農家の長女を演じて『りんご』佐藤江梨子インタビュー

不可能だと思われていたりんごの無農薬による自然農法栽培を成功させ、「奇跡のりんご」を作り出したとして一躍注目を集めた木村秋則さんと、その家族の半生が舞台化される。「りんご」に人生をかけた男の生きざまには、想像を絶する苦労と困難と試行錯誤があった。りんごから出発して、食の大切さと家族の絆を問う本作。主演はV6の長野博、妻ミチコには佐藤江梨子、そして演出はストレートプレイからミュージカルまで幅広い分野で高い評価を得、数々の演劇賞を受賞しているベテラン栗山民也が担当する。このたび稽古場にお邪魔して、妻役を演じる佐藤江梨子さんに、演じていて肌で感じる農業の魅力や、演技への姿勢などさまざまな思いをお伺いした。また末尾には緊張感あふれる稽古場のレポートを掲載。こちらもぜひご一読いただきたい。

(インタビュー・テキスト:前田愛実 撮影:小林宏彰)

家族の絆が深い、そこが羨ましいです

─木村さんの著書を読ませていただいて、りんごを作るのってこんなに大変なんだって初めて知りました。長野さんは木村さんのりんごを食べたそうですが、佐藤さんは?

佐藤:私は食べてないんですよ。ネットでも売り切れで、4年待ちみたいなんです。オリンピック状態ですよね(笑)。木村さんには記者会見でお会いしたんですが、ちょっと面白いことがあって。私が記者の方から、「貧乏な時代もあった」っていう芝居なのに、豪華な服を着てばっちり化粧しているイメージの佐藤さんはちっとも貧乏っぽくないって言われたんですね。私が「役作りはします」って言ったら、木村さんが「いや、佐藤さんは僕の奥さんに似てるかも」ってフォローしてくださったんです(笑)。今回、奥様も舞台を見に来てくださるそうなので、本当に似ているかどうか確かめるのが楽しみです(笑)。実在の方を演じるというので、緊張もしていますが。

農家の長女を演じて『りんご』佐藤江梨子インタビュー
佐藤江梨子

─農家の長女って本当に大変だろうなと思うんですが、もしも自分だったら、と想像してみるといかがですか?

佐藤:羨ましいなとも思いますね。畑や土地、家があったりするのや、それから家族が私に期待してくれるっていうことも羨ましいです。私は次女なので、きっと家族と一緒のお墓には入れないだろうな、と。ずっと一緒にいられるという、家族の絆が深い感じがすごくするのが良いですね。

─たとえば、農家の嫁に行くのは想像できますか?

佐藤:そうですね、一度仕事で梨の袋かけを手伝ったことがあって。劇中にも梅沢昌代さん(母テル役)が腰を悪くしていて収穫を全然手伝えないっていうシーンがあるんですが、手伝った方もおばあちゃんで、手の届く低いところしか収穫できなくて。私は大きいし、高いところも全然平気だったんですが、そしたら「あんたみたいな、めんこくて、背が高くて、よく働く人が嫁に来てくれたらなあ」って言われたんです。なんかいいなあー、ってちょっとジーンとしちゃいました。背の高さが活用できるし(笑)。私は鍵っ子だったから、家に帰ったらおばあちゃんがいて、っていう環境にはすごく憧れますね。

知られざる、無農薬のいろいろ

─本作は自然栽培がテーマなんですけど、佐藤さんご自身はそういった農法や食品に興味はありますか?

佐藤:ありますね。子どもの頃からわりと添加物に弱いみたいで、親が気をつけてくれていたんです。以前、昼夜が逆転してしまう撮影が続いたことがあったんですけど、そのときはロケ弁ばかり食べていて具合が悪くなっちゃって。私だけではなくスタッフも皆、肌が荒れていたんですが、そのとき人間一日一回は太陽を見なきゃいけないんだなって痛感しました。食べ物を選ぶときも、無農薬のものをなるべく探して、それがなければ減農薬のものにします。最近ではそういった表示も細かくなっていて良いですよね。

農家の長女を演じて『りんご』佐藤江梨子インタビュー

─詳しいですね。私は有機野菜と無農薬の違いも分かっていなかったです。

佐藤:私も全然知りませんでしたよ。自然食品のお店で売っているものは全て良いんだと思っていました(笑)。でも実は無農薬にも何種類かあって、完全無農薬とか、悪い農薬は使っていないので無農薬ということになっているけど、全く自然栽培なわけではないものだとか。また、ハウス栽培と外で栽培しているものの表示が違っていたり。そういう違いがわかってくると、とても面白いんです。

─佐藤さんが、お料理上手だということも関係しているかもしれませんね?

佐藤:…それ、誰が言ってくださっているのか知らないのですが(笑)、実家が北海道だったりするので、海産物などが送られてきたら料理しているくらいですよ。「ごっこ鍋」っていう、アンコウのちっちゃいのみたいな、卵がいっぱい入っている不思議なお魚なんてとてもおいしいんです。

馴染みのない言葉は、新鮮な感覚で演技できる

─また、舞台が青森ということで、会話はすべて津軽弁ですよね。皆さん、ガ行を鼻にかけたりするところなど、すごく堂に入っているというか。

佐藤:皆さん、とても上手ですよね。稽古の前に、津軽弁でせりふが入ったCDを渡されたので、すごく聴きこんでいるんですよ。私は聴きこみすぎて、せりふが途中で変わったのに音で覚えちゃっているので、逆に直せなかったりして苦労しています。最近は、日頃からマネージャーさんなんかとは津軽弁で喋っていることもありますよ。思わず喋りたくなっちゃう言葉なんですよね。

やっぱり津軽弁で演技をするのって難しいんですけど、私は神戸にいたことがあるので、関西弁が身近な方言でした。だから関西弁のお芝居だと逆に安心してしまうんですが、津軽弁は新鮮です。先ほども言ったように実家が北海道なので、おじいちゃんおばあちゃんが喋る北海道弁は「なんとかっしょ」とか「めんこい」なんて、けっこう津軽弁と近いところもあるので、ある程度慣れていたのも活かされていますね。

「役者なら、言葉がどのように生まれるのかを考えろ」

─演出家は、名匠・栗山民也さんです。演出をされていて、印象に残っていることはなんでしょうか。

佐藤:栗山さんは、言葉を本当に大事にする方なんです。ただ伝えるだけならそれこそ誰にでもできる、子どもでもおばあちゃんでもアナウンサーでもできる、と。でもお前は役者なんだから、言葉がどのように生まれるのか考えろ、心がどう動いて身体が動くのか考えろ、とよく言われます。だけど、いざよく考えてやってみると失敗してしまい、「気持ちはね、ちょっと分かりました」なんて言われています(笑)。でも、栗山さんは基本的に、私には厳しいんですよ。よく私のガムを2、3個のレベルじゃなくて、ザラザラ勝手に食べたりされていますし(笑)。

─いや、それはむしろ可愛いがられているんじゃないでしょうか?(笑)

佐藤:そうなんでしょうかね。栗山さんは先ほどインタビューを受けていたそうなんですが、主演の長野博さんのことを「規定を超えて芝居をしてくれる役者だ」って評していたらしいんです。でも、私のことは「宇宙人だ」って一言(笑)。インタビュアーだった方からそれを伝えられたので、「え、他にはないんですか?」って聞いてみると、ノートを何回も見た上で「えっと…後で言います」だって(笑)。長野さんも一緒になって、「宇宙人かあ、一度人間に戻さなきゃならないから、栗山さん超大変だね」って(笑)。

自然体の演技こそが、素朴さを伝えるのに適している

─実力あるベテラン俳優さんたちとの共演はいかがですか?

佐藤:私なんてまだまだ未熟なのに、皆さんあきらめないで、毎日のようにダメ出ししてくれるので本当にありがたいですね。

─梅沢さんと共演される場面の稽古を拝見しましたが、母と娘という関係性が一瞬にして見えてきて、すごくリアルな雰囲気のある芝居になっていました。

佐藤:梅沢さんと以前にご一緒した時は、本当に優しい方だという印象があったんですが、今回は家族という関係性のせいか、ちょっとしたせりふでも細かく聞いて指導してくれたり、ご自身が出ていないところでもちゃんと見てくださっていて嬉しいです。稽古場では自分のお母さんのように慕っています。

農家の長女を演じて『りんご』佐藤江梨子インタビュー

─ところで佐藤さんの役づくりは、できるだけニュートラルに臨むのか、しっかりと役についてイメージを作りこんで演じられるのか、どちらなんでしょう。

佐藤:ほんの2、3年前までは、役に少しでも近づかなきゃいけないと思い、日常生活でも素の状態でいる時間が短かったんです。でも、今は舞台でもドラマでも映画でも、わりと演技の直前まで、全く関係のないようなことを考えているようになりました。演じる役にもよりますが、共演者さんの作る空気の中に浸っていたら、自然に役になりきれることが多いです。

─なるほど。農家の長女という素朴さがキーになる役どころには、肩の力がすっと抜けた、自然体の演技のほうが魅力的に見えるのかもしれませんね。

佐藤:そうですね。何事にもあまり構えずに生活しているほうが、音声にしてもなんでも身体に入ってきやすいんですね。それこそ料理を作りながら、自然な動作をしている中でのほうが、せりふをよく覚えられたりするんです。今回は、そういう自然体でいることを意識した演技を通して、うまく作品の世界観を伝えられたら、と思っています。

『りんご』の稽古場の様子を詳細レポート!

ピンと緊張感が張りつめた稽古場には、ベニヤ板で仮組みされた農家の居間、部屋には旧式のテレビに、いかにもおばあちゃんちといった雰囲気を醸し出す箪笥や、置物が並んでいる。舞台の端には秋則が研究中の空き瓶や資料がずらり。苦心惨澹中なのが窺える。

拝見したのは、折りしも佐藤さん演じるミチコが、梅沢さん演じる母を相手に辛い心情を吐露するという重苦しい場面。稽古着ながら、すでに農家の女たちの風情をもうもうと醸し出しており、二人が語りだすと、ベニヤ製の舞台装置が、本物の青森の農家の居間に見えてくる。

農家の長女を演じて『りんご』佐藤江梨子インタビュー

佐藤さんと梅沢さんの間には、苦労する女同志の思いがぶつかりあって、ものすごいケミカルが生じ、本当の親子の雰囲気がたちこめる。父役の大鷹さん、長野さんもシーンに加わってくる。どん底な場面だけに、長野さんはかなりのゾンビ状態。ただならぬ空気が稽古場一帯を覆う。

それにしても実に見事に津軽弁をあやつる俳優たち。一場面終わると、栗山さんが俳優を集めてなにやらごそごそと話をし、ささっと返しをする。真剣に応じる俳優たち、さすがベテランだけに呑みこみが早く、実に淡々と稽古がすすむ。佐藤さんへのダメ出しもあり、ミチコ役の一番の見せどころだけにとても苦労している模様。頑張れ佐藤さん!

栗山さん、小道具の指示もさっと一言。物事全てがものすごく機能的に進んでいる感じがしてカッコいい。淡々と進む中にも、俳優同士の連携が感じられる。佐藤さんは最後まで方言指導の方に熱心にチェックを受けておられ、びっちりと蜜の入ったりんごのように、果汁の滲む人間模様が予感される稽古風景だった。本番でどんな緊張感のある光景が繰り広げられるのか、楽しみに待ちたいと思う。

イベント情報
『りんご 木村秋則物語』

作:藤井清美
演出:栗山民也

キャスト:
長野博
佐藤江梨子

大鷹明良
梅沢昌代

尾上紫
木村靖司
合田雅吏

浅野和之

東京公演

2010年11月5日(金)〜11月14日(日)
会場:東京都 ル テアトル銀座
料金:8,500円(全席指定)

兵庫公演

2010年11月20日(土)〜11月23日(火)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
料金:A席8,500円 B席7,500円(全席指定)

プロフィール
佐藤江梨子

1981年12月19日生まれ。東京都出身。ドラマ、映画、舞台、CMと、幅広い分野で存在感のある演技を披露。2007 年に映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で第29 回ヨコハマ国際映画祭主演女優賞を受賞。主な出演作品として、舞台『おはつ』『空中ブランコ』『シャープさんフラットさん』『パイパー』『コースト・オブ・ユートピア』『CLOSER』『花の武将 前田慶次』、ドラマ『電車男』(CX)『菊次郎とさき』(EX)『離婚同居』(NHK)、映画『キューティーハニー』『すべては海になる』『七瀬ふたたび』など。11月20日には映画『行きずりの街』が公開される。

『りんご』あらすじ

1969年青森。東京から兄一哉の具合が悪くなり急遽呼び戻されたアキノリ。そこには婿入り・縁談が待っていた。アキノリは気乗りしていなかったのだが、ミチコを見た瞬間に恋に落ちる。だが、ミチコはりんご栽培の農家として日々農薬に触れるうち、健康を損なっていく。アキノリはその姿を見て、無農薬栽培でりんごを育てようと決意。しかし希望を持ってはじめた農法は失敗を繰り返し、家族は困窮状態になってしまう。

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