いつまでも胸に残るものを KENTARO!! インタビュー

2008年12月に長編『Wピースに雪が降る』(吉祥寺シアター)にて旗揚げし、切なく楽しい、音楽に密接した物語的ダンスが話題を呼んだダンスカンパニー「東京ELECTROCK STAIRS」。その新作となる『届けて、かいつぶくん』が6月より上演される。「たまらなく会いたい。だけど会いたくなければ来なくていい。それでも待ち合わせ場所には行く。」そんな独特のキャッチコピーに彩られた今作はどんな経緯で誕生し、どのような想いが込められているのか。震災の影響や自身のダンス観なども含め、主宰のKENTARO!!に聞いた。

日本的なイメージをダンスで伝えたい

─KENTARO!!さんの作品は演劇的な要素や物語性があって、そこに含まれる切なさや情感がすごく素敵ですよね。ただ今作の『届けて、かいぶつくん』はタイトルから内容が想像しづらいのですが、どんな作品なんでしょうか?

KENTARO!!:今回ははっきりとした物語はないんです。伝えたいメッセージはあったから、それをどう表現するかの戦いですね。まだ稽古中なので、ギリギリまで悩むところもあると思います。

─届けたいメッセージというのは?

KENTARO!!:いちばんは、日本的なイメージというか、美しさって言えばいいのかな。僕は小学校から母親の影響で洋楽をずっと聴いていたし、ダンスもずっとHIP HOPを踊っていたから、日本の伝統的なものをルーツにしていないんですよ。でもどんなにがんばっても、HIP HOPじゃルーツの部分で黒人には負けちゃうんだなとは思っていて。それで日本人らしさを表現できるダンスってなんだろうって考えたのが、コンテンポラリーを始めた理由のひとつなんです。それも若者だけじゃなくて、老若男女を問わずできるだけたくさんの人に届くものにしたいという思いが根底にありますね。

いつまでも胸に残るものを KENTARO!! インタビュー
『Wピースに雪が降る』(2008年12月、吉祥寺シアター) Photo:Yoko Kida

─日本的というと、踊りや音楽が?

KENTARO!!:うーん、例えば海外の人が観たときに「欧米っぽいね」とは絶対に言わないと思います。向こうはストレートな表現だから、女の子を倒すシーンでもバーンって勢いよくやったりするけど、そうではなくて。細かいニュアンスや柔らかさなのかな…言葉にするのはすごく難しいので、ぜひ観に来ていただきたいんですけど(笑)。

─言葉では表せないような日本のイメージや素晴らしさを、コンテンポラリーダンスで表現したということですか?

KENTARO!!:そうすることで、もっとダンスに観客を呼べるんじゃないかと思うんです。「和」という意味は全くなく。現状、ストリートダンスイベントに来てる人ってほとんどダンスをやっている人で、広がりがあまりないしコンテンポラリーダンスの客層も閉鎖的な気がしているので、その状況を変えたいんですね。

話は戻りますが、HIP HOPダンスの子ども向けの大会で審査員をやらせてもらったこともあって、みんなすごくうまかったんですけど、日本らしさが全然ないことに寂しさを感じたりもしていました。

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KENTARO!!

30年後に観ても面白いものじゃないと

─ちなみに海外と日本では、ダンスを取り巻く状況や環境はかなり違うんですか?

KENTARO!!:全然違いますね。パリにいた頃に実感したんですけど、パリではコンテンポラリーダンスを授業で小学生にも見せてたんです。それで彼らが面白さを分からなくても、観る機会があるだけで全然違うんですよ。だから僕はジャンルの区別を意識せず、ダンスに観客を呼び込むための橋渡しができればいいかなって最近よく思ってます。

─ダンスで感動させたいとか楽しませたいということよりも、もっと多くの人に広めたいという思いの方が強い?

KENTARO!!:どちらもありますよ。もちろん踊りを見せる時点である程度のエンターテインメント性はないといけないし、感動もしてほしいです。でもそれより、観た人の胸にしっかりと残したいなと。音楽や映画はモノとして置いておけるから、忘れてもまた聴いたり観たりできるけど、ダンスにはそれがないことがちょっとコンプレックスで。記憶の中にどれだけ残せるかが勝負だから、そのためには物語を語るだけではダメだなと思って見せ方を考えています。音楽を自分で作るようになったのも世界観をより強めたかったからだし。やっぱり僕は、ダンスでなにかを変えられるってまだ信じているから。

─そうだったんですね。でもKENTARO!!さんのダンスって、踊る楽しさがすごく伝わってきますよ。

KENTARO!!:普遍的なものにしたいとはずっと思ってるんですよ。30年後に観ても面白いものじゃないとダメだよなって。だから今回も…実は東日本大震災を経ていろんなことを考えたんですけど、作品づくりの姿勢に関してはこれまでと変わらないですね。むしろ今までやっていたことを突き詰めるようになったというか。

2/3ページ:誰かが肯定してくれないと、「表現なんてしてはいけない」空気があった

誰かが肯定してくれないとやってはいけない空気があった

─やっぱり震災の影響はありましたか?

KENTARO!!:考えざるを得なかったというか。今ダンスをすることに意味はあるのかって悩みましたよ。意味はもちろんあるハズなんだけど、なにかを表現している人たちはみんな考えただろうし。でも有名タレントが募金活動をしたら何千人も集まった、というようなニュースを見て、彼らとはやっていることが違うと分かっていながら、自分と比べちゃったんですよ。「これは勝てないな」って思っちゃって。

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─そういう感情から、改めて作品作りに向き合えるようになったのには、なにかきっかけはありました?

KENTARO!!:結婚式の2次会で踊らせてもらう機会があったんです。その時に知らないおじさんに声をかけられて「どんなジャンルのダンスかは分からないけど、すごく感動した!」って言ってもらえて、この体験はかなり大きかったですね。地震のあと、「誰かが肯定してくれないとやってはいけない」ような空気があったと思うんです。表現なんてしてる場合じゃない、みたいな。でもそう言ってもらえたことで「踊ってもいいんだな」って実感を持てて、救われましたね。

─今回の震災のように、普段の生活で感じたことや社会的なことがらが直接作品に反映することはよくあるんですか?

KENTARO!!:コンテンポラリーダンス全体ではその流れがありますよね、最近のカンパニーは実験的な試みを取り入れる中で社会と密接になっている気がするし、それが作品に深みを加えているかもと思います。でも僕自身は、あまり社会との繋がりには興味がなくて。だからよく「お前の作品は浅い」って言われるのかもしれないですけど(笑)。社会的なことがらは演劇やダンスじゃなくて、本やテレビで詳しく知りたいって思っちゃうんですよね。ただ、好きな作品に影響されることはありますよ。

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『長い夜のS.N.F』(2010年1月、@座・高円寺1) クレジット:Yoichi Tsukada

─例えばどんなものですか?

KENTARO!!:直接モチーフにすることはないですけど、本も映画も小説も漫画も好きなんです。末次由紀さんの漫画『ちはやふる』は新刊が出たら必ず買うし、高校野球で感動したりもするし。映画で特に好きなのはミシェル・ゴンドリーの『エターナル・サンシャイン』ですね。ジョン・ブライオンの音楽とすごくマッチしていて、あの世界観が大好きなんです。あとは岩井俊二の『花とアリス』とか。あの世界観や余韻を、ダンスで表現できたらいいよなぁと思います。

─岩井俊二ですか。確かに現実よりちょっとだけファンタジーなあの雰囲気は、KENTARO!!さんの作品にも近いものを感じます。やっぱり思春期や男女の関係性みたいなものに関心があるんですか?

KENTARO!!:そうかもしれないですね。自分が学生の頃はダンスしかやってなくて、部活とかクラスの集団行動とは無縁だったから、ちょっと憧れもあるんだと思います。特に青春っぽいイメージを取り入れようとしたことはないですけど、50代くらいの方から「作品を観て、若い頃を思い出しました」っていわれることもありましたね。

3/3ページ:できるだけ、音楽にストレートに反応してダンスしたい

喜怒哀楽がないと感動できない

─ところで今回は東京ELECTROCK STAIRSとしては4回目の公演ですが、これまでと違ったことや、新たに挑戦していることはなにかありますか?

KENTARO!!:ずっと一緒にやっている人もいるので、僕の動きが共有できるようになったのは大きいですね。どうしても僕がいちばん踊れてしまうのが問題でもあって、みんなに合わせないといけないこともあるんです。でも徐々に全体のレベルもあがってきたので、どんどんよくなっている実感はあります。

─演出や振付けはどのようにされているんですか?

KENTARO!!:ソロに関しては、それぞれの人にあったものを作ってます。僕が自分で踊ったものを覚えてもらうには時間が足りないし、人によってはシンプルで簡単な動きをするだけでもいい味が出る人もいるので。例えばダンス経験のない役者さんでも、すごく良かったりするんですよ。それは表情とか体全体から出る雰囲気とか、見せ方がうまいからなのかな。

─難しい動きが必要なわけではないんですね。

KENTARO!!:テクニックを学ぶには何年もかかるけど、違う魅力を持ってる人もたくさんいるので、それを見つけるのが僕の役目だと思ってます。どんなにダンスがうまくても、何らかの喜怒哀楽の感情(それを直接的に表現するわけではないですが)が込められていないと感動できないんですよ。だからみんなを見ていて、もっと生きた人間性が乗るといいんだろうなってよく思います。決められたフリを踊ってるだけじゃ、お客さんはなにも感じないんです。

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『長い夜のS.N.F』(2010年1月、@座・高円寺1) クレジット:Yoichi Tsukada

できるだけ、音楽にストレートに反応したい

─今回は音楽もすべて自分で作ったと先ほど伺いました。2010年9月に行われた公演『dancetoday2010』の際に取材させていただいた時も、「音楽とダンスの一体感に気を使った」というようなことをおっしゃってましたけど、それは今回も同様に?

KENTARO!!:今回はもう、ほぼ一体化してると思います。僕は切ない曲に乗せてそのままの雰囲気で踊ることが好きで、それはコンテンポラリーの流れからは少し逸れてるのかもしれないけど、できるだけ音楽にストレートに反応したくて。事前に20曲くらいは作っていて、稽古が始まって10曲はボツにし、フリやイメージにあったものを新しく作りました。でも基本的にシンセサイザー以外の楽器は扱えないので、いろいろ試行錯誤したり勉強したりしながら、映画のサントラみたいなものになればいいなと思って。それはすごく難しい作業ですが。

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─また、タイトルを『届けて、かいぶつくん』にしたのはどんな理由でしょう?

KENTARO!!:「かいぶつ」って言うと、強大な力でサプライズを起こしてくれたり、想いを届けてくれるようなイメージがあったんですよ。人間には抗えない大きなものが、なにか特別なものを運んでくれたらいいなって。あと漢字で「怪物」だとちょっと怖いので、ひらがなでかわいい感じに(笑)。

─ちょっとファンタジーっぽさもありますよね。

KENTARO!!:そうですね、リアリティが必要な表現もあるけど、僕は少し離れていたくて。やっぱり踊るということは、日常の中であまりリアルな行為ではないじゃないですか。だから、多少ファンタジックな要素があってもいいかなと思ってます。

─では最後の質問ですが、今作はどんな人に観てもらいたいですか?

KENTARO!!:ダンスを観たこともやったことがない人でも楽しめると思いますし、今回は特に音楽が好きな人にも来てもらいたいです。ちょっとヘンかもしれないけど、全然難しくはないので、安心して観に来てください(笑)

イベント情報
東京ELECTROCK STAIRS新作公演
『届けて、かいぶつくん』

2011年6月1日(水)~6月5日(日)全6回公演
会場:東京都 三軒茶屋 シアタートラム

振付・演出・音楽・出演:KENTARO!!
出演:
伊藤知奈美
川口真知
高橋幸平
高橋萌登
服部未来
山本しんじ
横山彰乃
aokid

料金:一般 前売3,000円 当日3,500円 学生2,500円(前売のみ)
劇場友の会2,700円(前売のみ)
世田谷区民2,800円(前売のみ)

プロフィール
KENTARO!!

1980年生まれ。「東京ELECTROCK STAIRS」主宰。HIP HOPベースに、LOCKDANCE、HOUSEなどを学び様々なチームやユニットで経験を積む。音楽シーンやコンテンポラリーダンス、演劇等に影響を受けた自由な発想による「ダンス」を創作。オリジナル楽曲制作、若手アーティストよる企画公演のプロデューサーとしても活躍中。2008年、横浜ダンスコレクションRにて若手振付家のための在日フランス大使館賞、『トヨタコレオグラフィーアワード08』にてオーディエンス賞、ネクステージ特別賞を受賞。2009年度の活動に対し、第4回日本ダンスフォーラム賞受賞。



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