「たった1回」「たった1枚」でも違法。甘くみられるチケット転売について、STARTO弁護士が解説

昨今、ますます盛り上がりを見せる「推し活」文化の裏側で、チケット不正転売の問題が深刻化しています。

そうしたなか、文化の創造を担うアーティストやイベント主催者へ適切に資金を還元し、ルールを守って応援するファンを不正転売による高額チケット搾取から守り、正規のチケットを入手しやすい仕組みを整えるために施行されたのが、チケット不正転売禁止法です。

しかし、STARTO ENTERTAINMENT所属アーティストのイベント興行を年間600公演以上担っているヤング・コミュニケーションによれば、2019年6月の法律施行以降も特定興行入場券(この解説では「チケット」と記載します)の転売は減っていないそうです。さらに、チケット適正流通協議会によると転売者のなかには転売行為の違法性を認識していない人々もいることがわかりました。

「2枚当たったから同行者の枠を売りたくて」「地方公演の旅費を稼ぎたくて」……推し活の延長線上で軽い気持ちで行った転売によって、重い法的責任を問われるリスクが潜んでいるのです。

推し活をするうえで、正しく知っておきたいチケット転売問題。本記事では、「うっかり転売してしまった場合」「意図的に転売した場合」「うっかり購入してしまった場合」の3つのケースごとに、その違法性について弁護士にたずねました。

※興行とは、映画、演劇、音楽などの文化芸術コンテンツを、多数の者に見せたり、聴かせたりすることを言う

【うっかり転売した場合は?】1回だけでも1枚だけでも違法。イベント主催者から賠償請求される可能性も

今回取材に応じてくれたのは、STARTO ENTERTAINMENTのCCOであり弁護士の和田美香先生と、弁護士法人東京フレックス法律事務所に所属しヤング・コミュニケーションの代理人弁護士を務める中島博之先生。

「同行者の枠が余っていたから」「今回だけならバレないだろう」——軽い気持ちから行った、たった一度の転売でも、違法になるのでしょうか? たずねてみると、そうしたケースであっても、イベント主催者への業務妨害であるとして損害賠償請求に発展したり、詐欺罪などの犯罪に問われたりする可能性があることがわかりました。

—そもそも、「ファン同士の譲り合い」と「違法な転売」の線引きはどこにあるのでしょうか?

和田:まず単に「違法」というときに、大きく民事上の違法と刑事上の違法、2つのパターンが存在します。

—ではまずは、「民事上の違法」から教えてください。

和田:昨今、販売されているコンサートやイベントチケットの多くは特定興行入場券であり、「購入者本人以外は入場できない」「イベント主催者の同意のない有償譲渡は禁止」といった販売規約が設けられています。その規約に了承してチケットを購入した時点で、購入者にはその規約を守る義務が生じます。

ですから、仮に「ファン同士の譲り合い」であれ、チケットを譲渡することは規約を破る行為となりますし、入場資格のない人物をイベントに入場させる点で、イベント主催者への業務妨害行為にもなりえますので、主催者側から民事上の責任を問われ、損害賠償請求を起こされかねない行為になります。

—軽い気持ちで行った一度だけの転売でも、損害賠償請求を起こされることがあるのでしょうか?

中島:結論から言うと、あります。

たとえば、ヤング・コミュニケーションはこれまでに、チケット転売サイトの運営会社を相手に、転売出品を行っているアカウント所有者の情報開示請求をたびたび行ってきました。

これにより、不正な転売行為を行っていることが発覚した人物に対しては、しかるべき責任追及を行っております。

—チケットを2枚購入し、同行者の枠を転売することも違法なのでしょうか?

中島:はい。そもそも多くのイベント主催者は同行者枠を無断で転売して金銭を得ようとするような行為を許しておりません。「イベント主催者の許諾なく譲渡することや譲渡を試みることを禁止」するという販売規約が設けられているチケットの場合は、転売出品をすること自体が規約違反となります。

さらに転売出品は、規約違反により無効となったチケットを使った不正入場を引き起こす行為にもなりますので、イベント主催者側への業務妨害として違法行為にもあたりえます。

SNSなどで不特定多数に対してあるイベントのチケットを「買いませんか」と呼びかける行為も同様です。

—では次に、「刑事上の違法」についても教えてください。

和田:「チケット不正転売禁止法」では、イベント主催者の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示され、座席指定などがされたチケット(特定興行入場券)の不正転売などを禁止する法律です。

ここでいう不正転売とは、①イベント主催者に事前の同意を得ずに反復継続の意思をもって行う有償譲渡、②イベント主催者などの販売価格を超える価格で特定興行入場券を転売することを意味します。

つまり、ポイントは、繰り返し転売をする意思があったかどうか、そして定価を超える価格で転売をしたかどうかです。

—では、仮に定価を超える価格で転売しても、一度きりであればチケット不正転売禁止法違反にはならないのでしょうか?

中島:場合によりますね。また、仮にチケット不正転売禁止法違反に問われなかったとしても、刑罰法規に抵触する可能性があります。

たとえば、転売によってチケットを購入した本人ではない人物が、本人になりすましてチケットを行使し、サービスを受ける場合。これは、紙のチケットなら詐欺罪、電子チケットなら電子計算機使用詐欺罪にあたる可能性があります。そして、これらの犯罪の成立に回数は関係ありません。チケットを転売した側も、購入した側のこのような詐欺罪に関する共犯として刑事上の責任を問われうるのです。

【意図的に転売した場合は?】罰則にとどまらない。経済的・社会的制裁もありえる

繰り返し転売を行おうという意思をもって、定価を超える価格で特定興行入場券を転売することを禁止する「チケット不正転売禁止法」。意図的に転売を繰り返すと、どのような結果が待っているのでしょうか? 和田先生、中島先生からは、チケット不正転売禁止法違反の罰則のみにとどまらない、経済的・社会的制裁の可能性についても言及がありました。

—「チケット不正転売禁止法」に違反した場合の罰則はどのようなものですか?

中島:1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科されます。

チケット不正転売禁止法違反とあわせて「私電磁的記録不正作出・供用罪」などほかの犯罪に問われる場合もあります。

同罪は、チケットの当選確率を上げようと、他人の氏名や住所を借りて、あるいは架空の名義を作成し応募する、いわゆる「多名義」での応募などが該当します。このようにほかの犯罪とあわせて起訴される場合、科される刑罰も重くなる可能性があります。

—罰金刑であっても、前科がつくのでしょうか?

和田:そのとおりです。前科がつくと、就職等の際に不利になることがあります。また、刑の言い渡しの効力が消滅するまでの一定期間、資格取得に制限がかかったり、海外渡航の際に特別なビザを発給してもらわないと入国できないなどの制限も生じます。

中島:また、逮捕や送検された際に氏名が報道されると、SNS上などで拡散され、社会的制裁を受けることにもつながります。いわゆる「デジタルタトゥー」が残ることで、賃貸の入会審査の際に氏名で検索すると情報が出てきて、審査に落ちてしまうといった話も聞きます。

和田:いまは銀行口座やクレジットカードの作成をはじめ、なんらかの契約や取引を行う際には、相手方に対して「反社会的勢力に該当しないか」という「反社チェック」を行う企業がほとんどです。その際にも、逮捕や罰金刑を受けたという事実が不利に働くことがあります。

—実際に、「チケット不正転売禁止法」で検挙された事例はあるのでしょうか?

中島:これまでにさまざまなアーティストのコンサートチケットのほか、宝塚歌劇団による公演、『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の試合、『長岡まつり大花火大会』など、多様なイベントに関連して、チケット不正転売禁止法違反による検挙事例があります。

また、先ほどお話しした、転売サイトでの出品投稿に対する開示請求や開示命令申立てに関しても、ここ1年ほどでさまざまなイベント主催会社が行うようになってきた流れがあります。チケット不正転売禁止法で検挙された場合には、刑事上の責任に加えて、イベント主催者側への損害賠償責任(民事上の責任)も当然問われることになります。

また、利用できない無効なチケットを転売したとして、転売チケットの購入者からも損害賠償請求を受ける可能性が同様にあります。

【うっかり購入した場合は?】「知らなかった」は通用しない。買う側の責任

「チケット不正転売禁止法が禁止しているのは転売行為だから、購入自体は違法ではない」「仮に転売チケットだとバレても、大したことにはならない」——そういった考えは誤りです。たとえ一度きり、1枚限りの購入でも、推し活を続けられなくなる、損害賠償請求を起こされるといったリスクと隣り合わせの危険な行為です。

—転売チケットを購入したことが発覚した場合、ただ入場できないだけではないのでしょうか?

中島:不正転売者への措置と同様、購入者に対しても、イベント主催者がファンクラブの除名や刑事告訴を行う可能性があります。

—入場の際、転売チケットであることはわかるのでしょうか?

和田:近年は入場の際の本人確認に力を入れるイベント主催者が増えており、転売チケットによる入場の事実が発覚する可能性は十分にあります。

そもそも、転売チケットの購入代金としてお金を振り込んでもチケットが送られてこない、といったケースもあり、この場合当然入場はできません。1枚のチケットが複数名に転売されているケースも確認されています。この場合は同一チケットで入場しようとする人が複数名、現場に現れることになるので、かならず発覚します。その時点で、最初に入場した人も転売チケットを購入したことがわかるため、イベントの途中であっても退場になります。

—購入者側も、法的責任を問われることはありますか。

中島:先ほどお話ししたように、チケットを購入した本人ではない人物が、本人になりすまして入場しようとする行為は、詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪にあたる可能性があります。また、イベント主催者から損害賠償を請求されることもありえます。

—転売サイトから購入したものの、「正規販売だと思っていた」と言い張って逃げ切ることはできないのでしょうか?

中島:転売サイト上ではさまざまなイベント主催者によるイベントチケットが転売されており、正規販売ではないことが一目瞭然です。また、チケットの券面にも「購入者本人以外は入場できない」「有償譲渡は禁止」などの明示があるため、転売サイトで購入したチケットを第三者が利用できないことは少し気をつければ分かることですので、民事上は購入者に「過失があった」と認定される可能性が高いです。

また、購入後に券面を見れば第三者が利用できないことは分かりますので、それを使用して入場しようとする時点で、購入者による「未必の故意」(犯罪になる可能性を認識しながら、そうなってもかまわない、と許容して行為を行うこと)が認められる可能性があると考えられます。

【まとめ】転売はイベント主催者やアーティストを踏みにじる行為

「知らなかった」では済まされない、チケット転売問題。最後に、あらためて、すべての転売者・購入者に認識してほしいポイントをまとめていただきました。

—あらためて、チケット不正転売について「売る側」「買う側」双方が意識すべきポイントを教えてください。

和田:売る側も買う側も「転売サイトを利用しないで」と伝えたいです。転売サイトは、一見適法な取引に見えるかもしれませんが、すでにご説明したとおり、そのようなサイトに出品すること自体が違法(イベント主催者に対する権利侵害)です。たった一度でも、詐欺罪などの犯罪に問われる可能性があります。

ファンクラブから除名され、推し活を続けられなくなるばかりか、犯罪の嫌疑をかけられたり損害賠償請求を受けたりするなどして、人生さえも大きく狂わせる危険性があることについてしっかりと認識していただきたいです。

中島:イベント主催者は、物価が高騰しているなかでも、幅広い方々に文化に触れてほしいという思いから、チケット価格を上げないためのたゆまぬ企業努力を重ねています。チケットを転売する行為や、その転売によって手数料を儲けようとする転売サイトの存在は、そうしたイベント主催者やアーティストたちの思いを踏みにじるものです。

不正転売行為によって利益を得るのは転売者や転売サイトだけで、イベント主催者やアーティストには1円の利益にならないばかりか、不正転売・不正入場対策の負担や費用支出が発生することとなり、まさに百害あって一利なしと言えます。

推し活の延長線上でチケットを転売したり、転売チケットを購入したりしている人々には、この事実をしっかりと認識していただきたいです。自分の好きなアーティストの活動・イベントが今後も継続的に続くように、イベント主催者やアーティストたちがよりよい作品やイベントを作り上げることのみに集中できる、健全な環境を一緒に作りましょう。

正しい知識を踏まえ、ファン一人ひとりが日頃からできる小さな配慮を積み重ねることが、不正転売を減らし、健全な文化を守る大きな力になります。

・申し込みは必要な枚数だけ

・複数アカウント作成をしない

・非公式な転売サイトやDM取引に近づかない

・怪しい高額出品を見つけた場合は通報する

・行けなくなった場合は必ず主催者が案内する公式リセールサービスを活用する

こうした行動の積み重ねこそが、不正転売の連鎖を断ち切る力、そしてアーティストやイベントを心から応援する何よりのエールになります。そして、応援しているアーティストが安心してより良い作品・公演づくりに専念できる環境で活躍することは、結果的にファンもより豊かな文化を享受する未来につながります。

また、イベント主催者も

・チケット不正転売禁止法で定めるチケットの要件を満たすよう、販売するチケットの記載を見直す(詳細は文化庁のページをご覧ください)

・急遽行けなくなってしまったファンのための救済システム(公式リセールサイトの整備など)を確保し、チケットが非公式のルートに流れないようにする

など、空席を作らず、本当にイベントに行きたいと思うファンが危険な行為に及ばずにイベントに参加できる仕組みを整えることで、ファンがイベントに参加しやすくなり、より多くのファン獲得だけでなく収入増加や産業繁栄につながります。

みんなで楽しめる未来のエンタメ文化を、一緒に創っていきましょう。



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