「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談

近年、とみに盛り上がりを見せている舞台芸術やダンス業界。先日も舞台芸術を扱う国際的なマーケットイベント『東京芸術見本市2010(TPAM)』が開催されたばかりと、ますます注目が集まっているが、ここに素朴かつ深遠なダンスと音楽の融合がある。それが「タップ・ダンス」だ。今回登場していただくのは、両親がタップダンサーであり、テレビ番組『世界1のSHOW TIME ギャラを決めるのはアナタ!』で観る者に大きな感動を与えたタップ・ダンス界の第一人者HIDEBOH。そしてラフォーレ原宿でのイベント『HARAJUKU BEAT STREET』の開催を控える若き旗手SUJI TAPのお二人だ。タップ・ダンスは「未だマイナーにとどまっているジャンル」と語る彼らだが、ダンス好きも音楽好きも、あらゆる観客を巻き込む力があることが、お話を伺ううちに確信できた。彼ら自身によるダンス動画もあわせてお届けするので、タップの魅力を存分に実感してみてほしい。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 写真:小林宏彰)

得意なことをやり続けていると、さらに上が見えてくる

─今回お話をお伺いするのは、現在のタップ・ダンス界を引っ張っていらっしゃるお二人です。まずは、お二人のタップ・ダンスとの出会いからお聞きしたいと思います。

「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談
HIDEBOH

HIDEBOH:僕の両親はタップ・ダンサーだったので、6歳からタップをやっていたんです。親父は大阪松竹歌劇団で振付指導を、おふくろは松竹音楽舞踊学校を経て舞台やTVで活動していました。それで、僕が6歳のときに二人でダンススタジオを始めたので、自然にやり始めました感じですね。当初はミュージカル映画の『雨に唄えば』のような「ブロードウェイスタイル」のエンターテインメントを演じるタップ一家でした。とはいえ、まだタップの面白さはわかっていませんでしたね。

─そうなんですか。タップの魅力に気づいたのは、どんなきっかけだったんですか?

HIDEBOH:中学に上がると、少しずつ意識が変わってきたんです。それまでは1950年代のスタンダードなスウィングジャズで踊ってきたわけですが、自分の好きな歌謡曲で踊れないかだとか、タップの踏み方を考えるようになってきました。

─積極的になることで、楽しさが増してきたんですね。

HIDEBOH:そうですね。得意なことをやっていると、さらに上が見えてきますよね。もっとすごい人が世の中にはいる、なんて毎日のように気がつくわけです。それと同時に、自分の小ささも思い知る。僕は負けず嫌いなので、もっとすごいものに触れてそれを超えていこうと気持ちが動くんです。

─そのようにして、ますますタップへとのめり込んでいったわけですね。それでは、SUJI TAPさんのタップとの出会いは?

SUJI TAP:グレゴリー・ハインズっていう有名なタップ・ダンサーが出演している、『コットンクラブ』という映画を観たことですね。それから、高校1年生でダンスを始めたときには、「ダンス・ダンス・ダンス」というテレビ番組をやっていて、HIDEBOHさんが出演していたんですよ。

─それを観て「すごい、やってみたい」と思ったのでしょうか?

SUJI TAP:そうですね。でも、やってみたら意外に難しいことに気がついて、それからはどんどんハマっていきましたね。

─その頃からすでにタップ・ダンスを踊っていたんですか?

SUJI TAP:タップを始めたのは23歳の頃なんですね。というのも、やるからにはプロとして立ちたいと思って自分をシビアに見詰めたときに、当時やっていたストリート・ダンスでは先が見えないことに気づいたからなんです。それで新しい風を入れようと、タップを始めたわけですね。

即興のタップのカッコ良さに憧れた

─その後、HIDEBOHさんと出会うことになるわけですね。

「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談
SUJI TAP

SUJI TAP:僕がタップ・ダンスを習っていたのが、HIDEBOHさんのお母さんだったんですね。それで練習をするうち、HIDEBOHさんからリズムパフォーマンスグループ「THE STRiPES」に誘っていただきました。でも入ったはいいけど、HIDEBOHさんたちのレベルについていくのは本当に大変だった。まずリズムを覚えようとしたときに、それまで踊っていたストリート・ダンスは「ワン and ツー and スリー and フォー and」っていうリズムなんですが、タップの基本的なリズムってスウィングしているんですよ。ツーツック、ツーツック、ツーツック、ツーツック、っていうふうに。

HIDEBOH:でもストリート・ダンスからタップ・ダンスに来る人ってまずいないので、オンリーワンなんですよね、SUJI TAPは。「なぜ自分はこんなにもできないんだろう?」という地点から出発するという点では、映画『座頭市』などでご一緒させていただいた北野武さんと似ている気がします。そういう人はできるまでやろうとするから、伸びるのも早いんです。寝ているか、タップのことを考えているかのどちらかですからね(笑)。

─SUJI TAPさんも、かなり必死に練習をなさったわけですね。

SUJI TAP:13時から17時くらいまでレッスンして、家に帰ってからも延々やってましたね。リズムを全く掴めない時期があって、あるとき別の場所でハウスミュージックを使って踊らなくてはならないときがあったんですが、タップと全然リズムが違うわけですよ。で、天井がグルグルッと回って、倒れてしまった(笑)。

HIDEBOH:身体が「もう限界です」って言っているんでしょうね。でもそれって、すごく苦しいことではありますが、乗り越えたあとはすごく成長しているものなんです。

「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談

─それにしても、SUJI TAPさんをそこまで駆り立てるタップの魅力とはなんでしょう?

SUJI TAP:僕はHIDEBOHさんが「THE STRiPES」のあるメンバーの方と、即興でキャッチボールのように踊っていたのを見た経験が、未だに忘れられないんですよ。お二人は自分たちの出したいタップの音を、好きなように出していたんですね。「これを俺もやってみたい!」と強く思って、さらに練習が加速したわけなんです。

─確かに、タップ・ダンスの出す音って、本当に楽器のように魅力的だなと思いますね。

HIDEBOH:そうですよね。黒人のリズムタップなんて、まさに楽器なわけですしね。

タップには、世代の差に関係無くリスペクトし合える楽しさがある

─HIDEBOHさんとSUJI TAPさんでは、タップ・ダンスのスタイルに違いがあったりするんですか?

HIDEBOH:それはもちろんありますね。僕なんか、両親から習ったブロードウェイスタイルから出発しているので、タップをやるとミックススタイルになるわけです。でも、黒人や白人と言ったって時代も移り変わりますから、ファッションや音楽の要素にしても、非常に現代の影響が濃い。最新の流行をその都度取り入れられるのも、タップの良いところだと思いますね。

SUJI TAP:HIDEBOHさんは、ラップやDJをやりながらタップを踊りますよね。それはタップ・ダンスを現代に息づく最新のカルチャーとして見てもらいたいというチャレンジなんですよね。

HIDEBOH:タップには、世代の差に関係無くリスペクトし合える、という楽しさもあるんです。僕のやっているタップ・スタジオには、お年寄りから子どもまでが通っていて、みんなでワーワー盛り上がりながらレッスンをしている。ダンスをやっている人どうしって、だいたい容姿だったり雰囲気が似てくるものなんですが、タップをやっている人たちは似ていないんです。それって、とても良いことのような気がするんですよ。

「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談

─それでは、タップ・ダンスをお客さんに見せるというときに、難しいのはどんな点でしょうか?

HIDEBOH:いろいろありますよ。例えば、リズム感が全く無い人からすれば「なにをバタバタやっているのかな」と思われるだろうし(笑)、そうしたハードルを超えてタップの魅力を分かってもらうためにはどうすれば良いのか、いつも考えています。

─ちなみに、どんな方ならタップ・ダンスを楽しみやすいと思いますか?

HIDEBOH:音楽が好きな人は、きっと楽しめるんじゃないかなと思いますよ。SUJI TAPの世代に馴染みのあるクラブミュージックにも、DTM(デスクトップミュージック)にもタップは存在すると思いますし。そこにタップはないと言う人は、古いタップのことしか見えていないんだと思います。

─SUJI TAPさんが年末に大阪で行ったタップ・ダンスの映像が、YouTubeに上がっているんですが、8分間の動画にずっとクギ付けでした。こんなに狭いスペースで、台の下に降りたりもして身体全体を使って踊っていることに驚きましたね。

SUJI TAP:本当のところは、この会場はちょっと狭すぎて困っていたんですけどね(笑)。



現在も進化し続けるタップ・ダンス

─北野武さんの映画『座頭市』にお二人とも出演されているわけですが、あの作品のダンスは上半身をも動かすダンスで、目線をどこへ持っていけばいいのかわからなくもありました。

HIDEBOH:武さんの演出で、僕らからは出てこないなと感じた発想は、やっぱりわらじを履いて、農民が踊るという部分ですよね。また、僕らが元々ステッキを使ってやっていた曲を鍬に変えてみよう、といったアイデアも武さんから出てきました。

SUJI TAP:農民が踊るわけなので、洋舞っぽく見えないように気をつけましたね。テンポはハウスだけれども和太鼓を使う、といった面白さを伝えようとしました。

─そもそも、北野武さんとはどういったきっかけで知り合われたんですか?

HIDEBOH:うちの親父が浅草で芸人をやっていたときに、一緒に舞台に出ていたのがツービートさんだったらしいんですよ。それから時が流れ流れて、我々が「THE STRiPES」をやっているとき『たけしの誰でもピカソ!』に出演したら、とても喜んでもらえたんですね。それからライブハウスに見に来てくれたりして以降、武さんに足掛け7年くらいライブのビデオを渡し続けたんですよ。武さんは、どうやらそれを観てタップを覚えられたようですね。

─また、日本と海外でタップ・ダンスの観られ方って違うんでしょうか?

HIDEBOH:そうですね。アメリカであれば、フレッド・アステアだとかジーン・ケリーのようなスターが、MGMの映画で非常にタップ・ダンスを有名にしているので、そこで一度タップの歴史が完結してしまっている印象があるんですよ。彼らの足跡はすごいものだし参考にもしていますが、同時にタップ・ダンスは現在も進化し続けていることが、あまりにも知られなさすぎるという歯痒さは感じます。まだまだ知られていないし、もっと知ってほしい。

─コンサートに行くぐらいの感覚で、タップ・ダンスの公演がたくさんあれば、お客さんの層も広がっていきやすいのかもしれませんね。

HIDEBOH:コンビニやビデオ屋で「タップ」という文字を探すのは大変だし、それは悲しいことではあります。でも、もし30年後に世の中が「タップ、タップ」と言うようになっていたとすれば、俺たちカッコいいよねっていう。

タップ・ダンスは、「素朴な芸術」

─3月27日、28日のSUJI TAPさんが出演される『HARAJUKU BEAT STREET』は、タップファンの方々以外にも観てもらえるイベントとなりそうですね。この公演の見どころを教えていただけますか?

「進化するタップ・ダンス」HIDEBOH × SUJI TAP対談

SUJI TAP:BMXやフリースタイルのバスケットボール、ポエトリーリーディングなど、「ビート」あるいは「ストリート」に馴染みのないお客さんにも楽しんでいただけるイベントにするつもりです。ダンスを含めて、すべてが「リズム」でつながって見えるようにするための演出を必死に考えているところですね。

─たくさんの多様なリズムの中で、タップの音が聞こえてくるわけですね! 非常に楽しみです。HIDEBOHさんも近々タップ公演を行われますね。

HIDEBOH:『タップ・ジゴロ』というミュージカル作品ですね。僕は以前から、スタンダードなお芝居や歌といった、エンターテインメントとしての楽しさを追求しているので、おじいちゃんやおばあちゃんも「なるほどね」ってうなずけるような、安心できる作品をお見せしたいですね。

─それにしても、考えてみると日常生活にもビートやリズムはあふれているんですよね。お話を伺っていて、タップ・ダンスはなにも大げさなものではなくて、身の回りのありふれたものにも潜んでいるんだな、と気がつきました。

SUJI TAP:そうなんです。難しく考える必要は無いんですよ。人間なら誰しも、リズムやビートに反応する性質が必ずあるので、そういった衝動を存分に感じて欲しいですね。

HIDEBOH:現代社会を生きていると忘れがちになりますけど、タップ・ダンスはすごく素朴な芸術なんです。だから、もし突然ここに原人が現れたら、「お前たち、そんな当たり前なものを見て喜んでいるのか」なんて言われるかもしれません(笑)。

イベント情報
『HARAJUKU BEAT STREET』

2010年3月27日(土)、3月28日(日)
開場14:00 開演15:00
開場18:00 開演19:00
会場:ラフォーレミュージアム原宿
出演:
SUJI TAP(TAP)
群青(TAP、ブレイクダンス)
田中光太郎(BMX)
JJ(FREESTYLE BASKETBALL)
Marcellus(ポエトリーリーディング)
DJ YASA(TURNTABLIST)
Traveling Souls(TAP、Human Beat Box、パーカッション)
WOVEN NOTES(Jazz)
料金:前売3,500円 当日4,000円(日時指定・全席自由)
チケット取り扱い:
チケットぴあ(Pコード:401-258)
ローソンチケット(Lコード:33755)
e+(PC・携帯電話 共通)
問い合わせ:HBS事務局 03-3715-5022

『タップ・ジゴロ』

2010年3月19日(金)〜2010年3月28日(日) 全12回公演

演出・脚色:広井王子
演出:八木橋修
出演・振付:HIDEBOH
音楽:鈴木和郎
出演:
横山智佐
大鳥れい
藤林美沙
つまみ枝豆
井上和彦
野崎数馬
森新吾(D☆D)
LiBLAZE

料金:8,000円
チケット取り扱い:
チケットぴあ(Pコード:400-280)
ローソンチケット(Lコード:31993)
e+(PC・携帯電話 共通)
CNプレイガイド 0570-08-9999
問い合わせ:博品館劇場 03-3571-1003

プロフィール
HIDEBOH

1967年生まれ。両親の影響の元、幼少の頃よりタップ・ダンスを始める。フジテレビのダンス番組「ダンス・ダンス・ダンス」に、SAMのグループ「メガミックス」と共に出演。アメリカでは1989年著名なタップ・ダンサー、グレゴリー・ハインズに出会い、彼の師匠に師事、ラップとタップ・ダンスのパフォーマーとして活動する。この頃より、振付師としてもジャニーズ系のアーティストをはじめ数多くを手がけるようになる。1998年に「Funk a Step」という新しいタップ・パフォーマンス形態を提唱し、「THE STRiPES」を結成、2003年には北野武監督『座頭市』での振付、出演で注目を浴びる。2009年、新グループ「LiBLAZE」を結成。音楽との融合を目指す新しいタップ・パフォーマンスを行う。2010年3月19日〜28日、最新出演作『タップ・ジゴロ』が博品館劇場にて上演予定。

SUJI TAP

15歳の頃、熊本のダンススタジオにてストリート・ダンスを始める。19歳で上京し、ダンスグループ「STAX GROOVE」や「SYMBOL-ISM」のメンバーとして活動する。その後、ヒグチタップダンススタジオでタップのレッスンを受け、24歳でタップ・ダンサーHIDEBOH、RONxII、パーカッショニストNORIYASUに師事。以後、タップ・ダンサーとしての活動をスタートさせ、 2001年1月から2005年12月までの5年間、THE STRiPESのメンバーとして活躍する。2003年、北野武監督『座頭市』、2005年、同じく北野武監督『TAKESHIS』に出演。2005年、SkyPerfectTV春のキャンペーンCMに出演。同年11月には、アメリカのChicago Human Rhythm Projectの15周年記念フェスティバルに、アジア代表としてTHE STRiPESメンバーで参加。2006年の1月からソロ活動をスタート、様々な場所でミュージシャン等とのライブを行っている。同年8月には、毎週木曜日のタップナイト「足音」を代々木ANCEにてスタートさせ、2009年にはBEATをテーマにする『Traveling Souls』を設立するなど、タップ・ダンスの普及に務めている。2010年3月27日、28日に自らがクローズアップされたリズム・タップのイベント『HARAJUKU BEAT STREET』をラフォーレ原宿にて上演予定。



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