をして、新しいことにもっと挑戦したいと思って。

ー すでに中国で何度も公演を成功させことを踏まえ、先日は世界ツアーでロサンゼルスやニューヨークでも公演をしましたね。ただ、中国圏ではないところだと、観客は基本的に中国語がわからないですよね?

DELA:ヒップホップはメッセージ性が強い音楽だから、もちろん言葉も大事な要素のひとつ。でも、私が一番重要だと思っているのは、言語の壁を超えて「観客の体と第6感」を揺さぶることだと思っている。自分たちも外国のヒップホップを聴いても、リリックの意味を全て理解してないことも多いけど、彼らの音楽に感動し影響を受けていますから。

DELA:以前に台湾でKREVAがライブをしたとき、『KAO!INC.』所属の蛋堡(ダンバオ)がゲストアクトとして出演しました。KREVAにとって台湾公演は、日本みたいに一瞬でライブチケットが完売するわけでもない、そして言語も環境も違う中でパフォーマンスをするという大きな挑戦だったと思うんです。実際に、観客の3分の2は台湾人で、あまりKREVAの楽曲を知らないという状態でした。それでKREVAは、一切手抜きなしの本気のショーをして、観客を完全にロックした。最後には言葉や知名度を超えて、会場が一体となって盛り上がったんです。

——逆に『KAO!INC.』はもうすぐ日本公演もありますよね。

DELA:そうです。だからあの時のKREVAの公演で感動したことを、今度は自分たちが日本でやる番だと思っている。

ー 最後に李英宏さんはステージの上からどんな事を伝えたいですか?

李英宏:日本公演に関しては、言語によってリリックの響きや感じ方が違うことを伝えたい。そして中国語や台湾語のラップをぜひ生で体験してほしい。あと、台湾独自の「台客」(ださカッコイイという意味)スタイルを見てほしいな。そして、言語が違ったとしても、音楽を通して交流が可能だっていうことを自分たちの力で証明したいですね。

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プロフィール
KAO!INC.

2005年7月に設立した、台湾の伝説的HIPHOPレーベル。台湾ラップ・HIPHOPの発展において重要な役割を果たす。代表のDELA(デラ、本名は張逸聖)はプロデューサーとして独特なセンスと美学意識で数多くのヒット作を手掛ける。リリース作品は台湾「金曲賞」「年間ベスト10アルバム賞」「金音賞」など数多くの賞を受賞・入選する。



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