孤高の天才は要らない アーティスト集団Alphactインタビュー

画家のピカソやマティス、衣装家のココ・シャネルに作曲家のエリック・サティ…20世紀前半、多くの芸術家たちがその才能をバレエ団「バレエ・リュス」の舞台で昇華させ、刺激を与え合っていた。しかしバレエ・リュスの旗揚げから100年が経った今、芸術は日に日に細分化を繰り返している。そんな中誕生した、幅広いジャンルの芸術家がひとつの舞台を創り上げている「Alphact(アルファクト)」というアーティスト集団をご存知だろうか。そこは異なるジャンルの芸術家同士が、何ヶ月間も互いの意見を闘わせながらひとつの舞台を創りあげている創作の場だ。今回、共同制作の難しさや、その渦の中から生まれる信頼関係といった話題についてじっくりお聞きした。彼らの実感から生まれた言葉は、きっと誰しも共感できる部分があるだろう。人間臭いぶつかり合いから生まれる「総合芸術」の制作過程を、ぜひ覗いてみて欲しい。

(インタビュー・テキスト:塩谷舞 撮影:井上大志(Leo Labo)、後藤あゆみ)

「孤高の天才は要らない」、それだけがAlphactのルール

─Alphactの舞台は、他では目にしたことのないような前衛的なものに、磨き上げられたアカデミックな表現が融合しているように感じられます。そもそもAlphactというカンパニーは、どのような経緯で形成されていったのでしょうか。

大柴:発起人である僕からお話しをしますね。僕は幼少の頃からずっと、クラシックバレエの世界で踊り続けていました。2003年から3年間ほどフランスで仕事としてバレエダンサーをしていました。でも以前から、20世紀にパリで華開いた「バレエ・リュス」というバレエ団に猛烈にインスパイアされていて、僕自身がプロデューサーとして様々な芸術家を集めたカンパニーを創りたいと強く思っていたんです。

そこで日本に帰国して、まずは画家の天野弓彦に「一緒にやらないか」と持ちかけました。彼が僕の信念に共感してくれて、次第に様々なジャンルのダンサーや衣装家、デザイナー、役者などの芸術家が集まって来てくれた。これまでに5回の大きな単独公演を開催してきましたが、ライブペイントを同時に行なったり、時には生け花のパフォーマンスを取り込んだりと、本当にいろいろなジャンルの方々とやってきました。

孤高の天才は要らないアーティスト集団Alphactインタビュー
左から:大柴拓磨、KATSU、大前光市

─それだけ多様なジャンルの方々を、一体どのようにして結びつけることができるのでしょうか?

金刺:それは拓磨さんの人柄と魅力があってこそですよね。アーティストとしての魅力ももちろんですが、それ以上に人を繋げる能力に非常に長けているんです。Alphactに対しての強い信念があって、それに触発された芸術家も多い。僕は設立初期からのメンバーですが、「拓磨と一緒にやりたい!」と人がどんどん集まって来てくれました。

KATSU:俺もまさにそんな人間のうちの1人ですよ。俺はそれまで「一撃」っていう、ストリートの業界じゃ名のあるグループでずっとブレイクダンスをやってきたんです。でも長くやってるうちに、良くも悪くもブレイクダンスってものに飽きてきた。あそこは表現力よりも技術重視の世界で、でも俺はもっと幅広くやっていきたいんだと。

それでいろいろ探してるうちに偶然拓磨のことを見つけて、「これや!」って思ったんです。俺はそれまでクラシックバレエって、おりこうさんなお人形の集まりのような気がしていて、正直あんまりおもんないと思ってたんですね。でも、拓磨の踊りは違った。めちゃめちゃおもろいしセクシーで、こいつほどカッコいいバレエダンサーは他にいない! 負けた! って実感した。それですぐにアポを取ってAlphactに入れてもらいました。mixiでめちゃくちゃアツくて長いメッセージを送ったんです(笑)。俺は自分が一番前に出たいタイプやけど、拓磨が踊るときには彼のバレエを観て欲しいと思うし、この人やったら許せるんですよ。「今の踊り見た?」「俺の仲間やぞ!」って言いたい(笑)。

大柴:僕も正直、以前はブレイクダンサーって技にとらわれすぎているというか、あんまりアクティング(演技、表現)に興味がない人たちなんだろうって思い込んでいたんですよ。でもKATSUさんはさまざまな感情表現を研究して表情にしてみたりと、これまでのブレイクダンスのイメージと全然違っているんです。彼となら一緒にやれると確信しましたし、僕自身恨めしいほどに憧れています。

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左:金刺わたる、右:槇直子

─互いにリスペクトし合える関係だからこそ、ジャンルを超えても結束力が出る、と。

大柴:そのあたりは、一番重要なところです。僕がAlphactを設立したときに、ひとつだけ設けたルールがあるんですよ。それは、「孤高の天才は要らない」ということ。つまり、どれだけ優れた才能を持っていても、互いに異なったジャンルの芸術をリスペクトし合える人間じゃないと同じ舞台は創れないと思っているんです。

ましてや画家やデザイナー、作曲家とも一緒に舞台を創り上げていくとなると、それぞれが自身の長所をしっかり磨いたプロフェッショナルであるのは大前提ですが、どんなに天才であっても他のジャンルをリスペクトできなければ僕は一緒にはやれないと思っています。

─ただ、ジャンルが違うと共通言語も違いますし、一緒に練習する中でマナーや認識が異なる場合もあるのでは?

KATSU:それが不思議と上手くいくんだよね。みんなタクちゃんに惚れてるから。

大柴:いや、しいて言えばKATSUさんの遅刻癖ぐらいですね、気になるのは(笑)。

:遅刻が悪いというか、遅刻をしているのに笑顔でごまかすところが悪いかな。ストイックなバレエ業界出身者からすると、KATSUさんは自由人すぎます(笑)。

KATSU:ごめん(笑)!

「画家の絵に勝てるのか?」自問しながら踊りを磨く

─先ほど拝見した稽古では、拓磨さんの求めるレベルは本当に高いと感じました。そこまでさせる動機とはなんでしょう?

大柴:Alphactの中心メンバーには天野弓彦という画家がいるんです。彼の描く世界観は壮絶で、僕の持てるもの以上の世界を表現している。いつも公演前に、僕が公演全体のコンセプトやテーマ、出演者を彼に話してそれを絵にしてもらうんですが、良いダンサーや役者を観ると彼の筆が喜んで素晴らしい絵ができあがるんです。そして公演全体のビジュアルが仕上がって、今度は僕たちが「この絵に勝てるのか?」と自問しながら踊りを磨く。絵を凌駕できないような舞台ではダメなんです。そうやって、自ずと求めるものが高くなってしまうんですよね。

孤高の天才は要らないアーティスト集団Alphactインタビュー

大前:拓磨のそういうこだわりはすごいんですよ。プライベートではものすごく慈愛に溢れた人間なのに、ひとたび舞台となると人を差別してランクづけする。「この人よりこの人のほうが魅力的だ」、ってはっきり決めちゃうんです。よくも悪くも、こんな人間臭いやつは他にいない。ぶっちゃけると、俺はそんな拓磨のやり方がずっと嫌いでした。でもしばらく一緒にやってるうちに、彼が言わんとしていることがわかってきたし、それが自分に足りない所だって気づかされた。だから最近は、メンバー同士でどんどん悪い所を言い合えるようにしているんです(笑)。

:私は一番最近にAlphact入りしたんですが、最初はあまりにも発言しやすいこの空気にびっくりしました。私は拓磨君と同じバレエダンサーで、これまでは主にロシアのバレエ団で踊っていました。もちろんレベルは高いんですけど、同じ業界のダンサー同士ってあまり指摘をし合わないんですよね。実力差がわかりやすいぶん、自分を守ってしまう人が多いというか。でもAlphactのメンバーはそれぞれ出身ジャンルも違うし、皆が自分のジャンルに自信を持ってるからこそ本音で言い合える。「ここでは意見をぶつけられる!」っていう開放感で、嬉しくなったんです。

KATSU:ナオちゃんのダンスは、俺たちには到底手に入らないような純白さを持ってるんですよ。可憐で、美しくて。でも性格面では、良い意味で女性らしさを感じさせないというか。野郎ばっかりの中で一緒になって張り合えるのはすごい。

孤高の天才は要らないアーティスト集団Alphactインタビュー

大柴:逆にAlphactで一番女性的で、土台となって支えてくれてるのは最年少のわたるですね。これだけアクの強いメンバーが集まっている中で、彼の存在がなければAlphactは成立しません。KATSUさんとは正反対で、付き合いたいというより結婚したいタイプの男性です(笑)。

金刺:たぶん僕だけが他のメンバーと少し違って、あんまり「ダンスが上手になりたい」だとか「誰かに伝えたい」という強い信念があってやっている訳ではない気がするんです。もちろんそういう気持ちでやらなきゃ、と思ってはいるんですけど。自分が踊りたいというよりも「このグループだからこそ踊りを続けられる」っていうのが本音ですね。ダンスというアウトプットを通じて関わる人たちが、自分の人生にとってすごく大事だと思っているんです。それを僕に教えてくれたのがAlphactという存在でしたね。他のメンバーのような輝かしい経歴はないけど、ここで自分に与えられたことは精一杯やり尽くしたい。

孤高の天才は要らないアーティスト集団Alphactインタビュー

大前:僕はAlphactがきっかけでわたると知り合い、これまでにデュエットで踊ることもあったのですが、それが『DANCE COMPLEX 2008』で優勝したりと賞賛がものすごかった。とても気を配ってくれるし、相手の能力を引き出すのが上手いんですよね。

KATSU:そう、彼は無意識に俺たちに合わせてるんです。だから一緒に踊るとめちゃめちゃ気持ちがいい(笑)。無意識でそうできるんだから、わたるが覚醒した時が一番怖いんですよ。俺、彼には勝てる自信ないですね。

芸術が細分化された現代だからこそ、「王道」を突き詰める

─そんなAlphactの次回公演『SHIKI』とは、ズバリどのような舞台なのでしょうか。

大柴:Alphactはこれまでの4年間、かなりさまざまな実験的パフォーマンスを繰り返してきました。左右のスピーカーと呼応するような振り付けをしたり、フラワーアレンジメントの方と組んだり…そんな数ある実験を通してAlphactはたくさんのことを学んだのですが、この公演に関しては、実験的な要素を相当削っています。ただ単純に、お客さんが見て感動できて、カッコいいと思ってもらえる舞台にしたいんです。

金刺:今の時代って小劇場ならすぐに借りられるし、YouTubeやUSTREAMで誰しも情報の発信手になれちゃう。そのぶん内容もどんどん専門化されて難解になり、「王道」がなくなってきていますよね。アートもダンスも細分化され続けて難しい内容になってきている。そんな中で、直球で「カッコいい」を極めるような舞台があってもいいと思うんですよね。自分たちがこれまで信じてやってきたものを、どストレートな表現で出し、それをお客さんに届ける。これまでAlphactは前衛的な実験を繰り返してきたけど、今こそ「王道」をやるときなのかな、と思っています。

大柴:直球にカッコいいものにしますので、ストーリーもわかりやすいんです。『SHIKI』という公演名は季節の『四季』と呼応しているのですが、生命が誕生するエネルギッシュな「青春」はブレイクダンサーのKATSUさん。情熱的な「朱夏」はコンテンポラリーダンサーのわたる。哀愁に溢れた「白秋」はバレリーナのナオちゃん、そして飢えて死に向かう玄冬を大前さんが踊ります。僕はそれぞれの四季を巡って生まれて死んでいく人間の役。最後は死を向かえるのですが、それがまた誕生の春に繋がっていくんです。

孤高の天才は要らないアーティスト集団Alphactインタビュー

─人間の生涯がテーマとなっているのですね。見どころはどういった点になるのでしょうか。

大柴:キーパーソンになっているのは「玄冬」を演じる大前さんです。彼は春夏秋の各シーンに少しずつ登場するのですが、そのときには義足を付けて冷静に振る舞っています。でも最後の玄冬のシーンを迎え、死に近づくシーンでは義足を外して踊り、悲壮な「死」を表現する。各シーンごとの彼の変化にぜひ注目して欲しいです。

─ありがとうございました。では最後にメッセージをお願いできますか?

大柴:『SHIKI』は、僕がAlphactを設立した当初からずっとやりたかったテーマを盛り込んだ作品です。4年間の実験を経て、そしてこのAlphact至上最高のメンバーが揃ってこそ、やっと実現することができる舞台になっていると思っています。

でも実は、Alphactはこの公演を境にしばらく活動休止に入ります。僕自身のこだわりが強すぎるのですが、Alphactはすごく非効率的な作り方で成り立っています。これだけ多くのジャンルの芸術家が舞台にかかわるのに、僕の理想的なやり方では時間がかかりすぎる。かといってそうではないやり方だと、本来やりたかった芸術作品からどうしても遠ざかってしまう。

だから今回の公演を最後にしばらくAlphactとしての公演は休止し、個々がダンサーとしての仕事をしてそれぞれが成熟した頃に、存分に時間をかけた実験に挑戦するつもりです。でも今は、目前にせまった『SHIKI』を成功させることに全力で取り組みたいと思っていますね。

イベント情報
Alphact 第6回公演
『SHIKI』

構成・演出:大柴拓磨
舞台美術:天野弓彦
出演・振付:
大柴拓磨
KATSU
大前光市
金刺わたる
槇直子

大阪公演

2010年11月12日(金)〜11月14日(日)
会場:大阪府 大阪市立芸術創造館
料金:一般前売4,500円 当日5,000円 学生前売3,500円 学生当日4,000円
※チケット一般発売中

東京公演

2010年12月17日(金)〜12月19日(日)
会場:東京都 日暮里 d-倉庫
料金:一般前売4,500円 当日5,000円 学生前売3,500円 学生当日4,000円
※チケット一般発売中

プロフィール
大柴拓磨 (バレエダンサー)

フランス国立パリ・オペラ座バレエ団に日本人男性として初めて契約したバレエダンサー。帰国後は、トータルアートカンパニーAlphactを設立する他、様々なジャンルの舞台公演やイベント等に出演。国内外において多数のコンクール受賞歴を持つ。

KATSU(ブレイクダンサー)

ドイツ世界大会で、「世界2位」という偉業を成し遂げたブレイクダンサー。 世界大会各国の代表チームを追ったアメリカドキュメンタリー映画『PLANET B-BOY』に日本代表として主演出演。1.G.K名義でDJ、ミュージシャンとしてもメジャーで活躍している。

大前光市(コンテンポラリーダンサー)

交通事故により左足膝下を亡失後、片足がない事のハンディキャップをも活かした独自の動きにより、舞台のみならずTV、新聞、雑誌等でも活躍しているコンテンポラリーダンサー。NHK番組『きらっといきる』にて特集され、大きな話題を呼ぶ。

金刺わたる(コンテンポラリーダンサー)

H・アール・カオスの白河直子に師事し、爆発的な表現力と美しいルックスに恵まれ、現在、東京のダンスシーンにて頭角を現し始めた新進気鋭のコンテンポラリーダンサー。大阪市立芸術創造館主催のダンスコンテスト『DANCE COMPLEX 2008』にて大前光市とデュオを組み出場し、優勝を飾る。

槇直子(バレエダンサー)

外務省・ロシアにおける文化フェスティバル参加事業/サンクトペテルブルグ建都300年記念「日本の春」フィナーレ作品・バレエ「羽衣の舞」に主演する等、 ロシアにてプロフェッショナルのバレエダンサーとして活躍。帰国後はフリースタイルダンサーとして、バレエ公演以外にもHIP HOPやミュージカル等に参加し、マルチな活動を展開している。



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