恵文社から誠光社へ。京都の名書店員・堀部篤史がオープンした、この時代の京都らしい本屋さん

京都で、いや日本でも1、2を争う知名度を持つ書店「恵文社一乗寺店」。2010年にイギリスのガーディアン紙が発表した「The world’s 10 best bookshops」に選ばれたことでも知られる。その恵文社の店長を2002年から務めてきた堀部篤史がこの夏、とうとう恵文社を退社し、自らの書店「誠光社」をオープンさせた。果たして彼が見据える書店の未来とはどういうものなのだろうか。2015年11月25日の開業から3日目の朝、まだ大工さんも行き交う慌ただしい店内に、誠光社の堀部店長を訪ねた。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

丸太町は、とにかくご近所が面白い

―まずは開店、おめでとうございます。

堀部:ありがとうございます。まだ片付いてないところも多くて、店作りをしながら営業をはじめている感じです。建物の引き渡しがぎりぎりになったので、本棚とかはほぼ2日間で形にして。

―それはバタバタでしたね。2階がお住まいになるんでしょうか。

堀部:そう、それも(11月)23日に引っ越ししたところなので、まだ全然住める状態じゃない。だけど、このあたりは良い店が多いから、ご飯には全然困りませんね。うちの並びにある銭湯「桜湯」も24時までやってますし。

―まずこの街のことからお聞きしたいと思います。誠光社のあるここ丸太町は、京都御所と鴨川、京阪神宮丸太町駅から徒歩3分圏内にありますね。

堀部:もともと、この近所にある「かもがわカフェ」にはよく来てたんですけど、今また、若い人の店が増えてるエリアじゃないですか。うちと同じ11月25日で、「LAND」っていうパン屋さんもオープンしていましたよ。

―一方、京都の外のひとからすると、丸太町や荒神口ってそれほど認識されてないエリアかもしれません。

堀部:祇園とは違いますけど、落ち着いた風情だし、京都らしいといえば京都らしいエリアだと思います。うちのような品揃えを特化した店は、市外からのアクセスがよくないと成り立たないけど、あまりガヤガヤした地域でも難しい。ここは、その両方を満たす場所だから凄いしっくりきてます。

―そういう意味では、京都の人が店をはじめるのにいい場所なのかもしれないですね。

堀部:そうかもしれません。鴨川沿いにある「喫茶いのん」は、お住いもうちの近所で、ご夫婦とお母さんで喫茶とお花屋さんをいっしょにされてるんです。店と住まいが近くて、ご夫婦でされてるような店もすごく多いですね。うちの物件は、隣りのカフェ「アイタルガボン」に紹介してもらったんですけど、とても雰囲気のいいカフェで、メニューもしっかりされていて、充実した本棚もあるんですよ。その「アイタルガボン」も店の上に住みながら、おふたりだけで営業されていて。人を雇わないで小さくやっていくことで、ゆっくりと自分達のペースで営業できるんですね。

―誠光社のウェブサイトにあるアクセス地図でも、早速、いくつもの店が紹介されてました。堀部さんは近所にある店とのつながりを大切にされてますよね。

この物件を決めた理由も、隣りに「アイタルガボン」さんがあるからやっていけるかなと思いましたし。ご近所とは仲良くしてやっていきたいです。こないだ行った河原町通りにある「とんかつ清水」は、夜は飲み屋なんですけど、平日のお昼だけソースカツ丼を出して、ソースカツ1枚から8枚まで選べるって。僕は2枚で十分でした(笑)。

―堀部さんの行動範囲とともに、誠光社の周辺地図もさらに充実していきそうです。

堀部:落ち着いたら、ちょっとずつそういうこともやっていきます。

―ちなみに、海外からのお客さんって恵文社の頃はどれくらいありましたか?

堀部:アジアの方はすごく多かったですね。特に、台湾の方は雑貨感覚なのか、本もよく買っていかれました。

―堀部さんが推薦文を寄せられていた台湾のガイド本『男子休日委員會』の影響もあるんでしょうか。台湾の男女3人組が京都市左京区を案内した本でした。

堀部:そうですね、彼らは台湾ですごく影響力があるので。うち(誠光社)にも早速、台湾の人が来られましたよ。

―早い!

本づくりが好きな出版社と本屋さんの良い関係って?

―では、今回オープンした誠光社について伺わせてください。まず以前から個人で新刊書店を開業する予定はあったんですか?

堀部:というよりは、恵文社を辞めようと決めた時に、どうせなら自分で本屋をやりたいなと思ったという感じです。だから、流通のこともふくめてすべて、個人で新刊書店をやるために設計し直したんです。

―最近よく言われる言葉でいえば、「小商い」ということになりますか?

堀部:そうですね。恵文社だと同時にレジを3つ開けてたので、必ず3人は同時に働いて、規模も大きいから家賃もここの10倍はする。それだけ考えてもここは30分の1の売上でいいわけですし、住まいも一緒にしたので、設定としてはさらに家賃がないようなもの。そうやって計算していくと、ひとりでも新刊書店としてやれるはずなんです。説明しはじめると専門的になりますけど、とにかく、どうやって本をメインにして店をやっていくか。そのことを突き詰めていくと、出版社と直接取引をして粗利を上げていくということです。

―書店と出版社の間の流通を担っている“出版取次”を使わない選択だと。

堀部:今のところ30数社と直接取引をしています。それでもまだまだ足りないんですけど、筑摩書房、平凡社、河出書房、晶文社、国書刊行会……ちゃんと本を編集して、それを売ることで成り立っている出版社はすぐに理解してくれて、反応もよかったです。メディア事業だとか広告収入で成り立っているところだと、こんな小さな規模の店に対してイレギュラーなことをやってられないので難しい。そこはだいたい予想していたとおりです。

―それにしても、取次を使わないというのは、街の本屋としてはかなり異例じゃないですか。新刊書店が本を仕入れるために取次は必要不可欠な存在とされてきました。

堀部:そう。だけど、これが前代未聞のやり方というわけではなくて、出版の世界も変わってきてるんです。大手出版社が何万、何十万部売れるという本を出版して、取次が全国にばらまくというやり方はもう成り立たなくて、5千部、3千部を売って成り立つようなマーケットに変わってきている。それだと、出版社も書店も小さな組織ほど融通がききますよね。多分、これが今の時代の必然なんだと思います。

―実際、誠光社の本棚を拝見しても、ほとんどそんな仕入れの事情は気づかないほどでした。大手出版社の本がないとやっていけないなんて時代ではもうないんですね。

堀部:恵文社時代もほとんど扱ってない大手出版社は結構ありましたから。そんなに変わらない。あとは、「スタンド流通」っていう駅の売店やキオスクに卸しているところを通して雑誌を入れてたり、「子どもの文化普及協会」という児童書の出版もしながら取次もしているところを一部使ったりもしてます。これから新潮社とか岩波書店の本もそういうところから仕入れていくので、本棚はまだまだ手を入れていきますよ。

街に学び、街と生きる小さな店のあり方

―「誠光社」という店名は、かつて京都にあった本屋さんからつけられたそうですね。

堀部:そこまで深い意味はないんですけどね。『本屋一代記 京都西川誠光堂』という本に書かれてるんですけど、西川誠光堂には三高生、つまり京大生が集まっていたりして、そうした雰囲気が理想的だなと。本の記述もかなり変わっていて面白いんです。「熊野神社」の前にあった店なのでここからも遠くないですし。

―京都人なら「西川誠光堂」と聞けば、なつかしい! って反応するような店なんでしょうか?

堀部:いや、もう知ってるという人はかなり年配の方だけだと思います。戦前の店ですから。奇をてらわず、ちょっと印刷所を思わせるような名前にしたかったのも誠光社という店名にした理由のひとつです。

―まっすぐな名前ですもんね。レジの奥には、コーヒーメーカーがありますが?

堀部:特にカフェというつもりはなくて、こういう取材や知り合いが来た時にちょっとしゃべったりできればいいので、スツールも1〜2脚だけ置いてというつもり。一応、コーヒー豆は「かもがわカフェ」の大ちゃん(店長の高山大輔さん)と、「六曜社」の修さん(店長の奥野修さん)がつくってくれたふたりのブレンドなんです。店でイベントをやるときにドリンクが必要だという理由もありますけど。

―カウンターの前にはギャラリースペースもありますね。

堀部:場所貸しはしないんですけど、一時的に使えるスペースがあると、そこで知り合いのアパレルの人にやってもらったりもできるし、展覧会を通して作品を売ることもできますから。

―店のサイズが恵文社より小さくなったというだけでなく、全体的にぐっと街に近い店になった印象を受けます。

堀部:そう、恵文社の頃は意識してお客さんと壁をつくるということをしてましたけど、ここではもう結構ずっとしゃべってますね。そこは意識して。

―そういう意味でも、恵文社とはやっぱり全然違う、堀部さんの店ですね。こうした個人店って、やっぱり京都という街だから成立すると思いますか?

堀部:うーん、やっぱりこういう何かに特化した商売というのは、お客さんの絶対数が少ないから、京都の外からアクセスする人が必要だと思います。京都は観光地だから、その点は有利かもしれません。だけど、また別の地方であったとしても、そのエリアの特色が活かせるじゃないですかね。たとえば、もっと家賃が安いから3倍の広さが持てるとか、お隣さんがカフェじゃなくて自然がたくさんあるとか。店があるその場所で何を選んで、どう組み合わせるかということですよね。

―店を成り立たせるために必要な要素が変わってくるような。

堀部:ひとつの要素だけでは成り立たないというのは、京都でもいっしょだと思います。その店ならではのことをどうやって作って、発信していけるかだと思います。

―京都の本をたくさん置いてるから、京都らしい店というわけではないですもんね。

堀部:そう、外側だけマネしても仕方がない。まだまだ落ち着いてないからできてないですけど、執筆もしていきますし、千冊程度の出版物なんかも作っていくつもりです。

―まずは、恵文社時代に堀部さんがミズモトアキラさんとやっていたトークイベント『ビッグ・ウェンズデー』を再編集して書籍化されましたね。

堀部:そうやってアーカイブ化を前提としながら、この店で講義イベントなんかをやっていくのもいいかなと思っています。この週末には、作家のいしいしんじさんとひとひ君(いしいさんの息子)が蓄音機を演奏しに来てくれます。

―いしいさんもご近所にお住まいなんですよね。

堀部:開店前からもう何度も来ていただいてます。

―そういうつながりの濃密さが京都らしいとも言えますし、“業種を超えて、街に学び、街と共に生きることにこそ、本屋をはじめとする、小さな店の未来があるはずだ”と、堀部さんの著書でも書かれていたように、そこを意識的にされてるところもありますね。

堀部:そういうことですね。まあ、本棚にまだ出せてない本が2階にたくさんありますし、店を続けていく中でその内容も変わってくるでしょう。そうやって続けていけば、他の店とは全然違うものができるはずなので、京都の人でも足を運びたいという店になってくると思います。

―これからがさらに楽しみですね。

堀部:はい。いつでもしゃべりに来てくださいよ。

プロフィール
堀部 篤史 (ほりべ あつし)

1977年、京都生まれ。恵文社一乗寺店の店長を経て、2015年11月、自身が経営する書店「誠光社」を京都・丸太町にオープン。また各媒体での執筆やイベント企画でも活躍中。著書に『街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)、『本を開いて、あの頃へ』(ミルブックス)など。

ItalGabon
住所 :
京都府京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町435
営業時間 : 11:30~21:00(last order 20:00)
定休日 : 不定休
電話番号 : 075-255-9053
最寄り駅 : 神宮丸太町駅
Webサイト : http://italgabon.blog133.fc2.com/
誠光社
住所 : 京都府京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437
営業時間 : 10:00〜20:00
定休日 : 無休(12/31〜1/3除く)
電話番号 : 075-708-8340
最寄り駅 : 神宮丸太町駅
Webサイト : http://www.seikosha-books.com/


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