シティポップの新星Phum Viphurit(プム・ヴィプリット)×KKが語るインディーズ音楽

弱冠23歳にして、柔らかなハスキーボイスとちょっとした貫禄をたずさえ、「タイのプリンス」と呼ばれるPhum Viphurit(プム・ヴィプリット)。

まぶしい笑顔と、ハンサムでありながらキュートなルックスをもつ彼は、自主制作した『Long Gone』のMVがYouTubeで注目を集めると、その後『Lover Boy』で一夜にして有名に。シティ・ポップのブームに乗り、いまやアジアのインディーズ音楽シーンを代表するミュージシャンとなった。

今回の対談の相手は、台湾のインディーズレーベル「White Wabbit Records(小白兔唱片行)」創設者の葉宛青、通称「KK」。White Wabbit Recordsは、直営CDショップを運営するほか、国内外のインディーズ音楽レーベルやバンドのエージェントとしても活動。海外のバンドを台湾に招いたライブイベント『ORIGINALIVE(本事現場)』や『LUCfest(貴人散歩音楽節)』の開催にも携わっている。

2019年5月、「ノスタルジックデート(老派約會)」をテーマに開催された『ORIGINALIVE』では、プムをはじめ3組のアーティストを台湾に招いたKK。HereNowは、ライブ翌日に二人を訪ね、タイや台湾、東南アジアのインディーズ音楽について聞いた。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

台湾の音楽シーンを、二人はどう見る?

—いま、台湾のインディーズ音楽を取り巻く環境はいかがですか?

KK:小型のライブハウスやライブが増えましたね。ここ数年はフェスも多くて、音楽好きもみんな夢中で参戦しています。でも、これが今後も続いていくかどうかはわかりません。

最近のインディーズ音楽界で顕著な傾向なんですが、今年一番ヒットしたバンドはみんなに知れわたるものの、そのバンドが来年もヒットするかはわからない。変化がとても早いんです。

あとは、アジアの国同士のつながりも出てきています。たとえば最近White Wabbit Recordsで注目しているのは、タイやマレーシアなど東南アジアのバンド。逆に、Sunset Rollercoaster(落日飛車)など、台湾のバンドも東南アジアでヒットして、知名度を上げています。

東南アジアの国々って、じつは文化も比較的似ているので、共鳴しやすいんです。なので、いま台湾にどんなバンドがいるかだけではなく、そのなかからどのバンドがアジアに出ていくかという点にも注目しています。

プム:台北のインディーズ音楽シーンは、とてもエネルギッシュだと感じます。ぼくも多くは知りませんが、いままでライブをしてきた経験からいうと、台北のライブハウスは設備がどこも整っています。バンコクは小型のライブハウスが少なくて、世界的なミュージシャンがライブするような大型の会場ばかりなんですよ。

—そういったミュージックシーンのなかで、KKがWhite Wabbit Recordsを設立し、『ORIGINALIVE』や『LUCFest』といったライブイベントを開催する理由は?

KK:つねに、そのときの音楽シーンに足りないことをやってきた感じです。2018年には音楽に関する書籍が少ないと思ったので、『White Wabbit通信』という雑誌を発行しました。「女媧、天を補う」みたいな感じです(笑)。2014年から2016年にかけてはピアノを中心とした『P Festival(鋼琴音楽節)』を主催したり、バンドのマネジメントをやったりもしてきました。

—昨日の『ORIGINALIVE〜ノスタルジックデート〜』のオープニングアクトは、台湾のバンドFreckles(雀斑楽団)でしたが、プムから見た台湾のミュージシャンの魅力ってなんだと思いますか?

プム:ぼくが知っている台湾のバンドはみんな謙虚で優しくて、ドリームポップが好きですね。これも最近の東南アジアのインディーズ音楽の傾向だと思います。

シンガーの9m88がカバーした、竹内まりやの『Plastic Love』、聴きました。あとはドリームポップのThe Fur.とか、もうちょっとハードなOutlet Drift(漂流出口)も知ってます。

Sunset Rollercoasterとは何度か会ったことがあって、数日前も香港の音楽フェスで偶然会ったときにアルバムをくれました。みんなぼくにレコードをたくさんくれるんですが、プレーヤーを持っていないので、買わなきゃと思ってます(笑)。

—話を戻してKKにお聞きしますが、今後White Wabbitは、レーベルやキュレーター、レコードショップとして、台湾の音楽業界でどのような役割を担っていきたいですか?

KK:お金を稼ぎたいですね(笑)。

プム:これは、みんな共通の願いだと思います。

KK:いまの音楽業界は、ビジョンがあって利益も出せるという会社がなくて、才能ある人たちを惹きつけられていない。業界全体的に元気がないので、利益を出せて、なおかつセンスもある会社にできるようがんばりたいと思っています。

「ノスタルジックデート」が連れてくるロマン

—KKがライブのためにプムを台湾に招いたのは、今回で3回目ですね。

KK:これまでは『LUCfest』のフェスに参加してもらうかたちでしたが、今回は初のワンマンライブ。今回フィリピンのMellow Fellowと、カナダのTimber Timbre、そしてプムの3組が台湾でライブをする日程がとても近かったので、3つの公演にひとつの冠をつけて一緒に宣伝することにしたんです。

私のなかでは最近プライベートなことを考える時間が多かったので、個人的な気持ちと仕事が混ざり合って、結果的に「ノスタルジックデート」という企画名になりました。

あとは、プムの名前を読めないお客さんが結構いまして、「ノスタルジックデートの5月16日の公演」と言って購入してくれる方が多かったんです。個人的に、これは不思議だけど良かったことだと思って。

というのもこれまでのライブって、「誰々のチケットが欲しい」と言われるだけで、イベントのテーマについてはまったく注目されることがなかったんです。

—お客さんについては、どんな印象でしたか。

KK:これまであまり見かけなかったタイプの方が来てくれたと思います。「ノスタルジックデート」という名前のせいで、じつはチケット販売の段階では音楽イベントとわかっていない方も多くて、合コンと間違えられたこともありました(笑)。ライブを通して音楽を広めていくことで、普段は出会わない人と出会う機会を生み出せるんじゃないかなと思いました。

プム:もしかしたら、ライブで出会ってデートに行った人たちがいるかもしれないよね。そういう面でも役に立てているなら、嬉しいなと思います。

—プムは今回で3回目の台北ですが、どんなところが一番好きですか?

プム:雰囲気ですね。全体的に灰色っぽくて、ぼやっとしているところが少しバンコクと似ています。食べ物もあまり変わりませんが、交通の便は台北のほうが良いです。

今回泊まっているホテルのすぐ近くには、草間彌生の作品があったり、向かいにスケボーやバスケができるところがあったり。ぼくにぴったりの場所だと思います。

—プムにとって、ノスタルジックなデートってどんなものですか?

プム:もしSNSを使わずに知り合ってデートできたら、それはぼくにとってノスタルジックですね。KKにとってのノスタルジックデートは、もっと昔っぽいんじゃないですか(笑)。

KK:たしかにね! でも私は、年代で区別はしたくなくて。私くらいの年齢だと、みんなオンラインのスケジュールで空いてる時間を確認して、少しのあいだだけ一緒にご飯を食べるとかが多くて、一日中集まるのはなかなか難しいんです。なので私が思うノスタルジックデートは、今日は一緒にこれをするって決めて、それだけをやる。単純にひとつの空間に集まって、同じ時間を過ごすことです。

プムのこれまでと、アジアの音楽シーンの変化を振り返る

—プムは世界各地の音楽フェスにも出演経験がありますが、海外アーティストに影響を受けることはありますか?

プム:1枚目のアルバム『Manchild』の頃とはかなり変わって、いまはメロディーやリズム感を重視しています。最近は1970年代のモータウンサウンドやソウルミュージック、ディスコミュージックなんかをよく聞いていて。

たまにヒップホップとか、アメリカのToro y Moi(トロ・イ・モワ)みたいなチルウェイブを聞くこともあります。オーストラリアのSticky Fingersも好きです。彼らのスタイルはレゲエに似ていて、ソウルミュージックも取り入れています。

ぼくは小さい頃にニュージーランドに住んでいたこともあって、オーストラリアとかニュージーランドのミュージシャンのスタンスというか、ちょっとけだるくて、気楽な感じのライフスタイルって、とてもよくわかるんです。

—自分の音楽が海外で認められて、人気が出ていることについてはどう考えていますか? また、アジアにおけるノスタルジックミュージックのブームについては。

プム:こうなるとは思っていなかったので、本当にありがたいです。もともと高校を卒業するときには、バリスタになろうと思ってたんです。でも、その頃ちょうどYouTubeが世界中で注目されるようになっていて、そこからタイでライブに出演しないかと声をかけてもらえるようになりました。

ブームは行ったり来たりするものだと思います。いま、バンドTシャツとかワイドパンツみたいな1990年代のファッションが流行っているように、20年も昔に流行ったものがブームになることはよくある。もともとノスタルジックな雰囲気を持ったチルアウトミュージックが好きですし、アジアのインディーズアーティストたちが注目されるのはとても嬉しいです。

—新曲『Hello, Anxiety』に込められたメッセージを教えてください。

プム:周りからは、若くして成功していると思われていますが、自分では全く予想もしていませんでした。メディアの取材をたくさん受けなければならなかったり、自分自身が商品になってしまっている感覚があるのですが、これはぼくが望んでいる自由な状態ではないんです。いままで音楽は趣味で、純粋に音楽を通して、日常生活から離れることができていたので。

KK:でもいまは音楽が生活の中心になってるよね。

プム:そうなんです。音楽から離れることができなくなって、不安になったり、不眠になったり、曲をつくれなくなったのは人生で初めてのことで、ちょっとどうすれば良いかわからなくなりました。

そういうことがあったので、ぼくもつねに明るいわけでないってことを知ってほしくて『Hello Anxiety』を書きました。プレッシャーから解放されたくて。前向きにメッセージを伝えたかったので、曲名には「バイバイ」ではなく「ハロー」を使いました。手紙の最初みたいに。みんなに「大丈夫だよ」と伝えたかったんです。

KK:店でもこの曲をよく流してます。ときどき私も同じような感覚におそわれるので、自分の不安と向き合えるプムは本当にすごいと思う。

Phum Viphurit -〈Hello, Anxiety〉

—プムはバンコクの音楽シーンを中心に活動していますが、バンコクと台北の音楽シーンの違いはありますか?

プム:感覚としてはかなり似ていると思います。どちらもメジャーとインディーズの境界線がなくなってきているし、ローカルシーンのなかでは、世界的なメジャーバンドより有名になっているインディーズバンドもある。

タイのインディーズ音楽フェスには、『Cat Expo』や『Wonderfruit』などいろいろあります。数が増えるとそのぶん競争も激しくなるので、良いことばかりではないけど、音楽業界にとってはよくある状態だと思います。

—プムがおすすめする、タイのインディーズバンドは?

プム:いまの音楽シーンではノスタルジックがブームだと話しましたが、最近は歌詞に英語をたくさん取り入れようという試みがさかんです。

Summer Dressというぼくの好きなバンドは、プログレとチルウェイブの中間のようなスタイル。そのほかにはmamakissもおすすめです。日本のロックに近いテイストで、ぼくのサポートメンバーのギタリストも、このバンドのメンバーなんです。

—タイを含めた東南アジアの音楽シーンで、KKが最近注目しているバンドは?

KK:タイのバンドのボーカルって、ピッチがとても安定しているので、完成されて聴こえるんです。ボーカルとプレイヤー同士のバランスもとれていたり。一方で台湾のバンドだと、ギターとドラムに重点を置いていますね。

私は「ノスタルジックデート」でもライブをしてくれた、フィリピンのMellow Fellowがおすすめです。まだ成長段階ですが、とてもポテンシャルのあるバンドだと思います。

—近年の音楽シーンでは国境を越えたコラボレーションもよく見られますが、プムもこのような経験はありますか? また、このようなコラボの魅力はなんでしょうか。

プム:中国のメディアプラットフォームの88risingは、『Lover Boy』のリミックスをつくりたいと、Instagramでコンタクトを取ってきました。中国語の歌詞は全然わからなかったけど、「いいよ、どうぞ」という感じでした。その後に成都に行く機会があって、88rising発のヒップホップグループHigher Brothersと会いましたが、想像通りの面白い人たちでしたよ。

あとは日本のDJ、MPCプレイヤーのSTUTSとコラボしたこともあります。韓国のアイドルグループBlack Pinkも、フランスのDJ Snakeとコラボするらしいですし、国境を越えたコラボがどんどん増えているのはとても嬉しいです。ビジネスマンがアジアマーケットの可能性に気づいたんだと思いつつも、やっぱり音楽への愛から始まったのだと思いたいですね。

ぼくが最近コラボしたいと思っているのは、オランダの歌手のベニー・シングスか、Toro y Moi。チルウェイブの先駆者と呼ばれているToro y Moiの作品には、最近注目しています。

—最後にお二人にお聞きします。今後のアジアの音楽シーンの可能性と、ご自身が挑戦したいことは?

プム:特に目標は決めてないです。昨日は台北で1,000人を前に演奏しましたが、その前日にはシンガポールのクラシックホールのような場所でライブをしました。たぶんいままでで一番ラフなパフォーマーだったんじゃないかな。いまも履いてるこのパンツにTシャツで歌ったんだけど、来る場所を間違えちゃったみたいだったね。でもみんな立ち上がって盛り上がってくれました。

KK:私もこれといって特別な目標はないですね。活動を続けていくことで、ちょっとした心の平静と喜びが得られればいいなという思いはあります。

目標を達成するために、仲間たちを泥沼に引きずり込むようなことはしないというのが、一貫したWhite Wabbitの理念でもある。数年ごとに事業の核が変わっているようにも見えるかもしれませんが、私にとってはどれも同じことなんですよ。

プロフィール
Phum Viphurit
Phum Viphurit (ぷむ ゔぃぷりっと)

ニュージーランド育ち、タイ在住の超新星。自らソングライティングした軽快なチューン『Lover Boy』で、一躍世界の注目の的に。ポップやファンク、ジャズなど、ジャンルにとらわれず多くのミュージシャンから影響を受け、エッセンスを融合させて、ユニークな音楽を生み出している。

White Wabbit Records
White Wabbit Records (小白兔唱片)

2002年に設立されたWhite Wabbit Recordsは、国内外のすぐれたインディーズバンドを扱うレーベル。台北のPucheng StreetでCDショップも運営している。2012年に始まったライブイベント『ORIGINALIVE(本事現場)』では、さまざまな海外のインディーズバンドを台湾に招待。2017年からは、9 kick culture(與九踢文化)と共催で『LUCfest(貴人散歩音楽節)』をスタート。台湾に拠点を置きながら、アジアとつながり世界を見据えた音楽フェスをつくっている。



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