ローカルが語る香港の「今」。『MUM's NOT HOME』を営む同性カップルの場合

2019年6月に激化した抗議デモから8か月、香港はいまもなお大きなうねりのなかにいる。市民と警察の衝突が起こっていたデモの最前線はもちろん、日常生活においてもさまざまな変化があったに違いない。しかしその一方で、変わらない暮らしがあるのも事実だろう。

そんな香港でお店を営む人たちは、街の「今」をどう感じているのだろうか?

香港のリアルな日常を追う企画「Updates Hong Kong 2020」の第4回は、香港中心部の下町・油麻地(ヤウマテイ)エリアにある、ユニークなカフェ兼マルチスペース『MUM's NOT HOME』を取材した。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

束縛されず自由に何でもできる、超個性派ショップ

香港で生まれ育ったMakuiさんとChowさんの同性カップルが営むのが、彼らの「好き」を詰め込んだカフェ兼マルチスペース『MUM's NOT HOME』。

九龍半島南部のローカルな雰囲気のある観光エリア、油麻地(ヤウマテイ)。『MUM's NOT HOME』は、MTR油麻地駅C出口のすぐ近く、「唐樓」と呼ばれる昔ながらの雑居ビルの1階(日本でいうところの2階)に隠れ家のように存在している。

扉を開けると、ビルの外観からは想像できない明るくカラフルな空間が。2020年3月でオープン5周年を迎えるという『MUM's NOT HOME』は、いったいどんなお店なのだろうか。

Makui:最近はカフェとして知られることが多いですが、『MUM's NOT HOME』は手づくりの洋服やアクセサリー、旅先で見つけた雑貨やハーブティーなどを販売するショップとしてスタートしたんです。

店に遊びに来てくれた友人たちに手づくりのケーキやお茶を出していたら、「美味しいからメニューにしてみたら?」と言われて。それがきっかけでカフェをはじめることになりました。メニューは、オリジナルチーズケーキとハーブティーのみ。チーズケーキは私が焼いています。

Chow:とにかく自分たちの好きなものやできることを詰め込んだ場所です。子どもの頃から絵を描くことが大好きだったのでイラストも売っていますし、ヘアカットもできるので、依頼があれば前髪カットなんかもしています。

不定期で音楽ショーや展示会を行なうこともありますよ。自分たちの作品の場合もあれば、友人たちの作品を展示することも。かたちにとらわれず、本当にいろんなことができる空間なんです。『MUM's NOT HOME』という名前を考えたのは、Makuiさんだよね。

Makui:子どもの頃に、たまに母親が出かけて留守番することになったとき、すごく楽しかった思い出ってないですか? 束縛から逃れられるというか(笑)。そんな子どもの頃の「母親が不在の家」のように、自由に何でもできる空間にしたかった。だから『MUM's NOT HOME』と名づけました。

と言いつつ、私たち二人とも母親に活動を応援してもらっているんですけどね(笑)。最初は私たちが表現するものを理解し難かったようですが、いまでは安心して見守ってくれています。

専門学校を卒業後、Makuiさんはビジュアルマーチャンダイザー、Chowさんはファッションデザイナーとして就職。その後、ともに会社を辞め、一緒にニュージーランドに1年、オーストラリアに2年のワーキングホリデーに行ったそう。

出会って17年半が経つという二人。どのようなきっかけで出会い、『MUM's NOT HOME』のオープンに至ったのだろうか。

Makui:共通の友人を介して出会いました。性格が合うので何でも一緒にできますね。お互いの不足も補える関係性だと思います。

Chow:本当に仲良し。ケンカもするけど一瞬ですぐに仲直りできるんですよ。だいたいはMakuiさんに怠け癖のある私が怒られています(笑)。

それぞれビジュアルマーチャンダイザー、ファッションデザイナーという肩書きを追い求めてきたわけではない。自分たちができることと仕事を掛け合わせたときに、そこに落ち着いたのだという。ただ、さらに自分たちの好きを極めた先に『MUM’s NOT HOME』があった。

Chow:お店の内装を気に入ってくれる人も多いのですが、もともとこうしようというイメージがあったわけじゃなくて、「好き」とか「きれい」とか、自分たちの美的感覚にしたがって少しずついろんなものを集めていたら、こうなったというかんじです。

テーブルや椅子もすべて拾ったものなんですよ。良さそうなもの見つかったら、「とりあえず拾って帰る?」が二人の口癖です(笑)。

二人は同性カップル。香港のLGBT事情と、本人たちの想い

二人は、男性同士の同性カップルだ。香港では街中でもよく同性カップルを見かける。Instagramなどを通じてLGBTであることを公表している二人だが、実際のところどのように感じているのだろう。

Chow:私はまったく気になりません。

Makui:私は少し気になるところがあります。まったく関係ない人たちが、私たちのことを知りたがるのが嫌なんです。もっと普通に接してほしい。恋愛対象が異性だろうが同性だろうが、好みの違いでしかないと思うから。

ただ、香港はもちろん世界的にもLGBTへの理解が深まっていますよね。以前に比べて、当事者たちが好奇な視線を浴びることも少なくなっているので、良い流れを感じます。

Chow:Makuiさんより私のほうが外交的な性格なので、もし誰かになにかを言われるとしたら私のほうが多いんですけど、全然気にならないですね。「Kawaii」って言われるとうれしい(笑)。

「私たちの姿勢は、デモ前後で変わらない。どんな思想の人も来てほしい」

2015年3月にオープンして以来、二人のユニークなキャラクターも手伝って注目され続ける『MUM's NOT HOME』。

ただ、最寄りのMRT油麻地駅で抗議デモが行われるなど、今回のデモの影響は小さくない。現在の街ではどんな変化が起こっているのだろう。

Makui:もちろんデモの影響はあります。デモ後にお客さんが少なくなったということはありませんが、お客さんの層が少し変わったような気がします。観光客が減って地元の人たちが増えたというかんじでしょうか。

ただ、私たちの姿勢はデモ前後で変わりません。お店のなかで政治的な話は一切しないですし、どんな思想の人が来てくれてもいいと思っています。

二人の自宅もお店の近くの「油麻地」エリアにあるという。デモは私生活にも影響を及ぼしているのだろうか。

Makui:デモがきっかけとなって、近所の飲食店の人たちと団結力が強まった気がします。また、毎月二人でプチ旅行に行くのですが、旅先で香港のニュースを見ることも多く、香港を思う時間が増えました。そういうときにもデモの影響を感じます。

ビジネスっぽさだけじゃない。香港&油麻地の魅力を聞く

最後にあらためて、MakuiさんとChowさんが考える香港、そして、油麻地の魅力を聞いてみた。

Makui:私にとって香港は「HOME」。生まれ育ち、家族や友人がたくさんいる場所。しばらく海外に旅行に出ると、必ず香港に帰りたいと思います。

Chow:私もMakuiさんと同じ意見。やっぱり香港は「家」。

Makui:と同時に、特徴のない場所だとも思います。民族性があるわけでもなく、香港らしいものがない。あえて言うなら、いろんな人やものが共存しているということですかね。

たしかに香港は経済や物流の中心地。さまざまな人々が集まり、何でも揃っている。その反面、人やモノが常に猛スピードで入れ替わり続ける。

Chow:香港の人たちは新しいものを受け入れる姿勢があるので、チャンスも多いです。ただ、ブームが生まれやすいぶん、それが去るのも一瞬。なにかを長く続けるのが難しい場所だとも思います。

Makui:学生や会社員時代からのクリエイター仲間やお店を持つ友人が周りにいっぱいいるので、お互いサポートし合っていますね。

『MUM's NOT HOME』や自宅のある「油麻地」ついてはどうだろうか。

Makui:二人とも油麻地が好きだよね。『MUM's NOT HOME』の物件も、信号待ちをしているときに目に止まって、その日にオーナーに電話、すぐに内覧させてもらいました。一歩足を踏み入れたときに、直感で「ここだ!」と思い、すぐに契約したんです。

「天后廟(ティンハウミュウ)」「廟街(テンプルストリート)」「油麻地果欄(フルーツマーケット)」など、油麻地には有名な観光スポットがあるけれど、尖沙咀(チムサーチョイ)や旺角(モンコック)のように騒がしくない、静かなエリアです。この落ち着いた雰囲気が気に入っていますね。

Chow:私たちはアンティークが好きなので、歴史が感じられるこのエリアに魅力を感じます。ビジネスっぽくないところもいいですね。

ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドやオーストラリアでは、ワークライフバランスを上手に取っている人が多い印象でした。でも、香港ではそうじゃない。仕事のことばかりで、プライベートを後回しにしている人がほとんど。

ワーキングホリデーを終えて香港に戻るとき、それはいやだなと思ったんです。ワークライフバランスを上手に保つために、自分たちになにができるかを考えて『MUM's NOT HOME』をはじめました。

Makui:そんな私たちの生き方を好きだと言ってくれる人がたくさんいます。毎月の旅行のためにお店を閉めることもありますが、「私たちの姿を見ているだけで楽しい」と、旅行代としてチップをくれるお客さまもいるほどです。

『MUM's NOT HOME』のように、自由な発想で運営しているお店は香港ではほかにあまり見かけません。真心を込めてがんばっていれば、周りの人たちに伝わるんですよね。家族や友人、お客さまに支えられていまがあります。

今後の展望はとくに考えていません。あまり遠くのことは考えず、流れに身を任せて、そのときに目の前に起こることを大切にしていきたいと思っています。

『MUM’s NOT HOME』
住所: 香港油麻地上海街302號1樓
電話番号: 852-9770-5760
営業時間: 14:00〜20:00
定休日: 火曜、水曜
最寄駅: 油麻地駅
Facebook:https://www.facebook.com/mumsnothome
Instagram:https://www.instagram.com/mumsnothome/
香港での抗議・デモ活動について
報道などで判明している香港における主な抗議活動などの場所と時刻は、在香港日本国総領事館のウェブサイトに掲載されます。適切に情報収拾を行い、付近には絶対に近づかないようにしましょう。

また、最新の抗議活動や施設の運営状況がわかる情報は、以下の「香港ツーリスト・ライブマップ」サイト(英語)にも反映されますので、旅行時にはこちらも参照ください。
https://www.hktouristmap.com/


フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Travel
  • ローカルが語る香港の「今」。『MUM's NOT HOME』を営む同性カップルの場合

Special Feature

メタ・サピエンス──デジタルとリアルが溶け合う世界を探究する

デジタルとリアルが融合する世界。世界はどう変化し、人々はどう進化するのだろうか?私たちはその進化した存在を「メタ・サピエンス」と名づけ、「Humanity - 人類の進化」「Life - 生活・文化の進化」「Society - 社会基盤の進化」の3つの視点からメタ・サピエンスの行動原理を探究していく。

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて