成長するために次のステージへ 秋元才加インタビュー

2011年に初演が行われ、数々の演劇賞に輝いた三谷幸喜の舞台『国民の映画』が、2月8日の渋谷パルコ劇場を皮切りに、大阪、愛知、福岡で再演される。

ナチス政権下のドイツで、最高のキャストとスタッフを使った映画を作るため、宣伝大臣ゲッベルスにより集められた映画人たち。国家のためか、芸術のためか、それとも生きるためか。実在したナチス高官と映画人たちを題材に、芸術と権力の狭間で葛藤する人々を描いた群像劇は、すべての登場人物に感情移入してしまう見事な配役と脚本だけではなく、特殊な時代背景のなかで生きることの難しさや、今現在の社会にまで通じる人間の複雑な心理について深く考えさせられるものとなっている。

今回の再演では、本作で『読売演劇大賞』最優秀男優賞を受賞した小日向文世を始め、多くのキャストが初演のまま配役されているが、新たに「ナチスを利用した女」エルザ役に選ばれたのが、昨年8月にAKB48を卒業したばかりの秋元才加だ。三谷から「みにくいアヒルの子」と言われた彼女は、大抜擢を受けた舞台にどのような心境で挑むのか。再演から参加という彼女ならではの視点で、舞台の見どころと裏側、そして独り立ちした自身のことについて、連日通い詰めている稽古場で語ってもらった。

今回が本当のスタート。三谷さんにイチから教わっている感じがしますね。

―秋元さんは再演からの参加になるわけですが、初演のイメージは?

秋元:正直、このお話をいただくまでは、三谷さんの舞台は『其礼成心中』と『おのれナポレオン』くらいしか観たことがなかったんです。もちろん三谷さんがすごい人だということは知っていましたけど、そこまで知識がなかったので、コメディーをやるのかなと思っていて。

―三谷さんはよく喜劇を描くイメージがありますもんね。

秋元:そうなんです。まずDVDで『国民の映画』の初演を観たんですけど、題材がナチス政権じゃないですか。メッセージ性も強いし、自分が思っていたイメージとは違う作品で、最初に観たときに涙してしまって。しかも、それがなんの涙かっていうのは一言では表せないような……。第二次世界大戦という時代環境のなかで、何かを押し殺さなければ生きることができない人たちが描かれていて、自分だったらどうするんだろうとか、いろいろ考えてしまったんですよね。

秋元才加
秋元才加

―確かに観終わった後、感情をどこに持っていけばいいのかわからなくなりますよね。

秋元:単純に悲しいだけでもないし、どの場面でどう感じたかとか、観終わった後に延々と話せるような舞台ですよね。あとは「ヒトラー政権って、どうだったんだろう?」とか、いろんなことに興味を派生させてくれるというか。

―僕も観た直後にめちゃくちゃ調べました(笑)。

秋元:そうですよね! でも、重いだけじゃなくて、笑える部分とか、緩急もあって。登場人物も主役、二番手、三番手、脇役みたいな、わかりやすい配役ではなく、一人ひとり主役になる場面があって、それぞれの境遇で一生懸命生きている。

―それぞれが置かれた境遇を考えたら、全員の気持ちがわかるというか。

秋元:三谷さんも「政府側についている人も、何かの歯車が狂って大きな過ちになってしまったけど、どこか人間的な部分を持っているというところを表現したい」とおっしゃられていて。初演のときも公演開始直後に震災があって、あえて中止せずに公演を続けたんですけど、「やっぱりこの時代はコメディーだな」というセリフが3年経った今になって、また深みを増したんじゃないかと思うんです。私も震災当時は表現する立場としてエンターテインメントの意味を考えたし、それを楽しむ側としてもすごく考えたんですね。『国民の映画』を作ろうとしていたゲッベルスも、ああいう時代だったからこそ、映画が大事だと思ったんじゃないかという人間的な部分も興味深くて。

『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ
『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ

―今の時代に置き換えられることが多いですよね。

秋元:時代は変わっていても、すごくリンクしているところがありますよね。逆に、私はエルザというゲッベルスの愛人的な新人女優の役なんですけど、女性の立場が低い時代だったので、女優として成功するために、男の人に媚びたり、擦り寄っていったりするんです。そういった部分には時代の違いを感じますし、考えさせられることもありました。

『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ
『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ

―秋元さんはAKB48では男前なキャラクターとして知られていたので、エルザとは正反対な印象があります。三谷さんはなんで秋元さんをエルザ役に選んだんでしょう?

秋元:それは私も知りたいくらいなんですよ(笑)。ただ、稽古に入って1週間くらい経った頃に、「バラエティーに出ているのを見て、いいなと思ったんです」と言ってくださったんです。「演技じゃなくてバラエティーですか!?」ってビックリしましたけど(笑)。

―まさかのバラエティーきっかけ(笑)。

秋元:「言い方は良くないかもしれないけど、AKB48のなかにいるのを見て、『みにくいアヒルの子』みたいに見えたんですよ」って。実は私、秋元康さんにも同じことを言われていたんです。だから余計にビックリして。

―AKB48という大人数のグループだからこそ、その「みにくいアヒルの子」という印象が際立ったんでしょうか?

秋元:そうかもしれないですね。ただそれは、AKB48にいたからこその個性でもあって、AKB48を卒業した今となっては、なんか違うなと思われる怖さもあるんです。

―でも、舞台はAKB48にいる頃から出ていましたよね?

秋元:AKB48のなかでは多いほうだったので、そう言われることが多いんですけど、『ローマの休日』『モーツァルト』、今回で3本目なんですよ。今まではがむしゃらにやってきて、たまたま評価していただけた。でもその評価はAKB48あってのものだったと思いますし、そういう意味では今回が本当のスタートで、三谷さんにイチから教わっている感じがしますね。しかも今回は映画が題材になっているだけあって、映画のメソッドもたくさん入っているんですよね。「何もしない演技がいちばん難しい」とか、セリフのなかにも勉強になることがたくさんあって。これから女優を目指していくなかで、このタイミングでこの作品に関われて本当に良かったなと思いましたね。

どの立場で観るかによって、登場人物一人ひとりの見方も変わってくる。何が正解とかじゃなくて、いろんなことを感じてもらえると思いますね。

―YouTubeに載っていたインタビューで、三谷さんから「こういう作品を見ておいたほうがいいよ」と言われたと話してましたけど、どんな作品だったんですか?

秋元:『メトロポリス』とか、『風と共に去りぬ』とか。あとは『最後の人』っていうドイツの無声映画があるんですけど、それを観て動きの研究もしましたね。ただ、無声映画はリアクションが大きいので、この時期のドイツ人の普通の動きがわかるようなドキュメンタリーも探したんです。それで『国民の映画』の登場人物でもあるレニ・リーフェンシュタールが監督した『意志の勝利』を観たりもしました。

―かなり研究されているみたいですね。印象的だったものはありました?

秋元:ユダヤ人が送還される収容所の映像を見る必要があったんですけど、遺体がおもちゃみたいに扱われてて……それを見たら涙がぶわーって出てきちゃったんです。でも、この作品に出会わなければ、「ヒトラーって学校で習ったね」くらいしか知らなかったと思うんですよ。それを知ることができたのはすごく勉強になったし、こういう機会がもらえたことに感謝したいですね。まだまだ見なきゃいけない資料はたくさんありますけど。

『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ
『国民の映画』2011年 撮影:阿部章仁 ©株式会社パルコ

―調べ始めたらキリがない分野ですからね。

秋元:ほんとそうなんですよね。第二次世界大戦について調べたり、ヒトラーに関する本も読みましたけど、時代の流れがわからないと、どうして戦争やホロコーストが起きたのかも理解できないじゃないですか。いろんな点がつながって今の時代があるし、三谷さんも「こういう人もみんな人間味があったんだろうなというところを伝えたい」とおっしゃられていたので。

―時代背景などは調べたほういいと言われてるんですか? 逆に調べ過ぎないほうが?

秋元:そこは難しいんですよね。舞台ではセリフがないときも役としてその空間にいなきゃいけないですし、そういった役割のとき、時代背景を知っている方が動きにリアリティーが出てくるんです。だから、エルザはどういう気持ちで動いていたのかなとか、その参考になるものは調べていますね。ここまで向き合わなきゃいけない役は初めてかもしれないです。

秋元才加

―僕も初演を観終わった後、すごい調べたんですけど、ナチスの幹部にユダヤ人が多かったみたいな説もあって。事実かどうかは別として、そういう視点で考えたら、物語に対する印象もガラッと変わったんですよね。

秋元:観る側も、時代背景を知っているかどうかで感想がかなり変わりますよね。まったく初見で観てもいいと思うし、いろいろ調べてから観てもいいと思うし。調べてもいろんな説があるから、どの立場で観るかによって、登場人物一人ひとりの見方も変わってくる。エルザだけは架空の人物ですけど、他の登場人物について調べていくと、このとき彼女が実在していたら、こうしなきゃいけなかったんだろうなとか、何が正解とかじゃなくて、いろんなことを感じてもらえると思いますね。

「女優目指してます!」っていう意気込みもエルザとリンクしていると思う。今この稽古場にいても、わからないことがいっぱいあって、耳ダンボでまわりの会話を聞き漏らさないようにしているくらいなので(笑)。

―今回、秋元さんはエルザ役で、初演でエルザを演じていた吉田羊さんはマグダ役(初演は石田ゆり子が担当)になりましたけど、吉田さんからアドバイスをもらったりはしたんですか?

秋元:それはあえてしないようにしてますね。稽古を始めたときに、初演と同じように動いていたら、三谷さんから「違います」って言われたんです。やってる人も違うし、見た目も違うし、キャラクターも違うので、「初演のエルザは忘れて下さい」くらいの勢いだったんですよ。でも、かなり初演のDVDを観てしまっていたので、それが抜けるまでは大変で。吉田さんも今回はマグダ役なので、「その気持ちわかる!」って。

―初演を観た人からすれば、キャストが代わってどう変化するのかも楽しみですよね。

秋元:私がエルザをやって、渡辺徹さんがゲーリングをやって、吉田さんもエルザ役からマグダ役に変わって、そうなると私たちだけじゃなくて、初演に出ていた人たちの演技も変わるんですよ。だから別物とまでは言わないですけど、観る人によっては初演と感じ方が全然違うかもしれないですね。

『国民の映画』出演者

―ちなみにエルザは今回、どのへんが初演と違うと思います?

秋元:グイグイ行く感じが強くなっていると思います。吉田さんがエルザをやったときは、テンションを上げるのが大変だったらしいんですけど、私は今25才で、年齢がエルザと同じくらいなので、もう少し騒がしい感じというか。

―前回もけっこうガツガツしてる感じでしたけど。

秋元:でも、冷静なところは冷静だったじゃないですか。それでいて上品だったと思うんですけど、私のエルザは、もっと押しが強くなってると思いますね。セリフも追加されているし、髪型とかも違うんですよ。

―エルザでもあるけど、秋元才加でもあるみたいな感じなんでしょうね。

秋元:エルザは新人女優なんですけど、私自身この稽古に混じってワーッてなってる感じだったり、自分の未熟さだったり、それは知らない間に滲み出て、リアルさにつながってるかもしれないですね。今この稽古場にいても、わかんないことがいっぱいあって、耳ダンボでまわりの会話を聞き漏らさないようにしているくらいなので(笑)。「女優目指してます!」っていう意気込みもエルザとリンクしていると思うし。

―役のキャラクターに役者が合わせるんじゃなくて、その人のキャラクターを活かして役を作っていく感じですよね。

秋元:そうなんですよ。そういうのは初めてでしたね。

―でも、『マジすか学園』(AKB48グループのメンバーが多数出演したドラマ)も、秋元さんのキャラクターを活かした役でしたよね?

秋元:あれはだいたい予想がついたので。AKB48で自分が求められていた役割をそのまま演じればよかったというか。今回はAKB48の外に出ているので、自分がどう思われているのかっていうのが新鮮なんですよね。エルザのように、男にどんどん媚びて、女を出してみたいな役は初めてなんですけど、私にも絶対に(エルザみたいな)したたかなところはあるんですよ。自分で気付いてないだけで。だから、そのままでやればいいんだろうなって思ってます(笑)。

AKB48ではたくさんのことを学ばせてもらえたので、もっと成長するために、もう卒業しないといけないなって。だから今は、新入社員みたいな感じですね。

―プレッシャーをかけるようで申し訳ないですけど、卒業して最初の舞台が大役になりました。

秋元:すごいピリッとしますね。背筋がピリッとして、吐きそうになったり、お腹痛くなったり(笑)。でも、「稽古かぁ……」ってビビったりする気持ちは、AKB48ではもう感じられなくなっていたので。AKB48ではいろいろとやらせてもらえたし、自由もきいたけど、もっと成長するためには、もう卒業しないといけないなって。それで卒業して、この舞台ではいちばん年下。AKB48ではかなり年上のほうでしたけど、年齢的には今の環境のほうが自然だし、世間とそこまでズレなくてよかったなと思いますね。

―世間的に言ったらまだまだこれからな年齢ですもんね。

秋元:良くも悪くもAKB48ではAKB48独自の環境が成り立っちゃっていたので、外ではどう思われているのかがわからなくなってしまうんです。AKB48でしか通用しないこともたくさんあるから。今は「どういたらいいのかな?」ってまわりを気にしたりとか、新入社員みたいな感じですね。

―AKB48をやっているときは、コンサートのために2~3日で何十曲ものフリを覚えていたわけですけど、それと比べて舞台の稽古は全然別物なんですか?

秋元:AKB48はペースが速すぎたと思うので、外に出るとどのスピード感が正しいのかわからないんですよ。確かにAKB48のときよりは余裕があって、いろいろ考える時間もあるので、一つひとつ作り上げている感じはしますね。でも、AKB48では火事場の馬鹿力でグオーッて覚えられるときもあったので、その感じも大事だなっていうのもありつつ、それが続くと精神的にやられるなっていうのもあったり。

―そういう意味ではAKB48時代の経験は役立ってる?

秋元:覚えることよりも、「やっちゃえ!」みたいな変な度胸のほうが身についているかもしれないです。やらないのがいちばんバレるから。

―本番に強くなった?

秋元:常に捨て身でぶつかっていく感じですかね。だから本番になったら、とんでもないことをしそうで怖いんですよね。引くよりやっちゃうから。いやー、ヤバいですよね、どうしよう(笑)。

―AKB48ファンの間では、秋元さんは卒業してもやれる人だって言われてますし、きっと大丈夫ですよ! そういう意味では、AKB48を背負ってるみたいな感覚もあるんですか?

秋元:まったくないですね。もう自分のことしか考えてないです。今までAKB48だから目をつぶってもらえていたことがたくさんあって、今も卒業して間もないので、まだまだAKB48ありきの秋元才加だと思うんです。これが本当に秋元才加個人として仕事ができてるとか、ちゃんと力になってるねって言われるまでには、もう3~4年は必要だと思うんですよね。だから、まず今回の舞台を本当にがんばらなきゃいけない。それが結果的にAKB48にもいい影響を与えることになるだろうし。

秋元才加

―AKB48を背負ってるどうこうよりも、まず秋元才加個人として認められないと意味がないですもんね。

秋元:卒業したからといって活躍できるかどうかはわからないじゃないですか。でも私は続けていきたいんですよ。だから、がんばらなきゃいけないんですよ。今はアイドル特需があると思うんですけど、それがなくなっても秋元才加として仕事ほしいので。

―これからも役者として活躍していきたい?

秋元:役者になりたいとかは恐れ多いんですけど、舞台に立っているのはすごく好きなので。多少は「お芝居できるんだね」と言われるようになったら、「役者になりたい」って言えるかもしれないけど、今はまだ恥ずかしくて言えないです。

―なんか、単に「役者になりたい」と言われるよりも、役者になりたい感が伝わってきました(笑)。

秋元:このキャストのなかにいて、「私、役者やりたいんです」って言っても、「いやいやいや」みたいな感じじゃないですか。今はとにかく必死なんですけど、セリフ回しをこういうふうにしてみたらどうだろうとか、こういう仕草をしてみようかなとか、そこまで考えられるようになったら楽しめるかな。今はそこまで仕事を続けることが目標ですね。

イベント情報
『国民の映画』

作・演出:三谷幸喜
出演:
小日向文世
段田安則
渡辺徹
吉田羊
シルビア・グラブ
新妻聖子
今井朋彦
小林隆
平岳大
秋元才加
小林勝也
風間杜夫

東京公演
2014年2月8日(土)~3月9日(日)
会場:東京都 渋谷 パルコ劇場
料金:9,450円

大阪公演
2014年3月13日(木)~3月16日(日)
会場:大阪府 森ノ宮ピロティホール

愛知公演
2014年3月21日(金・祝)~3月23日(日)
会場:愛知県 刈谷市総合文化センター・大ホール

福岡公演
2014年4月4日(金)~4月6日(日)
会場:福岡県 福岡市民会館 大ホール

プロフィール
秋元才加(あきもと さやか)

1988年7月26日生まれ。千葉県出身。2006年にAKB48の2期生として「チームK」に所属。キャプテンを務める等活躍し、2013年8月卒業。また派生ユニット「DiVA」としても活躍。音楽のみならず、バラエティーや女優として映画・ドラマにも出演し、幅広く活動している。



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