『100歳の華麗なる冒険』を世界で大ヒットさせた「笑い」の力

スウェーデンにおいて、大ヒット映画『アナと雪の女王』やレオナルド・ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、ファンタジー大作である『ホビット 竜に奪われた王国』を抑えて、興行収入5週連続の1位を獲得したコメディー映画『100歳の華麗なる冒険』。ハリウッドスターが出演しているわけでもなければ、ビジュアルエフェクト満載のド派手なシーンも一切ない。ここに描かれているのは、老人ホームを抜け出した100歳のおじいちゃんによるほのぼのかつシュールな逃避行だ。

本作の原作となる小説『窓から逃げた100歳老人』は、スウェーデンだけでなく、ヨーロッパをはじめとした40か国以上で翻訳され、800万部の大ヒットを記録。待望の映画は、そんな原作に勝るとも劣らないヒットを飛ばし、ついに11月8日から日本でも公開される。今回は、フェリックス・ハーングレン監督にインタビューを敢行。本人もコメディアンとして活躍するハーングレン監督の言葉からは、世界中の観客の心を動かした「笑い」に対する姿勢、そして、日本ではあまり知られることのないスウェーデン社会の実像が見えてきた。

この作品は僕にとってギャンブルだったし、ここまで成功するとは夢にも思っていなかった。

―まず、映画の大ヒットおめでとうございます。世界中で自分の作品が受け入れられた感想はいかがでしょうか?

ハーングレン:最高だよ! この作品は僕にとってもギャンブルだったし、本当にここまで成功するとは夢にも思っていなかった。公開の数週間前から映画がコケるんじゃないかという不安に襲われていたんだ。失敗したら僕のキャリアは終わってしまうけど、せめて出資者にお金が戻るくらいにはしないとな……って真剣に考えていたほどだよ。

フェリックス・ハーングレン
フェリックス・ハーングレン

―蓋を開けてみたら、本国のスウェーデンを皮切りに、ドイツ、オランダ、ノルウェーでも同じく大ヒットを記録されました。その理由はどこにあると思いますか?

ハーングレン:原作のストーリーが素晴らしく、どんな年代の観客にも届く普遍的な内容だったからかな。主人公のアランのキャラクターや、映画の中に描かれるさまざまな歴史の場面にみんなが共感できる部分があるんだと思う。

『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved
『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved

―原作者のヨナス・ヨナソンからはどんな感想をもらいましたか?

ハーングレン:ヨナスは僕を信頼してくれて作品を任せてくれた。撮影に入る前に「脚本を読んでくれない?」と聞いたら、「映画ができてから見るから大丈夫」と言われたんだ。それで、プレミア上映の10日前に彼が映画を見てくれて、SMSでメッセージをくれた。彼は3回も見たらしいんだけど、「1回目は、僕の本をどうしてくれたんだ! とショックを受けた。でも、2回目に見たら、これでいいと思って、3回目に見たら、とても良かった!」ということだった。僕にとって、原作者のヨナスがどういった反応をするのかということが一番大事だったから、最終的には気に入ってくれてほっとしたよ。

―1回目はショックだったと。たしかに原作からかなり手を加えた部分もありますよね。

ハーングレン:小説と映画には、それぞれ違った魅力があるから、原作を映画化するのはとても難しい。小説には読んだときに読者が想像する余地があるし、映画ではキャラクターの表情や、置かれている状況を描くことができるからね。だから、脚本家のハンス・インゲマンソンと一緒に小説に描かれている何百というシーンを紙に描いて張り出し、映画にとって不要なシーンをそぎ落としながらプロットを考えていったんだ。結果的に脚本を作り上げるのに2年半もかかってしまったけど、自分でも納得のいく内容に仕上がったよ。この作品には100歳になったアランを描いたロードムービーという側面と、20世紀の歴史に深く関わってきたアランの破天荒な過去という2つの軸があるけど、フラッシュバックのシーンというのは、あくまでもアランがどういう人間なのかを理解するためのものであって、僕が描きたかったのは、現代に生きる100歳のアラン。この人物像を魅力的に描くことに力を注いだんだ。

コメディーは、笑えるというだけじゃなくて、シリアスなものを描くときにも効果的なんじゃないかな。

―たしかに本作の世界観は、アランというキャラクターの魅力が最も色濃く反映されています。アランを演じているのはスウェーデン人のコメディアン、ロバート・グスタフソンですが、なぜ彼を起用したのでしょうか?

ハーングレン:アランを描くにあたって一番こだわったのは、1人の俳優が演じること。かなり不条理なストーリー設定だからこそ、20代から100歳までのアランを同じ人物が演じることで、リアリティーを持たせたかったんだ。それと、アランはあまり喋らないキャラクターだし、リアクションも薄いから、おかしみを表現できる余地が少ない。ウディ・アレン作品の登場人物みたいに喋りまくるのであれば、いくらでもおかしさを表現できるけど、些細な部分からおかしさを表現するためには、どうしてもコメディアンを起用する必要があったんだ。

―ほかに、リアリティーを持たせるためにこだわった部分はありますか?

ハーングレン:今回の作品には、たくさんのアマチュア俳優が出演しているんだ。映画の舞台になったのはスウェーデンでも独特の訛りのある田舎の地域だから、その地域に住む人を起用している。実は、元受刑者の社会復帰クラブのようなところでもキャスティングをしたから、元麻薬中毒者や、撮影後に再び服役してしまった犯罪者なんかがギャングの役で出演しているよ。

―え! それは、リアリティーがありますね(笑)。ところで、コメディーで世界中の人を笑わせるのはとても難しいことだと思います。監督は、スウェーデンだけでなく、世界中の人が笑えるような工夫を意識的に心がけていたのでしょうか?

ハーングレン:いや、インターナショナルにウケることを目指すよりも、自分が面白いと思える作品を作りたいという欲求が強かった。むしろ、外国人に向けて、作りこんだジョークで笑わせようとすると全然笑えないものになるから、原作にあったオチのあるジョークは脚本の段階で省いていったんだ。映画では、ジョークで笑わせるのではなく、アランが置かれた状況からにじみ出るおかしさを大切にした。

『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved
『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved

―今作は、世界各国で上映されていますが、それぞれの国で笑うポイントも違うものでしょうか?

ハーングレン:すべての国の上映に立ち会っているわけじゃないけど、違うポイントに反応していることは確かだね。僕自身、コメディアンとして舞台に立っていると、毎回劇場の空気は異なるし、それによってこちらのジョークのタイミングも変えていくから観客の反応も変わっていくものなんだ。映画は、どの劇場でも内容は同じだけど、劇場の観客からにじみ出る雰囲気は毎回異なっているし、それによって笑いのポイントも少しずつ変わっていく。だから、この映画を見るときはつまらないヤツと見に行かないで、楽しいヤツと行ったほうがいい雰囲気の中で映画を楽しめるはずだよ(笑)。

『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved
『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved

―監督自身は、これまでどういったコメディーに影響を受けてきたのでしょうか? 作品を拝見して、どこかモンティ・パイソンの影響を感じました。

ハーングレン:モンティ・パイソンは僕のヒーローだよ! それと、ピーター・セラーズ(イギリスのコメディアン)からも強く影響を受けたね。『ピンク・パンサー』シリーズが大好きで、VHSでマイベストを編集しては何度も見返していたんだ。彼は、笑いの間(ま)が最高なんだよね。いいコメディアンって、どこか頭のねじが外れているようなところがあるけど、僕にもちょっとそういう部分がなくはないかな(笑)。

フェリックス・ハーングレン

―では、コメディアンとしても活躍するハーングレン監督にとって、「人を笑わせる」というのはどういうことでしょうか?

ハーングレン:僕は映画でもテレビでもずっとコメディーを作ってきたんだけど、コメディーってデリケートな内容に触れるときにとても有効だと思う。笑い始めると人は、理性や分析的な視線が薄らぎ、難しい問題でもすーっと理解できるんだ。例えば、今回の映画では冒頭に「人種生物学者」という人種差別的な学者が登場するんだけど、この研究は実際に1930年代のスウェーデンで行われていた。今となっては大問題なんだけど、デリケートな問題だから国内でも誰も触れたがらないんだよね。これを笑えるシーンとして表現することで、そういう研究が行われていたことが、ドキュメンタリーとして描くよりも多くの人に伝わりやすくなる。コメディーは、笑えるというだけじゃなくて、シリアスなものを描くことにも効果的なんじゃないかな。

何事にも心配しすぎないで今この瞬間を謳歌する、そういう生き方を少しでもしてみてほしい。

―今作には、100歳のアランによる老人ホームからの逃避が描かれているわけですが、監督自身にも「逃避」をしたくなるようなことはありますか?

ハーングレン:今は、そんなに逃避をしたいという気持ちは強くないけど、僕の祖父は悲しく苦しい感情を抱えたまま生きていた人間で、僕とはある意味真逆の人間だったんだ。祖父を見ながら、チャンスを目の前にして行動せず、後悔をして生きるようなことはしたくないと思っていた。だから、彼を反面教師的に捉えて、毎日を楽しもうと考えているところはあると思う。

フェリックス・ハーングレン

―では、監督にとって「どこか遠くへ逃避したい」という欲望はあまり強くない?

ハーングレン:映画をよく見ると、アランの行動は必ずしも逃避という言葉では表せないんじゃないかな。原作との最も大きな違いなんだけど、原作では、アランは人生がつまらなくなって老人ホームの窓を抜け出した。でも映画では、好奇心に導かれて旅立ってしまっているんだよね。

『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved
『100歳の華麗なる冒険』 ©NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved

―つまり、映画に描かれているアランの行動は、逃避ではなく積極的な行動なんですね。でも、普通の人にとって、彼のように好奇心の赴くままに生きていくことは難しいのではないでしょうか?

ハーングレン:複雑で窮屈な生活を抜け出して、シンプルに生きるためにもやっぱり努力が必要だと思う。現代社会に生きる僕らは、家賃も稼がなきゃいけないし、家族の面倒も見なきゃいけないから、アランのような自由な行動を選択することはとても難しいよね。今、スウェーデンでは若い人のほうが、アランのような生き方を簡単に実行しているように感じる。年をとるとどうしてもライフスタイルが固定化してしまって自由に選択することは難しいけど、若い人には「YOLO」という考え方が浸透しているんだ。

―その「YOLO」というのは?

ハーングレン:「You Only Live Once」、つまり「人生は1度きりだから楽しまなきゃ損!」という意味なんだけど、僕の18歳と23歳の娘は、そんな感じであんまり先のことを考えず、ナーバスになるようなことや将来の不安については話したくないみたいだね。ただ、同時に「FOMO」という言葉も流行っていて、「Fear Of Missing Out」つまり、何かチャンスを逃すことを恐れ、SNSをチェックし続ける強迫観念にさらされているという側面もある。

―多くの日本人にとって、スウェーデンという国は充実した福祉のもとに、ストレスなく毎日を謳歌しているような印象があるように感じるのですが、問題点もあると。

ハーングレン:(即座に)そんなにいいものじゃないかもね。スウェーデンの福祉政策はたしかに悪くないし、病院も教育も無料だけど、一方でストレスを感じている人はかなり多い。スウェーデンだけの問題じゃないかもしれないけど、今はパーフェクトな人生を送らなきゃならないと感じてる人がたくさんいるように思う。完璧な父親になり、完璧なビジネスマンになり、完璧な友人になり……でも、すべてが完璧に叶えられることなんてあるわけないよね。

―完璧でありたいと願うことで、自分自身を窮屈にしていると。

ハーングレン:それに、社会的にもシニアの扱い方に関してはまだまだ十分じゃない。40代くらいになると、老後にはそれなりにお金を蓄えて、ゴルフをしたり、旅行をしたりという夢を持つものだけど、実際には孤独な生活を送っているシニアがとても多いんだ。……がっかりさせちゃったかもしれないけど、スウェーデンにはそういう側面もあるんだよ。

―では、映画の冒頭で、アランが置かれている孤独な状況はスウェーデンにとってもリアルなものなんですね。

ハーングレン:そうだね。だから、映画を見た後でシニアを見かけたら彼らの話に耳を傾けてみてほしいというのが、この作品に込めた思いの1つ。それと、もう1つは、何事にも心配しすぎないで今この瞬間を謳歌する、そういう生き方を少しでもしてみてほしいということ。いつもとは違う電車に乗って、違うレストランに入ってみて、自分のルーティンを壊してみたら、人生はきっとより楽しめるものになるはずだよ。

作品情報
『100歳の華麗なる冒険』

2014年11月8日(土)から新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:フェリックス・ハーングレン
脚本:フェリックス・ハーングレン、ハンス・インゲマンソン
原作:ヨナス・ヨナソン『窓から逃げた100歳老人』(西村書店)
出演:
ロバート・グスタフソン
イヴァル・ヴィクランデル
ダヴィド・ヴィバーグ
配給:ロングライド

プロフィール
フェリックス・ハーングレン

1967年2月4日生まれ。90年より、監督、脚本家、プロデューサー、俳優として活動。TVでは96年にスタートしたトークショーの「Sen kväll med Luuk」でブレイク。2010年には、原案、脚本、監督、出演を務めた「Solsidan」がエピソードごとに200万人を越える視聴者を獲得しノルウェー、フィンランド、デンマーク、ベルギーでも放送されると共にコメディ・シリーズとして2年連続でスウェーデン・テレビ賞を受賞。映画ではミカエル・パーシュブラント主演コメディ「Vuxna människor」(99)で監督、出演デビューを果たす。その後もスウェーデンエンターテイメント界の第一線で活躍。『アナと雪の女王』などの大作を超える大ヒットを記録した本作ではスウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞において最優秀観客賞を受賞した。



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