表現者たちが本気でバトル 「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」という試み

あなたは「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」というプロジェクトをご存知だろうか? 04年にジャズの新潮流を提示するコンピレーションアルバムとしてスタートするも、「音楽による異種格闘技戦」というコンセプトを掲げた06年の『II:VERSUS』は、「その日が初対面となる2組に1日で作品を仕上げてもらう」という大胆な企画によって、スリリングな即興演奏と、それをめぐる人々のドキュメントをCD+DVDという形でパッケージしたエポック・メイキングな作品となった。そして09年に『VERSUS LIVE』というタイトルのライブ・イベントとして復活し、今年は12月12日(日)、国立科学博物館を舞台に、「渋谷慶一郎 vs DJ BAKU」「AFRA vs Open Reel Ensemble B.R.M set」「ASA-CHANG vs 康本雅子」という、まさに世代もジャンルも超えた3大決戦が予定されている。今回は主宰の清宮陵一氏にプロジェクトの成り立ちやこれまでの名勝負、そして背景にある想いについてお伺いした。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

事の起こりは、菊地成孔さんに対する重度の愛情なんです。

―「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」というプロジェクトをスタートさせたきっかけから教えてください。

清宮:僕は当時、アナログ・レコードをプレスする会社で働いていました。そこで、レコード会社やレーベルに行って「アナログ盤を作りませんか?」って営業をしていて。でも営業するだけでは面白くないので、2001年に製造から流通まで手がけることにしたんです。そしたらアナログバブルが来たんですよ。そのお陰もあり、仕事としてだけではなく、自分の好きな作品をそのルートに乗せたいと思ったんです。

―その作品とは?

清宮:デートコース(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN)の『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』から2曲抜いて10インチで出しました。ちょうどその頃、デートコースをやっている菊地成孔さんのロングインタビューが『QUICK JAPAN』に載ってて、それが強烈に面白かったんです。しかも偶然、デートコース(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN)のサックスの津上(研太)さんが学生時代のバイト先の知り合いだったというつながりもあって、お願いができて。

―いい縁もあったわけですね。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE』ジャケット

清宮:続いて、大友良英さんや南博さん、ROVOのアナログなんかも出したりしていた頃、なんとなくシーン感が出てきたんです。CDだともちろんそれぞれのレーベルがあるのでなにかと難しいかと思うんですけど、僕は好きな人のとこに行って「アナログ出したい」って言えたから(笑)、そのシーンとつながりやすかったんですよね。それで色々な作品を好き勝手出してるうちにまた欲が出てきてしまって、せっかくこうやってつながれたんだから、シーンの今を綴じ込めるような作品を作りたいと思ってみなさんに新録をお願いしたのが、『BOYCOTT RHYTHM MACHINE』だったんです。

―「ジャズを軸にした新しい流れの総括」という感じですかね?

清宮:事の起こりは単純に、菊地さんに対する重度の愛情なんですけどね(笑)。「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」っていう名前も、デートコースの一番最初のTシャツに書いてあった言葉なんですよ。

やってどうなるかわからないことをやるっていうのは、(出演者側に)すごくリスクがあると思うんですね。

―そして、その1年半後に今度はCD+DVDという形で『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II:VERSUS』がリリースされます。この「音楽による異種格闘技戦」というコンセプトはどのようにして生まれたのでしょう?

清宮:デートコースとか渋さ(知らズ)とか「バンド」はいいんですけど、例えば不破(大輔:渋さ知らズの中心メンバー)さんが小編成のライブをやってもお客さんは渋さのようには集まらない。当たり前のようですが、そこに開きがあり過ぎるように思っていました。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II』ジャケット

―個人活動には興味をもってもらえなかったわけですね。

清宮:そうですね。深追いまではしないという事でしょうか。もちろんバンドもいいんですけど、毎日のようにやっているライブ活動があった上でたまに大編成のバンドがあるっていうのが新鮮で刺激的だったので、その面白さを伝える方法がないかと思って。あと、同じ曲でも日々全然違うアプローチをしていたりして、即興の要素にすごく惹かれていきました。

―ただし、実際、即興で多くの人を集めるのはなかなか難しいですよね。

清宮:そう、まだその時点では単に面白いからと言って、即興のアルバムを作っても届かないのではないかと。卓越した即興能力のあるミュージシャンたちを、活動拠点となっている「ジャズ」ではない、もうちょっと若い、初めて会う人たちと戦わせたらどんなものができるのかな? っていう、異種格闘技的発想ですね。それと、お客さんを入れることができない代わりに、場所や映像などシチュエーションをきっちり作り込む事でライブに近い状態でモチベーションを高めてもらえるのではないかと思いました。

―面白い発想ですよね。そこにDVDを付けたのはどんな理由だったんですか?

清宮:最初はCDにしようっていう話だったんですが、やっぱりそれだけだと、興味を持ってくれる人は増えていかないと思ったんです。きちんと興味を持ってもらうためには、音楽は音楽として残した上で、そこに至るまでのストーリーを映像で伝えないとダメだと思って。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』の会場となる国立科学博物館

―映像もすごく楽しめる内容でした。

清宮:演奏してる場面だけではなくて、その人の生い立ちとか、対決してみた感想などをドキュメントとしてまとめたかったんです。でも、そのせいで結構時間がかかっちゃって(笑)。ホントは『I』のすぐ次に『II』を出すって話だったんですけど、対戦ごとに全部別の日に撮って、またその後の別の日にインタビューしてっていう風に、ものすごく時間と労力がかかってしまいました。

―対戦相手のチョイスは清宮さんが全て決めたんですか? それとも少しは「どんな人とやりたい?」みたいな相談もあったんですか?

清宮:一切ないです。相手側のCDを持って、「この人とやってほしいんですが…」って。

―当然「ああ、この人ね」って場合もあれば、「誰この人?」っていう場合もありますよね。

清宮:ジャズの方は誰も断らないんですよ。「何でもやる」っていう基本姿勢があるので。逆側の方に断られたケースはあります。やってどうなるかわからないことをやるっていうのは、すごくリスクがあると思うんですね。それを承知で出てくださるっていうのは、ホントにありがたいと思っています。いきなり音を出し合わないといけないから、当然出来上がりを保証出来ない。リハーサルをしながらとか会話しながら作り上げる事が出来ないので、躊躇してしまうのは当然だろうし。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』に出演する渋谷慶一郎(左)とDJ BAKU(右)

―アーティスト側の不安も当然あるだろうし、制作側の不安もありますよね。何も生まれないことだってありうるわけですもんね。

清宮:実際上手くいかなかったなあと感じた日もあります。でもその辺はどうにもならないんですよね。やっていくうちに仲良くなる組み合わせもあれば、ほとんど会話もしないで終わってしまう組み合わせもあるし、仲良くなったから出来上がりがいいとか、仲良くならなかったから悪いとかいうわけでもありません。そういう感じなので、いろいろと提案したり、仕向けたりといった事はしないようにしています。

―作っちゃうと別物になっちゃいますからね。

清宮:セッションをしてほしいわけではなくて、「VERSUS」といういう名前なんで、対決してほしかったんです。そういう意味で、前向きにゲーム性を汲み取って楽しんでくれている方たちはクオリティも抜群ですね。

ライブでやるっていうのは時代の流れ

―『II』のリリース以降は、昨年末に『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE』が開催されるまで3年間の空白がありましたが、これはどんな期間だったのですか?

清宮:何かをちょこっとやろうと思えばできたと思うんですけど、「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」という名前や考え方はプロジェクトとして、スタートした時点からすごく自分の中で特別なものであって、片手間では絶対にできないんですね。『II』でちょっとやりきった感もあり、仕事も変わって物理的にも忙しかったので、次の展開がある程度見えるまではお休みしようかなと。

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昨年開催された『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE』のイメージ画像

―それでこのときからCDではなくライブに変わって。こうやって時代の変化に合わせて内容が変化していくのが面白いですよね。

清宮:そうですね。ライブでやるっていうのは時代の流れだと思いますし、そういう時流は常に考えてやっていけたらいいなと思っています。

記憶に残る試合、「Shing02 vs 外山明」「スガダイローVS七尾旅人」について

―昨年末の六本木スーパーデラックスは3戦あったわけですが、中でも「Shing02 vs 外山明」はすごかったそうですね。

清宮:Shing02さんに即興でラップしてもらう時に、彼の言葉が聴き取れないともったいないから、リリックを書いてもらうことにしたんです。でもそれは、意外に時間がかかると。当然ですよね(笑)。そのとき、彼はテーマを現場のお客さんに委ねたんですけど、出てきたテーマが「酸っぱい」だったんですよ(笑)。

―非常に難しいテーマですね(笑)。

清宮:それで1文字書き始めるのに15分ぐらいかかったんじゃないかと思うんですけど、最終的にまとめるまでに1時間ぐらいかかって。その間ずっと外山さんは叩き続けてるっていう(笑)。最初はバラフォン(西アフリカの木琴)を30分くらいずーっと叩いていたんです。途中でドラムに座り変えて、一音目のシンバルの音が怒りに満ちた「グワシャ〜〜ン!」って音で(笑)。

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左:外山明、ステージ右:Shing02

―(笑)。

清宮:それでも彼(Shing02)は全然関係ないわけですよ。肝っ玉の据わり方が半端じゃない。いつ終わるかわからないからお客さん結構帰っちゃうし、出来上がった曲をやり始めたら3分ぐらいで終わっちゃうっていう(笑)。スガダイローさんはそれを見ながらゲラゲラ笑ってるし、その後自分の持ち曲やって中村達也さんに「即興じゃないんかい!」って突っ込まれて(笑)。そういうのも含めて現場全体がカオスですごく面白かったです。

―今年の9月にはスガダイローさんの七番勝負も企画されていましたが、その中ではどの勝負が印象的でしたか?

清宮:七尾(旅人)さんの回ですね。その日は急遽ゲリラ的にUstをやったんですけど、大体休憩を挟んで3ラウンドやるっていうのが七番勝負の通例になってたんですね。その3ラウンド目の前に僕が会場に来たお客さんに話をさせてもらって、七尾さんとスガさんがやれるのはすごい嬉しかったし、もっとみんなに見てほしいから、Twitterやってるひとは今すぐUstのことを告知してください! ってお願いしたんです。そしたらアクセスがグワーッと広がって。その後の3ラウンド目の七尾さんがもの凄かった。自分の持ち技を凝縮して一気に全部出してくるんですよ。

表現者たちが本気でバトル 「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」という試み
左手前:スガダイロー、右奥:七尾旅人

―いい発奮材料になったわけですね。

清宮:七尾さんはそういう風にちゃんと勝ち負けにこだわってくださって、即興をエンターテイメントとして考えながらもその先を目指している人なんだなって思いましたね。

常に評価されるべき人に出てもらいたい舞台だし、そういうストーリーを運営側が作り込むことが大事だと思うんです。

―では、12月12日に開催される『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』についてですが、まずはやっぱり会場がすごいですよね。国立科学博物館っていう。

清宮:今までも変わった場所でやってきたので、今年もシチュエーションにこだわりたいとは思ってたんです。あと「2010年」っていう響きが自分の中では大きくて、未来感があるというか、この年の内に何かをやっておきたいと思って。規模は去年のスーパーデラックスより大きくしたいという気持ちも手応えもあって、そう考えていたときに、台東区の「芸術文化支援制度」があったので、それに応募しました。となると当然台東区内の施設でやらなきゃいけないっていう話で、アサヒ・アートスクエアだったら一回り大きいし、いいかなと思って提案したら、「あれは墨田区です」って言われて(笑)。

―それは怒られますよ(笑)。

清宮:それで「明日までに決めて来てください」って言われまして(笑)。もともと国立科学博物館がある上野周辺はいつか何かやりたいと思ってたんで、慌てて行きました。レンタル費用も高く、いくつかハードルもありましたが、台東区の協力もあり、何とか実現できる事になりました。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』に出演するASA-CHANG(左)と康本雅子(右)

―採算度外視な、見ないと損なイベントというわけですね。そんな今回の出演者ですが、Open Reel Ensembleとか、それこそダンサー・振付家の康本雅子さんとか、音楽という枠をも超えた多彩なラインナップになってますよね。これも時代性を考えてのことなのでしょうか?

清宮:実はそういう考えはあんまりなくて、やっぱり個人ありきですよね。ため息が出る程美しい康本さんの踊りを見てほしいとか、オープンリールを並べて無茶する若い子に、さらにもっと無茶させてみたいっていうのが先にあるんです。その人が好きっていう。それは始めたときからそうで。

―菊地さんの頃からそうですもんね。

清宮:出てくださる本人が好きじゃないとこんな手間のかかることはできないし、この人とこの人がやったら面白いんじゃないかって想像して風呂でニンマリするとか。そうやって自然に湧かないと続かないんですよね、きっと。それは20戦やっててずっと変わっていないですね。

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『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』に出演する
AFRA(左)とOpen Reel Ensemble(右)

―あとはその場で生まれることをそのまま楽しんでもらうと。

清宮:即興がテーマなのでなかなか難しいんですが、理解しにくい部分も含めて楽しんでもらうために、お客さんとの緊張関係をどうイベントの最後まで保つかは課題ですね。あとこのプロジェクトをやっている理由には、アーティストの生き様を尊重すべきっていうことがあって。人生山あり谷ありで、人気があるときとないときが当然あると思うんですが、人気と実力は常に同じではない。実力のある、評価されるべき人に出てもらいたい舞台だし、場所含めその舞台にたどり着くまでの流れを運営側がきちんと用意することが大事だなって。それをやり続けることで、アーティストにも、お客さんにも喜んでもらえるプロジェクトに成長して、音楽の価値を高める事にすこしでも貢献できれば嬉しいです。

清宮氏のインタビュー後、AFRAとOpen Reel Ensemble(ORE)の顔合わせに立ち合わせてもらった。普段は顔合わせをせず、ライブ当日に初対面となるのだが、OREの場合、そもそも何ができるかを把握する必要があったので、異例の顔合わせとなったわけだ(ちなみにOREについて説明しておくと、旧式のオープンリール式磁気録音機を現代のコンピュータとドッキングさせ、「楽器」として演奏するグループ。ね、これだけじゃ何ができるかわからないでしょ?)。最初は興味津々でOREの説明に聞き入っていたAFRAも、徐々に会話の中でビートボックスを披露するなど、早くも前哨戦の様相。この2組の戦いはまさに「人間 vs キカイ」であり、SFチックな世界観が楽しめそうだ。その他、ある意味「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」のコンセプトにも通じる「KAIKOO」の看板を背負ったDJ BAKUが渋谷慶一郎にどう挑むのか? ASA-CHANG&巡礼がソロユニットとなったASA-CHANGがその舞台演出家的なセンスで康本雅子のダンスとどう対峙するのか?など、今から本番が楽しみでならない!

表現者たちが本気でバトル 「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」という試み
AFRAとOpen Reel Ensembleによる顔合わせ

イベント情報
『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2010』

2010年12月12日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 国立科学博物館

出演:
渋谷慶一郎 vs DJ BAKU
AFRA vs Open Reel Ensemble B.R.M set
ASA-CHANG vs 康本雅子

料金:予約4,000円 当日4,500円

■当日券について
当日券は12月12日(日)17:30より、国立科学博物館入口のSL前にて、30枚+α販売致します。
(+αは当日までの予約キャンセル数となります。)
規定枚数以上の方が集まった場合は同時刻に抽選を行う予定です。

イベントに関するメール問い合わせはこちら
Boycott Rhythm Machine Versus LIVE

プロフィール
「BOYCOTT RHYTHM MACHINE」

2004年に、渋さ知らズ、DCPRG、大友良英NJO、ROVOらによる新録のコンピレーションアルバム『BOYCOTT RHYTHM MACHINE』、2006年には7つの即興対決をドキュメントしたCD+DVD『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』をリリース。同作品や、それ以降はライブとして、日本最先端・最新鋭の音楽シーンを牽引するアーティスト同士による異種格闘技戦をテーマにした即興対戦がこれまでに全20戦行われている。



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