ステージの上は、幸せな場所 蜜インタビュー

歌も素晴らしいけど、とにかくライブが凄い。今年の春に掲載したインタビューでそう紹介した男女2人組ユニット「蜜」は、「日本を代表するロックフェス=『フジロック』」への出演を果たすことで、その事実を見事に証明してくれた。アコースティックギターを主体にしたナチュラルな音色に、絶妙に溶け合う二つの歌声の響き。時に無茶ぶりとも思えるコールアンドレスポンスで笑顔を生み出し、時に観客の度肝を抜く二人のライブパフォーマンスを体験すれば、きっと一発で彼らのことを好きになってしまうはずだ。

もしかすると蜜の音楽を、カフェミュージックのような柔らかなポップソングだと想像している方も多いかもしれない。しかし11月にリリースされる1stアルバムでは、歌謡曲からソウル、ブルース、ラップまで幅広いスタイルを展開。同時にリリースされるカバーアルバムでは、矢野顕子からL'Arc〜en〜Cielまで、これまた幅広い選曲を歌いこなす。アコースティック男女デュオのイメージを更新しつつ、ステージという「幸せな場所」を最大限楽しみ、楽しませ尽くそうとする蜜。そのスタンスと目指す先を訊く。

ライブになると全部忘れちゃって、もう勢い余ってしまうというか(笑)。(木村)

―僕ね、蜜というユニットは「大舞台」に強い気がするんです。

橋詰:ホントですか?(笑)

―他の人だったら緊張してその場の雰囲気にのまれそうなときも、蜜はお客さんをあっという間に味方にしてしまう。たとえば今年の夏に『フジロック』に出たときも、そうだったんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?

木村:自分たちのやるべきことが歌を歌うことだっていうのはわかっているし、自分たちが楽しければそれが伝わると思っているんです。気負わずに自分たちらしさが出ればいいなと思って、『フジロック』でも歌いました。

橋詰:そうですね。『フジロック』はとても楽しむことができました。

―その「自分たちらしさを出す」ということに、最近はより自覚的になってきてる?

木村:歌うことで自分を見せていくことに少し怖さもあったんですけど、恐れず楽しんでやろうと思えるようになってきました。

―蜜って、歌をすごく大事にしているし、音の響きをすごく大事にしているし、曲は非常にポップで心地がいい。実は非常に音楽的にクオリティーが高いユニットだと思うんです。でも、ライブはめちゃくちゃ自由ですよね。特に木村さんは(笑)。

木村:橋詰くんが二人の声の組み合わせや相性を考えて組み立てているので、その意図を崩さずに歌えたらと思うんですけど……。ライブになると全部忘れちゃって、もう勢い余ってしまうというか(笑)。

写真左から:木村ウニ、橋詰遼
写真左から:木村ウニ、橋詰遼

―橋詰さんは、そういう自由な木村さんの行動を面白がりながらも、ちゃんとライブが成立するようにコントロールしていますね(笑)。

橋詰:いいバランスではありますよね。木村さんは歌い手であって、ちゃんとパフォーマンスができる演者タイプ。僕は作る方が好き。

木村:作家的なんだよ橋詰くんは!

橋詰:はい、おっしゃる通りだと思います(笑)。

何よりもまず、全然違うタイプの二人の声、その響きを聴かせたかったんです。(橋詰)

―『初恋かぷせる』『パープルスカイ』という2枚のシングルを含む、初のフルアルバム『eAt me!』が遂にリリースされますね。このアルバムは、どういうものを目指して作り始めたのでしょうか?

橋詰:何よりもまず、全然違うタイプの二人の声、その響きを聴かせたかったんです。蜜を結成してから、できるだけ余計なものを入れずシンプルにやってきたので、その集大成になるようなアルバムにしたかったというか。それに加え、ジャンルレスに音楽をやっていきたいとも考えいるので、そういう意味でも今の蜜にとっての名刺代わりのアルバムになったんじゃないかなと思います。

―沢山の切り口を示している、まさに蜜の音楽の幅広さと魅力を示しているアルバムでした。

橋詰遼

橋詰:もともとごちゃ混ぜな音楽が好きだったので、いろんな楽曲を作りたいんです。だから、今までの蜜にはこういう曲がなかったから作ってみようという感じで、ちょっとずつ作っていきました。たとえばアコギ1本でラップをやったら面白いかな? とか、レゲエ風味なものをやってみたりとか。

―歌詞についてはどうでしょうか? 蜜は二人がそれぞれ歌詞を書いてますよね。

橋詰:現状ある蜜の曲の歌詞は8割ぐらい木村さんが書いていて、僕が書いたものは、どうしても自分で書きたい! ってときに書いたものが多いですね。基本的には、曲ができたら木村さんに渡してます。

―曲を渡された木村さんは、そこからどういう風にイメージを膨らませるんでしょう?

木村:最初はメロディーや音として聴くんですけど、だんだん映画のシーンを設定するような感覚で歌詞を探っていきます。どういう色合いが似合うだろう? とか、どういう気持ちとフィットするだろう? とか。ピタッとくるところを見つけて、書くって感じですね。

―つまり、歌いたいことを歌うというよりも、脚本家的に情景描写していくような感じ?

木村:それは曲によりますね。その時の自分のモードが反映されてる曲もあって、何かがムラムラ溜まっているときは、それを吐き出すように書くときもあるんです。

―たとえば“パープルスカイ”の歌詞はどうですか? “初恋かぷせる”とは対照的に、恋の終わりの淋しげなイメージがありますけれども。

木村:これは、そういう情景が浮かんできたんですよね。あと、その曲を書いてた時期に、ちあきなおみさんが格好いいなと発見したんです! ああいう風に、女の人が持ってる心がきゅっとなる切なさと、「でも私生きてくわ」みたいな強い部分を表現してみたかった。

―なるほど。確かに蜜って、歌謡曲のエッセンスをうまく取り入れますよね。

橋詰:好きなんですよね、歌謡曲が。二人ともそこは共通していて。

―歌謡曲のどういうところが好きなんですか?

木村:私は、お風呂場で歌いたくなる感じ!

―木村さんらしい回答です!(笑) 橋詰さんはいかがですか?

橋詰:うーん、どういうところなんでしょうね……。歌謡曲といっても、結構幅が広いですよね。それこそ美空ひばりさんに至っては、演歌からジャズまで歌っているし。そういう意味では、音楽的な幅広さがあるところですかね。

木村:私は、歌謡曲だからって全部が好きなわけではないんですけど、「そこ、気持ちいい!」っていうメロディーとか言葉が歌謡曲には多いんです。そういう痒いところに手が届くようなメロディーと言葉のセンスが好きですね。BGMにならないというか。

「私言っちゃうよ!」(マツコ・デラックスのまねをしながら)と、そういうことです! 自分の中のデラックスゾーン。(木村)

―“DX”や“行かなきゃ”は、言葉を詰め込んだ、はっちゃけるような曲になってますよね。

橋詰:“行かなきゃ”はまさにさっき話をした、アコギ1本で二人がラップしてたら面白いだろうなと思って作った曲ですね。“DX”に関しては、ロックみたいな曲が作りたくて。ブルースっぽいロックというか。あんまりアコギ1本でやられてなさそうなところを攻めて、できていったという感じですね。

木村:それに、言葉のリズムで楽しくなれる、だけどすごく構成はシンプルなものって、蜜だからやれると思っていて。

―言葉のリズムや節回しもこだわっているところですね。“DX”の<ていうか海辺に住むわターコ!!>みたいな歌詞って、どういうアプローチで書いたんでしょう?

木村:これはですね、そういう人多いと思うんですけど……。マツコ・デラックスさんを見ていて、マツコさんの言ってることが、自分を代弁してくれたみたいな気持ちになることがあって。「思ってたけどあそこまでは言えてなかった!」ということをどんどん言っていいんだよという、そういうマツコさんみたいな感覚をデラックスと名づけました。

木村ウニ

―ってことは、曲名もマツコ・デラックスの「DX(デラックス)」?

木村:そうです(笑)。「私言っちゃうよ!」(マツコ・デラックスのまねをしながら)と、そういうことです! 自分の中のデラックスゾーン。

―ははははは! デラックスゾーン。

橋詰:トゲというか毒のたっぷり効いた歌詞になってると思います(笑)。

蜜でライブをするときは「蜜王国」なわけでしょう? その時はもう「私、ムツゴロウさんでいいんだ!」みたいな気持ちになれるんです。(木村)

―そう言われると、木村さんってわりと毒の部分というか、鋭い部分ってありますよね。

木村:そうなんですかね? でも確かに、「ほんとのところはどうなんだろう?」ということにしか興味がないですね。だから、自分もなるべく嘘をつきたくないし、自分がその人の根本的な部分をすごく好きだと思えたら、多少性格に難ありでも全然許せる。お互いにそういう関係じゃないと、いい関係でいられないんじゃないかな。あとは、もともと態度がデカいっていうか、生意気なところがあるのかも……。性格でしょうか?

―でも、そういうところが蜜の「大舞台に強い」っていうのと繋がってると思います。

木村:普段はわりとビビりで、小心者だなと思うときもあるんです。メニューを全然決められなかったり、1人でおしゃれな洋服屋さんに入れなかったりするんですよ! だけど、蜜でライブをするときは「蜜王国」なわけでしょう? その時はもう「私、ムツゴロウさんでいいんだ!」みたいな気持ちになれるんです。生意気であろうがそれぐらいの態度でいた方が面白いかなって。それこそひばりちゃんとか、どっしりしてる人が自分も好きなので。でも、よくわかってないのに態度がデカいと、よく言われます……(笑)。

―間近で見てきた橋詰さんは、その辺りをどう感じますか?

橋詰:すごいパンク精神を感じるときはありますね。裸でバーンと出るっていう。

木村:えっ!? そうかな……?

橋詰:あれ!? 違いますか?

木村:……。

橋詰:いやこれ、いい意味で言ってますから! 全然悪いことじゃないんですよ!

木村:そっか! オッケーオッケー!

橋詰:はい(笑)。とにかくそういうときの木村さんは、無敵感ありますね。

蜜

木村:でも、ほんとにいいライブができたときは、「俺って最高だぜ!」っていう感じがあるんですよ。ライブって人に非現実的なもの、わくわくするものとか刺激的なものを与える場でしょう? そういう空間では別人になっていいと思うんです。それに、ステージって幸せな場所だから。「俺がこんだけイケてんの、わかる?」くらいの気持ちになれた瞬間に、「ああ生きてるな」って思いますね。

―逆に、木村さんから見た橋詰さんはどうでしょう?

木村:うーん……(熟考する)。ライブのときは、橋詰くんのことはそんなに見てないかもしれない。

―あはは、そうか(笑)。

橋詰:そうですね。あまり視線を感じないです(笑)。

木村:だけど、私が「俺って最高だぜ!」モードに入ってるときも、きちんと曲を演奏するっていうことを忘れないでいてくれる。

橋詰:そりゃそうでしょ、曲を演奏はするでしょ!(笑) 踏み外さないようにしてるってこと?

木村:うん。冷静な部分をちゃんと失わないでいてくれる。でも、「暴れ犬と、その手綱を引いてる人」みたいって言われることがよくあるんでけど、私自身はそうは思ってないんですよ。

―というのは?

木村:最近は特に、橋詰くんの楽しいっていう気持ちとか、伝えたいっていう気持ちがすごく感じられる。作家的な才能もすごくあると思いますけど、でも私は橋詰くんも、ちゃんと人前で歌う人だなって思うんです。

僕一人だったら難しかったし、でも蜜だったらそれができるんですよ。(橋詰)

―アルバムの終盤で“行かなきゃ”と“どうしようもない”という2曲があり、これは作詞も作曲も橋詰さんが書かれてますよね。個人的には“どうしようもない”がアルバムのハイライトでした。

橋詰:うわ、嬉しい! ありがたいです。

―先ほど、歌詞の分担のところで「どうしても自分が書きたいと思った曲は歌詞を書く」と言われましたけど、この曲はどういう風にしてできた曲ですか?

橋詰:これは友人の結婚式のために作ったんですけど、ちょっとソウルフルなものになっちゃって、自分一人だと演奏できなかったんです。それでずっとボツになってたんですけど、蜜でやったら面白いんじゃないかと思って。内容に関しては、サム・クックがすごく好きで、かなり影響を受けた曲ですね。

―この曲はソウルだし、ゴスペルですよね。蜜の楽曲には歌謡曲もあるし、カフェミュージックっぽいポップスもあるし、ブラックミュージックもあるという、雑多感に繋がっていると思います。

橋詰:そうですね。特にソウルはやりたかったんです。蜜の楽曲の中にはブラックミュージックの要素がわりとあると思いますね。

―それに、ソウルの曲をやると、木村さんのパフォーマーとしての自由さ、さっき言っていた「俺って最高だぜ!」っていうエネルギーも出しやすいんじゃないですか?

橋詰:わかります。僕には無理だけど、木村さんはすごいソウルフルな歌も歌えますからね。やっぱり僕一人だったら難しかったし、でも蜜だったらそれができるんですよ。

橋詰遼

カフェっぽい感じとは思われたくないんです。(木村)

―YouTube上の「蜜狩り」という企画でやってきたカバーについても聞ければと思います。それこそ“木綿のハンカチーフ”、矢沢永吉、ラルク、宇多田ヒカルと、何でもありでやってきましたが、これはどういう経験でした?

橋詰:正直すごく大変だったんですけど、いい経験になりました。尊敬してる曲ばっかりだったので、下手にできないっていうプレッシャーがあったし、でもやるからにはいいものにしたかったので、アレンジには結構時間をかけました。蜜の音楽性を振れ幅の広いものに見せたかったから、1曲だけで判断されるのも嫌でしたし。やるしかないなっていう。

―企画と同名のカバーアルバムもリリースされますが、この選曲も相当攻めてますよね。「これを選ぶんだ!」みたいな。

橋詰:そういう風に見ていただけるのは嬉しいですね。やっぱり常に攻めていたいし、周りからもそう見られたいので。1曲だけで聴いたらカフェミュージックっぽいところもあるし、楽器の編成もそうですから、カフェっぽいユニットだと誤解される可能性もあるじゃないですか?

木村:あるある。でも、カフェっぽい感じとは思われたくないんです。

―ほんわか心地いいだけじゃなくて、面白い音楽に攻め込んでるっていう。

木村:そうですね。自分たちでもやってて面白いと思えないと体がノッていかないじゃないですか? だから、カバーアルバムの曲も「できるかわかんないけど面白そう!」って思うものばっかり集まりました。だから、歌ってて楽しかったです。それに、若い人たちにも昔の素晴らしい曲を発見してほしいし、蜜が歌うことで曲に鮮度を持ち込めたらいいなと思うし。

―では最後に、5年先、10年先の長い期間をイメージしてもらって、蜜が成し遂げていたいことって何ですか?

橋詰:欲を言えば、「ロックフェスから紅白まで」みたいなアーティストになりたいです。まあその前に、常に自分らが楽しいと思える音楽を更新していってるアーティストになりたいなと思います。

木村:やっぱり、蜜のライブって最高だって言われたい。ライブがめちゃんこイケてる、ワクワク感を持って帰れるようなユニットでありたいです。

イベント情報
『蜜 〜eAt me! tour2012〜“召しませコンサート”「見逃すべからず見届けてっ❤」』

2012年11月16日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 ell SIZE

2012年11月23日(金・祝)OPEN 16:30 / START 17:00
会場:大阪府 OSAKA MUSE

2012年12月5日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

料金:全公演 前売3,200円(ドリンク別)

viBirth × CINRA presents
『exPoP!!!!! volume67』

2012年10月25日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 O-nest
出演:

Tam Tam
Kate Sikora
ビッケブランカ
料金:無料(2ドリンク別)

リリース情報

『eAt me!』(CD)

2012年11月7日発売
価格:2,500円(税込)
TOCT-29079

1. アセロラ
2. レター
3. 初恋かぷせる
4. ひとつだけ
5. パープルスカイ
6. DX
7. ロイヤルノンタイトル
8. 行かなきゃ
9. どうしようもない
10. あいせき


『蜜狩り』

2012年11月7日より配信リリース
価格:1,500円(税込)

1. HONEY(L'Arc-en-Ciel)
2. バウムクーヘン(フジファブリック)
3. 心もよう(井上陽水)
4. traveling(宇多田ヒカル)
5. あざやかな場面(岩崎宏美)
6. Give me a Shake(MAX)
7. ひとつだけ(矢野顕子)
8. 私がオバさんになっても(森高千里)
9. 髭と口紅とバルコニー(鈴木慶一とムーンライダーズ)
10. トンネルぬけて(BO GUMBOS)

プロフィール

唯一無二の声をもつ木村ウニ♀と橋詰遼♂、二人の出会いが生んだ、奇跡の「唄合戦ユニット」。木村のパワフルでソウルフルな声と、橋詰の伸びのある透き通った声が創り出す蕩けるハーモニーは、観る者の右脳を揺さぶる。ロック、ポップ、ソウル、昭和歌謡と、あらゆるジャンルにアクセスし、もはや何が起こるかわからないエネルギッシュなパフォーマンスが話題になり、デビュー1か月にして『FUJIROCK FESTIVAL`12』に出演。今秋、満を持してファーストフルアルバム『eAt me!』をリリース。同時に、歌謡曲のカバーアルバム『蜜狩り』も配信限定でリリース。



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