旅する料理家のグルメ紀行。ベトナム「バインミー」の激旨レシピ

新型コロナウイルスの影響で、海外旅行にはなかなか行けない……旅好きには寂しい日々が続きます。でもこんなときこそ、普段はつくらないような世界の料理を食卓に並べて、旅行気分を楽しんでみるのもいいかもしれません。

これまでに世界約40か国を旅してきた久々湊有希子さんは、「セカイキッチン」という屋号で活動。さまざまな国の「現地の味」を文化人類学的視点から考察し、レシピやイベントなどを通じて紹介しています。

そんな久々湊さんの大好きな国のひとつがベトナム。今回は、ホーチミンへの旅の紀行文とともに、ベトナム料理の特徴や、ベトナム風サンドイッチ・バインミーのレシピを紹介してもらいました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

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「人懐っこい人々と美味しい料理が恋しくなって、久々にホーチミンを訪れた」

ベトナムの街を歩いていると、どこの路地にも大抵、食事をしている人たちがいる。すぐそばをバイクが通る埃っぽい街角でも、彼らは地べたに座り込み、小さなちゃぶ台のようなテーブルを囲んで美味しそうなおかずを食べている。

私が興味深そうにのぞき込むと、「食べるかい?」と差し出してくれて、分けてもらうとそれは大抵、とても美味しい。そんな人懐っこく、フランクなベトナムの人々の料理に、伝統や様式を重視する(といわれている)フランス料理のエッセンスが含まれていることは、なんだかアンバランスなようで興味深くもある。

アンバランスといえば、埃っぽい蒸し暑さと、ヨーロッパ的な街並みが織りなす不思議な雰囲気もそう。その雰囲気と、人懐っこい人々、そして美味しい料理が恋しくなって、久しぶりにホーチミンを訪れたのは2017年のこと。気がつけば、10年ぶりのベトナムだった。

地図が読めないくせに、街を歩き回って旅をする私にとって、目印になるのは建物やお店。気に入った食堂には滞在中何度も訪れるし、ぐるぐると街なかを歩いているうちに、徒歩圏内の地理感覚は、方向音痴なりにおおよそつかめるものなのだ。ホーチミンの市街もしかり、行きたい場所は大体、視覚で覚えている。

ところが、さあ市場へ出発! と街に出たところで、私はちょっとした混乱に陥った。まわりの風景を見渡しても、前回の記憶がまったく記憶が蘇らないのだった。

不思議に思いつつ、Googleマップを頼りに歩き始めて気がついたのは、どこもかしこも工事中だということ。そう、私が目印にしていた広場も、古い素敵なホテルも、みんな工事のフェンスの影で見えなくなっていたのだ。

失われゆく「古きよきサイゴン」の味

ベトナムはいま、急速にインフラ整備が進んでいる。ベトナム初の地下鉄も、ホーチミンで近々開業を予定しているという。2017年の訪問当時に私が目にしたのは、古い建物がずいぶん減り、舗装もまだ半端な道路に、不似合いな高層ビルがいくつも建ち始めた風景。地元の人々で朝から賑わっていた老舗のビアホールがあった場所も、再開発のため更地になっていた。もはや、私の知らない街に変わりつつあるサイゴンに、寂しさを覚える。

私の喪失感に追い打ちをかけたのは、市場でいつも食べていた料理が、以前よりずっと美味しくなくなっていたことだ。干し海老をタピオカ粉の皮で包んで蒸したものが美味しくて、前回の旅では、これを食べるために毎日市場に通っていたくらい大好きだったのだが、そのときに出てきたものは、モチモチとした弾力がまったくなく、硬くて乾いた感じがした。

どうにも解せなかったので、帰国後、昨今のインドシナ事情に詳しい方にうかがってみたところ、最近では食品も大量生産が主流になり、かつてはそれぞれのお店で手づくりしていたものが、冷凍食品などの工場生産品に変わり始めているのだそうだ。

さらにはニョクマム(魚醤)のような、ベトナム料理に欠かせない調味料さえも、美味しいものを探すのが難しくなっているという。生産工程が画一化、簡素化され、大量生産は可能になったものの、伝統的な製法の風味豊かな魚醤とはまったく違うものが出回り、市場の大半を占め始めているというではないか。

寂しいけれど、街並みだけでなく、食の面でも、大好きだった「古きよきサイゴン」は徐々に消えつつあるようだ。

懐かしさと親しみ深さを感じさせられるベトナム料理

それでも、街角の食堂で食べたフォーに添えられたハーブたちはすばらしい香りを放ち、フレッシュなスイカのジュースは、火照った体に染み渡る美味しさだった。屋台で売っているバインミーは、乾いたフランスパンに、芳醇な味わいのベトナムなますとレバーパテが抜群のバランス。どれも、リッチな材料では決してつくることが出来ない、ここだけの味。

ベトナム料理は、どこか懐かしさと親しみ深さが混在していて、口にするとなぜか「帰ってきた」という気持ちにすらなる、不思議な魅力を持った料理だ。

そういえば、街なかの横断歩道には、以前はなかった信号機がたくさん設置されていた。ただ、赤信号になっても、どのバイクも止まる気配はないので、強引に渡らないといけないのは以前と同じだ。

近代化を推し進めていても、人々の慣習はそんなに簡単に変わることはなくて、そのアンビバレンツな感じがちょっと憎めなくもあり、これがいまのベトナムなんだな、としみじみ感じたのであった。

バインミーやフォーなど、ベトナム料理の特徴といえば?

多くの国の料理がそうであるように、ベトナム料理もまた、植民地支配の影響を受けている。なかでも中国文化の影響は大きく、「煮る、炒める、蒸す」といった調理方法に始まり、使用する調味料——例えばニョクマムやトゥオン(甜面醤)、八角など——まで、いまでも親しまれている料理の多くにその影響は受け継がれている。

一方で、フランス統治下の影響も随所に垣間見ることができる。前述した「バインミー」や、濃いめに抽出していただく「ベトナムコーヒー」はその代表格だ。もともとベトナム人が食べなかった牛肉を料理に取り入れるようになったのもフランス料理の影響といわれていて、いまではフォーや煮込みにも多用され、こちらもすっかり国民食として定着している。

また、南北に長いベトナムでは、南北にわたって塩味のグラデーションが見られるのも面白い特徴だ。北部では稲作が盛んでお米が美味しいからか、塩辛い料理が好んで食べられるが、南部ではココナッツが多用された甘口の料理が多い。

ベトナムのサンドイッチ「バインミー」のレシピ

バインミーというのは、ベトナム語でパンのこと。だから、シンプルなバゲットにお好みの具を挟んだら、それはもうバインミー。ベトナムなますとレバーペーストがあれば、よりベトナムらしさを味わえます。

ここでは、一番シンプルで簡単なレシピを紹介します。

バインミー(1人前)

【材料】
バゲット……好きな大きさにカット
バター……大さじ1
きゅうり……1/3本
香菜……3~4本
ベトナムなます……好きなだけ
レバーペースト……好きなだけ
※なますとレバーペーストのレシピは下記参照

【手順】

1.バゲットに切れ目を入れ、バターを塗る
2.レバーペーストを塗り、きゅうり、なます、香菜を挟む

※レバーペーストとなますだけでも美味しいですが、ぜひお好きな具材をプラスしてみてください。おすすめは、ハムやチャーシュー、焼鳥屋さんのつくね、目玉焼きなど。

◆ベトナムなます(つくりやすい分量)

【材料】
大根……1/4本
にんじん……1/2本
ニョクマム……大さじ1
砂糖……大さじ2
酢……大さじ5

※ニョクマム(魚醤)はベトナム産のものを使うと風味がよいです。ない場合はナンプラーでもよいですが、種類によって風味が異なるのでお好みのものを探してみてください。

【手順】

1. 大根、にんじんはそれぞれ皮をむき、長さ5センチくらいの千切りにする
2. ニョクマム、砂糖、酢を合わせ、切った材料を和える
3. ジッパーつきのビニール袋に入れて空気を抜き、揉み込んだら味がなじむまで冷蔵庫に入れておく(半日~1日くらい)

◆レバーペースト(つくりやすい分量)

【材料】
鶏レバー……200g
生クリーム……100cc
玉ねぎ……1/2個
にんにく……1かけ
ブランデー……50cc
ローリエ……2~3枚
バター……大さじ4(半量ずつ使います)
塩こしょう……少々

【手順】

1. 鶏レバーは、ハツの部分があれば取り除き、レバー部分だけで200グラムにする。血の塊や筋をそぎ落とし氷水につけておくる
2. 1.を氷水につけている間に玉ねぎとにんにくを薄切りにする
3. 厚手の鍋を熱し、バター大さじ2とにんにくを入れ、香りが立ったら玉ねぎとローリエを加え、玉ねぎがしんなりするくらいまで炒める

4. キッチンペーパーで水気をふき取ったレバーを加え、全体に火が通るまで炒める
5. バター大さじ2と生クリームを加え、弱火で10~15分ほど、焦がさないよう気をつけながらとろみが出るまで煮る

6. ローリエを取り除き、フードプロセッサーかハンドブレンダーで滑らかなペースト状にする
7. 保存容器に入れ、冷蔵庫で冷やし固める

プロフィール
久々湊 有希子 (くぐみなと ゆきこ)

会社員として働くかたわら、「セカイキッチン」の屋号で料理活動を行う。世界を旅し、各国の食を文化人類学的視点から考察することがライフワーク。サッカー日本代表を応援するプロジェクト「対戦国を喰らう」主宰。



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