ビジネスより大切なこと Hostess代表インタビュー

もしも日本にHostessがなかったら、僕らの音楽生活はもう少し味気ないものになっていただろう。2000年に設立されたHostess(正式名称、Hostess Entertainment Unlimited)は、これまでにRADIOHEADやBECK、ADELEといった大物から、将来有望な新人まで数多くの洋楽作品を日本でリリースし、今年だけでも、ATOMS FOR PEACE、VAMPIRE WEEKEND、SIGUR ROS、FRANZ FERDINANDの新作を発売。さらにはこの後にARCTIC MONKEYSの新作が控えているというのだから、これはまさに「信頼と実績のHostessブランド」が確立されていると言っていいだろう。

そんなHostessが、ライブ制作などを行う関連会社のYnos(イーノス)と共同で昨年からスタートさせたイベントが『Hostess Club Weekender』である。昨年2月の初回以来すでに5回開催され、BLOC PARTY、VAMPIRE WEEKEND、DIRTY PROJECTORS、TRAVISといった人気バンドが出演を果たしている。ビッグネームから、「今これが見たい!」という新人バンドまで、かゆいところに手が届くラインナップ、たっぷり設けられた各アーティストの演奏時間、良心的な価格設定と、あくまでオーディエンスの目線に立った運営によって、すでに洋楽好きの音楽ファンにとってなくてはならないイベントになったと言って間違いない。次回は11月30日と12月1日に開催が予定されているが、それに先立ってHostess代表アンドリュー・レイゾンビー(通称、プラグ)氏にイベントの成り立ちについて話を伺った。その音楽愛に裏打ちされた語り口からは、Hostessが愛される理由が十分に伝わってきた。

結局のところ一番のコンセプトというのは、いろんな人たちがいろんな音楽にアクセスしやすくなるためのお手伝いをしたいということですね。

―はじめにまず、Hostessという会社を立ち上げたプラグさんご自身のお話から伺いたいのですが、以前は音楽を演奏する側だったそうですね。

プラグ:そうなんです。私はイギリスで生まれ育ったんですが、16歳から音楽学校に通い始めて、初めはジャズをやってました。その後19歳からクラシックに行って、音楽学校を卒業してからは、オーケストラの一員としてパーカッションをプレイしていたんです。

―オーケストラでパーカッションをプレイしていた頃から、音楽ビジネスの勉強をされていたのですか? それとも、まずは現場に飛び込んだという感じだったのでしょうか?

プラグ:昔から音楽ビジネスに興味はあったんですが、日本に来るまで一切勉強はしていなくて、パーカッショニストとして約束されたキャリアを歩んでいました。でもそれがあるとき潰えてしまって、当時はかなり落胆していたのですが、音楽ビジネスの勉強に集中することでその時期を乗り切れたんです。

プラグ(アンドリュー・レイゾンビー)
プラグ(アンドリュー・レイゾンビー)

―なるほど。そうして2000年に日本でHostessを始めるにあたっては、どういった目的意識があったのでしょうか?

プラグ:Hostessを始めたときっていうのは、何のコンセプトもなかったし、正直自分が何をしているかもわからないというような、本当に手探りの状態でした。その後次第に会社として形作られていったのですが、結局のところ一番のコンセプトというのは、いろんな人たちがいろんな音楽にアクセスしやすくなるためのお手伝いをしたいということですね。好きか嫌いかの選択はみなさんにお任せして、自分たちはみなさんがアクセスしやすい状況や環境を作る、それが役割だと思っています。

―そもそも、なぜ日本だったのでしょう?

プラグ:自分がここにいたから(笑)。狙って始めたわけではないんです。最初はアーティストからの依頼で日本での活動を手伝うことになって、それがいい評価を得て、他のレーベルとのやり取りも増えていって。自分から誰かにアプローチをしたことはほとんどなくて、自然に段階を踏んでここまで来たという感じですね。

―アーティストやレーベルとの信頼関係を一つひとつ築いていったと。ある意味、今もその延長線上にあると言えますか?

プラグ:おっしゃる通り、私たちの活動はアーティストやレーベルとの信頼関係を土台にしていて、それはレコードレーベルのビジネス形態として、世界的に見ても珍しいと言っていいと思います。逆に言えば、一つひとつ結果を残さないと、次にはつながらないということでもあるのですが、今のところはいい結果を生んでいて、こうやって続けてくることができました。

―そういった信頼を得られたのは、プラグさんが演奏家だったというのも関係しているんでしょうね。

プラグ:確かにそれはあると思います。自分が演奏する側だったので、アーティストの気持ちもわかるし、オーディエンスの気持ちもわかる。だから、その両方をつなげる一番いい方法は何だろうと考えて、これまでHostessをやってきました。もちろん多くの失敗もしましたけど、幸運にも、失敗から得られることの方が多かったですね。

―その中でも、自分にとっての大きな糧となった失敗を話していただけませんか?

プラグ:うーん……記事に載せられる話がない(笑)。

―(笑)。じゃあ、具体的な話ではなくてもオッケーです。

プラグ:オーケストラにいた頃に、ラジオ局で働いてもいたんですけど、二つの仕事の切り替えが大変で、失敗も多かったですね。ただ、音楽を伝えるためのアイデアに関してはそこでの経験から得たものが多いので、今思えば非常に大切な時期だったと思います。

レコード会社がいろんなことをやり過ぎてる、業務を拡大し過ぎだと言う人もいますけど、目的が明確にあるならやるべきだと思います。

―そうして今ではHostessは、多くの海外レーベルやアーティストと契約を持ち、重要なアーティストたちを日本に紹介する役割を担っているわけですが、昨年からは『Hostess Club Weekender』(以下、『HCW』)というイベントもスタートさせましたよね。

プラグ:基本的にアーティストが新作を出すときって、それに合わせてライブをしながら新曲の手応えを確認するし、オーディエンスもそのライブを観て、「今度の新作ヤバそうだ」ってバズが生まれていきますよね。ただ、アーティストの本国ならそれができても、日本でそれをやるのは難しい。ある程度の知名度があるアーティストなら似たようなことができるかもしれないけど、新人アーティストを日本に招聘してくれるプロモーターはなかなかいません。

―それをHostessならできると。

プラグ:そうですね。でも単純に自分たちもいち音楽ファンとして、新人がいいライブバンドかどうか自分の目で見たいし、新曲がヤバいかどうかを確認したいので、それをオーディエンスと一緒にライブを楽しみながら観るっていうのが、ある意味コンセプトになってるんです。

―主催してる側の人たちが楽しんでるっていうのはいいですよね。プロモーター主催のショーケース的なイベントとは、そこが違うのかなって。

プラグ:確かに、自分たちが興奮してるっていうのは大事だと思います。『HCW』を始めるにあたって、Ynosというライブを運営するための関連会社と手を組んだのですが、裏方の人たちもみんなイベントを楽しみにしていて、当日はステージ裏も熱気にあふれてるんです。それがいいイベントにつながってるんじゃないかと思いますね。

『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)
『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)

―Hostessはコンピレーションアルバムをリリースしたりもしていますが、今の時代はレーベルがただレーベル業をやるだけではなく、いろいろなことをやるのが重要だと考えていらっしゃるのでしょうか?

プラグ:レーベルとして何をやりたいか、その目的によると思います。今、レコード会社がいろんなことをやり過ぎてる、業務を拡大し過ぎだと言う人もいますけど、目的が明確にあるならやるべきだし、我々も、Ynosと共同で『HCW』をやるべきだと考えたんです。ただ収益の面で言えば、『HCW』は決していい収益をあげているイベントではないんです。

―それでも続けているのはなぜなんですか?

プラグ:もしお金を目的にやってるんだったら、会場を変えたり、チケット代を値上げしたり、やり方はいろいろあると思うんですけど、大事なのは健全な音楽マーケットを作ることで、お客さんにリスナーとしての自信を持ってもらうこと、ライブに行くことに自信を持ってもらうことが目的なんです。

『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)
『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)

―「リスナーに自信を持ってもらいたい」というのは、裏を返せば、今のリスナーが受動的になっているというような危惧を持っていらっしゃるのでしょうか?

プラグ:いや、リスナーが間違っているなんてことは、絶対にありません。問題があるとすれば、それはレーベル側がリスナーから搾取しようとしているときですよね。だから大事なのは、いろんな選択肢を用意して、リスナーに選んでもらうということだと思います。たとえばAKBとか、アキモトフランチャイズのように、ひとつのものにみんなが食いついてくれるようなシステムだったらそれでいいのかもしれないですけど、自分はそういうやり方は信じていないんです。

エモーションって、音楽業界の中ではあまり大切にされなかったりもするんですけど、実はそこが重要なんですよね。

―『HCW』は「2日間、1ステージ、10アーティスト」というのが恒例になっていますが、この形態にはどんな理由があるのですか?

プラグ:いくつもステージがあって、1バンドの持ち時間が30分で、30バンドぐらい出るイベントもありますけど、それでは心に伝わるショーにはならないと思うんです。しっかりフルレングスをプレイする時間があってほしいし、ひとつのアクトが終わって、すぐ次のアクトが始まる形式だと、頭ごなしに音楽を投げつけられているような感じがしてしまうんですよね。

―確かに、ちょっとあわただしいと感じるイベントもありますもんね。

プラグ:転換の間は、ドリンクを飲みに行ったり、友達としゃべったり、一度落ち着かせる時間があっていいと思うんです。その方が、次の音楽を聴くための準備にもなりますしね。今はそういうイベントって少ないですけど、自分がやりたいのはそういうことなんです。

『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)
『Hostess Club Weekender』会場風景 photo:古溪一道(コケイ カズミチ)

―あくまで音楽が中心にありながらも、飲んだり、しゃべったり、その場を楽しむことがすごく重要で、それによってさらに音楽自体も好きになったりしますもんね。

プラグ:そういうリスナーのエモーションって、音楽業界の中ではあまり大切にされなかったりもするんですけど、実はそこが重要なんですよね。僕が『HCW』でライブを観ることの次に楽しみなのが、転換中にお客さんがライブについて話しているのを見ることで、そのライブがよかったにしろ、悪かったにしろ、それは大きな問題ではないんです。もちろん、全員が楽しんでくれたら嬉しいですけど、『HCW』は「みんなこれを好きになってね」っていうイベントではないので、幅の広いものを出すことが大事で、それに対してみんながどう思ったのかを聞くことが、自分にとってはすごく楽しみなんです。

―イベントの主体はあくまでオーディエンスであると。

プラグ:そうですね。会場の雰囲気はオーディエンスが作り上げるものだから、今のところ『HCW』にはスポンサーも入れてないですし、主催者側としても、なるべくそこに干渉しないようにしたいと思っているんです。『HCW』も回数を重ねて、今はすごくクリーンな、いい状態になってきたと思っています。もちろん経済的な部分で、今後もしかしたらスポンサーを入れることもあるかもしれませんけど、現状はオーディエンスにすべてをゆだねられていると思いますよ。

『HCW』は『サマーソニック』のような大きなイベントではないですけど、自分にとっては同じくらい大きな愛の塊で、時間と労力と信頼関係の結晶なんです。

―次回の『HCW』は11月30日と12月1日に開催されます。プラグさんから見た見どころを教えてください。

プラグ:どれもこれも観たいバンドばっかりです(笑)。もちろん、NEUTRAL MILK HOTELが再結成して、地元でライブをやってから、台北と東京の『HCW』でライブをするっていうのは目玉のひとつなんですけど、追加で発表されたOKKERVIL RIVERは、個人的に長年好きなアーティストなんです。中心人物のウィル・シェフはシンガーソングライターとして特別な存在で、彼らのセカンドは自分にとってオールタイムフェイバリットのアルバムなので、やっと日本に紹介できることが本当に嬉しいです。もちろん、オマー・スリマンも絶対とんでもないことになると思いますよ。

―シリアのスーパースターですよね。個人的にも、オマーはとても楽しみです。

プラグ:彼のアルバムをプロデュースしてるFOUR TETも同じ日に出演するので、その二組が一緒に観れるっていうのもスペシャルだと思います。

―さきほど「台北の『HCW』」という話がありましたが、今Hostessは日本だけでなく、アジアの各国に展開しているんですよね?

プラグ:はい、中国、台湾、シンガポール、インドなど、アジアの各国に関わっています。日本も含め、それぞれの国で音楽に対する捉え方が違うので、それぞれの国の慣習を覚えて、まずはそれに従うことが大事で、その中で足りない部分を見つけて、変えていくことに興味がありますね。

―日本の慣習という意味では、日本では「洋楽・邦楽」という分け方があって、「邦楽だけを聴く」という人たちもいるし、邦楽だけでもマーケットとして成立している部分がありますよね。そこに対してどのようにアプローチするか、どうお考えですか?

プラグ:確かに2つに分けられている部分はあって、極端な話、OKKERVIL RIVERのファンと、アキモトフランチャイズのファンは、全く相容れないかもしれませんね(笑)。ただ、その下にはどちらでもない層、クロスオーバーしている層があると思うので、自分はそこに興味があります。それに日本のインディーには素晴らしいポップなバンドもいるので、そこにアプローチすることは、未来のあることだと思いますね。

―では最後に改めて、今後の『HCW』の展望を話していただけますか?

プラグ(アンドリュー・レイゾンビー) photo:古溪一道(コケイ カズミチ)
photo:古溪一道(コケイ カズミチ)

プラグ:もちろん、頭の中にはいろんなアイデアが浮かんでいますし、ビジネス本なんかには「きっかけがあったら、早く次の手を打て」って書いてあるかもしれないですけど、自分がやっていることは、とても長いゲームだと思ってるんです。長い時間をかけて、アイデアを試して、信頼関係を築いて、ようやく達成できるものがあると思うし、そうやって初めていい環境も生まれるんだと思います。『HCW』は『サマーソニック』のような大きなイベントではないですけど、自分にとっては同じくらい大きな愛の塊で、時間と労力と信頼関係の結晶なんです。なので、これからも一つひとつ時間をかけて、着実に進んで行ければと思っています。

イベント情報
『Hostess Club Weekender』

2013年11月30日(土)OPEN 13:00 / START 14:00
2013年12月1日(日)OPEN 12:00 / START 13:00
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
11月30日出演:
Neutral Milk Hotel
Okkervil River
Sebadoh
Delorean
Temples
12月1日出演:
Deerhunter
Four Tet
Omar Souleyman
Austra
and more
料金:前売 1日券7,900円 2日間通し券13,900円(共にドリンク別)

プロフィール
ホステス・エンタテインメント

日本市場での独自のアイデンティティ確立を目指す厳選された海外アーティストやレーベルの、パッケージ及びデジタル商品全般の国内マネージメント、プロモーション、営業、マーケティング・サービスを展開。2000年の設立以来、最も斬新かつ刺激的な独立系音楽会社として、その存在感を高めている。これまでにアークティック・モンキーズ、レディオへッド、アデル、フランツ・フェルディナンドといったアーティストの作品をリリースしている。



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