子どもの言葉に悔しがる前野健太、岩井秀人&森山未來と劇に挑む

「子どもが自由に書いたお話を、大人がよってたかってちゃんとした舞台にするのって、おもしろそうだよね?」——。7年前、東京芸術劇場の芸術監督に就任したばかりの野田秀樹が言った。この言葉を、劇団ハイバイの主宰・岩井秀人は忘れなかった。「野田さんがやらないなら、僕がやってもいいですか?」と手を挙げ、ダンサーの森山未來を誘って準備をスタートさせた。作品制作に向けたワークショップを開催して、子どもたちが書いたテキストを収集したところで、ミュージシャンの前野健太が加わった。

「言葉」「身体」「歌」の領域で表現する三人のアーティストたちが、ワイルドな創造性を持つ子どもの言葉と四つに組む、題して『コドモ発射プロジェクト』。いよいよ動き出したものの、まるで予測不可能なこの舞台。一体何のためにやるのか? これからどうなるのか? 稽古中の三人に聞いた。

(子どもたちの言葉を見て)正直、悔しいなと思いました。自分が歌詞を書こうと喫茶店に入って、いくらこねくり回しても出てこないものが、いきなりボンッと目の前に出てきた。(前野)

―子どもたちが書いた物語を読ませていただいたのですが、どんな演劇になるかまったく予想がつかないですね(笑)。

森山:古文書みたいで、すごいですよね(笑)。

岩井:障子に書かれていた呪いの言葉みたいですよ(笑)。

―まねきねこのおじいさんとおばあさんが、竹を割って金と銀のにぼしを掘り当てる『まねきねこ』、1本の髪の毛の大冒険を描いた『長い毛』……タイトルも内容もインパクト大でした。

森山:『長い毛』には『長い毛2』という続編もあるんですよ。

岩井:我々が評価しているのは『長い毛2』のほうです(笑)。

ワークショップに参加した小学生が書いた物語『長い毛』の冒頭より。主人公の「毛」が男の頭から抜け出して世界を冒険する。(提供:東京芸術劇場)
ワークショップに参加した小学生が書いた物語『長い毛』の冒頭より。主人公の「毛」が男の頭から抜け出して世界を冒険する。(提供:東京芸術劇場)

三人がより評価しているという『長い毛2』は、毛は部屋を飛び出し、海を旅する物語が描かれる
三人がより評価しているという『長い毛2』は、毛は部屋を飛び出し、海を旅する物語が描かれる

岩井:子どもたちに書いてもらった話は他にもたくさんあって、どれを上演するかはまだ決めていないんです。再構成するかもしれないし、一言一句変えないでやるかもしれない。そのあたりは稽古しながら決めていこうと。

左から:岩井秀人、森山未來、前野健太 ©平岩享(提供:東京芸術劇場)
左から:岩井秀人、森山未來、前野健太 ©平岩享(提供:東京芸術劇場)

―子どもたちの言葉は、お三方から見ていかがですか?

岩井:前野さんに初めて見に来てもらったワークショップは、子どもたちが黙々と物語を書くだけの一番渋い内容だったんですよ。だけど、終わった後に「岩井さん! 『長い毛』ってなんですか。すごくないですか?」「『金にぼし』って思いついたことあります?」ってすごく興奮していましたよね。

ワークショップの様子(提供:東京芸術劇場)
ワークショップの様子(提供:東京芸術劇場)

前野:だって、「毛は木を舟にした」って書いてあるんですよ? こんなフレーズ、ビートニクの世界でも、頑張ってクスリを打って、ようやく出てくるレベルじゃないですか(笑)。そういうものがポンポンと飛び出していて、そりゃ興奮しますよ。

前野健太
前野健太

岩井:僕は戯曲を書くので、意味をもったある程度のかたまりとして文章を捉えるんですが、前野さんは歌詞を書くので、短いフレーズで言葉を見ているんですよね。

―二人とも言葉を使った仕事をしているけど、捉え方がまったく違う。

岩井:だから、前野さんの存在は、予想もしていなかったところからピカピカの助け舟がやって来た、みたいな感じでした。僕は子どもたちのテキストの中に無意識のうちにまとまりのあるものを求めてしまっていたんですけど、前野さんが「この言葉、キラキラしてます」って言ってくれて、その無意識がパカーンと砕けたというか。それだけで歌になるし演劇にもなるんだと気付かされたんです。

前野:もう、ポエジーがトップスピンでガーッと来ましたからね。でも正直、悔しいなとも思いました。自分が歌詞を書こうと喫茶店に入って、いくらこねくり回しても出てこないものが、いきなりボンッと目の前に出てきた。子どもたちの書いたものは、言葉が生きているから、すごくメロディーがつけやすいし、歌ったらもう、即完結ですよ。

森山:『長い毛』とか、ちょっとマエケンっぽいもんね。

前野:そうなんですよ。だって「困った毛はまわりを見わたした」ですよ!

岩井:それってマエケンっぽいの?(笑)

前野:ぽいんです(笑)。

酔っ払って未來さんに突っかかった記憶もあって、きっと嫌われたんだろうなと思っていたら「飲みっぷりがよかった」と呼び出されて。(前野)

―そもそも、プロジェクトの立ち上げ時には、お名前がありませんでしたよね。そこにいつ前野さんが参加されることになったのでしょうか?

岩井:わりと早いうちから僕と未來くんで「二人でやれないことはないだろうけど、他にも誰かいたらいいよね」という話をしていたんです。でも実際には見つからずにいて、ちょっと煮詰まっていたときに未來くんが「飲み屋で話しておもしろかったんだけど、ちょっと会ってみない?」と名前を出してきたのが前野さんだったんです。「出たよ、飲み屋つながり。若干やけ気味だな」と(笑)。

森山:やけになっていたわけではないよ(笑)。僕としては、誰かに入ってほしいけど、岩井さんとの相性もすごく気を揉んでいたんです。でもなんとなく、前野さんだったらいけそうだと思ったんですよね。ただ、不用意に前もってあれこれ説明すると構えてしまうだろうから、ぶっつけで出会ってもらおうと思って。

岩井:すごい。名プロデューサーだね。

前野:未來さんには、そういうプロデューサー的な感覚があるんですよね。僕はただ飲んでいただけ。酔っ払って突っかかった記憶もあって、きっと嫌われたんだろうなと思っていたら「飲みっぷりがよかった」と呼び出されて、こうして参加が決まったという。

岩井:前野さんと具体的な音楽の話は一切していないし、考えてみたら、まだ歌ってもらってもいない(笑)。でも、最初の段階で一緒にバシバシおもしろがれた記憶は、ものすごく大事なんです。もちろんそれだけじゃないですけど、やっていく中で迷ったりしたとき、序盤の気持ちは本当に大切になりますから。

森山:岩井さんと「もう一人欲しいよね」と話していたときは、僕が踊りで岩井さんが演劇だから、もう一人は演劇の人でも踊りの人でもよかったんです。ただし「それだけ」じゃない人がいいとは考えていました。

何か一つのジャンルに特化してしまうと、三者の対立構造みたいになってしまう。そうじゃなくて、お互いのテリトリーみたいなものをまったく気にせず会話できたらおもしろいだろうな、それができる人がいいなと。

森山未來
森山未來

―なるほど。

森山:前野さんに参加してもらった理由は、ミュージシャンとして素晴らしい、というのもあるし、飲むと人が変わっておもしろいのもある(笑)。でもそれと、最近はポルノ映画(みうらじゅん原作、安斎肇監督の『変態だ』)に出演したりしていて、在り方がすごく曖昧だなあと。その在り方に僕はすごく惹かれていたんです。

もしかしたら、いい具合に壊れているものができ上がるんじゃないかって期待があるんですよね。(岩井)

―そもそもの話になりますが『コドモ発射プロジェクト』という、あまり例のない企画をやりたいと思った理由は? 発端としては、野田秀樹さんが口にされた話に、岩井さんがずっと興味を持っていらしたということですが。

岩井:単純に、子どもが台本を書いて、それを大人がなんとかして演劇にするというのを観たいと思ったんですよね。でも何年経っても野田さんがやらないから「いつやるんですか?」と聞いたら「やってくれない?」と逆に言われまして。

―その「観たい」と思った理由を教えていただけますか?

岩井:子どもが書くんだから、相当無理矢理なものが出てくるだろうというのは想像がつくじゃないですか。でも普通、無理矢理なものというのは、無理矢理じゃないものと一緒に提示しないと形にならないんです。それができないときに自分がどうするのか興味があったし、もしかしたら、いい具合に壊れているものができ上がるんじゃないかって期待があるんですよね。

森山:それって具体的にどういうこと?

岩井:例えば今回子どもが書いた「毛は木を舟にした」というフレーズがある。これ、名詞がどれも短いでしょ? 「毛」「木」「舟」って。しかも主語が「毛」で一文字っていうのは、芝居の言葉としては超乱暴で、すごく聞き取りづらい。こういう場合、僕なんかだと、形容詞を付けたりしてちょっと聞き取りやすくするのね。そうやって、無理矢理の成分が100%じゃないように調整する。

森山:ああ、なるほど。

―とすると、前野さんが参加されたことで、岩井さんが最初に考えていた「無理矢理なものを無理矢理のまま成立させる」ことがやりやすくなった?

岩井:そうなんです。身に付いた癖で「無理矢理もいいけど、全体をどうする?」みたいなことをどこかで考えていたんでしょうね。もし前野さんがいなかったら、自分が最初に「観たい」と思ったものも失われていたかもしれないです。

―先ほど「稽古しながら内容を決めていく」というお話がありましたが、具体的にどう稽古されるんですか?

岩井:それを今、話しているところなんですよね。ここにいる三人以外にも、音楽監督や美術、舞台監督とかスタッフがいて、それぞれにやりたいことがあるみたいです。子どものテキストを読んで、変な絵を送ってきた人もいるし(笑)。まずはみんながやってみたいことを集めて、それを元にどうするか考える感じですかね。

「おーい、子どもたち集まれー」というようなものにするつもりはありません。(岩井)

―子どもが書いたテキストが中心にあって、それにインスパイアされた大人たちのクリエイションがあるというイメージですね。何しろあまり例のないプロジェクトなのであえてお聞きしますが、ファミリー層など、対象にしている層はありますか?

岩井:「おーい、子どもたち集まれー」というようなものにするつもりはありません。それは早い段階で未來くんと話して決めていました。ほら、小学生のときに図工の教科書にあった渋い絵を大人になっても意外と覚えていることってあるじゃないですか。だから、大人と子どもを分けるのではなくて、感覚を共有したり一緒に想像できる作品にしていこうと話したよね。

森山:最初に岩井さんからこの話をもらったときは、イスラエル留学から帰って来たばかりだったということもあって、子どもの言葉を大人が大事にしながらクリエイションしていくということがすごく響いたんです。

イスラエルではどんなダンスカンパニーも、必ずひとつはチルドレンショーをレパートリーとして持っているんですよ。定期的に子どもに対してショーを開くんですが、それは決して子どもに合わせたものではなくて。

たとえば色彩一つをとっても、日本だと「子どもはカラフルな色に喜ぶ」という先入観がありますけど、そこも自由にダンスカンパニーの美意識の中でやっているんです。それを子どもがおもしろがるかどうかは別にして、そういうものに触れる時間を作ることが大事だと感じたんですよね。

ワークショップの様子(提供:東京芸術劇場)
ワークショップの様子(提供:東京芸術劇場)

岩井:もちろん子どもにも大人にも見てもらいたいんだけど、いわゆる「子どもらしさ」に合わせるんじゃなくて、僕らが何を選んでそれを作るのかってことが大切ですよね。

子どもたちのポエジーが三人の中を通り抜けていって、各自がそれをつかまえて、何か生まれるものがあるかもしれない。(前野)

―今回の公演は『なむはむだはむ』という謎のタイトルですが、これはどこから来たんでしょうか?

森山:子どもが書いたテキストの中にあった言葉なんですけど、もちろんそれを見つけてくれたのはマエケンです(笑)。その子は「南無阿弥陀仏」と書きたかったところを、間違えたのか、そう覚えてしまっていたのかわかりませんけど、出てきたのは『なむはむだはむ』で。

―呪文っぽい印象はありましたが、南無阿弥陀仏でしたか……。

前野:もう僕、この企画でアルバム作れますね。でも悔しいですね、やっぱり。子どもと近いところで自分は作品を作っているんじゃないかという気持ちが、ちょっとはあるんです。

“SHINJUKU AVENUE”という僕の歌があって「会社は口を開けて待ってる」とか「早起きのガードレール」とか書いていて、その辺りは遠くない気がする。でも正直、やろうとしても狂いきれないというか……。「スーツに流し込む野菜ジュース」とか書いても、どこかで何か狙いみたいなものがあるんですよね。そんな中で子どもたちが書いたものでここまでえぐられると「俺が普段やっていることはなんなの?」となりますよ。

“SHINJUKU AVENUE”が収録されている前野健太の弾き語りアルバム

岩井:ナチュラルに出してくるからね。

前野:あと変な絵も描いてあるじゃないですか。『まねきねこ』の話に「痩せる機械」が出てきますけど、あれも凄いことになっていたり。

『まねきねこ』の物語に登場する「痩せる機械」が図解されている(右上)(提供:東京芸術劇場)
『まねきねこ』の物語に登場する「痩せる機械」が図解されている(右上)(提供:東京芸術劇場)

岩井:あれは可愛かったね。変にディテールが細かいんだけど、右と左で動力が別だったり(笑)。物語の途中に絵を描いてきた子は結構いたけど、どれもこれも味がある。

森山:『なむはむだはむ』をタイトルにしていいのかをみんなで話し合ったときに問題にしたのは、この言葉はその子の書いた字ありきで惹き付けられるんじゃないか? ということだった。だから、子どもたちの絵や字をどう扱うかは、これから考えたほうがいいね。

左から:岩井秀人、森山未來、前野健太
左:岩井秀人

前野:子どものポエジーがこの三人を通り抜けていって、お互いがそのポエジーをつかまえて、何か生まれるものがあるかもしれないですよね。例えば未來さんが身体で『長い毛』を表現して、それを見て僕がまた歌を作るという作業がたぶんあるだろうし。

岩井:「毛は木を舟にした」は身体表現じゃなくて、俺に言わせてくれって未來くんが主張し出すかもしれない(笑)。

森山:そのせりふ、結構ハードル高いなあ(笑)。でも『コドモ発射プロジェクト』はいろんな可能性を探ることができる企画なので、作る側もおもしろい。楽しみにしてほしいですね。

イベント情報
『コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」』

2017年2月18日(土)~3月12日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターウエスト
原案:こどもたち
つくる人:岩井秀人 森山未來 前野健太
そもそもこんな企画どうだろうと思った人:野田秀樹
料金:
前半割(2月18日~2月26日) 4,000円(当日4,500円)
一般(2月28日~3月12日)4,500円(当日5,000円)
子ども(高校生以下) 1,000円(当日同額)
25歳以下3,500円(前売のみ)
65歳以上3,800円(前売のみ)

ローソンチケットプレイガイド最速先行

受付期間:2016年12月4日(日)12:00~12月16日(日)23:59

プロフィール
岩井秀人 (いわい ひでと)

1974年東京生まれ。2003年ハイバイを結成。2007年より青年団演出部に所属。東京であり東京でない小金井の持つ「大衆の流行やムーブメントを憧れつつ引いて眺める目線」を武器に、家族、引きこもり、集団と個人、個人の自意識の渦、等々についての描写を続けている注目の劇団ハイバイの主宰。作品は韓国、イギリスなどで翻訳上演やリーディング上演され、国内外から注目されている。2012年NHKBSプレミアムドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞、2013年「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。2014年「ヒッキー・カンクーントルネード」で処女小説を発表。代表作「ヒッキー・カンクーントルネード」「て」「ある女」「おとこたち」。

森山未來 (もりやま みらい)

1984年兵庫県生まれ。数々の舞台・映画・ドラマに出演する一方、近年ではダンス作品にも積極的に参加。文化庁文化交流使として13年秋より1年間イスラエルに滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点に活動。近作として、カールスルーエ・アート&メディアセンター(ZKM)にてソロパフィーマンス「Upload a New Mind to the Body」、8月に直島・ベネッセハウスミュージアムにて岡田利規×森山未來 「In a Silent Way」、名和晃平×ダミアン・ジャレ「vessel」、李相日監督映画「怒り」、串田和美演出「Metropolis」など。第10回日本ダンスフォーラム賞2015受賞。

前野健太 (まえの けんた)

1979年生まれ、埼玉県出身。シンガーソングライター。2007年に自主レーベルよりアルバム『ロマンスカー』をリリースし、デビュー。2009年、ライブドキュメンタリー映画『ライブテープ』(監督:松江哲明)で主演を務める。近年はフジロックフェスティバルをはじめ大型フェスへの出演や、演劇作品への楽曲提供、文芸誌でのエッセイ連載、小説執筆など、活動の幅を広げている。2015年にはCDブック『今の時代がいちばんいいよ』を発表。今年の12月には主演映画『変態だ』(みうらじゅん原作×安齋肇監督)が公開される。

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