曖昧でかっこ悪い方が人間っぽい OverTheDogsインタビュー

日本のロック批評は歌詞および、そこから見えるアーティストの人間性に比重を置き過ぎではないか? そんな議論はこれまで何度も繰り返されてきているが、インターネット時代の到来による価値観の変化、およびメール時代の到来による活字に対する意識の変化を背景とする(ように思われる)、近年の若手ロックバンドの歌詞の面白さというのは、じっくりと語るに値するものだと思う。OverTheDogsの恒吉豊は、そんな中で大きな注目を浴びるリリシストの一人。新作『プレゼント』には、“宙、2秒”や“凡考性命紊(はんこうせいめいぶん)”といった、タイトルを見ただけでも興味をひかれる楽曲が並んでいるが、その背景には自身に起きた物理的な変化と、それに伴う視点の変化があったという。鋭利な言葉で真実をえぐり出し、ネガティブな若者に寄り添おうとする現代的な歌詞と、自分の歌詞との距離感など、恒吉らしい独自の物言いが印象的な取材となった。

バンドのメンバーって、本気で理解しようとしてくれるとか、根っこが優しいとか(笑)、最後はそういうところが大切なんじゃないかと思ってるんです。

―OverTheDogsって歌詞に注目が集まることが多いと思うんですけど、もちろん評価されて嬉しい半面、もっと音楽的な評価も欲しいとか思ったりしませんか?

恒吉:僕の中では歌詞のプライオリティーがかなり高いので、歌詞を評価されるのはすごく嬉しいです。映画とかでも、音楽が自分好みな映画が好きで、ティム・バートンの映画とか絶対サントラ買うんですけど、つまりは映画に関して僕の中では音楽が一番で、映像が二番なんです。それって音楽で言うと歌詞が一番ってことに似ていて、ホントは逆であるべきなのかもしれないけど、僕はそれでいいと思ってます。

恒吉豊
恒吉豊

―了解です。じゃあ、歌詞に関しては後ほどじっくり聞かせてください。今年の3月に出たミニアルバム『トイウ、モノガ、アルナラ』から、江口亮さんがプロデューサーとして入られていて、『プレゼント』でもそのままプロデュースを手掛けられていますよね。そのことによる変化はどのような部分ですか?

恒吉:僕らの中で、江口さんのすごくいいと思う部分と、「これは違うかな」っていう部分が両方あって、今回は自分たちが「違う」と思った部分はあらかじめ言った上で、アルバムを作り始めました。

―『トケメグル』のときはプロデューサーが3人いて、それは「切り口を広げるためだった」っていう話を以前してもらったと思うんですけど、今もそういう考えでプロデューサーを入れてるわけですか?

恒吉:僕、プロデューサーの意味がいまだに分からないし、僕らはバンドだから、ホントはプロデューサーがいない方がかっこいいと思うんです。でも、いるからには面白いことをした方がいいと思って、例えば、“愛”は僕の中ではアコースティックが一番かっこいいんじゃないかって思ってる曲なんですけど、どうせやるなら江口サウンドバリバリで、極端にやった方が面白いと思って、お任せしたんです。普通のバンドだったら、「俺らのサウンドいじんじゃねえ」とか言うと思うんですけど、逆に「いじっちゃってください」っていう方がかっこいいかなって(笑)。

―ドラマーに関しても前作からサポートで数人参加する形になりましたが、これもプロデューサーと同様、違った色を入れることで変化を楽しんでるような部分があるのでしょうか?

恒吉:やっぱりドラムで曲の雰囲気が大きく変わりますからね。元GO!GO!7188のターキーさんと、元School Food Punishmentの(比田井)修くんが参加してくれてるんですけど、単純に修くんは飲み友達だったし、楽しそうな人とやるっていうのが一番いいかなって。

―プレイヤーとしてというより、まず人として面白いかどうか。

恒吉:メンバーを集めたときからそんな感じなので、もしかしたら、そこが最初に言った音楽より言葉が選ばれる理由なのかもしれませんね。音楽面での技量とかは日々成長して行くものだと思うんですけど、人間性って合うか合わないかじゃないですか? だから、最終的にはメンバーも人の良さで選んでいて、星(英二郎)くんなんかメンバー募集した人の中で鍵盤が一番下手でしたからね。

―確か、最初はほとんど鍵盤を弾いたことがなかったんですよね?

恒吉:でも、一生懸命理解しようと弾いてくれたんで、そっちの方がいいなと思って。それはいまだにそうで、ドラムがいないならいないで、やっぱり面白い人とやりたいと思うし。

―まずは人間性で集まって、その中で何ができるか、何をやるかが大事だと。

恒吉:そうですね。そっちの方が長く続いて、最終的にすごいものを作る気がするんです。

―すぐ近くにある「これをやりたいから」じゃなくて……。

恒吉:それだったら曲を書ける人がサポートメンバートやればいいと思うんですよ。バンドのメンバーって、本気で理解しようとしてくれるとか、根っこが優しいとか(笑)、最後はそういうところが大切なんじゃないかと思ってるんです。

―実際、プロデューサーやドラマーが変わっても、音楽性が急激に変化したわけでもないし、それも「まず人ありき」っていうことの証明かもしれないですね。

恒吉:僕THE BLUE HEARTSが好きで、THE BLUE HEARTSって誰が歌ってもTHE BLUE HEARTSってわかるじゃないですか? その影響かはわからないですけど、わかりやすいメロディーと意味が伝わる言葉を選んでいるので、誰にアレンジされても平気だぜっていう自信はあるんですよね。

かっこ悪い歌詞を書くのが好きなんですけど、そっちの方が真実だと思うし曖昧でかっこ悪い方が人間っぽいと思うんです。

―では、アルバムの歌詞について聞かせてください。さっきも話に出た“愛”はわりと昔からある曲だそうですが、ここで歌われている<悲しみが約九割で喜びが一割>っていう認識が、まず恒吉くんのベースにあると思うんですね。その中で、悲しみをより深く掘り下げたのが“サイレント”であり、一割の喜びをクローズアップしたのが“マインストール”であり、その幅がこれまで以上に感じられる作品だと思いました。

恒吉:「10:0」って曲は僕には歌えなくて、その比率で全部書いてるんです。“サイレント”もわりと昔に書いた曲で、そのときはどっちかっていうと「10:0」で悲しいことを考えてた時期ではあったんですけど。

―その曲をなぜ今回アルバムに入れようと思ったのでしょう?

恒吉:いい意味で開き直ったというか、いろんなものにあきらめがついたんです。それって全然否定的な意味ではなくて、例えば、一人の女の人と付き合うっていうのは、僕は一個のあきらめだと思うんです。逆にずっと相手を探し続けていけばいつまでも果てがないわけで、それってある意味あきらめてない。「この人!」って決めて、他の女の人とあまり関わらないようにするっていうのは、ある意味あきらめですけど、でもそこからその一人の世界を広げていくことができるわけですよね。“サイレント”を書いたときはそういうあきらめがつかなくて、「なんか悲しい」とか「答えが出ない」って感じだったんですけど、この1年ぐらいでいい意味であきらめがついて、「まあ、いっか」と思えて。

―なるほど。

恒吉:それで“サイレント”をもう一回聴いたら、そのときの自分もやっぱり「10:0」では終わりたくなくて、<人は悲しいよ>って歌いながらも、最後に<でも人は素敵だよ>って一文を出してて、それを今の方が強がらずに言えるというか、<でも人は素敵だよ>ってホントに言えるんですよね。だから、昔の曲だけど、今歌っても嘘じゃない、むしろ自然に歌えるようになった曲で、歌詞は一行もいじってないんです。

―それってすごく大きな変化だと思うんですけど、なぜそうやって開き直れたのか、きっかけは何かあったんですか?

恒吉:すごく物理的な話で、目を見えるようにしたんですよ。

―レーシック?

恒吉:レーシックとはまたちょっと違って、目の表面の傷ついて曇ってる部分を削って、再生させるっていう。かっこつけてるみたいな話になっちゃうんですけど、手術が終わって、3日ぐらいすごく痛くて、段々目が見えてきたときに、ホントに空にびっくりしたんですよ。それから小っちゃいことに感動することが増えて、冗談みたいな話ですけど、「空きれいだし、いっか」とか思うようになって。

恒吉豊

―まさに、世界が変わって見えた。

恒吉:ホントに変わって見えて、“チョコレート”の<見るものすべてを透明にしてみれば大切なものがなんなのか見えてくるんだろう>じゃないですけど、見えないものがすごいあったんだなって。そう考えたら、自分がウジウジ悩んでも答えなんて出ないし……というか、前から答えなんて出ないと思ってて、それをそのまま歌詞にしてたんですけど、「出ないけど、いっか」って思えるようになったんです。ハッピーエンドが想像できるようになって、バッドエンドももちろんあるんだけど、どっちにせよいい意味でいつか死ぬんだし、「まあ、いっか」っていう。

―答えなんて出ないし、「人は悲しい」っていう根本自体は変わらないけど、でもプラスのベクトルも肯定できるようになった。だからこそ、“マインストール”のような曲も書けるようになったわけですよね。

恒吉:あれも昔だったら<将来は君の想い通りだよ>って一文が嫌いでしょうがなかったと思うんです。どっちかっていうと、「なるわけねえだろ」って思う性格で、正直に言えば「思い通りになってない人たちばっかじゃん」っていうのが真実だと思うし。ただ、いざ自分を振り返ってみると、こうやって取材を受けたり、テレビに出たり、ライブに昔より人が来たり、意外と思った通りになってて、時代と戦うつもりはないですけど、世を拗ねて見るのが流行りなら、拗ねないで「かなってるぜ」って言いたいと思って。悲しいこととか辛い出来事って、こっちが遮断してても入ってくるじゃないですか? だったら、そんなものは歌でやらなくてもいいと思うし。

―今の歌詞の傾向として、真実をえぐり出そうとするようなものが多いと思うんですけど、そういう歌詞とも違いますよね。

恒吉:僕結構かっこ悪い歌詞を書くのが好きなんですけど、そっちの方が真実だと思うし曖昧でかっこ悪い方が人間っぽいと思うんです。真実をえぐり出すのって、人間っぽくないんですよ。「生まれてきたとき裸なんだから、裸の方が人間っぽい」みたいな話に近くて、「いや、服着てるのが人間じゃん」って思うから、歌に服を着せてあげることも、こういう時代だからこそ必要だと思うんですよね。

掘り下げていけば喜びも怒りも悲しみも全部すごく幼稚で、極論してしまえば、感情って中二以下の幼稚なものだと思うんです。

―“宙、2秒”という曲がありますが、「中二病」っていうのも現代の歌詞のひとつのキーワードになってると思うんですね。そういう歌詞に関してはどんな考えを持っていますか?

恒吉:掘り下げていけば喜びも怒りも悲しみも全部すごく幼稚で、極論してしまえば、感情って中二以下の幼稚なものだと思うんです。“宙、2秒”で歌ってるような<君が僕以外の人を褒めるから 僕はなんだかちょっと嫌な気分>とかって、昔はこう思うと自己嫌悪に陥って、「自分は小っちゃい人間だな」とか思ってたけど、でも「そんなもんじゃん」って歌ったら、楽しくなる人もいるのかなって。

―面白いですね。そもそも感情っていうのは中二以下だと。

恒吉:さっきの歌詞みたいなことって、結局みんな思うことだと思うんです。仕事で自分より評価されてる人がいたら、「自分ももっと頑張んなきゃ」とも思うけど、どっかに嫉妬があったり、屈辱的な気持ちになる。それってすごく幼稚なようだけど、でもやっぱりそう思っちゃうものだと思うんで。

―「中二病」っていう言葉が流行って、ネガティブワードとして独り歩きしてるけど、多かれ少なかれ誰でも持ってる部分ではありますもんね。

恒吉:でも僕「中二病」とか「インストール」とか、普遍的じゃない言葉を歌詞の中で使うのも絶対嫌だったんですよ。「マジ」とか「ガチ」とか、大っ嫌いだったんです。でも、実際言葉遊びとして面白いし、そこに反発してる俺はつまらんと思って。流行ってる言葉を使っても、結局完全には流行りに乗っかれないタチなので(笑)、それも「まあ、いっか」と思って。

―今日これまで話してもらった意識の変化が、聴き手に対する意識の変化にもつながっていますか?

恒吉:病んでる子が多いとか、落ち込んでる子が多い中で、そういう歌詞ばかりを歌うとして、もちろんそれで浄化されることもあると思うんですけど、傷の舐め合いというか、「俺も悩んでて、答えが出なくて、みんなの気持ちがわかる」っていうのは、ちょっとずるく感じたっていうのもあるんです。かっこ悪くても、「俺はこう思うよ」って言った方が……まあ、「わかんないけどね」っていうのが結論なんですけど、でもそっちの方が元気が出る人もいるのかなって。“マインストール”なんかはそうで、ちょっと強がってる歌詞にも聴こえるかもしれないけど、でもそれも真実だし、的を射ていて、前を向いてる曲だと思うので、そういう曲もちゃんとアルバムに入れたいと思って。

―あとはやっぱり音楽なので、悲しみの割合が強い歌詞でも、それをポップな曲調に、軽快なビートに乗せることで、意味をより深めることができますよね。

恒吉:そうですね。例えば、チャールズ・チャップリンの映画を見ても思いますけど、悲しいことを伝えるのに、悲しい顔をしてると意外と伝わらなかったりすると思うんですよ。悲しい言葉で悲しい曲調だったら、それ以上でも以下でもなくなってしまうので、悲しい曲だからこそテンポを上げたりもしてますね。

―その逆もしかりで、“カレーでおはよう”なんかはささやかな幸せが描かれた曲だけど、でも曲調は寂しげで、「いつかこの日々が終わっちゃうんじゃないか」っていう感覚もありますよね。

恒吉:まさに、その両方ですね。でも、その両方がないと、幸せって伝わらないと思うんです。だからやっぱり、「10:0」っていうのは歌えないんですよね。

恒吉豊

ずっと歌を歌って生きていけたらいいなって、それがより自分の中で鮮明になりましたね。

―最後に、『プレゼント』というタイトルについても聞かせてください。

恒吉:『トイウ、モノガ、アルナラ』とか『トケメグル』とかって、ちょっとひねってたから、説明をするのが大変だったんで、簡単なのがいいと思って(笑)。

―それもある種の開き直りですね(笑)。

恒吉:そうですね(笑)。でも、「プレゼント」ってすごくいい言葉だと思って、嫌なものを想像しづらいというか、必要がないものだったとしても、やっぱり嬉しいじゃないですか?

―『トケメグル』も、「溶けて、めぐって、何かにつながる」っていう、ちょっとした希望が込められたタイトルだったわけで、今回のタイトルにもやっぱり希望が込められているわけですよね?

恒吉:もちろん、タイトルに暗いものはつけたくないですからね。

―では、一個だけゲームっぽい質問です。そんな誰にとっても嬉しい「プレゼント」を今恒吉くんがもらえたとしたら、その中には何が入っているでしょうか?

恒吉:美味しい米が入っててほしいです(笑)。

―(笑)。

恒吉:「希望ですね」とか、そんなかっこいいの出てこないですよ(笑)。

―見えるものが変わって、考え方も少し変わって、ご飯も美味しくなった?

恒吉:いや、ご飯は前から美味しかったです(笑)。変にかっこいいこと言っても、来年になったら変わってるかもしれないし、だからあんまりかっこいいこと言ってもなって。

―バンドの展望に関しての変化はありましたか?

恒吉:前よりも、ちゃんと人気出たくなりました。

―前は人気よりも他の部分が大事だった?

恒吉:漠然とですけど、なんとかバンドを続けなきゃって思ってましたね。ボーカルを始めたきっかけがちょっと特殊だったんで、なんとか続けなきゃって思ってて、だから「続けるために、人気出なきゃ」とかはあったんですけど、今はそういうことじゃなくて、いい曲書いてるんだから、たくさんの人に聴いてほしいなっていう。

―続けることが目的ではなく、前提になったっていうことかもしれないですね。

恒吉:音楽しかやってこなかったし、なくなるのが怖いっていうのもあったと思うんです。でも今はそういうことよりも、ずっと歌を歌って生きていけたらいいなって、それがより自分の中で鮮明になりましたね。

リリース情報
OverTheDogs
『プレゼント』(CD)

2012年11月7日発売
価格:2,500円(税込)
MUCF-1003

1. ミスレル
2. チョコレート
3. どこぞの果て
4. プレゼントの降る街
5. 宙、2秒
6. 凡考性命紊(はんこうせいめいぶん)
7. サイレント
8. 夜光列車(やこうれっしゃ)
9. マインストール
10. ついで
11. 愛(album version)
12. カレーでおはよう

プロフィール
OverTheDogs

2002年結成。東京都福生市生まれ、現在も福生在住のボーカル恒吉豊を中心に活動中。ゼロ年代の純文学と共振する独特の歌詞世界と、Vo.& Gt.恒吉のハイトーンボイスで熱い視線を集めている4人組ロックバンド、オバ犬(ケン)こと「OverTheDogs」。



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